産業医の派遣とは?派遣社員の扱いや依頼方法、費用相場や業務内容を解説
「産業医を選任しなければならないが、どうすればいいのかわからない」「産業医を派遣してもらう方法や費用について知りたい」といった悩みを抱える企業の担当者は少なくありません。
実際、産業医の選任は法律で義務付けられているにもかかわらず、その具体的な方法や手順について不安を感じている方も多いでしょう。
本記事では、そういった疑問や不安を解消するため、産業医を派遣してもらう方法について、産業医派遣の仕組みや主な依頼先、費用相場、そして産業医の業務内容まで、幅広く解説します。
また、専門的な内容も多い産業医との契約は、経験豊富な産業医紹介会社に相談するのがおすすめです。first callの産業医サービスは、ご要望に合わせた産業医をご紹介し、法令に沿った業務実施のサポートが可能です。
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産業医派遣とは?仕組みや法的根拠を解説
産業医派遣とは、企業が労働者の健康管理を行うために、外部から産業医を受け入れる仕組みです。
以下では、産業医派遣の基本的な仕組みと、それを可能にする法律や派遣される産業医の主な仕事などを詳しく解説します。
産業医を派遣してもらうためには企業に産業医を派遣する仲介サービスを利用する
産業医を派遣してもらうためには、主に産業医を派遣しているサービスを利用します。
このサービスを通じて、企業は労働者の健康管理を担当する産業医を確保できます。
例えば、産業医紹介会社を利用した場合、サービスの主な内容は以下のようになっています。
【サービス内容】
- 産業医の選定と紹介
- 契約手続きのサポート
- 産業医業務のフォローアップ
派遣の依頼先によって内容は変わるため、一例として参考にしてください。
また、産業医を派遣してもらうメリットとして、以下の点が挙げられます。
【メリット】
- 専門知識を持つ産業医の確保ができる
- 法定業務に対応できる
- 健康経営を推進できる
一方で、以下のようなデメリットも考慮しておきましょう。
【デメリット】
- コスト面での負担増加
- 社内事情の把握に時間がかかる可能性がある
産業医の派遣は、労働安全衛生法による義務を果たすための効果的な方法の一つです。
それだけでなく、自社の目的に合った産業医の派遣を受けることで労働者の健康管理を適切に行えるようになり、生産性の向上や職場環境の改善につながります。
労働者50人以上の事業場で産業医選任が義務付けられている
労働安全衛生法により、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医の選任が義務付けられています。
産業医選任の基準と必要な人数は、以下の通りです。
労働者数 |
必要な産業医の人数 |
嘱託・専属 |
---|---|---|
50~999人 |
1名以上 |
嘱託産業医も可能 |
1,000~3,000人 |
1名以上 |
専属産業医が必要 |
3,001人以上 |
2名以上 |
専属産業医が必要 |
選任期限は、事業場の規模が基準を満たしてから14日以内です。
産業医を選任しない場合、労働安全衛生法の120条により、50万円以下の罰金が科される可能性があります。そのため、法令遵守という面でも適切な産業医の選任は重要です。
派遣社員も産業医選任の対象に含まれる
産業医の選任義務を考える際、見落としがちなのが派遣社員の扱いです。
実は、派遣社員も産業医選任の対象となる労働者数にカウントされます。
派遣社員を含めた「常時使用する労働者」は、次の通りです。
【常時使用する労働者】
- 正社員
- 契約社員
- パートタイマー
- アルバイト
- 派遣社員
雇用期間、労働時間、1日の労働時間、1週間の労働日数に関わらずカウントします。
また、繁忙期など一時的に50人を超える場合も選任義務が発生するため注意しましょう。
医師の派遣は禁止されているが、産業医は派遣できる
医師の派遣については、一般的に労働者派遣法で禁止されています。しかし、産業医の場合は例外的に派遣が可能です。
産業医が派遣できる主な理由は、次の通りです。
【派遣可能な主な理由】
- 医療行為を主な業務としない
- 労働者の健康管理が主な役割
- 企業の安全衛生管理体制の一部
産業医の業務は直接的な医療行為ではなく、主に労働者の健康管理や職場環境の改善に関するものです。しかし、産業医も「医師」であるため、原則として労働者派遣法の規制対象となります。
ただし、産業医の「派遣」という言葉が使われる場合、実際には以下のような形態を指すことが多いです。
