保健師とは?仕事内容や役割から看護師との違いまでわかりやすく解説
保健師は、病気を予防するための保健指導の国家資格を持った専門家です。
企業での従業員の健康管理はもちろん、行政機関での地域の健康づくり、医療機関での保健指導など、その活躍の場は広がり続けています。
一方で、保健師の具体的な仕事内容や必要な資格、実際の働き方については、まだまだ知られていない部分が多いのが現状です。
企業の人事担当者にとっては健康経営における保健師の役割が、保健師を目指す方にとってはキャリアの可能性が、それぞれ見えづらい状況にあります。
保健師について理解を深めることで、企業では効果的な健康管理体制の構築に、医療機関では病気の予防や保健指導が充実し、行政機関では地域の健康づくりに、それぞれ保健師の専門性を活かすことができます。
また、保健師を目指す方にとっては、様々な分野での活躍を視野に入れたキャリアプランを描けるようになるでしょう。
この記事では、保健師の仕事内容から資格取得方法、活躍できる職場まで、企業の人事担当者と保健師志望の方に向けて、保健師に関する基礎知識を分かりやすく解説していきます。
また、保健師の導入を考えている際は、産業保健の現場にある課題を理解している「first call」であれば、従業員の健康に繋がる保健師の紹介が可能です。
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保健師とは
保健師とは看護師の資格を持つ医療の専門家でありながら、治療ではなく予防に重点を置いている点が特徴です。
2022年の厚生労働省の調査によると、保健師の就業者数は2022年時点でおよそ60,299人となっており、そのうち58,352人が女性となっています。保健師の数は年々増えており、2022年からは約4,704人増加しています。
保健師が注目される背景には、予防医療の重要性が高まっていることがあります。
生活習慣病やメンタルヘルスの問題が増加する中、病気になってからの治療だけでなく、未然に防ぐための取り組みがより重要視されているのです。
企業では、従業員の健康管理を通じて生産性の向上や医療費の削減を目指す「健康経営」の考え方が広がっています。保健師は、この健康経営を実現するための中心的な役割を担っています。
保健師の主な仕事と役割
保健師は企業や学校、さまざまな場所で健康管理の専門家として活躍しています。
病気の予防から健康増進まで、幅広い分野での活動が求められる職種です。
それでは、保健師の具体的な仕事内容と重要な役割について詳しく解説していきましょう。
【保健師の主な仕事と役割】
- 健康管理と保健指導がメイン業務
- 働く人から学生まで幅広い対象をサポート
- 健康相談やメンタルヘルスケアを実施
- 健康診断の実施とフォローアップを担当
- 職場や組織の健康施策を立案
健康管理と保健指導がメイン業務
保健師の中心的な業務は、健康診断後の保健指導と日々の健康管理です。
企業や地域、学校など、様々な現場で健康づくりの専門家として活躍し、予防医療の最前線で重要な役割を果たしています。
例えば、健康診断で血圧が高めと判定された方には、食生活の改善案を提示したり、適度な運動方法をアドバイスしたりします。
このとき重要なのは、相手の生活リズムや仕事内容を考慮した実現可能な提案を行うことです。
働く人から学生まで幅広い対象をサポート
保健師の特徴は、企業の従業員から学生、地域住民まで、幅広い対象者の健康をサポートできることです。
それぞれの環境や年齢に応じた適切な健康支援を行い、誰もが健康で充実した生活を送れるようにサポートしていきます。
例えば、企業ではデスクワークが多い従業員向けの運動指導や、営業職向けの生活リズム改善など、職種に合わせた健康管理を提案します。
さらに、妊婦さんや乳幼児の健康管理、高齢者の介護予防まで、ライフステージに応じた適切なサポートを行うことも保健師の重要な役割です。それぞれの生活環境や健康状態を考慮しながら、無理のない改善プランを提案していきます。
健康相談やメンタルヘルスケアを実施
保健師の重要な業務として、健康相談とメンタルヘルスケアがあります。
2015年12月から従業員50人以上の事業場でストレスチェックが義務化され、心の健康管理の専門家としての役割がより一層重要になっています。
職場での健康相談では、身体の不調から心の悩みまで、幅広い相談に対応します。例えば、睡眠の質が低下している従業員には、生活リズムの改善策を提案したり、必要に応じて専門医の受診を勧めたりします。
最近では、在宅勤務の増加に伴う新たなストレス要因にも注目し、オンラインでの健康相談やセルフケア講座なども実施。時代の変化に応じた支援方法を取り入れています。
健康診断の実施とフォローアップを担当
