
社員がうつ病で仕事に悩んだら?サインや症状、初期対応から復職支援まで解説
企業の成長を支えているのは、そこで働く社員一人ひとりの力です。
そして、その力を最大限に発揮するためには、心身の健康が欠かせません。現代はストレスの多い社会。誰でも、いつでもメンタルヘルスの不調を抱える可能性がある時代といえるでしょう。
中でも「うつ病」は、本人の生活はもちろん、仕事のパフォーマンスにも大きな影響を与えてしまう病気です。
もし、あなたの職場の社員がうつ病かもしれない…と感じたとき、企業の担当者や上司としてどのように対応すればよいのでしょうか?
この記事では、うつ病のサインにいち早く気づき、適切に支援するための具体的な方法を解説します。
また、優秀な人が辞めてしまう前のメンタルヘルス対策は、産業医との連携が効果的です。産業医の役割は非常に幅広いですが、産業保健の現場にある課題を理解している「first call」であれば、法令を守り、従業員のメンタルケアに繋がる産業医サービスが利用できます。
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うつ病の可能性がある社員の仕事中のサインと症状
うつ病のサインは、一度きりの出来事ではなく、継続的な変化として現れることが多くあります。
「いつもと違うな」という周囲の気づきが、早期発見のとても大切な手がかりになるのです。
気分の落ち込みや食欲の不振といった初期症状は、見過ごされやすいかもしれません。
これから紹介するサインはうつ病の確定診断ではありませんが、本人が助けを求めているシグナルである可能性を考えて、注意深く見守る必要があります。
- 勤怠の乱れ(遅刻・欠勤の増加)
- 業務パフォーマンスの低下(ミス増加・報告遅延)
- コミュニケーションの変化(会話回避・孤立)
勤怠の乱れ(遅刻・欠勤の増加)
誰の目にも分かりやすいサインの一つが、勤怠記録の変化でしょう。
これまで時間を守っていた社員の遅刻や早退、急な欠勤が目立つようになったら、少し注意が必要かもしれません。
勤怠の乱れは規律の問題だけではなく、うつ病の深刻な症状の現れであるケースが少なくないのです。
うつ病になると、不眠などで朝起き上がることがとても難しくなってしまうことがあります。
身体が重く感じられ、出社する気力が湧かない状態なのかもしれません。
最初は数分の遅刻だったものが、だんだんと時間が長くなっていくのは、心身の不調が悪化しているサインと捉えるべきでしょう。
症状が進むと、欠勤の連絡をすることさえ難しくなり、無断欠勤に至る場合もあります。
業務パフォーマンスの低下(ミス増加・報告遅延)
うつ病は気分の落ち込みだけではなく、考える力や集中力、判断力といった部分にも影響を及ぼす疾患です。
その結果、仕事のパフォーマンスに変化が現れてきます。
これまで頼りにしていた社員が、急にケアレスミスを繰り返すようになったら、見逃せないサインでしょう。
書類の誤字脱字や計算間違い、提出期限を忘れるといった、以前は考えられなかったミスが目立つようになります。
短い文章を読んでも内容が頭に入らず、業務の効率が落ちてしまうこともあります。
また、物事を決める力も低下しがちです。判断を先延ばしにしたり、些細なことでも他者に決断を委ねたりすることが増えるかもしれません。
パフォーマンスの低下を、「やる気がない」と評価してはいけません。本人はミスを繰り返す自分を責めていることが多いのです。
プレッシャーをかけることは、症状をさらに悪化させてしまう可能性があります。
コミュニケーションの変化(会話回避・孤立)
職場での人との関わり方の変化も、うつ病のサインの一つです。
以前は明るく話していた社員が、次第に同僚との会話を避け、一人でいることが多くなるような行動が見られるケースです。
人と話すこと自体に大きなエネルギーを使い、ひどい疲れを感じてしまうのです。
また、何事にも興味を持てなくなるため、雑談を楽しむ気力が失われることもあるでしょう。
表情が硬くなったり、笑顔が減ったりすることも多く見られます。
こうした態度は周囲から誤解されやすいのですが、本人は人との関わりを苦痛に感じている状態なのかもしれません。
本人のペースを尊重しつつも、完全に孤立させないような周囲の温かい関わりが、大切な支援になります。
うつ病が疑われる社員の仕事への初期対応と面談
社員にうつ病のサインが見られたとき、企業の最初の対応がその後の回復を左右します。
タイミングを逃さず丁寧なアプローチをすることで、本人が安心するだけでなく職場の混乱も防げるでしょう。
