
ポピュレーションアプローチとは?健康経営でのメリットや進め方を解説
近年、「健康経営」という言葉を耳にする機会が増えていませんか?
これは、従業員の健康を企業の「大切な資本」と捉え、未来への投資として戦略的に取り組みを推進する考え方のことです。
健康経営を知っておくことによるメリットは大きく、企業の持続的な成長に不可欠な要素として注目されています。
ただ、その重要性はわかっていても、「具体的に何から始めたらいいのだろう?」と感じている経営者や人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
この健康経営を成功させるための、効果的な手法のひとつが「ポピュレーションアプローチ」です。
この記事では、ポピュレーションアプローチがどのようなもので、なぜ企業にとって大きなメリットがあるのかを詳しく解説します。
また、優秀な人が辞めてしまう前のメンタルヘルス対策は、産業医との連携が効果的です。産業医の役割は非常に幅広いですが、産業保健の現場にある課題を理解している「first call」であれば、法令を守り、従業員のメンタルケアに繋がる産業医サービスが利用できます。
目次[非表示]
ポピュレーションアプローチとは?ハイリスクアプローチとの違い
健康経営を実践する上で基本となる考え方には、大きく分けて2つのアプローチがあります。
「ポピュレーションアプローチ」と「ハイリスクアプローチ」です。
この2つの手法は対象とする人や目的が違うため、それぞれの特徴と違いを理解し、うまく使い分けることが重要です。
ここでは、ポピュレーションアプローチについて解説しつつ、ハイリスクアプローチとの違いも紹介します。
- 全従業員を対象に集団全体の健康リスクを下げる手法
- 特定のハイリスクな個人を対象にするアプローチとの違い
- 両アプローチの併用で企業の健康課題解決に効果を発揮
全従業員を対象に集団全体の健康リスクを下げる手法
ポピュレーションアプローチとは、簡単に言うと「従業員みんなで健康になろう!」という考え方です。
健康診断の結果が良い人や悪い人に関係なく、従業員全体を対象にするのが特徴です。
職場環境の改善や、健康に関する情報をみんなに伝えたり、企業全体でイベントを開催したりすることで、集団全体の健康リスクを低減し、レベルを底上げする目的のアプローチです。
たとえ個人の小さな改善でも、全体で取り組めば、将来の疾病の発症リスクを大きく減らす効果が期待できるのです。
疾病を未然に防ぐ「一次予防」の考え方に基づいています。
特定のハイリスクな個人を対象にするアプローチとの違い
一方、ポピュレーションアプローチと、対照的なのが「ハイリスクアプローチ」です。
こちらは、健康診断などで特に健康リスクが高いと判断された個人(ハイリスク者)を見つけ出し、その人たちに集中的な支援や介入を行う手法を指します。
例えば、産業医や保健師が個別にアドバイスをしたり、専門の病院へ行くよう勧めたりするのがこれにあたります。
すでに健康に課題を抱えている人が、これ以上悪くならないようにするための「二次予防」という位置づけです。
つまり、従業員全体を対象に組織レベルの向上を目指すのがポピュレーションアプローチで、特定の個人を対象に集中的なケアを行うのがハイリスクアプローチ、という違いがあるのです。
両アプローチの併用で企業の健康課題解決に効果を発揮
「では、どちらかを選べばいいの?」と思うかもしれませんが、この2つのアプローチは、両方を組み合わせることで最大の効果を発揮します。
まずポピュレーションアプローチで、健康セミナーなどを通じて、全従業員の健康への関心を高めます。
そうすると、企業全体に「健康って大事だよね」という雰囲気が生まれるでしょう。
その上で、ハイリスクアプローチとして、産業医が個別に指導を行うと、指導される個人も前向きに受け入れやすくなります。
周りの理解も得やすくなるため、より効果的な支援が期待できるのです。
企業の健康経営にポピュレーションアプローチが必要な理由
なぜ今、多くの企業でポピュレーションアプローチが重要視されているのでしょうか?
