健康診断は医療費控除の対象になる?適用要件と医療費控除、特例のセルフメディケーション税制も解説
厚生労働省は、企業が従業員に対して実施する健康診断の費用について「事業者が負担すべき」としています。
しかし、事業者が医療機関に健康診断費用を支払っていたとしても、説明が不十分なことにより、従業員から「医療費控除の対象になるのか」「年末調整で医療費控除はできるのか」といった質問が出てくることも考えられます。
人事・総務担当者の方は、従業員に適切に説明したり、疑問に答えたりするために、医療費控除について理解しておくことが重要です。
この記事では、医療費控除の適用要件をはじめ、健康診断への適用可否や控除対象となる医療費、健康保持増進の取組みに対して受けられる医療費控除について解説します。
出典:厚生労働省『健康診断の費用は労働者と使用者のどちらが負担するものなのでしょうか?』
医療費控除の適用要件
医療費控除とは、その年の1月1日から12月31日までの間に一定額の医療費を支払った場合、所得の控除を受けられる制度のことです。
一定の要件を満たす場合に、確定申告で医療費控除を申請することで、所得税が還付される仕組みとなっています。
医療費控除の適用要件は以下のとおりです。
▼医療費控除の適用要件
- 納税者自身、または生計を一つにする配偶者やそのほかの親族のために支払った医療費であること
- その年の1月1日から12月31日までの間に支払った医療費であること
(※未払いの医療費は、実際に支払った年の控除対象になる)
▼対象となる金額
医療費控除の金額は、以下の計算方法によって算出します。
画像引用元:国税庁『医療費を支払ったとき』
“保険金などで補てんされる金額”とは、入院費給付金・高額療養費・出産育児一時金・家族療養費などが挙げられます。また、総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額が対象です。
なお、企業が実施する年末調整では、医療費控除を受けることはできません。医療費控除を受けたいと考えている従業員には、自身で確定申告を行うよう伝える必要があります。
出典:国税庁『No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)』『2 各種控除額の確認』『医療費を支払ったとき』
健康診断の費用と医療費控除について
企業が実施する健康診断の費用は、原則として医療費控除の対象にはなりません。
医療費控除は、医師等による診療、疾病の治療等を受けるために直接必要になった費用や、治療のために購入した医療品・医薬品などが対象です。そのため、治療を目的としない健康診断は医療費控除の対象外として扱われます。
ただし、健康診断の結果、疾病が発見されて、引き続き診断・治療を行った場合には“治療に先立って行われる診察”と同様に考えられます。この場合は、健康診断や特定健康検査の費用は医療費控除の対象となります。
注意点したいのは、前述した適用条件を満たすことが前提ということです。
▼医療費控除の対象・対象外となる医療費の例
医療費控除の対象 |
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医療費控除の対象外 |
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出典:国税庁『No.1122 医療費控除の対象となる医療費』『医療費を支払ったとき』
医療費控除の特例“セルフメディケーション税制”について
医療費控除の特例として、セルフメディケーション税制という制度があります。
セルフメディケーション税制とは、健康の保持増進・疾病予防として一定の取組みを行っている人を対象とした医療費控除の制度です。2017年1月1日から2026年12月31日までの間に納税者自身・配偶者・親族のために特定一般用医薬品等購入費を支払った場合に、所得控除を受けられます。
前述した医療費控除と選択適用できる仕組みのため、セルフメディケーション税制で控除を受ける場合、通常の医療費控除は受けられません。セルフメディケーション税制の対象金額や適用要件は、以下のとおりです。
▼対象金額
その年の1月1日から12月31日までに購入した特定一般医薬品等費の合計額が12,000円を超える部分について、88,000円を限度として控除が適用されます。(※保険金等で補填される部分の金額を除く)
▼適用要件
健康の保持増進・疾病の予防に向けて、次のような取組みを行っている居住者が対象です。
- 保険者が実施する健康診断や人間ドック
- 市区町村が健康増進事業として行う健康診断、がん検診
- 勤務先で実施する定期健康診断(事業主健診)
- 予防接種
- 特定健康検査、特定保健指導
▼特定一般用医薬品等購入費の範囲
医師によって処方される医薬品から、ドラッグストアで購入できるOTC医薬品に転用されたスイッチOTC医薬品などが対象です。代表的なスイッチOTC医薬品には、風邪薬、胃腸薬、鼻炎用内服薬などが挙げられます。
なお、スイッチOTC医薬品の一覧は、厚生労働省の『対象品目一覧』で確認できます。購入費の領収書は5年間の保存が必要です。
出典:国税庁『No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)』『No.1129 特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(医療費控除の特例)【セルフメディケーション税制】』/厚生労働省『セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について』『対象品目一覧』
まとめ
この記事では、健康診断や健康保持増進の取組みに関する医療費控除について以下の内容を解説しました。
- 医療費控除の適用要件
- 健康診断における医療費控除の適用可否
- セルフメディケーション税制について
事業者が実施する健康診断の費用は、原則、医療費控除の対象にはなりません。ただし、健康診断で疾病が見つかり、医師による診療や治療を行った場合には、その健康診断費用については医療費控除の対象となります。
また、企業の年末調整では医療費控除を受けることはできないため、従業員自身で確定申告を行うことが必要です。
人事・総務担当者は、会社で実施する健康診断をはじめ、どの費用が医療費控除の対象となるのかを把握したうえで、従業員に共有しておくことが重要です。なお、健康診断の実施後、有所見者(※)に対して産業医による指導、医師への受診勧奨を行うためには、社内の健康診断管理も欠かせません。
クラウド型健康管理サービス『first call』の健診管理サービスは、従業員の健診結果をオンラインで管理できるサービスです。不調の傾向が見られる場合は早期に産業医との面談を促すことができます。
サービス詳細については、こちらからご確認いただけます。
※有所見者とは、健康診断の結果でいずれかの項目で何らかの異常の所見がある人のこと。
健康診断の有所見者への対応については、こちらの記事もご覧ください。