労働安全衛生法や労働安全衛生規則では、産業医や衛生管理者、安全管理者の職務として、定期的な職場巡視を義務づけています。
産業医の職場巡視は、毎日作業に従事している労働者とは別の視点から、職場に潜む安全衛生上のリスクを見つけ出す重要な機会です。
産業医の職場巡視は原則月1回とされていましたが、平成29年の労働安全衛生規則改正により、事業者から産業医に所定の情報が毎月提供される場合は、2ヶ月に1回以上の頻度で実施することが可能になりました。
① 長時間労働に対する面接指導の対象に該当する労働者(※)と、労働時間の情報
② 衛生管理者が毎週1回以上行う職場巡視の結果報告
③ 新規に使用される予定の化学物質や設備と、その作業条件や業務内容
職場巡視に関する産業医制度が改正された背景には、過重労働による健康障害の防止や、メンタルヘルス対策など、産業医が対応すべき業務の増加が挙げられます。
産業医がより効率的かつ効果的に産業保健業務に取り組めるよう、事業者、産業医、産業保健スタッフが連携して、適切な情報共有を行うことが大切です。
産業医は、常時50人以上の労働者を使用する事業場で選任が義務づけられています。産業医の選任に関する詳細は、こちらの記事もご確認ください。
業種によって選任が必要な安全管理者も、職場巡視の義務が課せられています。
職場巡視で見つけた課題は、衛生管理者や安全管理者と産業医が互いに共有することで、職場に潜在する危険性や有害性の早期発見につながります。
安全管理者の巡視の頻度に規定はありませんが、設備や作業方法等に危険のおそれがあれば直ちに対応できるよう、日常的な巡視が必要です。
常時50人以上の労働者を使用する事業場で義務づけられている、「衛生委員会(安全委員会)」の設置や「衛生管理者(安全管理者)」の選任については、こちらの記事もご確認ください。
巡視計画の策定から、当日の確認項目、必要な措置の実施まで、はじめて職場巡視に取り組むうえで必要な基本的な手順をご紹介します。
職場巡視は、年間を通じて計画的に行うことが大切です。職場の安全・衛生委員会などが中心となり、職場巡視計画を立てましょう。
職場の特性によって、重点的にチェックしたいテーマは異なります。労働者の健康障害につながるリスクを早期発見するためにも、自社の業務や作業環境で、どのような労働災害が起こり得るか、衛生委員会等で調査審議を行いましょう。
労働者が立ち入る場所は、原則としてすべて職場巡視の対象となります。倉庫や駐車場など、作業スペース以外も巡視すべき対象です。
職場全体を漏れなく効率よく見回れるよう、どこを巡視するか、何を確認するのか、チェックリストを作成しましょう。
産業医の職場巡視では、限られた時間で状況を把握できるよう、衛生管理者や安全管理者など産業保健スタッフのほか、職場環境や作業手順について理解している現場の管理者や責任者に同行してもらうことが望ましいです。
巡視する職場の状況や、巡視者のスケジュール等を考慮しながら日程を決めます。繁忙期など対応が難しい時期や時間帯があれば、計画の段階で調整しておきましょう。
業種や職種によって、重点的に確認したい項目は異なります。関係部署の状況を把握するとともに、産業医と産業保健スタッフで連携しながら、職場のハザード(有害性や危険性)を洗い出し、チェックリストに盛り込みましょう。
一般的なオフィスや事務所の巡視では、事務所衛生基準規則の定める項目(事務所の環境管理・清潔・休養・救急用具)も、チェックリストに盛り込みましょう。
休憩室やトイレは衛生に保たれているか。VDT作業(PC作業)の姿勢に無理はないか。コード類が床上を這っていないか。事務所の照明や空調は適切か。長時間労働や過重労働、メンタルヘルス対策を適切に行うためにも、勤務体制や残業時間など、職場の状況に関する情報を産業医に提供することも重要です。
製造業や工場の職場巡視は、物や環境の不安全状態と、人の不安全行動の両面で、作業環境の安全が確保されているかどうかが大切なポイントとなります。
保護具の保管や使用は適切か。服装に乱れはないか。有機溶剤や化学物質の管理状態や、飛散や挟まれ・巻き込まれ等、潜在的リスクの大きい設備は優先して確認したい項目です。問題箇所の改善状況や、KY(危険予知)活動・ヒヤリハット活動など安全衛生活動の実施状況も確認し、リスクアセスメントに活用しましょう。
小売業や飲食店は、転倒災害や脚立等からの墜落、重量物による腰痛などの労働災害や健康障害が発生しやすい職場です。
つまずきやすい・滑りやすい・踏み外しやすい箇所はないか。品出しや倉庫整理の作業が安全に行われているか。陳列棚の固定や商品の落下対策は十分か。通路上に物が置かれていないか。職場で働く人の声も反映しながら、想定されるリスクを洗い出し、チェックリストを作成しましょう。
職場巡視が終わったら、職場巡視記録を作成します。職場巡視記録の書式や保管期限について規定はありませんが、労働基準監督署から指導があった場合、職場巡視実施の証拠として、巡視記録の提示を求められることがあります。
衛生委員会の議事録は3年間の保存が義務づけられているため、それに準じた保管期間を設けましょう。
【巡視記録に盛り込む主な項目】
① 実施日 ② 担当者と同行者 ③ 巡視場所 ④ 確認項目と評価 ④ 前回の巡視からの改善状況 ⑥ 今回の巡視で見つかった問題点(指摘事項) ⑦ 対策案(リスクアセスメント含む) ⑧ 次回巡視の予定
確認項目や評価は、職場巡視で使用するチェックリストがそのまま活用できます。職場巡視で見つけた課題は、どこが、どのように問題なのか、具体的に指摘しましょう。
巡視中に見つかった問題点は、衛生委員会や安全委員会で審議し、必要な改善措置を検討します。
すぐに改善できそうな問題については、対象の部署にフィードバックを行い、改善を促しましょう。改善点だけでなく、継続したい良好な取り組みを見つけたら、衛生委員会等で共有することも大切です。
長期的な改善が求められる項目があれば、経営層へのフィードバックや、職場巡視の年間計画の見直しも必要になります。
事前準備と職場巡視、結果の報告、改善と見直しを繰り返すことで、定期的な職場巡視を、より有意義な活動へとつなげましょう。