産業医は診断書を作成しない!意見書との違いや主治医との役割の違いを解説
「産業医は診断書を作成しない」ということに驚く方も多いのではないでしょうか。
産業医は医師なのに、なぜ診断書を書かないのでしょうか。実は、産業医と主治医では役割が大きく違います。そして、その役割の違いからそれぞれが作る文書も異なります。
産業医の「意見書」と主治医の「診断書」は、似ているようで違う目的を持っています。
これらの文書の役割や違いについて、この記事では詳しく説明します。
産業医と主治医それぞれの役割を理解し、意見書を上手に使う方法を学ぶことで、より良い労務管理ができるようになるはずです。
また、専門的な内容も多い産業医との契約は、経験豊富な産業医紹介会社に相談するのがおすすめです。first callの産業医サービスは、ご要望に合わせた産業医をご紹介し、法令に沿った業務実施のサポートが可能です。
目次[非表示]
産業医は診断や診断書の作成ができる?
医師である産業医であっても、診断は行わず診断書も作成しません。意外に感じるかもしれませんが、これには産業医特有の理由があります。
産業医と主治医の役割の違いや、産業医が実際に作成する文書について理解することで納得できるため、以下で詳しく解説していきます。
【産業医の作成する文書】
- 産業医は原則として診断や診断書作成を行わない
- 産業医が作成する文書は「意見書」や「面接指導結果報告書」
産業医は原則として診断や診断書作成を行わない
産業医は通常、診断や診断書の作成はしません。
誤解しがちな点ですが、産業医の仕事は労働者の健康を守り、安全な職場環境を作ることを中心に行います。
なぜ産業医が診断書を作らないのか、理由は主に3つあります。
【産業医が診断書を作らない理由】
- 産業医の役割が違う:産業医の主な仕事は労働者の健康管理と職場環境の改善であり、診断や治療は主治医の仕事になるため
- 法律の違い:産業医は労働安全衛生法に基づいて活動する一方、診断や治療は医師法の範囲になるため
- 目的の違い:産業医は予防と管理が目的で、病気になる前に防いだり、職場を健康的に保ったりすることが主な仕事であるため
例えば、長時間労働の労働者との面談後、産業医は会社に「残業を減らすべき」という意見を出すことがあります。しかし、「うつ病」などの診断はしません。
また、休職が必要な場合でも、診断書ではなく「意見書」という形で会社に伝えます。
例外として、企業の中に診療所があり、そこで診療する場合は診断書を書くこともあります。しかし、これは産業医の仕事としてではなく、普通の医師としての仕事になります。
産業医が作成する文書は「意見書」や「面接指導結果報告書」
産業医は診断書ではなく、主に「意見書」や「面接指導結果報告書」を作成します。
産業医がこれらの文書を作成する理由は、以下の通りです。
【産業医が文書を作成する理由】
- 法律で定められた役割:労働安全衛生法に基づき、産業医は労働者の健康管理や職場環境の改善について、専門的な立場から意見を述べる役割があるため
- 会社への情報提供:労働者の健康状態や就業上の配慮事項を会社に伝えるため
- 診断との区別:医療行為ではなく、職場における健康管理の一環として行われるものであるため
例えば、長時間労働者との面接後に作成される「面接指導結果報告書」には、以下のような内容が含まれます。
【面接指導結果報告書の内容】
- 面接の日時や場所
- 労働者の勤務状況
- 疲労の蓄積状況
- 健康状態
- 就業上の措置に関する意見
また、「意見書」には次のような内容が書かれることがあります。
【意見書の内容】
- 就業制限の必要があるか
- 業務内容の調整に関する提案
- 職場環境の改善点
診断書とは異なり、労働者の健康と職場環境の改善に関連する文書です。
医学的な診断を含むものではないため、必要に応じて主治医の診断書と併せて活用しましょう。
産業医の意見書と主治医の診断書の違い
産業医の意見書と主治医の診断書は一見似ているように感じますが、内容には大きな違いがあります。
それぞれの目的を知っておかないと、労働者の健康管理や職場環境の改善に繋げることが難しくなります。
以下では、産業医の意見書と主治医の診断書の違いについて、詳しく見ていきます。