それは、従業員の健康を守るというだけではなく、企業の生産性の向上や企業価値そのものを高める、経営戦略としての大きな意味を持っているからです。
ここでは、企業にとってポピュレーションアプローチが必要な理由を、詳しく解説していきます。
- 全社的な生産性向上と従業員の健康増進に繋がるメリット
- 多数派の「隠れ不調」を改善し将来の疾病リスクを予防
- 健康経営の取り組みが企業価値として投資家からも評価される
全社的な生産性向上と従業員の健康増進に繋がるメリット
従業員の心身の健康は、企業の生産性と直結しています。
従業員が健康であれば、仕事への集中力やモチベーションも高まり、結果として企業の生産性は向上します。
ポピュレーションアプローチは、この「健康な従業員」を組織全体で増やし、健康増進をはかるための効果的な方法なのです。
ここで知っておきたいのが「プレゼンティーイズム」という言葉。
出社はしているものの、肩こりやメンタルヘルス不調などで、本来の力を発揮できていない状態のことです。
この目に見えにくい生産性の低下は、企業にとって大きな損失といえるでしょう。
ポピュレーションアプローチによる運動習慣の促進や食生活の改善は、このプレゼンティーイズムの改善に直接つながります。
従業員全体の健康レベルが上がることで、組織全体の生産性も向上するという、具体的な経営メリットが期待できるのです。
多数派の「隠れ不調」を改善し将来の疾病リスクを予防
「予防のパラドックス」という考え方があります。
これは、「疾病の発症者の数は、リスクがとても高い少数の人たちからよりも、リスクは低いけれど人数の多い大多数の人たちからの方が多くなる」というものです。
企業に置き換えると、健康診断で要注意とされた「ハイリスクな人」は少数派です。
大多数は、今は健康でも、運動不足や食生活の乱れといった「隠れ不調」を抱えている従業員たちでしょう。
この人たちが、将来疾病になる可能性がある予備軍なのです。
ポピュレーションアプローチは、この大多数の人たちに働きかけ、生活習慣を少しずつ良い方向へ導くことで、将来の疾病リスクを根本から予防することを目指します。
健康経営の取り組みが企業価値として投資家からも評価される
今や健康経営は、社内だけの問題ではありません。
2025年現在、企業の将来性を評価する「ESG投資」の世界では、従業員の健康は「社会」の重要な評価項目とされています。
この分野への注目はますます高まっています。
投資家たちは、従業員の健康に積極的に取り組む企業を、「人を大切にし、長期的に成長できる会社」として高く評価する傾向にあるのです。
経済産業省などが選定する「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」といった制度は、その実現に向けた取り組みの指標となります。
2025年には、第11回となる「健康経営銘柄2025」に29業種53社が選定されました。
また、「健康経営優良法人2025」には、大規模法人部門で3,400法人、中小規模法人部門では前年より約3,000社も多い19,796法人が認定されるなど、年々その数は増加しています。
さらに2025年からは、中小規模法人部門で特に優れた企業を称える「ネクストブライト1000」という新たな枠組みも設けられ、健康経営への関心が一層高まっていることがわかります。
ポピュレーションアプローチの始め方と進め方
ポピュレーションアプローチを成功させるには、思いつきで施策を実施するのではなく、計画的に進めることが必要です。
ここでは、ビジネスの基本である「PDCAサイクル(計画→実行→チェック→改善)」というステップに沿って、具体的な進め方を4つの段階で解説します。
- まずは健康診断データなどで企業の健康課題を把握する
- 次に解決すべき課題の優先順位を決め数値目標を立てる
- 従業員が楽しく参加できるイベントなどの施策を実施する
- 実施後は効果を評価し改善を続けることが重要
まずは健康診断データなどで企業の健康課題を把握する
何事も、まずは現状を把握することから始まります。
健康診断の結果やストレスチェック、残業時間のデータなどを集めて分析し、自社の健康課題がどこにあるのかを客観的に「見える化」しましょう。
2025年度の健康経営優良法人の認定基準では、個人の健康情報(PHR)の活用も注目されています。
大切なのは、これらのデータを組み合わせて見ることです。
例えば、「高血圧の人が多い」というデータと「特定の部署で残業が多い」というデータを掛け合わせると、「長時間労働が血圧に影響しているのかもしれない」という、より深い課題が見えてくる可能性があります。
