産業医を選任する基準人数は?14日以内の届出義務や、違反した場合の罰金、選び方をわかりやすく解説
職場の健康管理といえば、真っ先に思い浮かぶのが産業医という人もいるのではないでしょうか。
定期健康診断の実施や生活習慣病予防の指導など、産業医は労働者の健康を守るために欠かせない役割を担っています。さらに、法律で一定の基準を満たす企業は産業医の選任が義務付けられているのです。
この記事では、どのような企業が産業医を選任しなければならないのか、その基準や必要な人数、選任までの流れなど、産業医の選任義務についてわかりやすく解説していきます。
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産業医の選任義務とは
産業医の選任は単なる企業の判断ではなく、労働安全衛生法で定められた法的義務となっています。
事業者は、常時一定数以上の労働者を使用する事業場ごとに産業医を選任し、労働者の健康管理などを行わなければなりません。産業医の選任義務を怠ると、罰則の対象になることもあるため注意しましょう。
産業医の選任義務について基本的な考え方から、実務上の注意点まで、下記で詳しく解説していきます。
- 常時50人以上の労働者を使用する事業場は選任が義務付けられている
- 選任義務がある産業医の人数は労働者数によって決まる
- 特定業務で500人以上の労働者がいる場合も専属産業医の選任義務がある
- 産業医は14日以内に選任する必要がある
- 産業医として選任できる医師には一定の基準がある
- 選任義務を守らなかった時の罰則は50万円以下の罰金
常時50人以上の労働者を使用する事業場は選任が義務付けられている
労働安全衛生法では、労働者の健康を守るために事業者に対して産業医の選任を義務付けており、特に常時50人以上の労働者を使用する事業場は、必ず産業医を選任しなければならないと定められています。
具体的には、労働安全衛生法第13条第1項で、「事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し」と規定されています。
そして、その政令である労働安全衛生法施行令第5条では、「法第13条第1項の政令で定める規模の事業場は、常時50人以上の労働者を使用する事業場とする」と明記されているのです。
ここでいう「常時使用する労働者」には、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイト、派遣労働者なども含まれます。契約形態や勤務時間の長短に関係なく、事業場で継続的に働いている労働者が50人以上であれば、産業医の選任が必要になるのです。
選任義務がある産業医の人数は労働者数によって決まる
産業医の選任は、常時使用する労働者数が50人以上の事業場の義務です。しかし、選任しなければいけない産業医の人数は一律で決まっておらず、事業場の労働者数によって必要な産業医の数が異なります。
具体的には、労働安全衛生規則第13条で事業場ごとに選任が義務付けられる産業医の数が定められています。
常時使用する労働者の数に応じて、以下のように産業医の人数が決まります。
事業場 |
必要な産業医 |
50人以上1,000人未満の事業場 |
1人以上の産業医 |
1,000人以上3,000人以下の事業場 |
1人以上の専属産業医 |
3,001人以上の事業場 |
2人以上の専属産業医 |
ここでいう専属産業医とは、その事業場に常勤し、労働者の健康管理に専念する医師のことです。
一方で、50人以上1,000人未満の事業場で選任が義務付けられている産業医は、嘱託産業医と呼ばれ、非常勤での活動も認められています。
特定業務で500人以上の労働者がいる場合も専属産業医の選任義務がある
事業場の規模だけでなく、そこで行われる業務の内容によっても、産業医の選任要件が変わるため注意しましょう。
健康へのリスクが高い特定業務に従事する労働者が多い場合は、専門的な知識を持つ専属の産業医の選任が義務付けられています。
労働安全衛生規則第13条では、「多量の高熱物体を取り扱う業務」「寒冷な場所における業務」「ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務」など、労働者の健康に重大な影響を及ぼす可能性のある業務が「特定業務」として定められています。
そして、この特定業務に常時500人以上の労働者がいる事業場については、専属の産業医を選任しなければならないと決められています。
そのため、労働者が1,000名以上の場合か、もしくは特定業務で500人以上の労働者がいる場合であれば専属産業医を選任する必要があります。
特定業務における健康障害を防ぐためには、一般の医師では対応が難しいことも多く、業務について深く理解している専門医が必要不可欠です。
産業医は14日以内に選任する必要がある
産業医の選任は、労働安全衛生規則第13条で「産業医を選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任しなければならない」と定められています。つまり、常時使用する労働者数が50人を超えた日から2週間以内に、産業医を選任する必要があるのです。
