産業医面談は、企業が選任している産業医と労働者が、1対1で行う面談です。
産業医は、面談を通じて労働者の就業状況や心身の健康状態を確認し、必要に応じて健康管理についてのアドバイスを行います。
健康リスクが高いと判断された場合、産業保健に関する専門的な立場から、事業者に対して就業上の配慮などについて意見や助言を行うことも、産業医に求められる役割です。
産業医面談は、労働者の健康と安全を守るだけでなく、休職・離職や、労災によるトラブルを未然に防ぐためにも欠かせない取り組みです。
令和6年に公開された厚生労働省の調査によると、メンタルヘルス不調のため、年間で連続1ヶ月以上休職した従業員がいた事業所の割合は10.4%、退職者がいた事業所の割合は6.4%に達しています。
さらに、精神障害による労災請求件数は年間で3,575件と、前年度より892件の大幅な増加となり、支給決定件数、請求件数とも、過去最多を更新しました。
※ 出典:厚生労働省「令和5年労働安全衛生調査(実態調査)」「令和5年度過労死等の労災補償状況 」
人手不足が深刻化する中、従業員の転退職で経営破たんするケースも増えています。
2024年は、従業員の退職が要因となる「従業員退職型」倒産の件数が87件と、過去最多を記録しました。業種別にみると、サービス業やIT産業、建設業など、人材の定着率に課題を持つ業種を中心に件数が増加しています。
※ 出典:帝国データバンク「『労働者退職型』の倒産動向(2024年)」
企業が成長戦略の一環として健康経営に取り組む重要性は、ますます高まっています。
産業保健に関する専門的な立場から、企業と労働者の双方をサポートする産業医面談を活用して、労働者が健康でいきいきと働ける職場づくりに取り組みましょう。
産業医面談は、労働安全衛生法に定められた法定業務です。
事業者は、長時間労働や健康診断、ストレスチェックの結果で、健康リスクが高いと判断された労働者に対して、産業医面談を実施する義務があります。
一方、労働者には面談を受ける義務はなく、対象者からの申し出がない限り、面談を実施することはできません。
ですが医師による面接指導が必要と判断された労働者をそのまま放置した場合、健康障害やメンタルヘルス不調のリスクが高まるだけでなく、安全配慮義務を怠ったと判断される可能性もあります。
産業医面談が、労働者の健康を守り、よりよい職場環境を作るための取り組みであることを周知して、適切に実施することが大切です。
産業医には守秘義務があり、健康診断や面談によって知り得た労働者の個人情報を、事業者に伝えることはありません。
また、ストレスチェック結果や面談を理由に、労働者に不利益な取扱いをすることは法律により禁止されています。
人事労務担当者は、面談が適切に管理されていることを伝えるとともに、情報漏洩の心配がない個室で実施するなど、労働者が安心して面談を受けられる環境を整えましょう。
産業医面談は、2020年からオンラインでの実施も可能になりました。
厚生労働省による産業医面談のオンライン実施に関する通達によると、実施には大きく3つの要件を満たす必要があります。
① 医師と労働者がお互いに表情や顔色、声、しぐさ等を確認できる、安定した通信環境で実施すること
② 情報漏洩や不正アクセスを防止するセキュリティ対策が行われていること
③ 労働者が面接指導を受けやすい、操作が簡単な通信機器を利用すること
面接指導を実施する医師については、労働者が50人以上の事業場で選任が義務づけられている産業医が望ましいとされていますが、長時間労働者や高ストレス者に対する医師の面接指導は、企業の規模に関わらず実施しなければなりません。
アクサの「健康経営サポートパッケージ」産業医プログラムは、ストレスチェック実施支援や産業医選任サービスのほか、オンラインで産業医と面談ができるオプションプランもご用意しています。
産業医の選任義務がない50人以下の事業場で、急に産業医との面談が必要になった時でも、労働者のご都合に合わせて面談が可能です。
対象者 | 主な該当基準 |
長時間労働者 | ・時間外労働が80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められ、本人から面談の申し出がある労働者 |
健康診断の | ・健康診断結果で異常の所見があり、かつ、本人から面談の申し出がある労働者 |
高ストレス者 | ・ストレスチェック結果で面談が必要な高ストレス者に該当し、かつ、本人から面談の申し出がある労働者 |
休職者・復職者 | ・本人から休職の申し出や、主治医による診断書の提出がある労働者や、復職を希望する労働者 |
努力義務 | ・その他、事業者が自主的に定めた基準に該当する者 |
労働安全衛生法により、健康診断やストレスチェック結果で面談が必要と判断される労働者や、長時間労働による過重労働が懸念される労働者から面談の申し出があった場合、事業者は医師による面談指導の実施が義務づけられています。
とくに長時間労働者や高ストレス者を対象とした面談は、本人が疲労やストレスによる不調を自覚していない段階から、メンタルヘルス不調を未然に防ぎ、適切なケアを提供するためにも重要な施策です。