ここでの目標は、信頼関係を大切にした対話のきっかけを作ることです。
うつ病が疑われる社員の仕事への初期対応と面談について、詳しく解説していきます。
- うつ病が疑われる社員の仕事への初期対応と面談
- 専門医の受診勧奨と診断書の提出依頼
- 話を聴くことに徹する面談の基本姿勢
まずは産業医や管理職から本人へ声かけ
最初のステップは、本人への声かけです。
これは日々の様子をよく知る直属の上司か、専門的な視点を持つ産業医が担うのがよいでしょう。
上司として部下の状況を把握するためにも、配慮ある声かけが求められます。
声をかける際は、プライバシーを守るため、他の社員がいない会議室のような場所で1対1の時間を作ることが大切です。
「うつ病じゃないか?」のように診断するような言葉や、「元気がないね」といった主観的な表現は避けましょう。
代わりに、客観的な事実を基に「私は」を主語にして伝える方法が有効です。
「(私は)最近、遅刻が増えていることや、仕事中の発言が少なくなっていることを心配しています。何か困っていることはありませんか?」といった形です。
専門医の受診勧奨と診断書の提出依頼
面談で本人が心身の不調を打ち明けてくれた場合、次のステップは専門の医療機関への受診を勧めることです。
適切な治療を受けるためにも、医師による診断が不可欠です。
「専門家の助けを借りることで、今の辛い状況が良くなる可能性がある」「会社としても、あなたの健康状態を正しく理解して、適切な支援をしたい」というように、受診が本人と会社の両方にとってプラスになることを伝えます。
精神科や心療内科といった具体的な病院を挙げ、もし会社に相談窓口があれば、その情報も提供しましょう。
休職が必要になる可能性があれば、医師による診断書の提出をお願いします。
診断書は、本人が安心して療養に専念するため、また企業がルールに基づいて休職などの手続きを進めるための大切な書類となるのです。
話を聴くことに徹する面談の基本姿勢
うつ病が疑われる社員との面談で、担当者の重要な役割は問題を解決することではなく、まず「話を聴く」ことでしょう。
本人が話し始めたら、途中で話を遮ったり、自分の意見を言ったりせず、まずは最後まで耳を傾けることに集中します。
「聴く姿勢」が、本人に安心感を与え、心のケアにもつながるのです。
頷きや相槌を打ちながら、「そうだったのですね」と共感を示すことで、信頼関係が深まります。
この段階で絶対に避けたいのが、安易な励ましです。
「頑張れ」「気の持ちよう」といった言葉は、うつ病で苦しむ本人をさらに追い詰めてしまうことになりかねません。
病気の治療は医師の専門領域です。管理職の役割は、本人が安心して話せる環境を作り、専門的な支援へとつなぐことなのです。
うつ病で社員が仕事を休職する時の手続き
社員がうつ病と診断され、療養のために仕事を休む必要が出てきた場合、企業は分かりやすい手続きで支援する体制を整えなければなりません。
流れが分かりやすいことで、本人の不安を和らげ、スムーズな療養生活に移行できます。
ここでは、うつ病で社員が仕事を休職する時の手続きについて、詳しく解説していきます。
- 就業規則に基づく休職手続きの案内
- 傷病手当金など公的支援制度の情報提供
- 休職中の連絡体制とプライバシーへの配慮
- 休職から復職までの主要な役割と責任
就業規則に基づく休職手続きの案内
休職に関する取り扱いは、会社のルールである就業規則が基本になります。
休職は法律で一律に決められた制度ではなく、それぞれの企業が定めているものです。まずは自社の就業規則で休職についてどのように定められているかを確認しましょう。
就業規則には、休職できる期間やその間の給与の有無、社会保険料の扱いなどが書かれています。
担当者はこれらの規則を本人に説明し、今後の流れを明確に示します。
口頭での説明だけでなく、「休職命令書」のような書面を渡すことが、後のトラブルを防ぐ上で大切です。
傷病手当金など公的支援制度の情報提供
休職中は無給になることが多いため、社員の経済的な不安を和らげるための情報提供は、企業の大切な役割です。
そのなかでも、健康保険から支給される「傷病手当金」の制度は特に重要です。
傷病手当金は、いくつかの条件を満たせば、業務外の病気やケガで休んだ期間の生活を保障してくれる制度です。
2022年からは制度が改正され、途中で一時的に復帰した期間があっても、休み始めた日から通算で1年6ヶ月分支給されるようになり、より柔軟に活用できるようになりました。
企業(事業者)は、申請に必要な書類を用意し、手続きをサポートしましょう。
うつ病で考える力が低下している本人にとって、複雑な手続きは大きな負担です。
