産業医報酬の相場とは?専属と嘱託の違い、目安となる金額や違いが生まれる要素も解説
産業医の選任は法律で定められている以上、多くの企業にとっては避けて通れない課題です。
しかし、いざ選任しようと思っても、「産業医の報酬はどれくらいが相場なんだろう?」と悩むことも多いのではないでしょうか。報酬の目安がわからないと、予算の計上もしにくいです。
この記事では、産業医の報酬の相場について、目安となる金額や報酬に差が生まれる要因などを詳しく解説していきます。産業医の選任を検討している経営者や人事担当者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
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産業医とは
産業医とは、労働者の健康を守るために、専門的な立場から労働者の健康管理などについて、企業側に助言や指導を行う医師のことです。
職場巡視や衛生委員会への出席、健康診断の実施と事後措置、メンタルヘルス対策など、幅広い活動で労働者の健康確保を行うのが産業医の役割です。
労働安全衛生法で、一定規模以上の事業場には産業医の選任が義務付けられています。そのため、産業医は企業にとって欠かせない存在となります。
また、産業医は常勤となる「専属産業医」と、非常勤となる「嘱託産業医」に分かれます。
以下では、専属産業医と嘱託産業医それぞれの選任要件や勤務形態などについて、詳しく解説していきます。
- 専属産業医の選任要件
- 専属産業医の勤務形態
- 嘱託産業医の選任要件
- 嘱託産業医の勤務形態
専属産業医の選任要件
労働安全衛生法では、以下の事業場において専属産業医の選任を義務付けています。
事業場 |
必要な産業医 |
常時1,000人を超える労働者がいる事業場 |
1名以上の専属産業医 |
有害業務に常時500人以上の労働者が従事する事業場 |
1名以上の専属産業医 |
常時3,000人を超える労働者がいる事業場 |
2名以上の専属産業医 |
専属産業医の勤務形態
専属産業医の勤務形態は、週3日~5日の常駐が求められることが一般的です。
週3日〜5日常駐することで、労働者の健康状態を日常的に観察し、変化を早期に見つけることができます。常駐していない日も、労働者の健康情報を継続的に収集・分析することで、潜在的な健康リスクを予測し、予防措置を取ることが可能になります。
事業場の規模や業種によっては、専属産業医が複数の事業場を兼務することも可能です。ただし、兼務する場合には各事業場での勤務時間が不足しないようにするなど、いくつかの注意点があります。
嘱託産業医の選任要件
労働安全衛生法により、常時使用する労働者数が50人以上999人以下の事業場で1名以上の嘱託産業医か専属産業医の選任が必要と義務付けられています。
ただし、常時使用する労働者数が999人以下であっても、有害な業務に500人以上の労働者が従事している場合は、専属産業医の選任が必要となるため注意しましょう。
嘱託産業医の選任にあたっては、医師の資格を持っており、労働安全衛生規則で定められた一定の要件を満たしている必要があります。
嘱託産業医の勤務形態
労働安全衛生法によると、嘱託産業医は少なくとも毎月1回は事業場を訪問し、作業環境や労働者の健康状態をチェックすることになっています。
ただし、事業者から毎月1回以上、所定の情報提供を受けていて、かつ事業者の同意を得ている場合は、訪問頻度を2ヶ月に1回まで減らすことができます。これは、事業場の規模や業種、労働者の健康状態などを考慮して、柔軟に対応できるようにするためです。
具体的な業務内容としては、職場巡視、衛生委員会や安全衛生委員会への参加、健康診断や面接指導の結果を見たうえで意見を出すこと、健康相談への対応などがあります。
嘱託産業医の勤務時間は、事業場の規模や業務内容によって異なりますが、通常は月に数時間から1日程度となることが多くなっています。
専属産業医の報酬の目安
専属産業医の1年間の報酬は、下記が目安です。
- 300万円〜400万円×週の勤務日数
