
健康経営とは?企業のメリットや始め方、優良法人認定まで解説
「健康経営」は、従業員の健康を「コスト」ではなく「未来への投資」と捉える、新しい経営の考え方です。
「うちの企業も何か始めたほうがいいのかな?」と感じている人事担当者の方も多いかもしれません。
それもそのはず、今や「人を大切にする会社(人的資本経営)」かどうかは、求職者や投資家からも厳しくチェックされています。
健康経営を導入することは、従業員が元気になるだけではなく、「採用活動が有利になる」「優秀な人材が定着しやすくなる」「組織全体の生産性が上がる」といった、経営に直結する多くのメリットがあり、企業価値の向上にもつながるのです。
この記事では、「健康経営って具体的に何?」という基本から、導入のステップ、そして経済産業省が推進する「健康経営優良法人」の認定まで、人事担当者が知りたい実践的なポイントを分かりやすく解説していきます。
健康経営を推進する上では、産業医の選任やストレスチェックの実施、健康診断結果の管理などの産業保健活動が必要不可欠です。
「何から手をつければいいか分からない」「テレワーク下での管理が難しい」といった課題には、クラウド型の健康管理サービスを活用するのも一つの方法です。
「first call」は、法令で定められる産業保健業務の対応や、テレワークにも対応した健康相談窓口の設置などをまとめてサポートし、担当者の負担を軽減します。
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健康経営とは?

健康経営は、ただ健康診断を実施するといった単発の取り組みとは異なります。
従業員の健康づくりや増進を戦略的な投資と位置づけ、会社の活性化や生産性アップにつなげ、最終的に企業の業績を向上させることを目的とした活動であり、経営手法なのです。
ここでは、まず「健康経営」という言葉の背景や定義について、詳しく見ていきましょう。
- 企業の収益性向上を目指す米国の経営理念が起源
- 経済産業省が推進する「健康経営優良法人」認定制度
企業の収益性向上を目指す米国の経営理念が起源
「健康経営」の考え方は、1980年代から90年代のアメリカで生まれました。
「従業員が健康になれば、医療費が減るだけでなく、仕事のパフォーマンスが上がり、会社の利益もアップするよね」という経営理念がその始まりです。
日本で昔からある「福利厚生」や、法律を守るための「労働安全衛生」とは、考え方のスタート地点が違います。
健康経営は、最初から「投資」であり、それに見合う「成果」を求める、攻めの戦略的な経営手法となっています。
経済産業省が推進する「健康経営優良法人」認定制度
日本でこの健康経営の実践と普及を強力に後押ししているのが、経済産業省です。
経済産業省は2016年度から「健康経営優良法人」の認定制度をスタートさせました。
この制度の大きな目的は、健康経営にしっかり取り組んでいる会社を「見える化」することです。
認定を受けることで、金融機関や求職者、取引先から「あの会社は、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人だ」と社会的に評価される環境を整えようとしています。
そして、この施策を進めているのが、国民の健康を守る厚生労働省ではなく、企業の経済活動をサポートする「経済産業省」だという点です。
国が「従業員の健康」を、日本企業の「生産性」や「企業価値」に直結する、とても重要な経済戦略と捉えている証拠と言えるでしょう。
健康経営が企業にもたらすメリット

では、企業が健康経営に「投資」すると、具体的にどのようなメリットが期待できるのでしょうか。
ここでは、主な4つのメリットや効果をご紹介します。
- 従業員の不調による生産性の低下を防ぎ向上
- 人材の定着率が上がり採用活動でも有利に
- 企業イメージや社会的信用の向上
- 医療費減少による健康保険料の負担軽減
従業員の不調による生産性の低下を防ぎ向上
従業員が心も体も健康であることは、組織全体の生産性に直接影響します。
