福利厚生としての健康診断を解説!義務や費用から活用法まで

従業員の健康診断について、「法律で決まっているから仕方なく…」と感じていませんか?

健康診断は単なる義務ではなく、会社の成長につながる大切な「投資」でもあります。

健康診断の制度を正しく理解し、適切に運用することは、法律違反による罰則リスクを回避するだけでなく、多くのメリットをもたらします。従業員の健康を守り、病気の早期発見につなげることは、従業員の安心感や満足度を高めるでしょう。

元気な従業員が増えれば、職場の雰囲気も明るくなり、生産性の向上も期待できます。

さらに、「社員の健康を大切にする会社」というイメージは、優秀な人材の採用や定着にも有利に働くはずです。

この記事では、「健康診断って会社の義務なの?それとも福利厚生?」「費用は誰が負担するの?経費にできる?」「どんな種類の健診を誰に受けさせればいいの?」といった疑問に、分かりやすくお答えします。

法律のルールから、税金の話、そして一歩進んだ活用法まで、担当者として知っておきたいポイントを網羅しました。ぜひ、自社の健康診断制度を見直すきっかけにしてください。

また、健康診断結果の管理でお悩みなら、first callの「健診管理サービス」を導入することで、紙の健診結果をオンライン化してデータ入力の手間を省き、セキュリティが整った環境で産業医による就業判定や健康情報の一元管理が可能になります。

産業医もシステム上で健康診断結果を確認でき、産業医などの産業保健スタッフとの情報連携もスムーズに行えます。

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目次[非表示]

  1. 健康診断は会社の義務?福利厚生?
    1. 知らないと罰則も?法律で定められた実施義務の内容
    2. 義務+αで価値向上、福利厚生として健康診断を行う意味
    3. 健診費用は法定外福利、法定福利との関係性は?
  2. どの健康診断を誰に受けさせる?種類と対象者の正しい知識
    1. 特殊健診が必要な有害業務とは?
    2. パートやアルバイトはどこまで対象?
    3. 福利厚生で差をつける、人間ドックなどオプション検査の導入
  3. 健康診断費用は経費になる?会社負担と福利厚生費の条件
    1. 会社負担が基本、健康診断費用の相場と内訳
    2. 【重要】福利厚生費で経費計上するための3つの必須ルール
  4. 福利厚生としての健康診断のまとめ

健康診断は会社の義務?福利厚生?

健康診断には法律で定められた「義務」の側面と、会社が任意で提供する「福利厚生」の側面がある

「健康診断は義務?福利厚生?」という疑問について、実は、健康診断には法律で定められた「義務」の側面と、会社が任意で提供する「福利厚生」の側面があります。

少し複雑に感じるかもしれませんが、この点をしっかり整理することが大切です。

まずは、法律上のルールから見ていきましょう。

知らないと罰則も?法律で定められた実施義務の内容

結論から言うと、従業員に健康診断を受けさせることは、会社の「義務」です。

労働安全衛生法という法律で明確に決められています。会社の規模に関わらず、対象となる従業員を雇っているすべての会社に、この義務があります。

もし、この義務を怠り、必要な健康診断を実施しなかった場合、どうなるのでしょうか?労働安全衛生法には罰則規定があり、50万円以下の罰金が科される可能性があります。注意ではなく、刑事罰にあたる重いものです。

一方で、従業員側にも、会社が行う健康診断を受ける義務が法律で定められています。ただし、従業員が受診を拒否した場合に、従業員個人への直接的な罰則はありません。

ここで注意したいのは、従業員が受けなかったとしても、健康診断を実施しなかった責任は会社が負うことになる点です。会社としては、健診の機会を設けるだけでなく、対象者がきちんと受診するように働きかける必要があります。

義務+αで価値向上、福利厚生として健康診断を行う意味

義務+αで価値向上、福利厚生として健康診断を行う意味

健康診断を「法律で決まっているからやる」「コストがかかる」とだけ考えるのは、少しもったいないかもしれません。むしろ、従業員の健康への投資であり、会社の成長につながる大切な取り組みと捉えることができます。

定期的な健康診断は、病気の早期発見・早期治療につながり、従業員の健康維持に役立ちます。

従業員が健康であれば、会社を休む人も減り、仕事の効率も上がるでしょう。会社が従業員の安全と健康に配慮する「安全配慮義務」を果たす上でも重要です。

最近は「働きがいのある会社」が注目されています。法律で定められた最低限の健診だけでなく、例えば人間ドックの費用を補助するなど、手厚い健康サポート制度があれば、「社員を大切にする会社」として魅力が高まります。

新しい人材を採用する際や、今いる従業員に長く働いてもらう上でもプラスになるでしょう。

健診費用は法定外福利、法定福利との関係性は?