例えば、週に1日勤務する場合は年間300万円〜400万円程度、週に4日勤務する場合は年間1,200万円〜1,600万円程度が目安となります。ただし、この金額はあくまでも目安であり、実際の報酬は産業医の経験年数や事業場の業種、立地などによって変動します。
具体的には、以下のような要因によって専属産業医の報酬が変わります。
- 産業医としての経験年数
- 事業場の業種や有害業務の有無
- 事業場の立地
- 契約内容や付帯業務
嘱託産業医の報酬の目安
嘱託産業医とは、常時50人以上999人以下の労働者を使用する事業場において選任が義務付けられている非常勤の産業医です。
月に1回から数回程度、事業場を訪問し、労働者の健康管理や職場環境の改善に関する業務を行います。
以下では、嘱託産業医の報酬の目安について、愛知県医師会産業保健部会の資料をもとに詳しく解説します。
基本月額報酬
嘱託産業医の報酬は、事業場の労働者数に応じて設定されることが一般的です。愛知県医師会産業保健部会の資料によると、基本月額報酬の目安は以下のようになっています。
事業場 |
基本月額報酬 |
100人以下の事業場 |
50,000円以上 |
101人~200人の事業場 |
65,000円以上 |
201人~300人の事業場 |
80,000円以上 |
301人~400人の事業場 |
95,000円以上 |
401人~500人の事業場 |
110,000円以上 |
501人~600人の事業場 |
125,000円以上 |
601人~700人の事業場 |
140,000円以上 |
701人~800人の事業場 |
155,000円以上 |
801人~900人の事業場 |
170,000円以上 |
901人~999人の事業場 |
185,000円以上 |
金額はあくまでも目安となるため、事業場の業種や有害業務の有無、嘱託産業医の経験や専門性によって変わる可能性があります。また、交通費は実費を別途支給するのが一般的です。
ストレスチェック報酬
労働安全衛生法により、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、年1回のストレスチェックの実施が義務付けられています。嘱託産業医は、ストレスチェックの実施や結果によって面接指導を行うことが求められます。
愛知県医師会産業保健部会の資料によると、ストレスチェック関連の報酬の目安は以下のようになっています。
内容 |
報酬目安 |
ストレスチェック実施 |
500円以上/従業員1名あたり |
ストレスチェック後の産業医活動実施 |
21,500円以上/1回あたり |
ストレスチェックの実施や事後措置に関する報酬は、基本月額報酬とは別に設定されることが一般的です。
特定の疾患と診断された労働者への就労支援報酬
下記の診断を受けた労働者に対し、就労上の措置に関する意見など、就労と治療の両立に必要な情報を文書で提供した場合には、一定の報酬が発生します。
- がん
- 脳血管疾患
- 肝疾患(慢性経過)
- 指定難病
- 心疾患
- 糖尿病
- 若年性認知症
具体的には、以下の報酬が目安です。
内容 |
報酬目安 |
1労働者あたり |
初回8,000円(情報通信機器を用いて行った場合は6,960円) |
2回目以降 |
4,000円(情報通信機器を用いて行った場合は3,480円) |
臨時出務手当
嘱託産業医が面接指導などの臨時で勤務を行った場合は、目安として1回または1人あたり20,000円以上の手当が発生します。
この手当は、通常の訪問スケジュール以外での対応が必要な場合に発生する報酬です。
産業医報酬の地域差や医師の経験による違い
産業医の報酬は一律同じではなく、働く地域や産業医としての経験年数によって差が出てきます。
以下では、産業医の報酬に差が出る2つの大きな要素となる、「地域差」と「経験年数」に着目して、詳しく解説していきます。事業場の立地や規模、産業医に求める役割など、自社の状況に合わせた報酬設定の参考にしてみてください。
- 地域によって報酬の相場が変わる
- 経験豊富で専門性が高い産業医ほど報酬が高い
地域によって報酬の相場が変わる
産業医の報酬は、勤務する地域によって相場が変わります。