保健師は、定期健康診断の企画・運営から結果分析、その後のフォローアップまでも一貫して担当する場合があります。
健康診断の実施では、まず受診スケジュールの調整や当日の運営管理を行います。受診率100%を目指して未受診者への声かけも重要な業務です。
結果の分析では、個人の経年変化だけでなく、部署別や年齢層別の傾向も把握します。これにより、職場全体の健康課題が見えてきます。
例えば、特定の部署で血圧が高めの従業員が多い場合、その原因を探り、環境改善につなげていきます。
職場や組織の健康施策を立案
保健師は健康管理だけでなく、組織全体の健康増進に向けた施策の企画立案も担当します。
施策の立案では、例えば健康診断の結果データやストレスチェックの分析から運動不足傾向が強いことが分かれば、通勤時の階段利用促進や昼休みのウォーキングイベントを企画するなど、具体的な改善策を提案します。
また、メンタルヘルス対策として、残業時間の多い部署には業務効率化の提案や、ストレス軽減のための施策を人事部門と協力して進めます。
保健師と看護師の違い
保健師と看護師は似ているようで異なる役割を持つ医療職です。
資格取得の方法から、実際の仕事内容、働き方まで、それぞれの特徴には大きな違いがあります。
ここでは、保健師と看護師の主な違いについて詳しく解説していきます。
【保健師と看護師の違い】
- 看護師は治療、保健師は予防に力を入れる
- 保健師になるには看護師資格も必須
- 保健師は基本的に日勤のみの勤務
- 保健師は組織全体の健康管理を実施
- 職場の選択肢が保健師はより幅広い
看護師は治療、保健師は予防に力を入れる
看護師が病気やケガの治療に重点を置くのに対し、保健師は健康な状態を保つための予防活動が中心となります。
看護師は主に病院やクリニックで、すでに病気になった患者の治療をサポートします。
医師の指示のもと、点滴や投薬、患者の容態管理など、直接的な医療行為を行うのが特徴です。
一方、保健師は病気になる前の段階での予防的なケアを重視します。例えば、健康診断結果に基づく生活習慣の改善指導や、ストレスチェックによるメンタルヘルス対策などを実施します。
さらに、健康教育や啓発活動を通じて、健康意識の向上や病気の予防に取り組む役割が与えられる保健師もいます。
保健師になるには看護師資格も必須
保健師になるには、まず看護師の資格を取得する必要があります。
看護師免許を持っていることが、保健師国家試験の受験資格の前提条件となっているのです。
これには、予防医療を行う上で医療の基礎知識が欠かせないという理由が考えられます。
保健師は基本的に日勤のみの勤務
保健師は基本的に日勤のみの勤務になります。
看護師が夜勤やシフト勤務が一般的なのに対し、保健師は主に日中の勤務となり、ワークライフバランスを取りやすい職種として注目されています。
例えば、企業で常勤として働く産業保健師の場合、従業員の勤務時間に合わせた勤務となります。通常は朝9時から夕方5時頃までの勤務が一般的で、深夜勤務はありません。
教育機関で働く保健師も、学校の授業時間に合わせた勤務となります。長期休暇など、教職員に準じた休暇制度を利用できる場合も多くあります。
医療機関の保健師も、健診センターなどで働く場合は日勤が中心です。病院で勤務する場合でも、保健指導や健康相談が主な業務となるため、基本的に日勤での勤務となります。
ただし、看護師業務を兼務する場合には、残業や夜間帯の勤務が発生する可能性があります。
保健師は組織全体の健康管理を実施
保健師は、個人だけでなく組織全体の健康状態を把握し、予防的な対策を立案・実施する場合があります。
看護師が個々の患者の治療に専念するのに対し、保健師は組織や集団の健康課題に取り組む点が大きく異なります。
健康経営の考え方が広がっていることもあり、企業の生産性向上や医療費削減のためには、従業員全体の健康レベルを上げることが不可欠だと考えられているのです。
職場の選択肢が保健師はより幅広い
看護師が主に医療機関での勤務が中心になるのに対し、保健師は企業や行政機関、教育機関など、より多様な場所で専門性を活かすことができます。
例えば、保健師として最初は行政機関で経験を積み、その後大手企業の産業保健師として転職、さらに専門性を高めるため産業カウンセラーの資格も取得し、従業員のメンタルヘルスケア専門の保健師として活躍する、といったようにキャリアの過程で様々な分野にチャレンジできる点も保健師の魅力です。
保健師が活躍する職場
保健師の活躍の場は、企業から医療機関、教育機関まで様々です。
それぞれの職場によって求められる役割や業務内容は異なりますが、いずれも予防医療の専門家として重要な存在となっています。
ここでは、保健師が活躍できる主な職場について詳しく解説していきます。
【保健師が活躍する職場】