形態 |
法的枠組み |
注意点 |
---|---|---|
紹介予定派遣 |
労働者派遣法 |
一定期間後に直接雇用に切り替えることが前提 |
業務委託 |
民法(請負契約) |
偽装請負にならないよう注意が必要 |
医療機関からの出向 |
労働基準法 |
状況によっては労働者派遣法の適用を受ける可能性あり |
例えば、産業医紹介会社を通じて産業医を紹介してもらう場合、多くが業務委託になることから派遣が可能となっています。
派遣産業医の主な業務内容と役割
派遣産業医は、企業の労働者の健康管理と職場環境の改善のため、一例として次のような業務を行います。
【健康診断・面接指導関連業務】
- 健康診断の実施や事後措置の確認
- 長時間労働者への面接指導
- ストレスチェック後の高ストレス者面談
【作業環境管理】
- 職場巡視(月1回以上)
- 作業環境の維持管理に関する提案
【健康管理】
- 健康教育や健康相談の実施
- メンタルヘルス対策の推進
【労働衛生管理体制】
- 衛生委員会への出席(月1回以上)
- 安全衛生計画を策定するための助言
業務内容や頻度は、企業規模や業種によって変わります。
注意すべき点として、派遣産業医は医療行為を行うことはできません。例えば、診療や薬の処方などは、一般の医療機関で行う必要があります。
産業医派遣の依頼先
産業医を派遣してもらうには、いくつかの方法があります。
以下では、主な依頼先とそれぞれの特徴を紹介します。民間の産業医紹介サービス、地域の医師会、そして産業保健総合支援センターなど、様々な選択肢があります。
企業の規模や特徴、求める産業医の専門性に合わせて依頼先を選びましょう。
民間の産業医紹介サービス
民間の産業医紹介サービスは、企業が産業医を効率的に見つけて派遣してもらうためには非常に便利な方法です。
産業医の選定から派遣・契約までのサポートを受けることが可能です。
産業医紹介会社には、次のような特徴があります。
【産業医紹介会社の特徴】
- 豊富な産業医データベース
- マッチング支援
- 契約手続きのサポート
- アフターフォロー
利用するうえでのメリットとデメリットには、下記のような点が挙げられます。
【メリット】
- 専門知識を持つ産業医の専任が可能
- 選任にかかる時間と手間を減らすことができる
- 企業のニーズに合った産業医の選定が可能
- 法令遵守の確実性が上がる
【デメリット】
- 紹介手数料などのコストが発生する
- 直接雇用と比べて柔軟性が低い場合がある
産業医紹介サービスを選ぶポイントと利用するうえでの注意点は、次の通りです。
【サービスを選ぶポイント】
- 登録産業医の数と質
- 対応可能な地域
- 料金体系の透明性
- サポート体制の充実度
- 実績と評判
【注意点】
- 契約内容をしっかり確認すること
- 産業医の経歴や専門性を確認すること
- 産業医交代の条件や手続きを事前に確認すること
医師会を通じた産業医の紹介
各地域の医師会は地元の医療事情に精通しており、信頼できる産業医を紹介してもらえる可能性があります。
ただし、全ての医師会で行っているわけではないため、注意しましょう。
医師会から産業医を派遣してもらう場合、次のようなメリットとデメリットがあります。
【メリット】
- 地域の医療事情に詳しい
- 信頼性が高い
- 紹介手数料が不要な場合がある
【デメリット】
- 選択肢が限られる可能性がある
- 手続きに時間がかかる場合がある
- 専門性の高い産業医を探しづらい
医師会への依頼手順は、下記を参考に問い合わせをしてみてください。
【依頼の流れ】
- 最寄りの医師会へ連絡
- 産業医紹介の申し込み
- 医師会からの候補者紹介
- 面談と選考
- 契約締結
地域によって医師会の対応が異なる場合があることは理解しつつ、紹介を受けられた場合は産業医の専門性や経験を十分に確認することが重要です。
医師会を通じた産業医の派遣が向いている企業は、次の通りです。
【向いている企業】
- 地域密着型の中小企業
- 地元の医療事情に詳しい産業医を派遣してもらいたい企業
産業保健総合支援センターの活用
産業保健総合支援センターは、独立行政法人労働者健康安全機構が運営する、企業の産業保健活動を支援する公的機関です。
全国47都道府県に設置されており、産業医を直接紹介してもらうことはできませんが、産業保健に関する様々なサービスを提供しています。
産業保健総合支援センターの主なサービスは、次の通りです。
サービス |
内容 |
---|---|
産業保健相談 |
産業保健に関する専門的な相談対応 |
情報提供 |
産業保健に関する情報の提供 |