例えば、あくまで目安になりますが、東京の日本橋医師会が公表している「産業医報酬基準額について」を見ると、下記のような報酬目安となっています。
事業場 |
基本月額報酬 |
50人未満の事業場 |
5,000円以上 |
50人~199人の事業場 |
100,000円以上 |
200人~399人の事業場 |
150,000円以上 |
400人~599人の事業場 |
200,000円以上 |
600人~999人の事業場 |
250,000円以上 |
対して、上記で一度掲載している愛知県医師会産業保健部会の資料では、下記の報酬が目安とされています。
事業場 |
基本月額報酬 |
100人以下の事業場 |
50,000円以上 |
101人~200人の事業場 |
65,000円以上 |
201人~300人の事業場 |
80,000円以上 |
301人~400人の事業場 |
95,000円以上 |
401人~500人の事業場 |
110,000円以上 |
501人~600人の事業場 |
125,000円以上 |
601人~700人の事業場 |
140,000円以上 |
701人~800人の事業場 |
155,000円以上 |
801人~900人の事業場 |
170,000円以上 |
901人~999人の事業場 |
185,000円以上 |
おおよそ、日本橋医師会が公表している産業医報酬が1.8倍ほど高いことが分かります。
愛知県と東京都を比較した数字になるため、他の地域や医師会では、また違った基準があるかもしれません。ですが、労働者数に応じて報酬を設定するという基本的な考え方は、どの地域でも共通しています。
また、東京などの大都市圏が相対的に高いということもなく、地方は産業医の数が少ないなどの理由から、報酬が高くなることもあります。
大切なのは、自社の所在地の産業医報酬相場を把握しておくことです。その上で、自社の規模や業種、予算などを考慮しながら、適切な報酬を設定していく必要があります。
経験豊富で専門性が高い産業医ほど報酬が高い
産業医を務める医師の経験年数によっても、報酬が変わってきます。
一般的に、産業医としての経験が長く、専門性が高い医師ほど報酬も高くなります。例えば、10年以上産業医を務めているベテランの医師と、産業医になったばかりの新人の医師では、同じ事業場で同じ業務を行っても報酬に差がつきます。
経験豊富な産業医であるほど、労働者の健康管理や職場環境を改善するための知識とスキルが高く、より効果的に動くことができるためです。企業としても、そうした産業医のスキルの高さに合わせて報酬を払うことが求められます。
とはいえ、産業医の報酬を決める時は単に経験年数だけではなく、医師の実績や専門性なども総合的に判断することが重要です。
例えば、メンタルヘルスや化学物質管理など、特定の分野に強みを持つ産業医もいます。自社の課題に合わせて、そうした専門性の高い産業医を選ぶことも重要になります。
産業医の探し方による報酬の違い
産業医を探す際、どのような方法を選ぶかによって報酬にも違いが出てきます。産業医の選任で費用面の負担を感じている企業も少なくないのではないでしょうか。
以下では、主に4つの方法を取り上げて、それぞれのメリットや報酬の違いについて詳しく見ていきましょう。
- 医師会からの紹介は直接契約になるため交渉が必要
- 医療機関からの紹介は健康診断とセットで割安になる場合がある
- 人材紹介会社からの紹介は手数料が発生するが最適な産業医が見つかる
- 地域産業保健センターでは50名未満の事業場は無料で健康相談、面談指導を受けられる
医師会からの紹介は直接契約になるため交渉が必要
医師会の場合、紹介された産業医とは直接契約を結ぶことになるので、報酬の交渉は企業と産業医の間で直接行う必要があります。医師会はあくまでも仲介役であり、報酬の決定には関わりません。
そのため、企業側は産業医の経験や専門性などを踏まえて報酬を提案する必要があります。
たとえば、メンタルヘルス対策に力を入れたい事業場が、精神科医である産業医と契約する場合などの専門性の高い医師を依頼すると、半日で15〜30万円という高額な報酬設定になる可能性もあります。