事業者はこの期限を守らなければ、罰則の対象になる可能性があるため注意しましょう。
すでに産業医を選任している事業場であっても、産業医が辞めてしまったり、何らかの理由で人数が足りなくなったりした場合は、その日から14日以内に新たな産業医を選任しなくてはいけません。
ここで注意したいのは、単に産業医を選任するだけではなく、選任した産業医が法律で定められた職務を行う必要があります。具体的には、労働者の健康管理や働く環境の管理、健康相談への対応などが産業医の主な職務です。
事業者は、常時使用する労働者数が50人に近づいてきたら、あらかじめ産業医の候補者を探しておくことがおすすめです。地域の医師会に相談したり、産業医紹介サービスを利用したりするのも1つの方法です。
産業医として選任できる医師には一定の基準がある
産業医は労働者の健康管理を担う重要な役割を持っていますが、医師免許を持っているだけで誰でも産業医になれるわけではありません。
産業医として選任できる医師には、法律で定められた一定の基準があります。
産業医の要件は、労働安全衛生法第13条で「労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者」と定められています。
そして、その具体的な内容は、労働安全衛生規則第14条で以下のように定められています。
- 労働衛生コンサルタント試験に合格した医師(試験の区分は保健衛生)
- 大学で労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、講師(常勤)の経験がある医師
- 産業医学の研修を修了した医師
3つ目の産業医学の研修修了は、厚生労働大臣が指定する機関、例えば日本医師会や産業医科大学などが実施しています。
ただし、これらの要件を満たしたからといって、自動的に産業医になれるわけではありません。あくまでも、事業者が産業医としての職務を遂行できると判断した医師を選任する必要があります。
そのため、産業医を選任する際は、要件を満たしているかどうかだけでなく、その医師の経験や専門性なども考慮することが大切です。
選任義務を守らなかった時の罰則は50万円以下の罰金
事業者が産業医の選任義務を怠った場合、単に法律違反になるだけでなく、罰則の対象にもなります。
労働安全衛生法第119条では、産業医を選任しなかった事業者に対する罰則が定められています。
具体的には、産業医を選任しない、または選任した産業医に必要な職務を行わせなかった事業者は、50万円以下の罰金に処されると決められています。
選任した産業医に職務を行わせていなかった場合も、罰則の対象となる可能性があります。産業医を選任したからといって、その後は放置しても良いというわけではないため注意しましょう。
さらに、産業医の選任義務は、常時使用する労働者数が50人未満になった場合も、すぐには解除されません。例えば、労働者数が一時的に50人を下回っても、50人以上の状態が常態化していれば、産業医の選任義務は継続します。
産業医を選任するまでの流れ
実際に産業医を選任するまでには、いくつかのステップがあります。
産業医の選任は、単に法律上の義務を果たすだけでなく、労働者の健康を守り、企業の生産性を高めるための重要な取り組みです。
下記では、産業医を選任するまでの一般的な流れについて、詳しく解説していきます。
- 候補者を探す
- 契約を締結する
- 産業医選任届を提出する
①候補者を探す
産業医の紹介を受けられる方法は、いくつかあります。ここでは、その主な方法について解説していきます。
まず、地域の医師会に問い合わせる方法があります。
医師会に所属する医師の中には、産業医の資格を持っている方が多くいるので、適任者が見つかる可能性があります。
次に、地域産業保健センターに相談する方法です。
地域産業保健センターは、主に労働者数50人未満の小規模事業場を対象に、無料で産業保健サービスを提供する機関です。センターには、産業医の資格を持つ医師が登録されています。
事業場の規模や業種に応じて、適切な産業医の紹介を受けられる場合があります。ただし、50人以上の事業場の場合は、別途、産業医との契約が必要になります。
さらに、産業医紹介会社を利用する方法があります。
産業医紹介会社は全国の産業医登録者のデータベースを持っている場合もあるので、事業場のニーズに合った産業医を効率的に探すことができます。「first call」は全国どこでも産業医が選任可能なサービスです。
②契約を締結する
産業医の候補者が決まったら、次は契約を締結しましょう。
産業医との契約は、通常、業務委託契約の形式で行われます。しかし、具体的にどのような内容を契約書に盛り込めばよいのか分からない事業者も多いです。
契約書には、主に下記の内容を記載しましょう。
- 業務内容
- 契約期間
- 報酬額と支払い方法
- 契約の解除条件