休職者、復職者への対応も、産業医面談に大きな役割が期待されている分野です。
面接指導の対象とならない労働者に対しても、心身の疾患の発症を予防するため一定の基準を設け、面接指導、また面接指導に準じた、必要な措置を講じるよう努めましょう。
長時間にわたる労働により疲労が蓄積し、健康障害発症のリスクが高まった労働者について、事業者は医師による面談指導を実施することが義務づけられています。(労働安全衛生法 第66条8項)
長時間労働は、脳・心臓疾患の発症と強い関連性があると認められています。
過重労働による健康障害を防ぐため、2019年には働き方改革関連法の一環として、長時間労働者に対する面接指導の基準が、時間外・休日労働時間「100時間/月」から「80時間/月」まで引き下げられました。
面接指導をする医師には、当該労働者の正確な労働時間を伝えるとともに、健康診断の結果を準備しましょう。
平成20年4月から、常時使用する労働者数が50人に満たない中小規模の事業場についても、長時間労働面談の実施義務が適用されました。
労働者(裁量労働制・管理監督者含む) | 月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労蓄積があり面接を申し出た者 |
研究開発業務従事者 | 月100時間超の時間外・休日労働を行った者(面接指導の申出がなくても対象) |
高度プロフェッショナル制度適用者 | 1週間あたりの健康管理時間が40時間を超えた時間について、月100時間超行った者(面接指導の申出がなくても対象) |
努力義務 | 事業者が自主的に定めた基準に該当する者 |
事業者は、時間外・休日労働時間が月80時間を超えた労働者について、労働時間に関する情報を、産業医と本人に通知する義務があります。
産業医は、該当する労働者に面談指導を申し出るよう勧奨します。事業者は、労働者から面談の申し出を受けてから概ね1ヶ月以内に、医師による面談指導を実施しましょう。
面接後は、医師から必要な措置について意見聴取を行い、必要と認める場合は、適切な事後措置を実施しなければなりません。面談指導の結果は、記録を作成して5年間は保存します。
措置内容が労働者の健康確保に対して不十分な場合、産業医は事業者に勧告する義務があります。また、事業者は産業医からの勧告内容を、衛生委員会に報告する必要があります。
労災認定された自殺事案には長時間労働に起因するものも多いことから、面接指導の際はメンタルヘルス面にも配慮が必要です。面談指導の対象とならない労働者についても、事業者ごとに基準を定め、面談指導または面談指導に準じた措置を実施することが望ましいとされています。
労働者の残業時間が月100時間を超える場合は、原則として違法となり、「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」が課される可能性があります。(労働基準法 119条1号・36条6項2号)
高ストレス者を対象とした面談は、過労やストレスによる身体的疾患や、メンタルヘルス不調を防ぐことを目的としています。
高ストレス者への面談の実施は事業者の義務ですが、本人から面談の申し出がなければ、面談を強制することはできません。
ですが厚生労働省の「ストレスチェック後の面接指導実施のためのマニュアル」によれば、高ストレスと判定された労働者のうち、実際に医師の面接を受けている人の割合は、およそ1割に留まるそうです。
ストレスチェックや面談の結果により不利益な取り扱いを行わないこと、面談により医師から適切な助言を得られるメリットを周知して、面談が必要な労働者が、安心して申し出を行えるような環境づくりに取り組みましょう。
ストレスチェック制度の詳細や導入手順、面接の対象となる「高ストレス者」の基準については、こちらの記事もご確認ください。
ストレスチェック制度は、個人情報の保護を重視しているため、事業者は、本人の同意がない限り、ストレスチェックの結果を確認することはできません。
面接指導の勧奨は、ストレスチェック結果を判定する実施者(医師や保健師等)が、面談指導の必要があると判断した高ストレス者に直接行います。
労働者から事業者に面接の申し出があれば、概ね1ヶ月以内に行えるよう、医師に面接指導の実施を依頼しましょう。
面談後は、面談指導を行った医師から、就業上の措置の必要性の有無などについて意見聴取を行います。医師の意見に基づき、必要と認める場合は、労働者の実情を考慮したうえで、労働時間の短縮や就業場所の変更など適切な事後措置を実施しなければなりません。
ストレスチェックと面接指導の実施状況は、毎年、労働基準監督署に所定の様式で報告が必要です(労働安全衛生規則 第52条21項)。面談指導の申し出があったことがわかる書面と、面談指導後に医師から提出される意見書とストレスチェック結果は、5年間保管します。
