2025年3月14日、政府はこれまで従業員50人以上の事業場にのみ義務づけられていたストレスチェック制度について、50人未満の小規模な事業場でも実施する労働安全衛生法の改正案を閣議決定しました。
ストレスチェック制度は、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止し、企業の生産性向上や組織活性化につながる重要な取り組みです。
本記事では、ストレスチェック制度を導入するため、新たに対象となる50名未満の小規模事業者を含むすべての企業で、人事労務担当者が準備するべきポイントをまとめました。制度の本格的な導入に向けて、ぜひお役立てください。
2015年12月に実施が始まったストレスチェック制度は、定期的なストレスチェックの実施で自身のストレス状況を把握し、健康で安全な職場環境づくりを目指す制度です。
厚生労働省の推進する「職場におけるメンタルヘルス対策」のなかでは、メンタルヘルス不調を未然に防止する「一次予防」を強化する重要な取り組みとして位置づけられています。
① 心理的な負担の程度を把握するためのストレスチェックの実施(年1回)
② 高ストレス者に対する医師の面接指導と、医師の意見に基づく必要な措置の実施
③ 集団ごとに集計・分析したストレス状況に基づく職場環境の改善(努力義務)
ストレスチェック制度の導入にあたっては、労働安全衛生法に基づき、それぞれの企業や事業場で、実施体制や実施方法についてさまざまな規定を策定する必要があります。
衛生委員会等で調査審議を行い、ストレスチェック制度の実施に向けて準備を始めましょう。
労働安全衛生法により、一定の規模の事業場ごとに設置が義務づけられている「衛生委員会(安全委員会)」については、こちらの記事もご確認ください。
ストレスチェックの導入にあたっては、まず事業者が制度の導入方針を表明し、実施体制を整える必要があります。
ストレスチェックの実施者等を選定するのは、制度の管理業務を行う事業者です。人事権の有無や資格によって、担当できる業務の範囲が異なるため、それぞれの役割や、実施に関する注意点を確認しておきましょう。
労働者の個人情報を取り扱うことのない事務作業については、人事に関する権限を持つ者も担当できます。
ストレスチェック制度で事業者が取得する可能性のある個人情報は、ストレスチェックの検査結果と、医師による面談指導の結果です。
事業者は、ストレスチェックの検査結果と面談指導の結果について記録を作成し、5年間保管する必要があります。(労働安全衛生規則 第52条)
ストレスチェックの実施者と実施事務従事者は、労働者の個人情報を取り扱うため、法律により守秘義務が課されます。(労働安全衛生法 第104条【心身の状態に関する情報の取扱い】)
また、ストレスチェックや面談指導の結果が、労働者の不利益な取り扱い(※)に利用されることがないよう、人事に関して権限を持つ監督的地位にある者(人事部長など)は、実施の事務に従事することはできません。
※ 解雇、雇い止め、退職勧告、不当な動機・目的による配置転換や職位の変更など
ストレスチェックを実施できるのは、医師、保健師、または厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師、精神保健福祉士、歯科医師、公認心理師です。
事業場の状況を把握している産業医が、実施者を担当することが望ましいとされています。
ストレスチェック実施者の補助を担当する実施事務従事者は、実施者の指示により、調査票の回収や内容の確認、データ入力、結果の通知など、労働者の健康情報を取り扱う業務に携わります。
ストレスチェックの結果で、高ストレスと判定された労働者から申し出があれば、事業者は医師による面接指導を実施する義務があります。
面接指導を実施する医師は、事業場の状況を把握している産業医や、産業保健活動に従事している医師が推奨されます。ストレスチェックや面接指導の実施は、外部機関への委託も可能です。
アクサの「健康経営サポートパッケージ」産業医プログラムは、厚生労働省が定めるストレスチェックの実施支援(実施者代行)のほか、オンラインで産業医と面談できるオプションプランもご用意しています。
産業医の選任義務がない50人以下の事業場で、医師による面接指導が必要になった時でも、ご都合に合わせて面談が可能です。
・ストレスチェックの実施時期
・ストレスチェックで使用する調査票
・医師の面接指導が必要な「高ストレス者」の選定基準
・集団分析の実施有無(実施する場合は集団の規模を決定)
・個人情報に配慮したストレスチェック結果の保存方法
ストレスチェック制度の導入前に、衛生委員会等で実施方法について調査審議を行います。決定した内容は、社内規定として明文化し、ストレスチェック制度実施の趣旨とあわせて周知しましょう。
常時50人以上の労働者を使用する事業場では、1年以内ごとに1回、ストレスチェックの実施が義務づけられています。
実施時期についての規定はありません。繁忙期や閑散期など、ストレス状況が変動しやすい時期を避けて実施しましょう。
また、50人以上の事業場は、ストレスチェックと面接指導の実施状況を所轄労働基準監督署へ報告する必要があります。
令和7年(2025年)1月1日から、ストレスチェック結果の報告は、電子申請が原則義務化されました。電子申請の手続きについては、厚生労働省のホームページをご確認ください。
厚生労働省:労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス(外部サイトのリンクが開きます)
ストレスチェックの調査票は、下記の3つの領域に関する項目を含めなければならないと定められています。(労働安全衛生規則 第52条9項「心理的な負担の程度を把握するための検査の実施方法」)
① 仕事のストレス要因:職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目