会社の福利厚生には、法律の観点から大きく2つの種類があります。

健康診断の費用がどちらに分類されるかを知っておくことは、経費処理を考える上で重要です。

特徴
法定福利厚生
法定外福利厚生
法律上の義務
あり
なし(会社の任意)
主な例
社会保険料、労働保険料
住宅手当、通勤手当、食事補助、健康診断費用
会計上の科目
主に「法定福利費」
主に「福利厚生費」
経費にするための条件
法律に基づく
一定の条件あり(全員対象、直接支払、妥当な金額など)

【法定福利厚生】

法律で会社に実施が義務付けられている福利厚生です。必ず導入し、費用を負担しなければなりません。

健康保険や厚生年金などの社会保険料、労災保険や雇用保険などの労働保険料がこれにあたります。

費用は、法律に基づいて会社と従業員で分担したり(労使折半)、会社が全額負担したりします。会計上は「法定福利費」として処理されることが多いです。

【法定外福利厚生】

法律上の義務はなく、会社が任意で設ける福利厚生です。導入するかどうか、どのような内容にするかは会社の自由です。

住宅手当、通勤手当、食事補助、社員旅行、お祝い金や見舞金、そして健康診断に関する費用などが例として挙げられます。

これらの費用は、会計上「福利厚生費」として処理されるのが一般的です。

ここでのポイントは、健康診断の「実施」は法律上の義務ですが、その「費用」の扱いは、原則として「法定外福利厚生」のルールに従うということです。

一部、法定福利の例として定期健診が挙げられることもありますが、費用の扱いは法定外福利の考え方が基本となります。

この「実施は義務、費用は法定外福利扱い」という点が少しややこしいところです。法定福利費(社会保険料など)は、法律通りに負担すれば基本的に会社の経費(損金)になります。

しかし、法定外福利厚生である健康診断費用を、従業員の給料として課税されずに会社の経費(損金)にするためには、後で説明する特定の条件(全員が対象、会社が直接支払い、妥当な金額など)を満たす必要があるのです。

どの健康診断を誰に受けさせる?種類と対象者の正しい知識

法律では、いくつかの種類の健康診断が義務付けられています。どの健診を、どの従業員に受けさせる必要があるのか、正確に知っておくことが大切です。

パートやアルバイトの方の扱いや、法律で定められた以上の健診を行う場合についても見ていきましょう。

種類
条文
対象者
実施時期
雇入時健康診断
安全衛生規則43条
常時使用する労働者
雇入れの際
定期健康診断
安全衛生規則44条
常時使用する労働者
1年以内ごとに1回
特定業務従事者の健康診断
安全衛生規則45条
特定業務従事者
配置替えの際、6月以内ごとに1回
海外派遣労働者の健康診断
安全衛生規則45条の2
海外に6ヶ月以上派遣される労働者
派遣前、帰国後
特殊健康診断
(物質・業務による)
有害業務従事者
法令による

全社員向けの一般健診、定期健診と雇入時健診の違い

会社が行う健康診断の中で、最も対象者が広く、基本となるのが「一般健康診断」です。

これには主に次の2つがあります。

雇入時の健康診断

新しく「常時使用する労働者」を雇い入れる際に実施する義務があります。

タイミングは、雇入れの直前か直後です。入社時の健康状態を把握するための基本的な健診となり、労働安全衛生規則第43条によるものです。

定期健康診断

「常時使用する労働者」に対して、1年に1回、定期的に実施する義務があります。

これが、皆さんがよく知る年に一度の会社の健康診断でしょう。労働安全衛生規則第44条によるものです。

特殊健診が必要な有害業務とは?