研修会の開催 |
産業保健スタッフや事業者向けの研修 |
小規模事業場への支援 |
地域産業保健センターを通じた支援 |
労働者数50人未満の小規模事業場向けに「地域産業保健センター」を通じて以下のサービスを無料で提供しています。
【無料提供サービス】
- 健康相談
- 長時間労働者への面接指導
- ストレスチェックの実施支援
例えば、労働者数30人の小規模事業場でも、これらのサービスを利用して労働者の健康管理を行うことができます。
産業保健総合支援センターを利用するには、以下の流れで問い合わせましょう。
【利用する流れ】
- 最寄りのセンターへ連絡
- 相談内容の説明
- 適切なサービスの紹介を受ける
- サービスの利用
また、下記のような注意点もあるため事前に確認しておくことが重要です。
【注意点】
- 産業医の直接紹介は行っていない
- サービスの利用には事前予約が必要な場合がある
- 小規模事業場向けサービスは、労働者数50人未満が対象となる
紹介サービスを利用して産業医を派遣してもらうまでの流れ
産業医を派遣してもらう際、多くの企業が産業医紹介サービスを利用しています。
以下では、産業医紹介会社への問い合わせから、候補者との面談、そして最終的な契約締結までの一般的な流れを解説します。
スムーズに産業医を派遣してもらうために、各段階で注意すべきポイントや準備しておくべき内容にも触れています。
①産業医紹介会社への問い合わせと相談
はじめに、産業医紹介会社へ問い合わせし、希望する派遣産業医の詳細を伝えます。
問い合わせによる相談には、下記のような目的があります。
【問い合わせ内容と目的】
- 企業の要望を伝える
- サービス内容の詳細を確認する
- 費用や契約条件を確認する
- 産業医選任のスケジュールを立てる
企業側では、次のような情報を準備しておくと、よりスムーズに進みます。
準備しておく内容 |
詳細 |
---|---|
事業内容 |
業種、主な業務内容 |
労働者数 |
正社員、パート、派遣社員の人数 |
事業場の所在地 |
本社、支社、工場など |
希望する産業医の条件 |
専門分野、経験年数など |
予算 |
想定している予算 |
例えば、IT企業で労働者数が200人、メンタルヘルス対策に力を入れたい場合、精神科の経験がある産業医を希望する、といった具体的な要望を伝えるようにしましょう。
派遣される産業医を決める前に、以下の点を具体的に話し合いましょう。
【最低限話し合うべき内容】
- 企業の産業保健上の課題
- 産業医に期待する役割
- 訪問頻度や勤務形態の希望
- 予算と費用の詳細
first callの産業医サービスは、ご要望に合わせた産業医をご紹介し、法令に沿った業務実施のサポートが可能です。
②候補となる産業医との面談と選定
産業医紹介会社から派遣候補の産業医が提案されたら、次は面談を行い、産業医を選定する段階に入ります。
この過程は、企業と産業医のマッチングを確認するための特に重要なステップです。
面談には、下記のような重要な目的があります。
【面談の目的】
- 産業医の経験や専門性を確認
- 産業医の考え方や人柄を知る
- 具体的な活動計画を話し合う
産業医を選ぶうえで、次のポイントをチェックしておきましょう。
確認内容 |
詳細 |
---|---|
経歴 |
産業医としての経験年数、得意分野 |
専門知識 |
労働安全衛生法の理解度、最新の産業保健情報 |
コミュニケーション能力 |
説明の分かりやすさ、質問への対応 |
活動計画 |
職場巡視や健康相談の具体的な進め方 |
勤務条件 |
訪問可能な日時、緊急時の対応 |
例えば、メンタルヘルス対策に力を入れたい企業であれば、「ストレスチェック後の高ストレス者面談をどのように進めますか?」といった具体的な質問をすることで、産業医の専門性や対応力を確認できます。
産業医を確定する前に、次のような点に注意しておきましょう。
【注意点】
- 複数の候補者と面談し、比較検討する
- 企業の課題や期待することを明確に伝える
- 産業医の提案や意見をよく聞く
- 契約条件(報酬、活動頻度など)を確認する
選定する判断基準は、次の通りです。
【判断基準】
- 企業のニーズと合致しているか
- 産業医の専門性と経験は十分か
- コミュニケーション能力と人柄に問題はないか
- 提案内容は具体的か
ただし、初めから完璧な相性を求めるのではなく、長期的な関係を築くことも視野に入れましょう。
③契約内容の確認と締結
産業医候補の選定が完了したら、次は契約内容の確認と締結に進みましょう。
契約内容の主な確認ポイントは、次の通りです。
【確認ポイント】