【産業医の意見書と主治医の診断書の違い】
- 産業医の意見は仕事ができるかどうか、主治医の診断書は病気の説明
- 産業医の意見は企業向け、主治医の診断書は幅広い用途で使用
- 産業医の意見に法的拘束力はない、診断書は公的な証明書類
- 産業医の意見は予防や復職に重点、診断書は現在の症状が中心
産業医の意見は仕事ができるかどうか、主治医の診断書は病気の説明
産業医の意見と主治医の診断書は、目的も内容も大きく異なります。産業医は仕事との関係を重視し、主治医は病気そのものに焦点を当てます。
例えば、腰痛を抱える労働者の場合であれば、次のような違いがあります。
【産業医の意見】
「デスクワークなら可能ですが、重い物を持つ作業は避けるべきです。」
【主治医の診断書】
「腰椎椎間板ヘルニアと診断。安静と投薬による治療が必要です。」
産業医の意見は仕事に直結する実用的なアドバイスで、主治医の診断書は病気の正確な状態を伝えるためのものです。
産業医の意見を参考に職場での配慮を行い、主治医の診断書に基づいて休養や治療の時間を確保するなど、バランスの取れた対応が必要です。
産業医の意見は企業向け、主治医の診断書は幅広い用途で使用
産業医の意見と主治医の診断書は、使われる場面も違います。産業医の意見は主に企業内で使われますが、主治医の診断書は様々な場面で役立ちます。
例えば、次のような使用例があります。
【産業医の意見の使用例】
- 長時間労働者の就業制限を検討する時
- 職場復帰プログラムを作る時
【主治医の診断書の使用例】
- 企業に休暇を申請する時
- 保険金の請求をする時
- 障害者手帳を申請する時
主治医の診断書は企業内以外でも広く使われ、病気の証明として様々な手続きに必要です。
大切なのは、この2つを適切に使い分けることです。労働者自身も、状況に応じて書類を使う意識が大切です。
産業医の意見に法的拘束力はない、診断書は公的な証明書類
産業医の意見と主治医の診断書は、法的な重みが違います。産業医の意見に強制力はありませんが、診断書は公的に認められた証明書です。
こういった法的な拘束力によって、次のような違いが出る場合があります。
【産業医の意見の例】
「◯◯さんは残業を控えめにした方が良いでしょう」
企業はこの意見を参考にしますが、必ずしも従う必要はありません。
【主治医の診断書の例】
「◯◯さんは腰痛のため、2週間の安静が必要です」
この診断書があれば、会社は休暇を認める必要があります。
産業医の意見は強制力はありませんが、労働者の健康を守るためには重要です。一方で、診断書は法的に認められた証明書なので、より強い効力があります。
ただし、産業医の意見を無視して問題が起きた場合、企業が責任を問われる可能性もあります。法的拘束力はなくても、産業医の意見は慎重に扱う必要があります。
産業医の意見は予防や復職に重点、診断書は現在の症状が中心
産業医の意見と主治医の診断書は、重視する点が違います。産業医は将来を見据えた予防や復職に注目しますが、診断書は今の症状を詳しく説明します。
これには目的の違いがあり、産業医は健康で働き続けられることを目指すことに対し、主治医は今ある病気を治すことが目的です。
また、産業医は職場全体の健康も考えることに対して、主治医は患者個人を診るといった違いもあります。
例えば、うつ病から回復しつつある労働者の場合、次のような違いがあります。
【産業医の意見】
「最初は短時間勤務から始め、徐々に時間を延ばしていきましょう。ストレスの多い業務は避け、再発防止のため定期的な面談を行いましょう。」
【主治医の診断書】
「うつ病の症状は改善傾向にあります。服薬を継続し、十分な睡眠を取ることが必要です。」
企業は産業医の意見を参考に職場環境を整え、再発防止策を検討しましょう。同時に、診断書の内容を踏まえて、必要な治療や休養を取れるようにします。
診断書が無い時に産業医の意見書を活用する方法
主治医の診断書が手元にない場合でも、労働者の健康管理や職場環境の改善は進めなければなりません。
そういった状況でも活用できるのが産業医の意見書です。診断書とは異なる特徴がありますが、うまく活用することで効果的な健康管理ができます。
診断書がない状況で産業医の意見書をどのように活用すれば良いのか、意見書の活用方法について、詳しく見ていきます。