健康経営を推進することで、病気による欠勤(アブセンティーズム)が減少するだけでなく、組織の活力が高まることも期待できるでしょう。
特に深刻なのが、「出社はしているけれど、心身の不調で本来のパフォーマンスが発揮できていない状態」、いわゆる「プレゼンティーズム」です。
健康経営は、こういった見えない損失を減らし、従業員一人ひとりが活発に働ける状態を作るのに役立ちます。
人材の定着率が上がり採用活動でも有利に
健康経営への取り組みは、従業員の離職率低下と人材の定着率を上げることにもつながります。
「会社が自分たちの健康を大切にしてくれている」という実感が、仕事への満足度やモチベーションを高めるためです。
人手不足が続く現代において、採用力の強化と離職の防止はとても重要です。
「健康経営優良法人」の認定は、求職者に対して「うちは人を大切にする会社ですよ」と客観的にアピールすることが可能なのです。
企業イメージや社会的信用の向上
健康経営の実践と優良法人の認定は、企業のブランドイメージを高めます。
これは消費者や求職者に対してだけではありません。金融機関や投資家、取引先からの社会的信用にもつながるのです。
最近よく聞く「ESG投資」という言葉がありますが、健康経営はまさにこの「S(Social:社会)」、つまり従業員への配慮や働きやすい環境づくり、そのものとなっています。
投資家たちは、健康経営の認定を「この企業はリスク管理ができていて、持続的に成長しそうだ」という良いサインとして見てくれるでしょう。
医療費減少による健康保険料の負担軽減
会社が従業員の健康管理をサポートし、生活習慣病などを予防することは、将来の医療費を抑えることにつながります。
健康保険料は会社と従業員で半分ずつ負担しており、健保組合の財政状況によって保険料率が変わります。
つまり、健康経営への投資は、「会社の保険料負担が減り、その分をまた次の健康投資に回せる」という、良いサイクルを生み出す可能性があるのです。
健康経営を始めるための5つのステップと推進方法
健康経営は「スローガン」ではありません。しっかりとした手順を踏んで進めるマネジメント活動です。
経済産業省が出している「健康経営ガイドブック」でも、PDCAサイクルを回していくことが大切だとしています。
ここでは、実際に健康経営を導入・実践するための具体的な方法を、5つのステップで見ていきましょう。
- ①:経営トップが「健康宣言」を社内外に発信
- ②:推進担当部署や責任者を決め体制を構築
- ③:健康診断の受診データで自社の健康課題を把握
- ④:課題に基づいた具体的な数値目標(KPI)の設定
- ⑤:施策の実行と効果検証のPDCAを回す
①:経営トップが「健康宣言」を社内外に発信
最初に行う、重要なステップです。
社長やCEOといった経営者トップ自らが、「従業員の健康こそが経営の土台だ」という方針を「健康宣言」としてまとめ、社内にも社外にも強く発信することが重要になります。
これは「健康経営優良法人」の認定でも必須の項目になっています。
スローガンというだけではなく、経営トップによる「公約」です。
トップが公言することで、健康経営が会社にとって重要な取り組みであると位置づけられます。
これにより、次のステップで決まる担当部署が、予算や人員を確保しやすくなるのです。
②:推進担当部署や責任者を決め体制を構築
宣言をしたら、次に「誰が」中心になって進めるのか、「体制」を構築します。
認定の基準でも「健康づくり担当者」を設置することが求められます。
よりしっかりと進めるためには、人事部や総務部だけでなく、経営層、産業医・保健師、労働組合、各現場の部門など、会社を横断する組織を作るのが理想です。
この体制が、会社の健康経営を推進する司令塔の役割を果たします。
③:健康診断の受診データで自社の健康課題を把握
次に、自社の「現在地」を把握します。
主な情報源は、「健康診断」の受診結果やストレスチェックの結果です。
従業員アンケートで、直接悩みやニーズを聞いてみるのも有効でしょう。
これらのデータを分析・活用し、「わが社の健康課題は何か?」(例:高ストレス者が多い、運動不足の人が多い、など)を客観的に見つけ出します。
