健康診断結果が届いたらどうすべき?正しい取り扱いや保管方法、情報漏えいのリスクも解説
『労働安全衛生法』第66条では、事業者は従業員に対して医師による健康診断を実施することが定められています。
健康診断の結果が届いたとき、「どのように取り扱えばよいか分からない」「保管しておく必要があるのか分からない」と悩む担当者の方もいるのではないでしょうか。
この記事では、事業場における健康診断結果の取り扱いや保管期間、保管するうえでの3つのポイントについて解説します。
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健康診断結果の適切な取り扱い
従業員の健康診断結果は、法令に基づいて適切に管理する必要があります。
2019年4月から順次施行されている働き方改革関連法のうち、改正後の『労働安全衛生法』第104条では、従業員の心身の状態に関する情報の取り扱いについて、次のように定めています。
▼労働安全衛生法第104条
2.事業者は、労働者の心身の状態に関する情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならない
引用元:e-GOV法令検索『労働安全衛生法』
健康診断結果は、従業員の健康確保のために有効活用することが求められます。その一方で、従業員自身の意図に反して不利益な取り扱いを受ける可能性があるため、慎重な取り扱いが必要です。
ここでは、厚生労働省『事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き』を基に、健康診断結果を含む健康情報を取り扱う範囲や目的、方法について紹介します。
①健康情報の範囲
適切な取り扱いが求められる健康情報には、さまざまな種類があります。
事業場の健康診断をはじめ、ストレスチェック、がん検診などの一般的な情報に加えて、職場復帰面談の結果や通院状況の情報なども含まれます。
▼健康情報等に含まれる範囲
- 健康診断の結果、医師等から聴取した意見、それに基づく事後措置・保健指導の内容
- 長時間労働者への医師による面接指導の結果、医師から聴取した意見、事後措置の内容
- ストレスチェックの結果、それに基づく医師による面接指導の結果、医師から聴取した意見、それに基づく事後措置の内容
- 健康相談の結果
- がん検診の結果
- 職場復帰のための面談の結果
- 治療と仕事の両立支援等のための医師の意見書
- 通院状況等疾病管理のための情報
- 産業保健業務従事者が労働者の健康管理等を通じて得た情報
- 上記のほか、任意に労働者等から提供された本人の病歴、健康に関する情報 等
引用元:厚生労働省『事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き』
出典:厚生労働省『事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き』
②健康情報を取り扱う目的
事業場が従業員の健康情報を取り扱う目的は、主に3つあります。
- 労働者本人への健康確保措置(※)の実施
- 事業者が負う民事上の安全配慮義務の履行
- 職場の同僚や顧客の安全確保・事故防止
また、『労働契約法』第5条においては、従業員を雇用している使用者(企業)に、その従業員が安全かつ健康に働けるように配慮する“安全配慮義務”があることが示されています。
安全配慮義務は従業員数に関わらず全企業に求められるため、従業員数が50人未満の事業場でも適応されます。
健診結果をはじめとする健康情報を適切に管理せずに、必要な再検査や就業上の措置を講じなかった場合、従業員の健康状態が悪化してしまうリスクがあります。
こうしたリスクを防ぎ、従業員の健康保持・促進に努めるためにも、健康情報を適切に管理しておくことが重要です。
※健康確保措置とは、健康診断やストレスチェック、医師による面接指導などのこと。
▼事業者が健康情報等を取り扱う目的の内容(一例)
- 健康診断やストレスチェックの結果、長時間労働者等に対する医師による面接指導やその事後措置の実施
- 傷病・疾病のある労働者に対する就業上の措置の検討、実施
- 治療と仕事の両立支援の実施 等
引用元:厚生労働省『事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き』
出典:e-GOV法令検索『労働契約法』/厚生労働省『事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き』
③健康情報の取り扱い方
従業員の健康情報を取り扱う方法は、次の5つに分けられます。
▼健康情報等の5つの取り扱い方法
方法の種類 |
具体的内容 |
収集 |
健康情報等を入手する。(健康診断結果の収集だけではなく、面談等により入手、記録することも含む) |
保管 |
入手した健康情報等を保管する。(紙媒体・電子媒体での保管・保存の両者を指す) |
使用 |
健康情報等を取り扱う権限を有する者が、健康情報等を(閲覧を含めて)活用して第三者へ提供する。(紙媒体で入手した健康情報等をデータ化する際も“使用”に含む) |
加工 |
収集した健康情報等を、当該健康情報等の取り扱いの目的達成に必要な範囲内で使用されるように変換する。
例:健康診断の結果等をそのまま提供するのではなく、所見の有無や検査結果を踏まえて、医師の意見として置き換える。
|
消去 |
収集、保管、使用、加工した情報を削除して使えないようにする。 |
厚生労働省『事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き』を基に作成
これら5つの方法については、自社でどのように取り扱うか、健康情報等の取扱規程に明記しておくことが重要です。
出典:厚生労働省『事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き』
④健康情報を取り扱う担当者
健康情報の取り扱いや管理は、誰でも行えるわけではありません。
健康情報を取り扱う適切な担当者として、代表取締役・役員・産業医・保健師・管理監督者・人事部の事務担当者などが挙げられます。
ただし、それぞれの担当者が取り扱える情報の範囲は、事業場の状況とともに衛生委員会で検討します。