例として業務内容であれば、職場巡視の頻度や、健康診断の結果チェック、健康相談の対応などについて、具体的に記載します。産業医の業務は法律で定められていますが、事業場ごとに重点を置くべき点は異なります。自社に合わせて、業務内容をカスタマイズすることが大切です。
契約期間は、常時使用する労働者数が50人以上である限り継続的に行わなければなりません。そのため、契約期間は1年以上とすることが一般的です。ただし、事業場の状況によっては、より長期の契約を結ぶこともあるでしょう。
契約書の作成にあたっては、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談することで、トラブルのない契約書を作成することができるでしょう。
③産業医選任届を提出する
産業医との契約が締結できたら、次は「産業医選任報告」という書面を、所轄の労働基準監督署長に提出します。
この報告は、産業医を選任したことを行政に届け出るための重要な手続きです。
まず、産業医選任届の提出期限について確認しておきましょう。労働安全衛生規則では、産業医を選任した日から14日以内に、届出を行うことが定められています。この期限を過ぎると、法律違反となる可能性があるので注意が必要です。
次に、産業医選任届の様式について見ていきます。届出に使用する様式は、「安全管理者・衛生管理者・産業医等選任報告」という名称の書面です。この様式は、厚生労働省のWebサイトからダウンロードすることができます。
報告書の作成にあたっては、記載漏れや誤記がないよう、十分に確認しましょう。
記載する内容や必要な添付書類について、下記で解説していきます。
産業医選任届に記載する内容
産業医選任届には、事業場の基本情報と、選任した産業医の情報を記入するようになっています。
事業場の基本情報としては、以下の項目を記載します。
- 労働保険番号
- 事業場の名称と所在地
- 事業の種類(業種)
- 常時使用する労働者数
- 電話番号
次に、選任した産業医の情報としては、以下の項目を記載します。
- 産業医の氏名とふりがな
- 生年月日
- 選任年月日
- 選任区分(専属または非専属)
- 兼任区分(専任または兼任)
- 医籍登録番号
- 産業医の要件に関する種別(別表のコード番号)
この中でも選任区分と兼任区分は十分に確認しましょう。選任区分は、その産業医が専属なのか非専属(嘱託)なのかを表します。
常時1,000人以上の労働者を使用する事業場や、有害業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場では、専属産業医の選任が義務付けられています。
兼任区分は、その産業医が他の業務を兼任しているかどうかを表します。
産業医選任届の添付書類
産業医選任届を提出する際、書面だけではなく、いくつかの添付書類を一緒に提出しなければなりません。
産業医選任届に添付しなければならない書類は、主に以下の2つです。
- 選任した産業医の医師免許証の写し
- 産業医の要件を満たしていることを証明する書類の写し
まず、医師免許証の写しは、選任した医師が医師資格を持っていることを証明するために必要です。産業医は何よりもまず医師でなければなりません。免許証の写しがなければ、届出は受理されないでしょう。
次に、産業医の要件を満たしていることを証明する書類の写しも重要です。労働安全衛生法では、産業医は「労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識」が必要とされています。
単に医師免許を持っているだけでは不十分で、産業医としての専門性を備えていることが求められます。
この専門性を証明する書類としては、例として以下のようなものがあります。
- 日本医師会認定産業医の認定証
- 労働衛生コンサルタント(保健衛生)の登録証
- 産業医科大学等で産業医学の課程を修了したことを示す修了証
- 大学で労働衛生に関する科目を担当していたことを示す在職証明書
添付書類は写しでも構わないので、原本を提出する必要はありません。
また、添付書類の準備は、産業医選任届の提出期限に間に合うように余裕を持って行いましょう。特に、産業医の要件を満たすことを証明する書類は、医師本人から取り寄せる必要があるかもしれません。
事前に産業医と連絡を取り、必要な書類を揃えておきましょう。
産業医の選任義務のまとめ
産業医の選任は、単なる法律上の義務ではありません。産業医は、労働者の健康を守り、安全で快適な職場環境を維持するために必要な存在です。
事業者にとって、産業医との連携は、労働者の健康増進や生産性の向上につながります。病気やケガによる欠勤を減らし、モチベーションの高い職場を作ることは、企業の持続的な発展に繋がるはずです。
選任後も産業医との信頼関係を築き、定期的に情報を交換するなどの連携をしていくことが大切です。健全な労働環境を作るために、産業医との繋がりを深めていきましょう。
産業医の役割は非常に幅広いですが、産業保健の現場にある課題を理解している「first call」であれば、法令を守り、従業員の健康に繋がる産業医サービスが利用できます。