一般健康診断に加えて、特定の仕事をしている従業員には、より専門的な健康診断を受けさせる義務があります。

特定業務従事者の健康診断

労働安全衛生規則で定められた特定の業務(例えば、深夜業、とても暑い・寒い場所での作業、強い騒音や振動がある場所での作業、重い物を持つ作業など)に常に従事する人が対象です。

これらの業務に配置転換された時と、その後6ヶ月ごとに1回の頻度で実施する必要があります。労働安全衛生規則第45条によるものです。

特殊健康診断

上記とは別に、法律で定められた特定の有害物質(鉛、有機溶剤、特定の化学物質など)を扱う業務や、特殊な作業(高圧下の作業、放射線業務、粉じんを吸い込む恐れのある作業など)に従事する従業員向けの健康診断です。

対象となる業務や物質ごとに、検査項目や実施頻度、記録の保存期間などが細かく決まっています。

例えば、粉じん作業者向けの「じん肺健診」や、酸などを扱う人向けの「歯科健診」などがあります。

パートやアルバイトはどこまで対象?

健康診断の義務があるのは、「常時使用する労働者」です。

この「常時使用する労働者」には、正社員だけでなく、一定の条件を満たすパートタイマーや契約社員の方も含まれます。

具体的には、以下の両方の条件を満たすパートタイム労働者の方は、原則として「常時使用する労働者」とみなされ、雇入時健康診断と定期健康診断の対象となります。

  • 1週間の決まった労働時間が、同じ職場で同じような仕事をしている正社員などの4分の3以上であること。
  • 雇用契約期間が1年以上であること(または、更新によって1年以上になる予定があること)。

この基準を当てはめるには、一人ひとりの契約内容や実際の労働時間を確認することが必要です。

「アルバイトだから対象外」と決めつけるのは危険です。会社は、パートやアルバイトの方も含め、誰が対象になるのかをきちんと把握し、漏れなく健康診断を実施する体制を整えましょう。

福利厚生で差をつける、人間ドックなどオプション検査の導入

法律で義務付けられている健康診断は、あくまで最低限のラインです。

会社は、法定外福利厚生として、これに加えて、より充実した健康診断プログラムを任意で提供することができます。

その代表例が「人間ドック」です。法定の定期健診よりも検査項目が多く、より詳しく健康状態をチェックできます。

会社が人間ドックの費用を全額または一部補助する制度は、従業員の健康づくりに役立つだけでなく、健康に関心のある優秀な人材を引きつけたり、社員の定着率を高めたりする上で、魅力的なアピールポイントになるでしょう。

他にも、特定のがん検診(胃がん、大腸がん、乳がんなど)や、最近注目されているストレスチェック、骨密度の測定など、様々なオプション検査の費用補助を福利厚生として導入する会社が増えています。

ただし、これらのオプション検査費用を福利厚生費として経費にするためには、後で説明する「全員が対象」「直接支払い」「妥当な金額」という条件を満たす必要があります。

特に、一部の役員だけが受けられるような非常に高額な健診は、福利厚生費とは認められず、給料として課税されるリスクが高いので注意が必要です。

健康診断費用は経費になる?会社負担と福利厚生費の条件

健康診断の実施が法律上の義務であることは分かりましたが、その費用負担や経費の扱いはどうすればよいのでしょうか。

ここでは、誰が費用を負担するのか、一般的な費用はどれくらいか、そして最も重要な「福利厚生費」として経費にするための条件について詳しく見ていきましょう。

会社負担が基本、健康診断費用の相場と内訳

法律で定められた健康診断(定期健診や雇入時健診など)は、会社の義務なので、その費用は原則として会社が負担すべきものとされています。

一般的な定期健康診断の費用は、地域や病院によっても異なりますが、一人あたり5,000円から15,000円程度が目安となるでしょう。健康診断は基本的に健康保険が使えない自由診療のため、費用に幅があります。

会社が負担すべきなのは、あくまで法律で定められた検査項目にかかる費用です。

従業員が自分で希望して追加するオプション検査や、健診の結果、再検査や精密検査が必要になった場合の費用については、会社に法律上の負担義務はありません。従業員の自己負担となりますが、会社が福利厚生として任意で補助することは可能です。