令和7年(2025年)1月1日から、ストレスチェック結果の報告は、電子申請が原則義務化されました。電子申請の手続きについては、厚生労働省のホームページをご確認ください。
厚生労働省:労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス(外部リンクが開きます)
健康診断事後措置面談とは、定期健康診断の結果に基づき、労働者の健康管理や職場での安全配慮のために行われる面談です。
産業医との面談では、健康診断で異常の所見がみられた労働者に対して、生活習慣の改善点など、健康の維持増進のためのアドバイスを行います。
必要な場合は、事業者に対して健康状態に応じた就業上の措置の意見や助言を行ったり、医療機関の受診を勧めたりと、健康診断後のフォローアップを行うことも大切な目的です。
労働安全衛生法により、健康診断の結果で異常の所見があった労働者については、医師等から就業上の措置について、意見聴取しなければならないと定められています。
事業者は、医師の意見を踏まえ、業務時間の短縮や就業場所の変更など、必要な措置を講じて、労働者の健康保持を図らなければなりません。
異常所見がある労働者をスムーズに把握できるよう、就業規則や社内規定の健康診断結果の提出に関する事項を確認しましょう。
定期健康診断後は、生活習慣病を予防するための保健指導や、必要に応じて医療機関への受診勧奨を行うことも大切です。
聴取した産業医からの意見は、健康診断個人票に記載し、健康診断結果とあわせて保管します。健康診断結果の保管期間は、実施する健康診断の種類によって異なるため、決められた期間を守って保管しましょう。
労働者が50人以上の事業場では、健康診断結果を所轄労働基準監督署長に報告する義務もあります。
企業が実施する健康診断の種類や導入手順、事後措置の流れについては、こちらの記事もご確認ください。
メンタルヘルス不調などにより休職を申し出た労働者や、休職から復職する労働者に対しても、事業者は産業医面談を実施し、産業医の助言を受けることが望ましいです。
休職制度について法律上の定めはなく、企業によってルールは異なります。人事労務担当者は、休職制度に関する就業規則や社内規程に従い、適切な対応を行いましょう。
心の健康問題による休業は、企業にとって重要な課題です。
厚生労働省では、メンタルヘルス不調により休業した労働者に対する職場復帰を促進するため、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(PDFが開きます)」というマニュアルで、事業所が行うべき内容をまとめています。
同マニュアルのなか、休職から職場復帰までの全て過程で重要な役割を担うのが、産業保健に関する専門的な立場から、事業者をサポートする産業医です。
労働者から休職の申し出や主治医の診断書の提出があった場合、事業者は社内規程に従い、最終的な判断を行う必要があります。
休職前の面談で、現在の健康状態や業務遂行能力を確認した産業医から助言や指導を受けることで、より適切な判断が可能になります。
休職が決まった労働者に対する産業医面談では、主に健康管理に関するアドバイスや、休職中の面談のスケジュールを話し合います。
人事労務担当者は、労働者が安心して療養に専念できるよう、必要な事務手続きや職場復帰支援の手順とあわせて、傷病手当金など経済的な保障や、休業の最長(保障)期間等、休業に関する社内規定の情報提供を行いましょう。
休業中の労働者から職場復帰の意思を伝えられたら、産業医は本人との面談や、主治医の診断書に基づき、職場で求められる業務遂行能力まで回復しているかどうかを判断します。
労働者の業務遂行能力が完全に改善していないことも考慮し、復職後は段階的に元の業務へ戻すなどの配慮が重要です。産業保健スタッフは、産業医による医学的見地からみた意見や職場の状況を踏まえて、無理のない職場復帰を支援するためのプランを作成しましょう。
就業上の配慮の例
・短時間勤務 ・軽作業や定型業務への従事 ・残業・深夜業務の禁止 ・出張制限 ・交替勤務制限 ・危険作業、運転業務、高所作業、窓口業務、苦情処理業務などの制限 ・フレックスタイム制度の制限または適用 ・転勤についての配慮 等
産業医面談を実施する際は、個人情報保護や安全配慮義務に注意する必要があります。また、面接指導を実施した産業医や、実施の事務に従事した者には守秘義務が課せられており、面談で知りえた情報を漏らさないよう配慮することが求められています。
面談の目的やメリットを周知するとともに、プライバシーへの配慮をしっかり伝えて、労働者が安心して産業医面談を受けられる環境を整えましょう。
また、産業医面談を実施した労働者に対しては、継続的な支援を行うことが重要です。
面談後のフォローアップには、メンタルヘルス不調の労働者への継続的な支援や、休職中の労働者への面談、保健指導後の生活習慣改善についてのヒアリング等が挙げられます。
アクサの「健康経営サポートパッケージ」では、産業医の選任をはじめ、社内の健康増進に関するさまざまなメニューをご利用いただけます。健康で安心して働ける職場環境づくりに、ぜひお役立てください。