次に解決すべき課題の優先順位を決め数値目標を立てる
課題がいくつか見つかったら、すべてに一度に取り組むのではなく、優先順位を決めましょう。
従業員への影響が大きく、実現できる可能性の高い課題から手をつけるのが成功のポイントです。
そして、「従業員の運動習慣がある人の割合を1年で10%向上させる」のように、目的を明確にした具体的で測れる数値目標(KPI)を立てます。
目標が明確になることで、やるべきことがはっきりして、後で効果があったかどうかも分かりやすくなるでしょう。
従業員が楽しく参加できるイベントなどの施策を実施する
いよいよ計画を実行に移します。
ここで一番大切なのは、従業員が「やらされている感」なく、楽しみながら参加できる工夫をすることです。
例えば、以下のような施策の実施が考えられます。
- 運動:アプリを使ったチーム対抗のウォーキングイベントの開催
- 食事:社員食堂でヘルシーメニューを提供し、カロリーや栄養などを表示する
- メンタル:ストレス対処法に関するセミナーや、相談しやすい窓口を設ける
- 知識:社内報などで定期的に健康に関する情報を発信する
企業の課題や雰囲気に合わせて、色々な施策を組み合わせてみましょう。
実施後は効果を評価し改善を続けることが重要
施策を実施した後は、必ずその効果を評価し、改善に繋げることが必要です。
計画の時に立てた数値目標が達成できたか、参加した従業員からはどのような声が聞かれたかなどを確認し、成果を把握します。
その結果をもとに「次はこうしてみよう」と改善を加えていきます。
健康経営は一度で終わるものではありません。「計画→実行→評価→改善」のサイクルを地道に回し続けることが、長期的な成功につながるのです。
ポピュレーションアプローチでよくある企業の取り組み事例
ここでは、多くの企業が実施して成果を上げている、代表的な3つの取り組み事例を具体例としてご紹介します。
自社でどのような施策を検討するか考えるときの、具体的な参考になるはずです。
- 事例1:ウォーキングイベントの実施で運動不足を改善
- 事例2:社員食堂の改善で従業員の食生活を支援
- 事例3:産業医と連携したメンタルヘルス対策の実施
事例1:ウォーキングイベントの実施で運動不足を改善
デスクワークやリモートワークが増え、多くの職場で従業員の運動不足が課題となっています。
そこでおすすめなのが、企業全体で取り組む「ウォーキングイベント」という活動です。
ただ歩くだけではなく、スマートフォンのアプリを使ってチームで歩数を競い合ったり、目標を達成したチームに景品を用意したりと、ゲーム感覚で楽しめる工夫が成功のポイント。
例えば、この取り組みでメタボリックシンドロームの該当者が減らすことや、チーム内の会話が増えて職場の一体感も高めるような成果が期待できます。
事例2:社員食堂の改善で従業員の食生活を支援
毎日の食事が健康の基本です。
多くの従業員が利用する社員食堂は、食生活を支援する絶好の場所といえるでしょう。
カロリーや塩分を抑えたヘルシーメニューを用意したり、メニューごとに栄養成分を表示したりすることで、従業員が自然と健康的な食事を選べるようになります。
例えば、主食・主菜・副菜を色分けして表示し、バランスの良い食事を選んだ人にカードを渡す取り組みで、健康的な食事を選ぶ従業員の割合が大幅に向上させる、といった成果が期待できます。
事例3:産業医と連携したメンタルヘルス対策の実施
体の健康と同じくらい、心の健康も大切です。
メンタルヘルスの課題は、個人で抱え込んでしまいがちです。そこで、企業の健康管理の専門家である産業医と連携した対策が効果的です。
全従業員向けのストレス対処法セミナーや、管理職向けの部下の不調に気づくための研修(ラインケア研修)を実施します。
また、ストレスチェックの活用や、気軽に相談できる窓口を社内外に複数用意しておくことも、従業員の安心につながるでしょう。
こうした取り組みは、メンタルヘルス不調による休職や離職を防ぎ、組織全体の生産性を守ることにもなるのです。
産業医の選任にお悩みの際は、first callの産業医サービスがおすすめです。ご要望に合わせた産業医をご紹介し、法令に沿った業務実施のサポートが可能です。
ポピュレーションアプローチを成功させるポイント
ポピュレーションアプローチは、ただ施策を実施するだけではうまくいきません。
組織全体を巻き込み、従業員の行動を変え、その成果をしっかりと評価するという視点が重要です。
ここでは、取り組みを成功させるための3つの大切なポイントを解説します。
- 経営層を巻き込み全社的な取り組みにする
- 健康に関心がない従業員を動かす工夫で参加率を上げる