また、事業場によっては、健康診断の実施や結果の管理を外部に委託するケースもあります。その場合は、外部の事業者が取り扱える健康情報の範囲を明確にしたうえで、健康情報の安全管理措置が講じられるように契約を締結することが重要です。
出典:厚生労働省『事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き』
健康診断結果の保管方法
『労働安全衛生法』第66条の3において、事業者が健康診断結果を記録しておかなければならないと記されています。保管が認められている媒体は、紙媒体と電子媒体の2種類です。
①紙媒体
紙媒体で健康診断結果を保管する場合、紙媒体の健康診断結果をファイリングして保管することになります。
しかし、紙媒体で保管する場合、以下のような課題があります。
▼紙媒体で保管する際の課題
- 従業員が多いほど保管スペースが必要となる
- 情報を管理する工数を確保する必要がある
- 電子媒体への保管に変更する際、データ化に労力がかかる
- 前年度の結果と比較しにくいため、情報の分析に時間がかかる など
健康診断の結果は紙媒体での保管が一般的といえますが、管理スペースが必要になるほか、情報の分析や管理に労力がかかりやすいのが難点です。
紙媒体での保管が主流になっている背景としては、健康診断個人票や定期健診結果報告書に、医師・産業医の押印が必要なことが挙げられます。
しかし、紙媒体での保管・管理は、人事・総務担当者にとって業務の負担につながることや郵送時の事故による個人情報の流出等のセキュリティリスクもあるため、効率的かつ安全に管理するにはペーパーレス化が有効です。
健康診断結果のペーパーレス化に関しては、こちらの記事をご確認ください。
出典:厚生労働省『健康診査の結果等情報の取扱い(現状)』/厚生労働省 京都労働局『健康診断個人票や定期健診結果報告書について、医師等の押印等が不要となります』
②電子媒体
2020年に8月に施行された改正労働安全衛生関係法令によって、健康診断個人票や定期健診結果報告書に医師・産業医の押印が不要になりました。
労働基準監督署に定期健康診断結果報告書を電子申請する場合も、産業医による電子署名は必要ありません。
健康診断結果や報告書を作成する際、医師等の記名のみでよくなったため、電子申請の利便性が向上して、電子媒体でも保管しやすくなりました。
ExcelやPDFファイルなどの電子媒体で保管すれば、保管スペースの確保が不要になるという利点があります。ただし、データの比較・分析をするには、すべて同じフォーマットに数値を入力し直す必要があります。
電子媒体での保管だけではなく、保管したデータを蓄積して比較・分析などに利活用するためには、システムを活用してクラウド上で一元管理する方法が有効です。
健康診断結果をクラウドシステムで保管するメリットには、以下が挙げられます。
▼健康診断結果をクラウドシステムで保管するメリット
- 担当者がどこからでも健康診断結果を確認できる
- 健康診断結果の仕分けや産業医への情報共有、報告書作成などをシステム内で行える
- 健康診断結果のデータを産業医とンライン上で共有できる
出典:厚生労働省 京都労働局『健康診断個人票や定期健診結果報告書について、医師等の押印等が不要となります』
健康診断結果の保管に関する3つのポイント
健康診断結果は従業員の個人データであるため、漏えいや改ざんが行われないように適正な管理が求められます。健康診断結果を保管する際、押さえておきたいポイントとして、次の3つが挙げられます。
①情報の正確性の確保
事業者は、健康診断結果の利用目的の達成に必要な範囲内で、正確かつ最新の情報を維持しなければならないとされています。
過去の健康診断結果と情報が混同していたり、従業員の安全配慮や健康管理とは関係のないデータが含まれていたりすることがないように、適切にデータを仕分け・管理する必要があります。
出典:厚生労働省『事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き』
②漏えい・滅失・改ざん等防止の体制整備
健康診断結果の情報漏えいや滅失、改ざんを防ぐために、社内で安全管理措置を講じることが重要です。
万が一、健康診断結果が漏えいしてしまった場合、従業員に不利益が生じてしまうリスクがあります。こうしたリスクを考慮したうえで、データの内容や記録方法に応じた適切な措置を講じる必要があります。
▼具体的な安全管理措置の種類
画像引用元:厚生労働省『事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き』
出典:厚生労働省『事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き』
③情報の消去
健康診断の結果は、法令によって保存期間が定められています。
保管している健康診断結果が必要でなくなった場合、管理コストの増加や情報漏えいのリスクを避けるためにも、速やかに消去することが望まれます。また、退職者の健康診断情報に関しても同様に扱うことが重要です。
▼健康診断の保存期間
画像引用元:厚生労働省『事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き』
出典:厚生労働省『事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き』
まとめ
この記事では、健康診断結果の取り扱いや保管方法について、以下の項目で解説しました。
- 健康診断結果の適切な取り扱い
- 健康診断結果の保管方法
- 健康診断結果の保管に関する3つのポイント
企業には、『労働安全衛生法』に基づいて、健康診断結果を適正に5年間保管・管理することが求められます。
また、従業員の健康情報を保管する際、情報漏えいや滅失、改ざんを防ぐための安全管理体制の構築が欠かせません。
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健康診断結果をクラウド上で保管できるようになれば、従業員との健診結果データの共有や産業医との連携がスムーズになります。さらに、健康診断結果を取り扱う権限のある担当者のみが管理することで、従業員のプライバシー保護の強化にもつながります。
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