データに基づいて課題を見つけることが、画一的な福利厚生と「健康経営」との大きな違いです。
④:課題に基づいた具体的な数値目標(KPI)の設定
課題が見つかったら、それに対応する「目標」を決めます。
例えば、「高ストレス者の割合が20%」という課題に対し、「高ストレス者の割合を2年後に15%まで低減する」といった、具体的な数字の目標を設定します。
この目標は、最終的なゴールに紐づいている必要があります。
目標設定は、次のステップである効果検証で、うまくいったかかどうかを測るための基準を作る作業です。
基準がなければ、施策がやりっぱなしになり、PDCAサイクルが止まってしまいます。
⑤:施策の実行と効果検証のPDCAを回す
設定した目標を達成するために、具体的な施策を実行します。
そして施策を実行したら、一定期間の後(1年後など)、目標はどれくらい達成できたかを評価します。
その評価結果をもとに、「なぜうまくいったのか」「なぜダメだったのか」を分析し、次の計画を改善していくのです。
健康経営の課題別に見る企業の取り組み施策
次に、健康経営の課題把握で見つかりやすい主な課題ごとに行われている、具体的な施策の例を紹介します。
- 食事・運動は弁当補助や保健指導で支援
- メンタルヘルス不調は管理職のラインケア研修で対策
- 治療や育児・介護は柔軟な勤務制度で両立支援
- リモートワークの課題はオンライン施策で解消
食事・運動は弁当補助や保健指導で支援
従業員の健康の土台となる、食生活と運動習慣の改善は特に重要な取り組みです。
ここでは、食事と運動の具体的な支援策を分けて見ていきましょう。
食事
生活習慣病の予防には、食生活の改善が欠かせません。
例えば、社員食堂でヘルシーなメニューを提供したり、野菜が多いお弁当の購入に補助を出したり、栄養士による食事のアドバイスなどが挙げられます。
運動
運動不足の解消も大切です。
始業前のラジオ体操、オフィスや自宅から参加できるオンラインヨガ教室の開催、ウェアラブルデバイスを配って歩数を競うイベントの実施、スポーツジムの利用補助など、楽しみながら運動習慣を身につけられる工夫が効果的でしょう。
メンタルヘルス不調は管理職のラインケア研修で対策
メンタルヘルス対策は、健康経営の中でも特に重要なテーマの一つです。
ストレスチェックの実施と、高ストレス者への適切なフォローや、外部のカウンセリングサービス(EAP)と契約することなどが基本施策となります。
中でも大切なのが、管理職による部下の日常的なケア、いわゆる「ラインケア」です。
部下の「いつもと違う」という不調のサインに早く気づき、適切に対応することが深刻なメンタル不調を防ぎます。
このため、多くの企業が管理職向けの「ラインケア研修」を実施しています。
会社の「安全配慮義務」を果たす上でも、とても重要な取り組みなのです。
治療や育児・介護は柔軟な勤務制度で両立支援
従業員が、がんなどの治療、あるいは育児や介護といったライフイベントと、仕事を両立できる環境を整えることも、健康経営の大切な取り組みです。
優秀な人材が、これらの理由で辞めてしまうのは、会社にとって大きな損失でしょう。
この課題への対応は、「働き方改革」そのものと言えます。
長時間労働をなくすことを大前提に、フレックスタイム制度、時間単位の有給休暇、短時間勤務、リモートワーク、治療のための中抜け許可など、「柔軟な勤務制度」を整えることが重要となります。
リモートワークの課題はオンライン施策で解消
リモートワーク(テレワーク)が急速に広まったことで、働き方は柔軟になりましたが、同時に新しい健康課題も生まれています。
- 通勤がなくなり運動不足になる
- 従業員の健康状態が見えにくくなり不調の発見が遅れる
- コミュニケーション不足による孤立感やメンタル不調
これらの課題に対しては、オンライン施策で対応する企業が増えています。
例えば、オンラインのストレッチ教室、健康データをスマホで見える化するアプリの活用、オンラインでのメンタルヘルス相談窓口の設置などです。
健康経営優良法人とは?
