健康診断には「一般健康診断」と「特殊健康診断」の二種類があり、労働者の業務内容や労働条件によって、受診する健康診断が決まっています。
一般健康診断 | 常時使用するすべての労働者が対象 |
特殊健康診断 | 法令で定められた有害業務(※)に常時従事する労働者が対象 |
※ 特定の化学物質を取り扱う業務など、労働者の健康に影響を与える恐れのある業務
人事・総務担当者は、それぞれの健康診断の違いを把握したうえで、健康診断を受診してもらう対象者をリストアップして、対象の健康診断を実施している検診機関や医療機関に予約しましょう。
一般健康診断は、労働者の健康状態を把握するため、定期的に行う健康診断です。
健康診断実施の義務は、事業場の規模に関係なく、常時使用するすべての労働者に対して、雇用の際と1年以内ごとに1回の健康診断を実施する必要があります。
また、一定の有害な業務に従事する労働者に対しては、6ヶ月ごとに1回の健康診断の実施が必要です。
常時50名以上の労働者を雇用している事業場は、健康診断の結果を労働基準監督署へ報告する義務も発生します。
2025年1月から、定期健康診断結果の報告書は、原則電子申請による提出が義務化されました。
厚生労働省:労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス(外部サイトのリンクが開きます)
健康診断の種類 | 対象者 | 実施頻度 | 企業の義務 |
雇い入時健康診断 | 常時使用する労働者 | 採用時 | 実施 |
定期健康診断 | 常時使用する労働者 | 年1回 | 実施と結果の保管(5年間) |
特殊健康診断 | 有害業務(※)に従事する労働者 | 業務により異なる(年1回以上) | 実施・記録管理 |
海外派遣労働者健康診断 | 海外派遣予定の労働者 | 派遣前・帰国時 | 実施 |
深夜業務従事者健康診断 | 深夜勤務(時間)のある労働者 | 6ヶ月ごとに1回 | 実施・就業配慮 |
定期健康診断で対象となる「常時使用する労働者」の基準は、以下のように定められています。どちらの基準も満たしている場合、パート・アルバイトなど雇用形態にかかわらず、定期健康診断の実施が必要です。
① 1年以上の長さで雇用契約をしているか、雇用契約の定がない者。または、契約更新で1年以上引き続き雇用した実績がある者。
② 1週間あたりの所定労働時間が、事業場で同種の業務に従事する通常の労働者の 3/4 以上の者。
上記の②に該当しなくても、1週間の所定労働時間が通常の労働者の1/2以上の者に対しては、一般健康診断を実施することが望ましいとされています。
事例①:コンビニエンスストア(アルバイト)
通常のフルタイム労働者:1日8時間 × 5日 = 週40時間
アルバイトAさん:1日6時間 × 5日 = 週30時間
週40時間の2/3(30時間)以上勤務しているため、年一回の定期健康診断の対象となる。
事例②:オフィスの事務職(パート)
通常のフルタイム労働者:1日8時間 × 5日 = 週40時間
パートBさん:1日5時間 × 4日 = 週20時間
週40時間の1/2(20時間)以上勤務しているため、定期健康診断の実施が望ましい。
定期健康診断では、以下の項目について検査を行います。
1.既往歴及び業務歴の調査
2.自覚症状及び他覚症状の有無の検査
3.身長(※)、体重、腹囲(※)、視力及び聴力の検査
4.胸部X線検査及び喀痰(かくたん)検査(※)
5.血圧の測定
6.貧血検査(血色素量及び赤血球数)(※)
7.肝機能検査(GOT、GPT、γGTP)(※)
8.血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)(※)
9.血糖検査(※)
10.尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
11.心電図検査(※)
※ 年齢や医師の判断により省略可能な項目です。
定期健康診断と同じく、「常時使用する労働者」の条件を満たす場合は、パート・アルバイトも対象者に含まれます。
雇い入時健康診断は、雇用の直前、または直後に実施するよう厚生労働省の通達があります(昭和23年1月16日基発第83号)。
実務上、雇用前の3ヶ月以内、または雇用後1ヶ月以内の実施が望ましいとされている健康診断です。
1年以内に1回実施する定期健康診断のスケジュールを踏まえて、実施する時期を検討しましょう。