- 企業で産業保健師として働く
- 保健所で地域の健康管理を担当
- 保健センターで住民の健康づくりを支援
- 学校で生徒の心身の健康をケア
- 地域包括支援センターで高齢者を支援
企業で産業保健師として働く
産業保健師は、企業で働く従業員の健康管理を担う専門職です。
産業保健師は企業によって役割が変わりますが、定期健康診断の企画・運営から結果分析、事後フォローまでを一貫して担当する場合があります。
健診結果に基づき、生活習慣病予防の保健指導や、必要に応じた専門医への受診勧奨なども行います。
また、メンタルヘルス対策として、ストレスチェックの実施や結果分析、高ストレス者への面談対応も業務として含まれることがあります。
休職者の職場復帰支援では、産業医や人事部門と連携しながら、段階的な復職プログラムを作成します。
保健所で地域の健康管理を担当
保健所の保健師は、都道府県や政令指定都市、中核市などの行政機関で働く公務員です。
難病患者や障がい者への療養支援、感染症や依存症に関する相談支援など、専門性の高い業務を担当します。例えば、難病患者の在宅療養に関する相談や、感染症発生時の調査・対策立案などを行います。
また、市区町村の保健師への技術支援や情報提供を行う場合もあります。地域の健康課題について調査・研究を実施し、その結果をもとに事業を立案・推進していきます。
保健センターで住民の健康づくりを支援
保健センターは市区町村が設置する施設で、保健師は住民に身近な健康づくりのサポートを行います。
保健センターでは、乳幼児から高齢者まで、あらゆる世代の住民の健康づくりを支援しています。特に母子保健分野では、母子健康手帳の交付や両親学級の開催、乳幼児健診の実施など、重要な役割を持っています。
各種健診の実施も主要な業務です。乳幼児健診、3歳児健診、がん検診など、それぞれの年齢や対象に応じた健診を企画・運営します。
健診結果に基づいて、必要な保健指導や医療機関への受診勧奨も行います。
学校で生徒の心身の健康をケア
学校保健師は、大学や専門学校、私立の小中高校で生徒や教職員の健康管理を担当します。
保健室での応急処置や体調不良者への対応は基本的な業務ですが、それ以上に予防的な健康管理が重要な役割となっています。
定期健康診断の企画・運営や、その結果に基づく保健指導を実施します。
また、保健だよりの発行や講習会の開催を通じて、生徒たちが自分の健康を自己管理できるよう啓発活動を行います。感染症予防や生活習慣の改善など、年齢に応じた健康教育も行います。
地域包括支援センターで高齢者を支援
地域包括支援センターは、高齢者の総合相談窓口として設置された施設です。
保健師は社会福祉士や主任ケアマネジャーとチームを組み、医療・保健の専門家として高齢者とその家族の支援を行っています。
例えば、高齢者の健康状態を把握したうえで、生活習慣の改善提案、介護予防に関する助言などを行います。
また、認知症の早期発見や予防にも力を入れています。認知症予防教室の企画・運営や、認知症が疑われる高齢者への適切な医療機関の紹介などを行う場合もあります。
保健師になるための方法
保健師になるためには、まず看護師の資格を取得し、その上で保健師の国家試験に合格する必要があります。
資格取得までのルートは複数あり、自分に合った方法を選択できます。
それでは、保健師になるための具体的な方法について詳しく解説していきます。
【保健師になるための方法】
- 看護師資格の取得が最初のステップ
- 実務経験を活かして資格取得も可能
- 直近の国家試験合格率は約95%
看護師資格の取得が最初のステップ
保健師を目指すには、まず看護師の資格を取得しなければいけません。
保健師国家試験の受験資格を得るには看護師免許が必要で、これは法律で定められています。
看護師資格を取得するには、看護系大学や看護専門学校などで3~4年間学び、看護師国家試験に合格する必要があります。
なお、看護師資格を取得した後に保健師を目指す場合は、保健師養成課程のある教育機関で学ぶ必要があります。
または、4年制大学の看護学部で保健師課程を選択し、看護師と保健師の資格を同時に目指すことも可能です。
実務経験を活かして資格取得も可能
すでに看護師として働いている方も、保健師を目指すことができます。
看護師として臨床経験を積んでから保健師を目指すメリットは、実践的な医療知識を持っていることです。病院での経験は、予防医療や保健指導を行う際に役立ちます。
看護師として働きながら保健師を目指す場合は、保健師養成課程のある教育機関に進学します。看護系大学の編入制度を利用したり、大学院で保健師の専門課程を学んだりすることも可能です。
ただし、働きながら学ぶ場合は時間の確保や学費など、考えなければいけない課題もあります。自身の状況に合わせて、無理のない計画を立てることが大切です。
