産業医の職場巡視は年に何回必要? 実施目的や頻度について解説

産業医の職場巡視は年に何回必要? 実施目的や頻度について解説

近年、経済・産業構造の変化やコロナ禍の影響を受けて、仕事・生活に不安やストレスを感じている人は少なくありません。

従業員のメンタルヘルス不調や労働災害といった問題を防ぐためには、事業場での健康保持・増進に向けたケア、職場環境の改善などを積極的に行うことが求められます。

事業場での健康保持・増進に取り組む際には、産業医と連携を取ることが重要です。産業医は、医学的な専門知識を生かして、事業場でのきめ細かな産業保健活動や労働衛生管理を行いますが、そのなかの職務の一つとして“職場巡視”があります。

人事・総務担当者のなかには「職場巡視は何のために行うのか」「どれくらいの頻度で実施するのか」と疑問を持つ方もいるのではないでしょうか。

この記事では、産業医が行う職場巡視の概要をはじめ、実施目的や頻度について解説します。

出典:厚生労働省『産業保健活動をチームで進めるための実践的事例集』/厚生労働省 こころの耳『新型コロナウイルス感染症対策(こころのケア)


目次[非表示]

  1. 職場巡視とは
  2. 職場巡視の目的
  3. 職場巡視の頻度
  4. まとめ


職場巡視とは

職場巡視とは、産業医や衛生管理者が実際に事業場に訪れて、職場での作業方法、労働衛生環境の状態を確認することです。

労働安全衛生規則』第15条第1項では、産業医が定期的に職場巡視を実施することが義務づけられています。


▼労働安全衛生規則 第15条第1項

第十五条 産業医は、少なくとも毎月一回(産業医が、事業者から、毎月一回以上、次に掲げる情報の提供を受けている場合であつて、事業者の同意を得ているときは、少なくとも二月に一回)作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

引用元:e-Gov法令検索『労働安全衛生規則


また、衛生管理者については、同規則第11条第1項に規定されています。


▼労働安全衛生規則 第11条第1項

第十一条 衛生管理者は、少なくとも毎週一回作業場等を巡視し、設備、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

引用元:e-Gov法令検索『労働安全衛生規則


職場巡視の結果、作業方法・衛生状態が従業員に有害な影響をもたらす可能性がある場合には、健康障がいを防止するための措置を講じることが必要です。また、事業者は、産業医が職場巡視を実施するにあたって、必要な権限を与えなければなりません。

産業医が職場巡視を実施したあとは、衛生管理者と連携しつつ以下の対応を行います。


▼職場巡視後の対応

  • 指摘事項の整理
  • 衛生管理者への情報提供
  • 職場巡視報告書の作成


事業者は、これらの情報を踏まえつつ、職場環境改善に向けた解決策を検討して、衛生委員会にて議論を行い職場環境改善につなげることが求められます。

出典:厚生労働省『産業保健活動をチームで進めるための実践的事例集』/厚生労働省 こころの耳『職場巡視』/e-Gov法令検索『労働安全衛生規則



職場巡視の目的

職場巡視の目的は、事業場における労働衛生面の問題点やリスクを洗い出して、職場環境の改善につなげることです。

職場では、物理的な作業環境(照明・温度・レイアウト)をはじめ、人間関係や安全衛生管理の水準、労働時間などが従業員の疲労・ストレスに影響します。従業員の疲労・ストレスが蓄積すると、生産性の低下や労働災害、健康障がいにつながる可能性があります。

産業医が実際に事業場を訪問して、作業方法や労働環境などを巡視することで、職場に起因する健康上の問題点(働きにくさ、ストレスの要因など)を把握することが可能です。

健康上の問題点を具体的に把握して、職場環境改善策を講じることで、健康障がいの防止、安全衛生管理の水準の向上につなげられます。

なお、『労働安全衛生法』第71条の2では、労働災害の防止や従業員の安全・健康を確保するために、快適な職場環境をつくることが事業者の努力義務と定められています。


▼労働安全衛生法 第71条の2

第七十一条の二 事業者は、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、次の措置を継続的かつ計画的に講ずることにより、快適な職場環境を形成するように努めなければならない。
一 作業環境を快適な状態に維持管理するための措置
二 労働者の従事する作業について、その方法を改善するための措置
三 作業に従事することによる労働者の疲労を回復するための施設又は設備の設置又は整備
四 前三号に掲げるもののほか、快適な職場環境を形成するため必要な措置

引用元:e-Gov法令検索『労働安全衛生法


出典:厚生労働省『快適職場』/厚生労働省 こころの耳『職場巡視』/e-Gov法令検索『労働安全衛生法



職場巡視の頻度

産業医による職場巡視は、2ヶ月に1回以上の頻度で実施することが必要です。

近年、過重労働による健康障がい・メンタルヘルス対策の重要性が高まっており、産業医に求められる役割も広がっています。

このような背景から、2017年6月1日に『労働安全衛生規則』が改正されて、産業医がより効率的に職務を行えるように、職場巡視の頻度が緩和されました。

事業者から所定の情報を産業医に提供する場合の職場巡視の頻度は、改正前は毎月1回以上でしたが、改正後は2ヶ月に1回以上が可能となりました。

ただし、職場巡視の頻度を変更するには事業者の同意が必要になるほか、事業者から産業医に対して所定の情報を提供することが求められます。

また、毎月1回以上実施する場合でも、効率的に職場巡視を行うために、産業医への情報提供が望まれます。

産業医に提供する情報は以下の3つです。


▼衛生管理者による職場巡視の結果(少なくとも毎週1回)

  • 巡視の日時・場所
  • 巡視を行った衛生管理者の氏名
  • 作業方法や衛生状態の有害事項と措置
  • そのほか、労働安全対策の参考となる事項


▼衛生委員会での調査審議の内容例(産業医へ提供するとしたもの)

  • 健康上の配慮が必要な労働者の氏名や労働時間数
  • 労働者の休業状況
  • 新たに予定されている作業・業務内容・導入設備


▼長時間労働者に関する情報

  • 時間外・休日労働が月80時間を超えた労働者の氏名と労働時間


出典:厚生労働省『産業医制度に係る見直しについて』『産業保健活動をチームで進めるための実践的事例集』/e-Gov法令検索『労働安全衛生規則



まとめ

この記事では、産業医の職場巡視について以下の内容を解説しました。


  • 産業医の職場巡視に関する義務
  • 職場巡視の目的
  • 職場巡視の頻度


産業医の職場巡視では、事業場での作業方法や衛生状態を現地で確認します。職場に起因する健康上の問題を洗い出すことで、環境改善に向けた具体的な措置を検討できるようになります。

職場巡視の頻度はこれまで月1回以上と定められていましたが、法改正によって2ヶ月に1回以上と緩和されました。ただし、衛生管理者が行う職場巡視結果をはじめ、衛生委員会での調査審議の内容、長時間労働者の情報を産業医に提供することが条件です。

事業場では、スムーズかつ効率的に職場巡視を行うために、産業医や衛生管理者との連携体制を整えておくことが重要です。

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遅沢 修平
遅沢 修平
上智大学外国語学部卒業。新卒で大手証券会社入社。 その後、スタートアップ企業への転職を経て、2020年4月にメドピアに入社(Mediplat出向)。 クラウド型健康管理サービス「first call」の法人営業・マーケティングを担当し、22年6月より産業保健支援事業部マーケティング部長に就任。
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