入社前の3ヶ月以内に健康診断を受けていて、健康診断結果を提出することができる場合は、雇い入時健康診断のなかから、その項目を省略することも可能です。
雇い入時健康診断は、定期健康診断の検査項目すべてが必須です。
定期健康診断で、年齢や状況に応じて省略可能となっている一部の検査項目(身長測定・腹囲測定・心電図検査・血液検査)についても、検査項目に含まれます。
海外派遣労働者健康診断は、海外に派遣される前と帰国後に1回ずつ実施します。
定期健康診断の検査項目に加えて、医師が必要と認める場合追加の検査を行います。
【例】腹部画像検査(胃部X線検査、腹部超音波検査)、B型肝炎抗体検査、尿酸(UA)検査、ABO式およびRh式の血液型検査(派遣前)、糞便塗抹検査(帰国時)
6ヶ月以内に定期健康診断、または雇用時健診を行っている場合、同一の検査項目は省略可能です。
伝染病保菌者発見のため、雇い入れ時、または当該業務への配置換えの際に実施します。
食品衛生法の改正により、令和3年(2021年)6月1日から、原則としてすべての食品事業者は、国際的な衛生管理方法(HACCP)に沿った衛生管理を計画的に実施し、その記録を保存することが義務づけられています。
事業場のある自治体の保健所に確認し、指示があった場合にはそれに従って実施しましょう。
深夜作業を含む業務や、有害物質を取り扱う業務、重量物を取り扱う業務、高温・低温環境での業務など、労働安全衛生規則(第13条第1項第3号)の掲げる14の特定業務に従事する労働者が該当します。
特定業務従事者の健康診断は、年2回以上(6ヶ月以内ごとに1回)、定期的に実施します。特定業務への配置換えや業務変更の際も、健康診断の実施が必要です。
特定業務のなかでも、多くの事業者に関連するのが、「深夜を含む業務」です。
深夜を含む業務の「深夜」とは、夜10時から朝5時までの時間帯を指します。
勤務時間の一部でも深夜を含む業務の時間帯と重なる勤務が、週に1回以上、または月に4回以上あれば、特定業務従事者の健康診断を実施する必要があります。
■ 事例:飲食店の夜勤(アルバイト)
1日6時間(18時~24時)勤務 × 週4日の場合
深夜時間(22時以降)を含めて週4回以上の夜間業務に従事しているため、特定業務従事者の健康診断の対象となる。
深夜業に従事する労働者については、事業者が行う定期健康診断とは別に、自主的に健康診断を受診した場合の法律も定められています。
「自発的健康診断」とは、深夜業に従事する労働者が、自分で健康診断を受けた結果のわかる書面を、3ヶ月以内に事業者に提出できる制度です。
過去6ヶ月を平均して、1ヶ月あたり4回以上深夜を含む業務を行った労働者が対象となります。(労働安全衛生法 第 66条の2)
事業者は、自発的健康診断の結果に基づき、医師から意見を聴取し、必要に応じて勤務シフトの調整など適切な事後措置を講じることが義務づけられています。
特殊健康診断は、法令で定められた有害とされる業務に従事する労働者、また特定の物質を取り扱う労働者を対象とした健康診断です。
事業者は、事業場の規模にかかわらず、対象の業務に従事する労働者に対して特殊健康診断を実施して、健康診断の結果を労働基準監督署へ報告する義務があります。
労働安全衛生法の改正により、令和5年(2023年)4月1日から、下記の3要件をすべて満たす事業場では、6ヶ月ごとに1回の実施が義務づけられていた特殊健康診断を、1年ごとに1回まで緩和することが可能になりました。
① 労働者が作業する単位作業場所における直近3回の作業環境測定結果が第一管理区分に区分(※ 四アルキル鉛を除く)
② 直近3回の健康診断において、労働者に新たな異常所見がない
③ 直近の健康診断実施日からばく露の程度に大きな影響を与えるような作業内容の変更がない。
「特殊健康診断」は、一般健康診断に含まれる「特定業務従事者の健康診断」とは、対象者や検査内容等が異なります。
「労働安全衛生法 第66条第2項・第3項」、および「じん肺法」の定める、特定の有害業務(有害物質などにより、健康障害を引き起こす恐れのある業務)に従事する、より専門的な健康管理が必要な労働者を対象とした健康診断です。
特定業務従事者を含む一般健康診断は、派遣元の企業が実施します。
一方、有害な業務に常時従事する派遣社員の特殊健康診断は、派遣先の企業に実施義務があります。