【重要】福利厚生費で経費計上するための3つの必須ルール

福利厚生費で経費計上するための3つの必須ルール

会社が負担した健康診断費用を、従業員への給料ではなく、税金のかからない「福利厚生費」として経費にするためには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。

条件を満たさないと、その費用は従業員への「給与」とみなされ、所得税がかかる可能性があるので注意が必要です。

条件
チェック項目
NG例
重要ポイント
普遍性
全ての対象従業員に機会があるか?
役員だけが対象の健診
全員に公平な機会を提供することが原則
直接支払
会社から病院へ直接支払っているか?
従業員の立替払いを後で精算
現金支給と見なされ給与課税されるリスク回避
相当性
健診費用は常識的な範囲内か?
一部従業員への高額すぎる人間ドック
不相当な利益と見なされ給与課税されるリスク回避

①:対象者を限定せず全従業員が対象であること

福利厚生は、特定の人だけではなく、原則として全従業員に公平に提供される必要があります。

健康診断も、役員や特定の部署の人だけではなく、対象となる資格(例:「常時使用する労働者」)を持つ従業員全員が受けられるようにしなければなりません。

ただし、年齢に応じて検査項目を追加するなど、合理的な範囲での差を設けることは認められる場合があります。しかし、特定の役職者だけに非常に高額なプラン(例:VIP人間ドック)を提供するような場合は、福利厚生とは認められず、給与扱いになる可能性が高いでしょう。

②:企業が医療機関へ直接費用を支払うこと

会社は、健康診断を行った病院やクリニックに対して、費用を直接支払う必要があります。

従業員が一旦立て替えて支払い、後で会社がその分を支払う形は、原則として福利厚生費とは認められません。

この場合、従業員にお金を渡したとみなされ、給与として課税されるリスクが非常に高くなります。

この「直接支払い」ルールは、実務上少し難しい問題があります。従業員は会社が指定した病院以外のかかりつけ医などで健診を受ける自由があるからです。指定外の病院で受けた場合、多くは立て替え払いが発生します。

この場合に福利厚生費として処理するためには、会社が指定外の病院とも直接支払いの契約を結ぶか、あるいは立て替え払いを選んだ場合は福利厚生費(=非課税)扱いにはできないことを従業員にしっかり説明しておく、といった対応が必要になるでしょう。

③:常識的な金額にとどめる

健康診断の費用は、世間一般的に見て、常識的で妥当な範囲内の金額である必要があります。

法律で上限額が決まっているわけではありませんが、一般的な健診費用(前述の5,000円~15,000円程度)から大きく外れる高額な費用や、宿泊付きの豪華な人間ドックなどを一部の従業員だけに提供するような場合は、福利厚生の範囲を超えた利益とみなされ、給与やボーナスとして課税される可能性があります。

福利厚生としての健康診断のまとめ

この記事では、会社の健康診断について、法律上の義務、費用負担、経費にするためのルール、そして福利厚生としての活用法などを解説してきました。

最後に、大切なポイントを振り返りましょう。

  • 法律上の義務を忘れずに:定期健診などの実施は法律で定められた会社の義務です。
  • パート・アルバイトも確認を:健診義務の対象は「常時使用する労働者」です。これには、一定の条件を満たすパートタイム労働者の方も含まれます。
  • 費用負担と税金のルール:法定健診の費用は原則会社負担です。この費用を税金のかからない「福利厚生費」として経費にするには、「全員が対象」「会社から病院へ直接支払い」「常識的な金額」の3つの条件をすべて満たすことが大切です。
  • 一歩進んだ活用も:人間ドックの補助など、法律以上の健康サポートを導入すれば、従業員の満足度や会社のイメージアップにつながります。

自社の状況に合わせて制度を整え、従業員の皆さんにもしっかり周知していくことが重要でしょう。

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遅沢 修平
遅沢 修平
上智大学外国語学部卒業。クラウド型健康管理サービス「first call」の法人営業・マーケティングを担当し、22年6月より産業保健支援事業部マーケティング部長に就任。

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