【診断書が無い時に産業医の意見書を活用する方法】
- 意見書を参考に職場の改善案を具体的に考える
- 意見書をもとに労働時間や仕事内容を調整する
- 意見書の内容から段階的な職場復帰計画を作る
意見書を参考に職場の改善案を具体的に考える
診断書がなくても、意見書には働きやすい環境を作るためのヒントが多いため、産業医の意見書を使って職場をより良くすることができます。
例えば、意見書を活用して次のような改善ができます。
【長時間労働の改善例】
- 意見書の指摘:「残業が多い部署がある」
- 改善案:仕事の分担を見直す、業務の効率化を図る
【メンタルヘルス対策例】
- 意見書の指摘:「ストレスを感じている人が多い」
- 改善案:定期的な面談の実施、リラックススペースの設置
【作業環境の改善例】
- 意見書の指摘:「腰痛の訴えが多い」
- 改善案:人間工学に基づいた椅子の導入、作業台の高さ調整
大切なのは、意見書の内容を具体的な行動に移すことです。会社の状況に合わせて、できることから少しずつ改善を進めていきましょう。
意見書をもとに労働時間や仕事内容を調整する
産業医の意見書を使い働く時間や仕事の中身を適切に調整することで、労働者が健康を守りながら仕事を続けることができます。
意見書を活用して仕事を調整することによって、次のようなメリットがあります。
【意見書を活用して仕事を調整するメリット】
- 労働者の体調に合わせた働き方ができる
- 無理のない仕事量で効率が上がる
- 長時間労働などの問題を防げる
例えば、以下のような意見書の活用方法があります。
【労働時間の調整例】
- 意見書:「1日の残業は2時間までにすべき」
- 対応:残業時間の上限を設定し、仕事の優先順位を見直す
【仕事内容の変更】
- 意見書:「重い物を扱う作業は控えるべき」
- 対応:軽作業中心の業務に変更し、必要に応じて他の人と分担する
【休憩時間の確保】
- 意見書:「1時間ごとに10分の休憩が必要」
- 対応:タイマーを使って定期的な休憩を取る仕組みを作る
企業の状況や本人の希望も考慮しながら、無理なく続けられる働き方を探すことが重要です。
意見書の内容から段階的な職場復帰計画を作る
産業医の意見書を活用すると、労働者が安全に職場に戻るための段階的な計画を作ることができます。
段階的な職場復帰計画を作る理由は、主に次の通りです。
【段階的な職場復帰計画を作るべき理由】
- 労働者の体調に合わせてゆっくり戻れる
- 急な負担増加による症状悪化を防げる
- 職場と労働者のお互いが徐々に調整できる
例えば、以下のように段階的な復職計画を作ることができます。
【第1段階(1~2週間)】
- 勤務時間:1日4時間
- 業務内容:デスクワーク中心、重要度の低い作業から
【第2段階(2~4週間)】
- 勤務時間:1日6時間
- 業務内容:通常業務の一部を担当、会議への参加開始
【第3段階(4~6週間)】
- 勤務時間:通常勤務(残業なし)
- 業務内容:ほぼ通常業務、ただし高ストレス作業は控える
計画を立てる際は産業医の意見を尊重しつつ、本人の状態や職場の状況も考慮することが大切です。また、各段階で本人の様子を確認して、必要に応じて計画を調整しましょう。
産業医と主治医の意見が異なる場合の対応方法
産業医と主治医の意見が食い違うケースは珍しくありません。
両者の役割や視点の違いによって意見が異なることが多いのですが、企業側にとっては対応に悩むところです。
しかし、この意見の違いは必ずしもマイナスではなく、むしろ違う視点で労働者の健康を考える良い機会となります。
では、産業医と主治医の意見が異なる場合、企業はどのように対応すべきでしょうか。適切な判断と行動につながる対応方法について、詳しく見ていきましょう。
【産業医と主治医の意見が異なる場合の対応方法】
- 両者の意見の違いを明確にして原因を探る
- 両者の意見を考慮して、より安全な選択をする
- 職場の状況を主治医に詳しく説明する
両者の意見の違いを明確にして原因を探る
産業医と主治医の意見が違う時、まずはその違いをはっきりさせたうえで、なぜ違うのかを考えましょう。
意見の違いと原因を明確にしておくことで、以下のようなメリットがあります。
【意見の違いと原因を明確にするメリット】