会社が積極的にサポートすることで、本人は安心して治療に専念できるでしょう。
休職中の連絡体制とプライバシーへの配慮
休職中の社員とのコミュニケーションには、とても繊細な配慮が求められます。
連絡が多すぎるとプレッシャーになりますし、全くないと孤立感を抱かせてしまう可能性があるからです。
一番良い方法は、休職に入る前に、本人と連絡のルールを決めておくことです。
- 連絡窓口を一人に決める:人事部の担当者や直属の上司など、連絡する人を一人に絞ります
- 連絡の頻度を決める:本人の負担にならないよう、月1回程度を目安にします
- 連絡方法を確認する:電話は負担が大きい場合もあるため、メールなど本人が応答しやすい方法を選びましょう
また、うつ病という診断名などの健康情報は、とてもデリケートな個人情報です。
本人の同意なく職場の同僚などに病名を伝えることは絶対にやめましょう。
職場への説明は、「体調不良により当面の間休養します」のように、本人のプライバシーを最大限守る必要があります。
休職から復職までの主要な役割と責任
うつ病になってしまった社員の休職から復職まで、各フェーズでの担当者別の役割を下記にまとめました。
フェーズ | 社員 | 直属の上司 | 人事・労務部門 | 産業医 |
---|---|---|---|---|
不調の察知・初期面談 | 自身の体調の変化を認識し、相談する | 客観的事実に基づき声かけ、傾聴に徹する | 面談への同席(必要に応じて)、制度説明の準備 | 管理職からの相談対応、面談の実施 |
休職の申請・手続き | 医師の診断書を取得・提出、申請書類の記入 | 業務の引き継ぎを調整・支援 | 就業規則に基づき手続き案内、傷病手当金申請支援 | 診断書の内容確認、就業上の意見を述べる |
休職中のケア・連絡 | 治療に専念、合意した頻度で状況報告 | 連絡窓口として、事務的な連絡を行う | 連絡窓口として、社会保険料等の事務連絡 | 必要に応じて、本人や会社からの相談に対応 |
復職の判断・プラン作成 | 主治医から復職許可の診断書を取得 | 復帰後の業務内容や配慮事項を検討 | 復職可否の最終判断、復職支援プランの作成 | 主治医と連携し、復職可否を医学的に判断 |
復職後のフォローアップ | 定期面談への参加、体調の自己管理 | 日常業務における配慮、状況観察と報告 | 定期的なフォローアップ面談の計画・実施 | 定期的なフォローアップ面談、就業制限の見直し |
うつ病の社員の仕事復帰(復職)を支援するポイント
うつ病からの復職は、職場に戻ることだけがゴールではありません。
再発を予防し、安定して働き続けるための「準備期間」と考えることが大切です。
ここでは、うつ病の社員の仕事復帰(復職)を支援するポイントについて、詳しく解説していきます。
- 主治医と産業医による復職可能の判断
- 試し出勤やリワークプログラムの活用
- 復帰後の業務内容の調整とフォローアップ面談
主治医と産業医による復職可能の判断
復職に向けてまず必要なのは、本人から「復職したい」という意思が示され、それを裏付ける主治医(治療を担当する医師)の診断書が提出されることです。
しかし、企業は主治医の診断書だけで復職を決めるべきではありません。ここで大切な役割を果たすのが産業医です。
主治医は日常生活での回復を判断しますが、産業医は職場の具体的な仕事内容を理解した上で、「その業務をこなせるか」という視点で本人の状態を評価するのです。
産業医は復職前の面談で、生活リズムや通勤への体力、業務に必要な集中力が戻っているかなどを具体的に確認します。
産業医の選任にお悩みの際は、first callの産業医サービスがおすすめです。ご要望に合わせた産業医をご紹介し、法令に沿った業務実施のサポートが可能です。
試し出勤やリワークプログラムの活用
長い休職期間の後、いきなりフルタイムで働くのは本人にとって大きな不安や負担が伴います。
そこで、本格的な復帰に向けた助走期間を設けることが、再発を予防する上でとても有効です。そのための方法が「試し出勤制度」や「リワークプログラム」となります。
試し出勤制度は、本格的な復職の前に、短い時間の勤務や軽い業務から始め、段階的に仕事の負荷を増やしていく制度です。
本人の体調に合わせてペースを調整できるのがメリットです。
リワークプログラムは、医療機関や就労移行支援事業所、リワークセンターなどが提供する、より専門的な復職支援プログラムです。
決まった時間に施設へ通い、実際の業務に近いトレーニングや、ストレスへの対処法を学ぶ心理教育、他の参加者とのグループワークなどを通じて、復職への準備を整えていきます。