- 投資対効果を数字で見える化し施策の成果を示す
経営層を巻き込み全社的な取り組みにする
ポピュレーションアプローチが成功するかどうかは、社長や役員といった経営トップがどれだけ本気かにかかっています。
経営トップが自らの言葉で「従業員の健康が第一だ」と伝え、率先して健康イベントに参加する姿を見せることが、何よりのメッセージになるでしょう。
健康経営を一部の部署任せにせず、企業全体の目標として位置づけ、推進することが重要です。
経営層がリーダーシップを発揮することで、初めて組織の文化として根付いていくのです。
健康に関心がない従業員を動かす工夫で参加率を上げる
どんなに良い施策も、参加してもらえなければ意味がありません。
特に、健康にあまり関心がない層にどう参加してもらうかは大きな課題です。
そこで役立つのが、「ナッジ」という考え方。これは、行動経済学の知見を活かして、人が自発的により良い選択をしたくなるように「そっと後押しする」仕掛けのことです。
例えば、「エレベーターの前に階段の消費カロリーを表示する」「チーム対抗戦にして競争心をくすぐる」といった工夫が挙げられます。
こうした小さな仕掛けという方法で、無関心だった人も自然と健康活動に参加したくなるかもしれません。
投資対効果を数字で見える化し施策の成果を示す
健康経営を続けていくためには、「かけた費用に対して、どれだけの効果があったのか」を数字で示すことが大切です。
例えば、「施策の実施後、健康問題による生産性の低下(プレゼンティーイズム)がこれだけ改善し、金額に換算すると〇〇円の損失を防げた」というように、成果を具体的に評価し、見える化します。
経済産業省も、この「健康投資の見える化」を支援する「健康投資管理会計ガイドライン」を公表しています。
客観的なデータで成果を示すことで、経営層の理解も得やすくなり、「健康経営はコストではなく、未来への価値ある投資だ」という認識が社内に広がっていくでしょう。
ポピュレーションアプローチについてのよくある質問
ポピュレーションアプローチの導入を検討する際に、気になる疑問や不安が出てくるかもしれません。
ここでは、よくある質問とその答えをご紹介します。
- ポピュレーションアプローチにデメリットやリスクはある?
- 予算が少なくてもポピュレーションアプローチは実施できる?
ポピュレーションアプローチにデメリットやリスクはある?
はい、いくつか注意すべき点はあります。
例えば、従業員全体を対象にするため、個人一人ひとりにピッタリ合った施策とは言えない可能性があります。
また、もともと健康意識が高い人ばかりが参加してしまい、そうでない人との「健康格差」が拡大してしまうリスクもゼロではありません。
これらのデメリットやリスクを避けるためには、ハイリスクアプローチとの組み合わせが効果的です。
全体への働きかけと同時に、特に支援が必要な人には個別のケアを行うことで、より細かな対策が可能になります。
予算が少なくてもポピュレーションアプローチは実施できる?
はい、もちろん実施できます。
ポピュレーションアプローチは、必ずしも大きな予算が必要なわけではありません。お金をかけずに始められることもたくさんあります。
例えば、以下のような取り組みがあります。
- 朝礼で健康に関する豆知識を共有する
- 社内の掲示板でストレッチの方法を紹介する
- 毎週水曜日は「ノー残業デー」にする
- 始業前にみんなでラジオ体操を実施する
大切なのは、できることからスモールスタートしてみることです。
地域の保健センターなどが提供する無料の資料やセミナーを活用するのも良い方法です。
【まとめ】ポピュレーションアプローチで企業の健康経営を推進する
この記事では、企業の健康経営を成功させるためのポイントである「ポピュレーションアプローチ」について、基本的な考え方から具体的な実施方法まで解説しました。
ポピュレーションアプローチは、一部のハイリスクな人だけではなく、従業員全体を対象にすることで、組織全体の健康レベルを底上げするアプローチです。
これにより、多くの従業員が抱える「隠れた不調」を改善し、将来の疾病リスクを低減する効果が期待できます。
これからの時代、企業の持続的な成長には、従業員一人ひとりの元気と活力が欠かせません。
ポピュレーションアプローチという考え方を導入し、従業員も企業も、もっと健康で、もっと強くなれる組織を目指してみてはいかがでしょうか。
もし社員の健康リスクに対する課題解決に悩んでいるのであれば、産業医の紹介や、全国どこでも面談予約・実施・意見書管理までシステム上で実施可能で、オンライン産業医面談が利用できる「first call」の活用が効果的です。