また、特定の有害な業務に従事していた派遣労働者が、ほかの派遣先で有害業務でない業務に就いている場合の特殊健康診断は、派遣元の企業が行わなければなりません。
健康上のリスクを伴う業務に従事する労働者が、安全かつ健康に働けるよう、所轄労働基準監督署に確認しながら健康診断を実施しましょう。
特定化学物質健康診断 | ・雇い入れや配置換えなど、該当業務に就くとき | 取り扱いのある化学物質によっては、業務を廃止しても実施と報告が必要です。 |
石綿健康診断 | ・雇い入れや配置換えなど、該当業務に就くとき | 過去従事していた労働者がいる場合、業務を廃止しても実施と報告が必要です。退職者についても、実施が望ましいとされています。 |
高気圧業務健康診断 | ・雇い入れや配置換えなど、該当業務に就くとき | 業務を廃止した場合は、実施・報告ともに不要になります。 |
電離放射線健康診断 | ・雇い入れや配置換えなど、該当業務に就くとき | 業務を廃止した場合は、実施・報告ともに不要になります。 |
除染等電離放射線健康診断 | ・雇い入れや配置換えなど、該当業務に就くとき | 健康診断の結果については、「除染等電離放射線健康診断個人票」を作成し、30年間保存しなければなりません。 また、除染等業務従事者が離職するときは、その人の線量の記録と、「除染電離則電離放射線健康診断個人票」の写しの交付が必要です。 |
鉛健康診断 | ・雇い入れや配置換えなど、該当業務に就くとき | 業務を廃止した場合は、実施・報告ともに不要になります。 |
四アルキル鉛健康診断 | ・雇い入れや配置換えなど、該当業務に就くとき | 業務を廃止した場合は、実施・報告ともに不要になります。 |
有機溶剤等健康診断 | ・雇い入れや配置換えなど、該当業務に就くとき | 業務を廃止した場合は、実施・報告ともに不要になります。 |
じん肺健康診断 | ・雇い入れや配置換えなど、該当業務に就くとき | じん肺有所見者を使用している間は、粉じん作業を廃止しても実施・報告が必要です。 じん肺法施行規則で定められた24の粉じん作業を行う事業場は、毎年1月1日~2月末日までの間に、所轄監督省に「じん肺健康管理実施状況報告」を提出します。 |
歯科医師による健康診断 | ・雇い入れや配置換えなど、該当業務に就くとき | 令和4年10月1日の労働安全衛生規則改正で、歯に有害な業務に常時従事する労働者がいるすべての事業場に、所轄監督省への報告が義務づけられました(有害な業務に係る歯科健康診断結果報告書)。 |
指導勧奨による特殊健康診断は、健康に影響を及ぼすおそれのある業務について、行政指導(通達)により実施を勧奨している健康診断です。
・紫外線や赤外線にさらされる業務
・著しい騒音が発生する屋内作業場の騒音作業
・重量物取扱い作業や介護作業など腰部に著しい負担のかかる業務
・情報機器作業(パソコン、タブレット等)
事業者は、対象業務に対して、行政指導による健康診断を実施する努力義務があります。また、実施した際は「指導勧奨による特殊健康診断結果報告書」を作成し、提出することが望ましいとされています。
・健康診断結果の通知
・産業医や医師から就業に関する意見聴取
・就業上の措置の決定・作業環境の改善
・健康診断結果の作成と保管・労働基準監督署へ報告
・保健指導や受診勧奨の実施
事業者が講じるべき措置に関する指針を確認し、労働者の健康に関する個人情報の保護にも留意しながら、適正な対応を行いましょう。
厚生労働省:健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針(外部サイトのリンクが開きます)
・受領した健康診断の結果のコピーを、受診した労働者に渡し、原本を事業場で保管します。労働者の健康管理以外の目的で使用しないよう、個人情報の保護に配慮して保管しましょう。
・健康診断機関やクリニックで健康診断を受診させた場合は、本人用と会社保管用の2部、健康診断結果が送付されてくる場合があります。本人用の結果を、受診した労働者に渡してください。
定期健康診断の結果を基に聴取する「医師の意見」とは、健康診断を実施した医師が判定する「医師の診断」とは異なる、就業上の措置に関する意見です。
健康上の問題が疑われる労働者が、通常勤務でよいのか、一定の就業制限や休業を要するのか、医学的な観点から「就業区分」や「作業管理・作業環境管理」について判断し、労働安全衛生法に基づく「健康診断個人票」に記入してもらいます。