安定した就労を継続するためのスキルを学ぶ良い機会となるでしょう。
復帰後の業務内容の調整とフォローアップ面談
無事に復職日を迎えた後も、支援は続きます。ここからが再発を予防するための本番といえるでしょう。
復職してすぐは、本人が無理をしないように、業務内容や労働時間に配慮することが一般的です。
産業医の意見を基に、業務量を減らしたり、残業を禁止したりといった具体的な調整を行います。
休職の原因が職場の環境にあった場合は、配置転換を検討することも必要かもしれません。
そのほかにも大切なのが、定期的なフォローアップ面談です。
復職後、産業医や上司が本人と定期的に面談し、体調の変化や仕事への適応具合、困っていることなどをヒアリングします。
頻度は月1回が基本ですが、状況が安定すれば少しずつ間隔を空けていくとよいでしょう。
うつ病の社員の仕事に関するよくある質問
うつ病の社員への対応には、法律の知識やデリケートな判断が求められるため、多くの担当者が疑問や不安を感じるかもしれません。
ここでは、よくある質問について解説していきます。
- うつ病を理由に社員を解雇できますか?
- 業務が原因のうつ病は労災認定されますか?
- 診断書の提出を社員が拒否した場合どうしますか?
うつ病を理由に社員を解雇できますか?
「うつ病だから」という理由だけで社員を解雇することは、基本的にはできません。
日本の雇用契約法では、解雇が認められるためのハードルはとても高いのです。
うつ病であっても、業務をこなす能力がある場合や、会社が配慮すれば働き続けられる場合には、正当な解雇理由とは認められません。
また、仕事が原因でうつ病になった場合(労災認定された場合)は、療養のために休んでいる期間とその後の30日間は解雇が法律で禁止されています。
解雇が法的に有効となる可能性があるのは、就業規則で定められた休職期間をすべて使い切っても回復せず、医師が「働くことができない状態」と判断した場合などに限られます。
この場合も「解雇」ではなく、「休職期間満了による自然退職」として扱われるのが一般的です。
業務が原因のうつ病は労災認定されますか?
はい、仕事が原因で発症したうつ病は、労災(労働者災害補償保険)の対象となる可能性があります。
労災として認定されるには、主に以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
- うつ病など、対象となる精神障害を発症していること
- 発症前の約6ヶ月間に、業務による強い心理的な負荷(ストレス)があったと認められること
- 業務以外の出来事(私生活の問題など)が主な原因ではないこと
「強い心理的負荷」の例としては、極端な長時間労働やひどいハラスメントなどが挙げられます。
2023年9月にはこの認定基準が改正され、顧客からの著しい迷惑行為(いわゆるカスタマーハラスメント)なども、強い心理的負荷としてより評価されるようになりました。
診断書の提出を社員が拒否した場合どうしますか?
社員が診断書の提出を拒否する状況では、慎重な対応が求められます。
会社が社員の健康状態を把握するために診断書の提出を求めること自体は、正当な業務命令といえます。しかし、一方的に強要するのは良い方法ではありません。
まずは、なぜ提出を拒むのか、その理由を丁寧に聞くことから始めましょう。
経済的な理由であれば会社が費用を負担する、プライバシーが心配なら情報は厳格に管理することを伝える、といった配慮が考えられます。
理由を聞いた上で、なぜ診断書が必要なのか(適切な配慮をするため、休職手続きのため、など)を説明します。
それでも本人が合理的な理由なく拒み続ける場合は、就業規則違反にあたる可能性を伝え、段階的に対応を検討することになるでしょう。
【まとめ】うつ病の社員への適切な仕事の対応が本人と職場を守る
社員がうつ病に直面したとき、企業の対応はその社員だけではなく、職場全体の健全性にも影響します。
適切な対応とは、単に優しく接することだけではなく、知識に基づいた支援体制を整え、実行することなのです。
うつ病は特別な病気ではありません。誰もがかかる可能性のある疾患です。
だからこそ、いざという時に企業が本人と職場の双方を守るための指針を持つことが、強く求められているのです。
もし社員の健康リスクに対する課題解決に悩んでいるのであれば、産業医の紹介や、全国どこでも面談予約・実施・意見書管理までシステム上で実施可能で、オンライン産業医面談が利用できる「first call」の活用が効果的です。