ですが、医師会から紹介される産業医は地域の医療事情にも詳しく、求めている産業医を理解してくれる可能性が高いというメリットもあります。報酬は高めでも、質の高い仕事を行ってくれるなら、決して高くはないと言えるかもしれません。
医療機関からの紹介は健康診断とセットで割安になる場合がある
社員の健康診断を特定の医療機関に依頼しているような場合は、そこから産業医を紹介してもらうということも考えるのではないでしょうか。
実際、健康診断を実施している医療機関から産業医を紹介してもらうと、健康診断と産業医契約をセットにできるので、全体的に割安になることが多くなります。健康診断のデータを産業医が直接確認できるのも、大きなメリットと言えるでしょう。
ただし、健康診断の繁忙期は産業医も忙しくなるため、産業医活動に支障が出ることもあり、そこは注意が必要です。
また、医療機関から紹介を受ける場合も、報酬の交渉は企業と産業医の間で直接行うことになります。
人材紹介会社からの紹介は手数料が発生するが最適な産業医が見つかる
最近では、人材紹介会社からの紹介を選ぶ企業も増えています。
人材紹介会社を利用するメリットは、産業医の選択肢が豊富なことです。紹介会社には多くの産業医が登録しているので、求めている医師が見つけやすいのです。
例えば、メンタルヘルス対策に力を入れたい企業なら、その分野に詳しい産業医を紹介してもらえます。英語が堪能な産業医が必要な場合も、紹介会社なら対応できる場合があります。
また、紹介会社が間に入ることで、報酬の交渉もスムーズに進められます。企業と産業医の間で直接やり取りする必要がないので、どちらにとっても負担が少なくなります。
ただし、紹介会社を利用する場合は、紹介手数料が別途発生します。企業が紹介会社に支払う費用で、産業医の年間報酬の30%程度が相場です。
紹介手数料分だけ余計にコストがかかるように感じるかもしれませんが、人材紹介会社を利用するメリットを考えれば、決して高くはないと言えるでしょう。自社に最適な産業医を見つけられる可能性が高まるため、長期的に見れば費用以上の効果を得られることもあります。
「first call」は、企業ごとのニーズに合わせた産業医をすぐにご紹介できます。
地域産業保健センターでは50名未満の事業場は無料で健康相談、面談指導を受けられる
地域産業保健センターでは、産業医の紹介や選任は行っていませんが、労働者数50人未満の小規模事業場を対象に、医師による健康相談や職場訪問指導などを無料で提供しています。
例えば、月80時間を超える残業をしている労働者がいる場合、産業医による面接指導が労働安全衛生法で義務付けられています。ですが、産業医の選任義務がない小規模事業場では契約している産業医がいないこともあるため、そういった状況で地域産業保健センターを活用しましょう。
ただし、地域産業保健センターはあくまでも小規模事業場向けのサービスになるため、常に産業医の活動が必要な規模の事業場は対象外となります。
また、地域によってサービス内容に差がある、事業場の所在地に地域産業保健センターがない、といったケースもあるかもしれません。
とはいえ、小規模の事業場にとって地域産業保健センターは心強いため、専属の産業医を選任するのは難しくても、必要な時に医師のサポートを受けられるのは大きな安心材料です。
産業医の報酬まとめ
ここまでで、産業医の報酬は、事業場の規模や業種、産業医の経験や専門性、そして探し方によって大きく変わることがわかりました。
嘱託産業医の場合、労働者数に応じて月額5万円〜30万円程度が相場で、専属産業医ともなれば、年収ベースで数百万円から2,000万円弱の報酬が目安となります。
注意したいのが、報酬の安さだけで産業医を選んではいけない、ということです。労働者の健康を守るという重要な役割がある産業医の活動は、決して安ければいいというものではありません。
今回紹介した報酬の目安を参考にしながら、産業医とよく話し合い、自社に最適な報酬体系を設計していきましょう。
産業医の役割は非常に幅広いですが、産業保健の現場にある課題を理解している「first call」であれば、法令を守り、従業員の健康に繋がる産業医サービスが利用できます。