- 業務内容と範囲
- 勤務形態と頻度
- 報酬と支払い方法
- 契約期間
- 守秘義務
- 契約解除の条件
例えば、業務内容について「月1回の職場巡視、四半期ごとの衛生委員会出席、随時健康相談に対応する」のように具体的に記載することで、お互いの認識のずれを防ぐことができます。
契約締結時には、下記にも注意しましょう。
【注意点】
- 契約書の内容を十分に確認する
- 不明点は必ず質問し、明確にしておく
- 必要に応じて顧問弁護士などに相談する
- 産業医と直接確認が必要な事項は事前に協議する
契約締結後は実際に産業医に働いてもらう上で、下記の対応を進めましょう。
【契約後の対応内容】
- 産業医活動の開始日を確認
- 社内で周知するための準備
- 必要な情報や資料の準備
- 初回活動のスケジュール調整
最後に、契約締結後は労働基準監督署への産業医選任報告書の提出が必要です。
提出は労働安全衛生規則による義務となり、選任から14日以内に行う必要があります。
産業医派遣の費用相場
産業医派遣の費用は、企業の規模や業種、産業医の経験などによって変わります。
非常勤である嘱託産業医の費用相場は、愛知県医師会産業保健部会の資料によると、労働者数に応じた月額報酬の目安は次の通りとなっています。
労働者数 |
月額報酬(目安) |
---|---|
100人以下 |
50,000円以上 |
101~200人 |
65,000円以上 |
201~300人 |
80,000円以上 |
301~400人 |
95,000円以上 |
401~500人 |
110,000円以上 |
501~600人 |
125,000円以上 |
601~700人 |
140,000円以上 |
701~800人 |
155,000円以上 |
801~900人 |
170,000円以上 |
901~999人 |
185,000円以上 |
また、これだけでなく、追加で費用が発生する可能性もあります。
同じく愛知県医師会産業保健部会の資料によると、以下の費用が発生する可能性があります。
【追加で発生する費用】
- ストレスチェック関連:500円以上/従業員1名あたり(実施)、21,500円以上/1回あたり(産業医活動実施)
- 特定の疾患への就労支援:初回8,000円、2回目以降4,000円
産業医を派遣してもらう場合の費用は、次のような要因によって変わります。
【費用に影響を与える要因】
- 企業規模と労働者数
- 業種と有害業務の有無
- 産業医の経験と専門性
- 訪問頻度と業務内容
- 地域による相場の違い
例えば、化学物質を扱う製造業では、有害業務への対応が必要なため、一般的なオフィスワーク中心の企業よりも高額になる場合があります。
産業医の報酬は法律で定められた最低基準はありませんが、日本医師会や各地域の医師会が推奨する報酬基準を参考にしてみましょう。ただし、これらは目安になるため、実際の報酬は個別の契約によって決まります。
また、産業医の質と報酬のバランスも重要です。
単に安価な産業医を選ぶのではなく、企業の健康管理ニーズに合った産業医を選任することで、長期的には労働者の健康増進や生産性向上につながり、結果的にコスト削減になる可能性があります。
産業医派遣のまとめ
産業医派遣とは、企業が労働者の健康管理を行うために、外部から産業医を受け入れる仕組みです。
この記事で解説した主な内容をまとめると、以下の通りです。
【産業医のまとめ】
- 産業医派遣の仕組みと法的根拠
- 産業医選任の義務(労働者50人以上の事業場)
- 派遣社員も選任対象に含まれること
- 産業医の主な業務内容と役割
産業医を派遣してもらう主な依頼先には、下記があります。
依頼先 |
特徴 |
---|---|
民間の産業医紹介サービス |
豊富な産業医データベース、マッチング支援 |
医師会 |
地域の医療事情に詳しい、信頼性が高い |
産業保健総合支援センター |
公的機関、小規模事業場向けサービスあり |
紹介サービスを利用する場合の一般的な流れは、次の通りです。
【産業医紹介サービスの流れ】
- 産業医紹介会社への問い合わせと相談
- 候補となる産業医との面談と選定
- 契約内容の確認と締結
産業医派遣の費用相場は、企業規模や業種、産業医の経験などによって変わりますが、一般的に労働者数に応じて設定されています。
産業医の派遣を希望する場合、自社の目的を把握したうえで適切な依頼先を選ぶことが重要です。
産業医の役割は非常に幅広いですが、産業保健の現場にある課題を理解している「first call」であれば、法令を守り、従業員の健康に繋がる産業医サービスが利用できます。