医師が就業上の意見を述べるためには、健康診断の結果だけでなく、労働者の業務内容や就業環境に関する情報が重要です。
該当する労働者の作業環境や労働時間、深夜業の回数や時間数など、業務に関する情報は、医師に積極的に提供しましょう。
産業医の選任義務のある事業場では、該当する労働者の健康状態や作業内容、作業環境について把握できる立場にある産業医から、意見を聞くことが望ましいとされています。
労働者の健康の保持促進のため、医師の意見(就業区分)と労働者の意見を基に、就業場所の変更や作業の転換、労働時間の短縮や深夜業回数の減少など、適切な措置を講じましょう。
具体的な措置の内容については、労働者本人に十分な理解を得るよう努めることが大切です。
健康診断の有所見者を対象とした産業医面談については、こちらの記事もご確認ください。
就業判定の区分 | 就業上の措置 |
通常業務 | 就業上の措置は必要なし |
就業制限 | 勤務による負荷を軽減するため、労働時間の短縮、出張や時間外労働の制限、作業や就業場所の変更などを行う |
要休業 | 療養のため、休暇・休職等により勤務させない期間を設ける |
労働衛生管理は、健康管理、作業環境管理、作業管理の3つの管理が必要です。
異常の所見があった労働者の健康を保持するため、医師の意見に基づき、作業環境管理や作業管理を見直す必要があれば、作業環境測定の実施、施設や設備の改修、高所作業や重量物取扱い作業の制限など、適切な措置を行いましょう。
特定の有害な業務に常時従事する労働者を対象とした特殊健康診断の場合は、事業場の規模にかかわらず、実施と報告が必要です。
一般健康診断に含まれる「海外派遣労働者の健康診断」、「給食労働者の検便」については、該当の健康診断の実施が必要ですが、監督署への報告義務はありません。
令和7年(2025年)1月1日から、定期健康診断結果の報告書は、原則電子申請による提出が義務化されました。電子申請の手続きについては、厚生労働省のホームページをご確認ください。
厚生労働省:労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス(外部サイトのリンクが開きます)
特殊健康診断の結果は、健康診断の種類により5年~40年間保存することが義務づけられています。
健康診断結果は、個人情報保護法で慎重な取り扱いが求められる「要配慮個人情報」にあたります。個人情報の保護に十分配慮しながら、適切な管理を行いましょう。
健康診断は、受けただけでは意味がありません。健康診断後の保健指導や受診勧奨の実施は努力義務とされていますが、健康診断の結果を、生活習慣の改善や病気の予防・治療につなげるためにも重要です。
保健指導は、医師や保健師が、健康増進や発病予防に役立つアドバイスを行います。労働者の自主的な健康管理を促すために有効な取り組みです。
保健指導の実施方法は、面談による個別指導や文書による指導があります。
保健指導の内容は、生活習慣の指導や健康管理に関する情報提供、再検査受診の勧奨、治療の勧奨など、健康診断結果により異なります。具体的な保健指導の内容や実施方法については、産業医などに相談しましょう。
受診勧奨は、健康診断の結果、「再検査」「要治療」「要精密検査」等の判定があった労働者に、医療機関の受診を勧める取り組みです。
事業者は、健康診断結果から対象となる労働者を把握し、受診を必要とする労働者に対しては、二次健康診断の受診を勧奨するとともに、その結果を提出するよう働きかけることが適当であるとされています。
厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」就業上の措置の決定・実施の手順と留意事項(別サイトのリンクが開きます)
ですが、厚生労働省がまとめた令和5年度の「定期健康診断実施結果報告」によれば、定期健康診断で異常の所見があった労働者の割合(有所見率)は58.9%と、全体の6割近くにのぼります。
さらに、厚生労働省が平成24年まで行っていた「労働者健康状況調査」によれば、検査の結果「要再検査、または要治療」となった労働者のうち、およそ35.6%が「再検査や治療を受けていない」、つまり医療機関を受診せず放置している状況です。
労働者の健康を守り、安全かつ生産的な職場環境を実現するためにも、医師や産業医と連携しながら、保健指導や受診勧奨を実施に努めましょう。