健康経営優良法人認定制度は、経済産業省が作った、健康経営の取り組みを「見える化」するための認定制度です。
ここでは、制度の詳しい中身と、認定を取得するとどのような実利的なメリットがあるのかを解説していきます。
- 健康経営銘柄やホワイト500との違い
- 大規模法人部門と中小規模法人部門の認定基準
- 年一回の申請方法と活動記録の保管
- 低金利融資や補助金などのインセンティブ
健康経営銘柄やホワイト500との違い
似たような名前がいくつかあって混乱しやすいのですが、関係性を整理すると以下のようになります。
【健康経営銘柄】
これが最上位の選定制度です。
対象は「東京証券取引所の上場企業のみ」となっており、経済産業省と東証が共同で各業種から1~2社程度を選ぶ、ハードルの高い証です。
【健康経営優良法人】
こちらがベースとなる認定制度です。
会社の規模によって、2つの部門に分かれます。
- 大規模法人部門:従業員数が一定以上の法人(例:サービス業で101人以上)。この認定法人の中で、特に優秀な「上位500法人」が「ホワイト500」と呼ばれています。
- 中小規模法人部門:従業員数が上記以下の法人(例:サービス業で100人以下)。この認定法人の中で、特に優秀な「上位500法人」は「ブライト500」と呼ばれています。
「ホワイト500」や「ブライト500」という個別の認定制度があるわけではなく、あくまで優良法人認定の中での上位層の呼び名、ということになります。
「健康経営」認定制度の体系表を下記にまとめました。
制度名称 | 対象法人 | 選定・認定 | 位置づけ(通称) |
|---|---|---|---|
健康経営銘柄 | 東京証券取引所の上場企業 | 経済産業省と東京証券取引所が共同で選定 | 【最上位】上場企業の中のトップ |
健康経営優良法人(大規模法人部門) | 大規模法人 | 経済産業省と日本健康会議が認定 | 認定法人 |
健康経営優良法人(大規模法人部門) | 大規模法人部門の認定法人 | 認定法人の中で、健康経営度調査結果が「上位500位以内」 | ホワイト500 |
健康経営優良法人(中小規模法人部門) | 中小規模法人 | 経済産業省と日本健康会議が認定 | 認定法人 |
健康経営優良法人(中小規模法人部門) | 中小規模法人部門の認定法人 | 認定法人の中で、「優れた取り組み」を行う「上位500法人」 | ブライト500 |
大規模法人部門と中小規模法人部門の認定基準
認定の基準は、両部門とも下記の5つの項目で評価されます。
- 経営理念・方針
- 組織体制
- 制度・施策実行
- 評価・改善
- 法令遵守・リスク管理
ただし、求められるレベルが少し異なります。
【経営理念】
大規模法人は、自社内だけでなく、取引先(サプライチェーン)にも健康経営を広める活動といった、トップランナーとしての社会的な役割も評価対象となります。
【組織体制】
大規模法人は、役員以上の責任者設置や、産業医・保健師の関与、保険者との「連携」が必須要件として求められます。
一方、中小規模法人は、まず「健康づくり担当者の設置」からスタートします。
大企業には、自社だけでなく、取引先の中小企業も含めた業界全体を良くしていくハブとしての役割が期待されているのです。
年一回の申請方法と活動記録の保管
申請は年に1回、決められた期間内に行います。
申請には費用がかかり、健康経営優良法人2026(2025年申請)の場合、大規模法人部門は88,000円(税込)、中小規模法人部門は16,500円(税込)です。
申請は、「健康経営度調査」という調査票に回答する方法で行われます。
大切なのは、この申請時に「施策を行ったエビデンス」を求められる点です。
申請は、一夜漬けの試験ではなく、前章で解説したのPDCAサイクルを1年間行ってきた活動報告です。
そのため、認定を取得するためのポイントは、日頃から「どの施策を」「いつ実行し」「何人が参加して」「どういう結果だったか」という活動記録をしっかりと保管しておくことが重要です。
低金利融資や補助金などのインセンティブ
認定されるメリットは、会社のイメージアップだけではありません。
経営に直接役立つ、実利的なインセンティブが数多くあるのです。
- 金融:日本政策金融公庫や多くの地方銀行、信用金庫が、認定法人向けの「低金利融資(優遇利率)」制度を提供しています。