- 産業医と主治医が何を重視しているかが分かる
- 違いの原因が分かれば、より良い解決策を見つけやすくなる
- 単なる情報不足による違いなのか、本質的な意見の違いなのかが分かる
例えば、以下のように産業医と主治医の意見の違いから原因を探ることができます。
【復職のタイミングの違い】
- 主治医「すぐに復職可能」
- 産業医「もう1ヶ月の休養が必要」
- 違いの原因:主治医は症状の改善を重視、産業医は職場環境も考慮
【業務内容の違い】
- 主治医「軽作業なら可能」
- 産業医「デスクワークに限定すべき」
- 違いの原因:主治医は日常生活動作を基準、産業医は具体的な業務内容を検討
両者の意見をよく聞き、それぞれの立場や視点の違いを理解するようにしましょう。
両者の意見を考慮して、より安全な選択をする
両方の意見を大切にしながら、労働者にとってより安全な選択を取ることも重要です。
労働者の健康と安全を最優先に考えつつ、企業の安全配慮義務を果たせます。
例えば、安全な選択の取り方として、次のような方法が考えられます。
【復職のタイミング】
- 主治医「すぐに復職可能」
- 産業医「もう1ヶ月の休養が必要」
- 安全な選択:1ヶ月の休養後、段階的に復職する
【業務内容】
- 主治医「軽作業なら可能」
- 産業医「デスクワークに限定すべき」
- 安全な選択:まずはデスクワークから始め、様子を見ながら徐々に作業範囲を広げる
【労働時間】
- 主治医「フルタイム勤務可能」
- 産業医「半日勤務から始めるべき」
- 安全な選択:半日勤務から始め、2週間ごとに労働時間を延ばしていく
厳しい方の意見を選ぶのではなく、労働者の状況や職場の環境も考えて、最適な方法を見つけるようにしましょう。段階的なアプローチを取り、こまめに状況を確認しながら進めることも効果的です。
職場の状況を主治医に詳しく説明する
職場の状況を主治医に詳しく伝えることも重要です。これによって、主治医は労働者の仕事環境をよく理解することができるため、より適切なアドバイスができるようになります。
職場の状況を主治医に説明することで、以下のようなメリットがあります。
【職場の状況を説明するメリット】
- 主治医が職場の状態を知ることで、より現実的な判断ができるようになる
- 職場環境の誤解から生じる意見の違いを減らすことができる
- 主治医と企業側のコミュニケーションが良くなる
また、主治医には以下のような情報を伝えましょう。
【主治医に伝える内容】
- 仕事の内容:デスクワークが中心か、立ち仕事が多いかなど
- 労働時間:通常の勤務時間、残業の頻度など
- 職場環境:騒音レベル、温度管理の状況など
- 人間関係:チームでの作業が多いか、単独作業が中心かなど
- ストレス要因:締め切りの多さ、顧客対応の頻度など
単に情報を伝えるだけでなく、主治医の質問にも丁寧に答えましょう。また、プライバシーに配慮しながら、必要な情報を選んで伝えることも重要です。
まとめ
産業医と主治医の役割の違い、そして産業医の意見書と主治医の診断書の違いについて、重要なポイントをまとめると、以下の通りです。
【産業医の主な役割】
- 労働者の健康管理と職場環境の改善
- 予防と管理に重点
- 企業全体の健康を考慮
【主治医の主な役割】
- 個々の患者の診断と治療
- 現在の症状に対応
- 個人の健康に重点
【産業医の意見書】
- 仕事との関連を重視
- 企業向けの文書
- 法的拘束力はない
【主治医の診断書】
- 病気の詳細な説明
- 幅広い用途で使用
- 公的な証明書類として扱われる
これらの違いを踏まえた上で、以下のような対応が効果的です。
【産業医の意見書の活用方法】
- 職場環境の改善案を具体化
- 労働時間や仕事内容の適切な調整
- 段階的な職場復帰計画の作成
【産業医と主治医の意見が異なる場合の対応】
- 両者の意見の違いを明確にし、原因を探る
- より安全な選択を心がける
- 職場の状況を主治医に詳しく説明する
企業は産業医や主治医といった専門家の意見を尊重しつつ、個々の状況に合わせて柔軟な対応を取ることが重要です。
産業医の役割は非常に幅広いですが、産業保健の現場にある課題を理解している「first call」であれば、法令を守り、従業員の健康に繋がる産業医サービスが利用できます。