長時間労働者への面接指導とは?目的や実施する流れを事後措置まで徹底解説
長時間労働によって疲労が蓄積すると、脳血管疾患や心臓疾患などの健康問題が発症するリスクが高まることが報告されています。
2021年度に厚生労働省が公表した『令和3年度「過労死等の労災補償状況」を公表します』によると、業務における過重な負荷によって脳・心臓疾患を発症したとする労働災害補償の支給決定件数は172件です。そのうち時間外労働が100~120時間(1ヶ月間)の件数がもっとも多くなっています。
このような長時間労働による健康問題を予防するために、従業員の勤務状況や健康状態を把握して、医師による面接指導を実施することが定められています。
この記事では、職場の健康経営の促進に取り組む担当者に向けて、長時間労働者への面接指導の義務や目的について解説します。
出典:厚生労働省『過重労働による健康障害を防ぐために』『令和3年度「過労死等の労災補償状況」を公表します』
目次[非表示]
長時間労働者への面接指導とは
事業者は、長時間の時間外労働・休日労働をしている従業員に対して、医師による面接指導を実施する必要があります。
一般的な労働者(裁量労働制・管理監督者を含む)を対象とした面接指導は、以下のように義務づけられています。
▼長時間労働者への面接指導の義務
対象者 |
対象法令 |
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義務 |
月80時間超の時間外労働・休日労働を行い、疲労蓄積があり面接指導を申し出た者 |
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努力義務 |
事業主が自主的に定めた基準に該当する者 |
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事業者は、時間外・休日労働時間が月80時間を超えた従業員に対して、超えた時間に関する情報を通知する必要があります。
従業員からの申し出があった場合には、医師による面接指導を行い、必要に応じて適切な事後措置を実施することが求められます。
また、時間外・休日労働時間が月45時間を超えて、特に健康の配慮が必要と認めた者については、面接指導やそれに準ずる措置を実施することが望ましいとされています。
なお、この80時間以上の原則に該当しないものとしては、高度プロフェッショナル制度を利用している場合などが該当します。
一方で、比較的誤解されることが多いものとして、「管理監督者は面談対象者にはならない」というものがあります。しかし、実際には、管理監督者も80時間以上の時間外労働があった場合、対象者になるため注意が必要です。
まとめると、以下のような形になります。
画像引用元:厚生労働省『長時間労働者への医師による面接について』
長時間労働による健康リスクについては、こちらの記事で解説しています。併せてご覧ください。
出典:厚生労働省『過重労働による健康障害を防ぐために』『医師による長時間労働面接指導実施マニュアル』『長時間労働者への医師による面接について』/厚生労働省 こころの耳『長時間労働者、高ストレス者の面接指導について』/e-Gov法令検索『労働安全衛生法』『労働安全衛生規則』
面接指導の目的
長時間労働者に対する面接指導の目的は、脳・心臓疾患の発症を未然に防ぐことです。
脳・心臓疾患の発症と長時間労働は、医学的知見から関連性が強いことが報告されています。こうした健康問題の発症を防ぐためには、従業員の心身の状況を把握したうえで、適切な指導・措置を行うことが必要です。
医師による面接指導を実施することで、疲労の蓄積度やメンタルヘルス不調などを把握した上、適切な指導を行えるようになります。その後、面接指導を行った医師の意見を聴取することにより、必要に応じて就業上の措置を講じられます。
また、面接指導によって得られた情報を活用して、働きやすい職場環境づくりにつながることも期待されています。
出典:厚生労働省『過重労働による健康障害を防ぐために』/厚生労働省 こころの耳『長時間労働者、高ストレス者の面接指導について』
面接指導を実施する流れ
医師による面接指導は、産業医や従業員と連携して、進める必要があります。
ここでは、長時間労働者への面接指導の流れについて解説します。
①産業医への情報提供
事業者は、長時間労働者の情報を産業医に提供します。
その際、時間外・休日労働が月80時間を超えた従業員の名前や、超えた時間に関する情報も併せて提供する必要があります。
労働時間を正確に把握して、産業医と適切な情報共有を行うためにも、日ごろから従業員の労働日ごとの始業・終業時刻を確認・記録しておくことが重要です。
出典:厚生労働省『過重労働による健康障害を防ぐために』
②従業員への通知・申し出の勧奨
事業者は、面接指導の対象者に対して、速やかに時間外・休日労働の情報を通知する義務があります。また、面接指導を行う医師から対象となる従業員に対して、面接指導の申し出を勧奨します。
その際、面接指導の対象者とならないケースでも、疲労の蓄積や健康の不安がある場合には、医師に相談する機会があることを通知しましょう。そのためには、日ごろから健康相談ができる体制を構築しておくことが重要です。
出典:厚生労働省『過重労働による健康障害を防ぐために』『医師による長時間労働面接指導実施マニュアル』
③面接指導の実施
長時間労働を行った従業員から申し出があった場合には、医師による面接指導を実施します。
面接指導は、原則対面で行うこととされていますが、表情やしぐさを確認できるなどの条件を満たせば、オンラインでの実施も可能です。
産業医は、以下の状況について確認したうえで、疲労蓄積状況を評価して、その結果に基づいた指導を実施します。
- 勤務の状況
- 疲労の蓄積状況
- メンタルヘルスの状況など
出典:厚生労働省『過重労働による健康障害を防ぐために』『医師による長時間労働面接指導実施マニュアル』
④医師からの意見聴取
事業者は、面接指導を実施した従業員の健康保持のために必要な措置について、医師の意見を聴取する必要があります。
また、企業の人事担当者は、産業医や職場の上司と連携して、具体的な事後措置について対応を協議することが求められます。
出典:厚生労働省『過重労働による健康障害を防ぐために』『医師による長時間労働面接指導実施マニュアル』
⑤事後措置の実施
面接指導を実施した医師の意見を勘案したうえで、必要に応じて適切な事後措置を実施します。
▼事後措置の具体例
- 就業場所の変更
- 作業内容の転換
- 労働時間の短縮
- 衛生委員会への報告 など
なお、健康状態に問題が見られる従業員には、就業上の制限に加えて、医療機関への受診を勧めることも重要です。
出典:厚生労働省『過重労働による健康障害を防ぐために』『医師による長時間労働面接指導実施マニュアル』
まとめ
この記事では、長時間労働者への面接指導について以下の内容を解説しました。
- 長時間労働者への面接指導の概要
- 面接指導の目的
- 面接指導を実施する流れ
長時間労働者への面接指導は、業務の負荷による脳・心臓疾患といった健康問題の発症を未然に防ぐことが目的です。
事業者は、月80時間を超える時間外労働・休日労働を行った従業員から申し出があった場合は、医師による面接指導を実施する義務があります。
面接指導を促すためには、日ごろから従業員が申し出しやすい環境づくりや、健康相談ができる体制を整えておくことが重要です。
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