- 補助金:「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ものづくり補助金)」「IT導入補助金」「事業承継・M&A補助金」など、経済産業省系の主要な補助金申請において、認定が「加点項目」として有利に扱われることがあります。
- 公共調達:自治体によっては、役所の入札で優遇措置が受けられる場合があります。
- 人材採用:ハローワークの求人票に「認定ロゴマーク」を使えるため、求職者に強くアピールできます。
- その他:法務省出入国在留管理庁において、外国人材の在留資格審査が簡素化されるといった優遇措置もあります。
特に「補助金の加点」は、大きな設備投資などの採否に関わる可能性があり、活用することで、認定にかかる費用を大きく上回るリターンが期待できるかもしれません。
中小企業こそ健康経営が重要な理由
「健康経営なんて、体力のある大企業がやることでは?」と思うかもしれません。
ですが、実は経営資源が限られている中小企業の経営者の視点から見ても、健康経営は死活問題として重要だと言えます。
ここでは、中小企業であっても健康経営が重要な理由について、詳しく解説していきます。
- 一人の従業員の不調が経営に直結しやすい
- 人材確保や定着で他社との差別化が必須
- 保険者(協会けんぽ等)との連携を活用
- 自治体が提供する支援や優遇措置の活用
一人の従業員の不調が経営に直結しやすい
中小企業は、大企業と違って従業員数が少なく、1人多役をこなしていることが多いでしょう。
そのため、もしエース社員やベテランの技術者が、病気やメンタル不調で長期間休んだり、辞めてしまったりした場合、その影響は大きくなります。
業務がストップするなど、経営そのものに直結する深刻な影響になりかねないのです。
この点から見ると、中小企業にとっての健康経営は、「生産性アップの戦略」であると同時に、「会社を守るリスク管理」としての意味合いがとても強いのです。
人材確保や定着で他社との差別化が必須
採用市場において、中小企業は給与や知名度などで、大企業と比べると不利な状況に置かれがちです。
しかし、「健康経営優良法人」の認定を取得することで、「従業員を大切にする会社だ」ということを、国のお墨付きという客観的な形で証明できます。
これは、採用活動において「働きやすさ」をアピールする要素となり、他社との明確な「差別化」につながるでしょう。
保険者(協会けんぽ等)との連携を活用
多くの中小企業が加入しているのは、独自の健保組合ではなく、「全国健康保険協会(協会けんぽ)」だと思います。
中小企業は、自社で産業医や保健師を抱えるのが難しい場合も多いですが、保険者である「協会けんぽ」や、各自治体と「連携」することで、効率よく健康経営を進められます。
協会けんぽは、加入企業の「健診データ」や「医療費データ」を持っています。
協会けんぽにとっても、加入企業の健康状態が良くなれば医療費の支出が減るため、協力するメリットは大きいはずです。
「協会けんぽ」を「保険料を払う先」ではなく、「健康経営を一緒に推進するパートナー」と考え、データ活用や健康セミナーの開催などを積極的に相談してみましょう。
自治体が提供する支援や優遇措置の活用
経済産業省のインセンティブとは別に、多くの都道府県や市町村といった自治体が、独自に健康経営に取り組む中小企業向けの支援策や優遇措置を用意しています。
例えば、独自の認定制度や、地域の金融機関と連携した低金利融資、公共調達での優遇など、内容はさまざまです。
自社がある自治体のWebサイトをチェックし、活用できる各種の制度がないか調査してみることをおすすめします。
健康経営の推進で失敗しないための注意点
せっかく健康経営を始めても、宣言をしただけで終わってしまう企業には、いくつかの典型的な失敗パターンがあります。
ここでは、推進する上で、そうならないための3つの注意点を詳しく解説していきます。
- 経営層の関心が薄く担当者任せにしない
- 従業員に「やらされ感」を与えない工夫
- 従業員の健康情報を適切に管理する
経営層の関心が薄く担当者任せにしない
特に多い失敗パターンは、「トップの宣言」と「体制構築」が形だけになってしまうことです。
経営者層が「宣言」はしたものの、実際の関心は薄く、あとは人事部や総務部の「担当者任せ」にしてしまうケースです。
担当者には予算も権限もなく、他部署の協力も得られません。
結果、施策は単発で終わり、従業員にも響かず、PDCAが回らなくなってしまいます。