② 心身のストレス反応:心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
③ 周囲のサポート:職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目
また、健康経営優良法人の認定要件のひとつである「50名未満の事業場におけるストレスチェックの実施」の要件を満たすためには、厚生労働省の定めるストレスチェック制度に準拠したストレスチェックの実施が必要です。
厚生労働省が推奨しているストレスチェックの調査票(職業性ストレス簡易調査票)は、厚労省のホームページからダウンロードできます。
厚生労働省「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」ダウンロードサイト(外部サイトのリンクが開きます)
仕事のストレス要因(17項目) | 心身のストレス反応(29項目) | 周囲のサポート・満足度(11項目) |
仕事の負担(量) 仕事の負担(質) 身体的負担 対人関係 職場環境 コントロール 技能の活用 適性度 働きがい | 活気 イライラ感 疲労感 不安感 抑うつ感 身体愁訴 | 上司からのサポート 同僚からのサポート 家族や友人からのサポート 仕事や生活の満足度 |
職業性ストレス簡易調査票を使ったストレスチェックの実施にあたっては、PDFやWordを印刷した紙の調査票のほか、Excel版調査票や、受験者回答用アプリも利用できます。
記入や入力が終わった調査票は、法律で守秘義務が課されている実施者、または実施事務従事者が回収します。
紙に印刷した調査票は、第三者が閲覧できないよう、封筒に入れて封をしてもらうなど、回収方法について取り決めましょう。
WEB版、または受験者回答用アプリを利用する場合は、パスワード管理や不正アクセス等、セキュリティ管理の問題がクリアできているか確認が必要です。
ストレスチェック結果は、実施者から直接本人に通知されます。
心理的ストレスの程度が一定の基準を超えた高ストレス者から申し出があった場合は、医師による面接指導の実施が必要です。
医師の面談指導が必要な「高ストレス者」の具体的な選定基準は、実施者の意見や、衛生委員会の調査審議を踏まえて、最終的に事業者が決定します。
メンタルヘルス不調のリスクが高い労働者を早期発見するためにも、適切な基準を定めましょう。
高ストレス者の選定方法の具体例については、厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル(令和3年改訂版)」も参考になります。
高ストレス者の選定方法・基準(厚生労働省「ストレスチェック制度実施マニュアル」より抜粋)
① 「心身のストレス反応」に関する項目の評価点数の合計が高い者(心身の自覚症状があり、対応が必要な従業員が含まれる可能性の高い項目)
② 「心身のストレス反応」に関する項目の評価点数の合計が一定以上あり、「仕事のストレス要因」「周囲のサポート」に関する項目の評価点数の合計が著しく高い者(まだ顕著な自覚症状は現れていないものの、仕事の負荷が非常に重い、周囲のサポートが全くないと感じているなど、メンタルヘルス不調のリスクがある従業員が含まれる項目)
ストレスチェックの結果は、事業者には通知されません。
ストレスチェック結果を職場環境の改善につなげる方法としては、ストレスチェックの結果を一定の集団ごとに集計・分析して、職場全体のストレス状況を把握する「ストレスチェックの集団分析」 が活用できます。
集団分析を実施する際は、部署や課、年齢、性別など、集計・分析する集団の規模について衛生委員会で話し合いましょう。
たとえば職場を部署ごとに分けた場合、仕事の量的負担が高い部署や、上司や同僚からの支援が少ないと感じている傾向の高い部署など、それぞれの部署におけるストレスの傾向が把握できます。
集団分析の結果を踏まえた職場環境の改善は、ストレスチェック制度のなかでは努力義務に位置づけられていますが、メンタルヘルス不調を未然に防止する目的を達成するためにも、積極的な実施と活用が推奨されています。
ストレスチェック結果は、「本人の同意を得て事業者が入手したもの」と、「事業者が入手していないもの」で、保存の方法が異なります。
本人の同意により、事業者に提供されたストレスチェックの結果は、5年間保存する義務があります。本人が同意したことがわかる書面やメール等もあわせて保存しましょう。
医師などの実施者(またはその補助をする実施事務従事者)が保存します。同意を得た場合と同様、5年間の保存が望ましいとされています。
業場内のキャビネットやサーバー内に保存する場合は、事業者を含めた第三者に見られないよう、実施者または実施事務従事者が鍵やパスワードを管理して、厳密に管理しなければいけません。
面接指導結果の記録は、下記の内容が含まれていれば、医師による報告書をそのまま保存しても問題ありません。
① 実施年月日 ② 労働者の氏名 ③ 面接指導を行った医師の名前 ④ 労働者の勤務の状況、ストレスの状況、その他の心身の状況 ⑤就業上の措置に関する医師の意見
ストレスチェック制度は、50人未満の事業場については従業員のプライバシーの保護の観点から努力義務となっていました。
ですが外部機関等の活用により、プライバシーに配慮しながらストレスチェックを実施できる環境が整っていることを背景に、小規模な事業場を含むすべての企業で義務化する労働安全衛生法の改正が予定されています。
アクサの「健康経営サポートパッケージ」では、ストレスチェックの実施を、実施者資格を有する保健師がサポートするプランをご用意しています。
産業医の選任義務のない50人以下の事業場で、高ストレス者に対する面談指導が必要になった場合も、オンラインで産業医に面談できるスポットサービスをご利用いただけます。
すべての企業で義務化されるストレスチェックの実施についてお悩みがございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。