直近の国家試験合格率は約95%
厚生労働省が発表している合格者数によると、2024年2月に実施された第110回保健師国家試験の合格率は95.7%でした。
特に新卒者の合格率は97.7%と高く、しっかりと準備すれば十分に合格が望める試験といえます。
試験は「公衆衛生看護学、疫学、保健統計学及び保健医療福祉行政論」が試験科目として実施されます。
試験の構成は、一般問題75問と状況設定問題35問の全110問です。合格基準は毎年一定で、正答率60%以上が求められます。
合格基準が60%以上と定められていることから、基礎的な学習を着実に積み重ねることで合格圏内に達することができます。
保健師のやりがいと魅力
保健師は、病気を予防するための保健指導の専門家として、様々な場面で活躍できる職種です。
特に近年は企業での健康経営の推進役として注目を集めており、やりがいと魅力にあふれた仕事となっています。
それでは、保健師の具体的な魅力について詳しく解説していきます。
【保健師のやりがいと魅力】
- 健康経営の推進に貢献できる
- 病気を予防するための保健指導の専門家として成長できる
- ワークライフバランスが整った環境で働くことができる
- 幅広い分野でキャリアアップが可能
- 安定した職場で長く活躍できる
健康経営の推進に貢献できる
保健師は、企業の経営戦略の一つである「健康経営」において中核を担う専門職として注目されています。
単なる健康管理だけでなく、企業価値の向上や組織の活性化にも直接的に関われることが、大きなやりがいとなっています。
健康経営銘柄やホワイト500など、企業の健康経営度を評価する制度が浸透し、保健師の専門性がより重要視されているのです。
病気を予防するための保健指導の専門家として成長できる
予防医療の専門家として継続的に成長できる点も、保健師の魅力のひとつです。
病気の治療ではなく予防に重点を置いた保健活動を通じて、専門性を高めながらキャリアを築けます。
保健師は、健康診断の結果分析や保健指導、メンタルヘルスケアなど、予防に重点を置いた業務を通じて専門性を磨くことができます。
また、職場の健康課題に応じて、産業医と連携しながら具体的な改善策を考え、実行する経験も積めます。
ワークライフバランスが整った環境で働くことができる
保健師は比較的安定した勤務形態で働くことができます。
基本的に日勤のみの勤務で看護師のような夜勤がないため、仕事と私生活のバランスを取りやすい環境で働くことができます。
企業の産業保健師の場合、従業員の勤務時間に合わせた勤務となるため、通常は平日の日勤のみです。
土日祝日は基本的に休みとなり、年末年始や夏季休暇なども取得しやすい環境が整っています。
また、保健師は計画的に業務を進められることも特徴です。緊急対応が必要なケースは看護師と比べて少なく、自分のペースで仕事を組み立てやすいというメリットがあります。
幅広い分野でキャリアアップが可能
保健師は、企業、行政機関、医療機関、教育機関など、様々な分野で経験を積むことができます。
それぞれの分野で専門性を高めながら、自分の適性に合った場所で長く活躍できることが魅力です。
例えば、企業の産業保健師として働く場合、従業員の健康管理やメンタルヘルスケアのスキルを着実に磨いていけます。経験を積むことで、より規模の大きな企業で活躍することもできます。
また、医療機関では健診センターでの保健指導や、地域連携室での業務を通じて、予防医療の専門性を高めることも可能です。
安定した職場で長く活躍できる
保健師は、安定した環境で長期的なキャリアを築くことができます。
特に行政機関や大手企業では、福利厚生が充実し、定年まで働き続けられる職場が多いことが特徴です。
例えば、行政機関では公務員として働くため、異動はあるものの、安定した雇用環境が整っています。また、経験年数に応じた給与体系も明確で、長期的なキャリアプランを立てやすい環境です。
保健師のまとめ
今回は、保健師という職種について、仕事内容から必要な資格、活躍できる職場まで、詳しく見てきました。
保健師は、病気を予防するための保健指導の専門家として、企業はもちろん、行政機関や医療機関など、様々な場所で重要な役割を担っています。
保健師の仕事は多岐にわたり、企業では従業員の健康管理やメンタルヘルスケア、行政機関では地域の健康づくり、医療機関では健診や保健指導など、それぞれの場所で予防医療の専門性を活かした業務を行います。
保健師は、健康づくりを支える専門職として、これからも社会の様々な場面で活躍するでしょう。その専門性を活かせる場所は、今後さらに広がっていくかもしれません。
また、保健師の導入を考えている際は、産業保健の現場にある課題を理解している「first call」であれば、従業員の健康に繋がる保健師の紹介が可能です。