経営トップが宣言するだけでなく、推進チームの会議に顔を出し、進捗を気にかけ、リソースを配分するという「本気度」を示し続けることが重要です。
従業員に「やらされ感」を与えない工夫
会社が良かれと思って始めた施策が、従業員から「押し付けだ」「やらされ感がある」と受け取られ、参加率が上がらないケースもよくあります。
これは、課題把握が不十分で、従業員が本当に求めているニーズと、会社が提供する施策がズレてしまっていることが原因でしょう。
対策としては、下記のような工夫が効果的です。
- アンケートで従業員が本当に困っていることをしっかり聞く
- 施策を強制ではなく選択式にする
- ポイントが貯まるアプリや景品を用意するなど、楽しさを演出し、自発的な参加を促す
従業員の健康情報を適切に管理する
「健康診断のデータ」を活用する際、従業員は「個人の詳しい健康情報を会社に知られたくない」と強く感じているものです。
健康経営は、「データを活用したい会社側」と「情報を守りたい従業員側」という、難しさを抱えています。
もし従業員が「血圧の数値やストレスチェックの結果が、上司や人事に知られて評価に影響するのでは?」と不安に感じれば、データ活用は進まず、PDCAは止まってしまいます。
解決策は、厳格な「データ管理のルール」を構築し、それを「従業員に透明性をもって説明する」ことです。
「個人が特定できる生データ」は産業医や保健師だけが管理し、人事や経営側は「個人が特定できない統計データ」だけを見て課題分析を行う、というルールを徹底し、そのことを従業員にしっかり説明して信頼を得る必要があります。
健康経営に関するよくある質問
最後に、人事担当者や健康経営の推進に携わる方が抱えるよくある質問について、詳しく解説していきます。
- 健康経営の推進に費用はどれくらいかかる?
- 健康経営優良法人の申請は難しい?
健康経営の推進に費用はどれくらいかかる?
費用は、企業の規模や目指すレベルによって「ほぼゼロ」から「数百万円以上」まで、大きく異なります。
【ミニマムコスト】
まずは「健康宣言」から始め、中小企業であれば「協会けんぽ」や自治体の無料サポートを活用する場合、コストはほぼゼロに近いでしょう。
優良法人の申請費用も中小規模法人なら16,500円(税込)です。
【システムコスト】
従業員の健康情報を管理する「健康管理システム」を導入する場合は、コストがかかります。
クラウド型なら初期費用数万~数十万円+月額数百円/人、大企業向けなら初期数百万~+月額数十万円が相場となります。
大切なのは費用ではなく「投資」と考えることです。
生産性アップ、採用コストの削減、医療費の削減といった「リターン」が見込めるため、費用対効果で判断するのがよいでしょう。
健康経営優良法人の申請は難しい?
難しいというよりは、体系的な取り組みが必要です。
申請は、一夜漬けでできる「試験」ではありません。本記事で解説した「5つのステップ」を最低1年間は運用し、PDCAを回した「実績」と「活動」を、調査票にまとめる作業です。
ただ、中小規模法人の申請数が増えており、2025年には19,796法人もの中小企業が認定されているという事実は、多くの企業にとって達成可能な目標であることがわかります。
地道に実行して記録を残せば、申請・取得は決して難しくありません。
【まとめ】健康経営は企業の持続的成長に必要な戦略
ここまで解説してきた通り、「健康経営」は従業員という大切な「人的資本」への「戦略」的な投資であり、企業の持続的な成長に欠かせない経営戦略なのです。
健康経営には、主に下記のようなリターン・メリットがあります。
- 生産性の向上
- 採用力・定着率の強化
- 会社の信用アップ
- 医療費負担の軽減
また、「健康経営優良法人」の認定は、その取り組みを社内や社外に「見える化」できるメリットとなる制度となります。
とはいえ、健康経営の推進は、健康診断結果の一元管理や産業医との面談調整、ストレスチェックの実施など、人事担当者の業務負担を増大させる側面もあります。
こうした課題を効率的に解決し、担当者が本来の業務に集中するためにも、クラウド型健康管理サービス「first call」のような外部サービスの活用を検討するのもおすすめです。
従業員が24時間医師に相談できる窓口の設置や、産業保健業務のオンライン化は、健康経営の実践フェーズで役立つはずです。



























