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企業でPCR検査を実施する場合の流れと陽性者への対応や保健指導について

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の流行以降、企業における感染症対策が引き続き求められています。また、これからの時期は夏季休暇等で外出が増える機会も多くなる可能性を考慮し、休暇明けに社内で感染が広まらないように注意が必要です。

もし、従業員でコロナ感染の疑いがある場合は、企業は適切に医療機関等での検査を促したり、感染者が出た際の対応を行ったりします。しかし、海外渡航の前後などでも、検査が必要となる場合があります。

検査には、ウイルスの遺伝子を増幅させて測定するPCR検査と、ウイルスのタンパク質などの抗原を分析機器で測定する抗原定性検査、簡易キットを用いて検出する抗原定性検査などがあります。

この記事では、企業でPCR検査を実施する流れをはじめ、感染者が出た場合の対応や保健指導について解説します。

出典:厚生労働省『新型コロナウイルス感染症に関する検査について


目次[非表示]

  1. 企業がPCR検査を実施するまでの流れ
    1. ①事前準備
    2. ②医療機関によるPCR検査の実施
    3. 医師に診療のために必要と判断された場合
    4. 医師に必要と判断されなかった場合
    5. ③簡易キットによる検査の実施
  2. 陽性者・濃厚接触者が出た場合の対応
  3. 日頃の情報共有や保健指導が重要
  4. まとめ


企業がPCR検査を実施するまでの流れ

行政が示すところによると、PCR検査は、医師が診療のために必要と判断したとき、もしくは自治体が公衆衛生上の観点から必要と判断したときに実施します。また、2022年7月現在、医療機関によっては自費でPCR集団検査を受ける方法もあります。

ここでは、企業で検査を実施する際の流れについて解説します。

出典:厚生労働省『新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)


①事前準備

社内の診療所や健康管理部門、外部の医療機関と連携して、検査実施のための体制・環境の整備が必要です。厚生労働省では、主な事前準備を以下のように記しています。


社内に診療所がある場合

社内に診療所がある場合、事前に次の準備を行います。


▼事前準備例

  • 体調が悪い場合の出勤・自宅療養に関するルールの徹底を行う
  • PCR検査キット・抗原定性検査簡易キット(以下、簡易キット)の購入、診療所での適切な保管・管理を行う
  • 社内・保健所との対応フローを整理する
  • 企業側は健康観察アプリ導入の検討・選定・従業員への利用要請を行い、従業員側は健康情報を毎日登録する


社内に診療所がなく、職場で検査を実施する場合

社内に診療所がなく、職場で検査実施する場合は、次の事前準備を行います。


▼事前準備例

  • 連携医療機関または地域の医療機関との連携・検査実施の体制・環境を整備する
  • 連携医療機関から簡易キットの選定・保管・使用時における技術的助言を受ける
  • 出勤前に症状がある従業員は、出勤せずに医療機関を受診する
  • 社内に有症状者がいる際は、その場で検査実施、もしくは医療機関を受診できる場合は速やかに受診させる
  • 企業側は、検査を管理する従業員を本人の同意を得たうえで定めて、簡易キットによる検査実施・判定方法、その他注意事項に関する研修を受けさせる
  • 簡易キットの購入後、適切な保管・管理を行い、社内・管轄保健所との対応フローを整理する
  • 企業側は健康観察アプリ導入の検討・選定・従業員への利用要請を行い、従業員側は健康情報を毎日登録する


社内に診療所がなく、連携医療機関で検査を実施する場合

社内に診療所がなく、連携医療機関で検査を実施する場合は、次の事前準備を行います。


▼事前準備例

  • 医療機関と連携して検査実施の体制・環境を整備する
  • 連携医療機関がない場合は、地域の医療機関と連携・対応する
  • 体調が悪い場合の出勤・自宅療養に関するルールを徹底する
  • 連携医療機関が民間流通により簡易キットを購入、適切な保管・管理を行う
  • 連携医療機関において、社内・管轄保健所との対応フローを整理する
  • 企業側は健康観察アプリ導入の検討・選定・従業員への利用要請を行い、従業員側は健康情報を毎日登録する

なお、簡易キットは体外診断用医薬品のため、検査のための検体採取や結果の判定について、可能な限り医療従事者の管理下で実施することが望ましいといえます。

出典:厚生労働省『職場における積極的な検査等の実施手順(第2版)


②医療機関によるPCR検査の実施

体調不良を訴えた従業員や、無症状で検査が必要な従業員がいる場合は、社内の診療所・連携する医療機関・施設でPCR検査を実施します。


医師に診療のために必要と判断された場合

社内診療所の医師または連携医療機関の医師が診療のためにPCR検査が必要と判断した場合、社内の診療所や事前に連携している医療機関があればそちらでPCR検査を実施していきます。

その後、検査結果によって次のように対応します。


陽性判明時
陰性判明時
  • 診療所の医師が確定診断をする場合、陽性と診断されれば医療機関から保健所に届け出を行う。
  • 当該従業員は帰宅・出勤停止のうえで、保健所などからの療養解除指示があるまで療養する。
  • 所属部局が中心となり、確定診断までに時間を要する場合は確定診断を待たずに、当該従業員の“接触者”を自主的に特定する。
従業員は医師に感染性がないと診断されて、症状が軽快するまで療養する。

厚生労働省『職場における積極的な検査等の実施手順(第2版)』を基に作成


医師に必要と判断されなかった場合

一方、社内診療所の医師や連携医療機関の医師に必要と判断されなかった従業員には、陰性を証明するためのPCR検査は実施されず、企業からの依頼によって各種証明がされることもありません。

ただし、「多数の従業員が企業イベントに参加するため」「海外出張へ行ってもらうため」といった理由から、企業が従業員に自費でPCR検査を受けさせなければならないケースがあることも考えられます。

たとえば、日本から海外渡航する場合、国の規定によっては出国前に自費でPCR検査を受けて、陰性証明書の取得が必要です。

さらに、海外から日本への帰国者には、入国条件に陰性証明書の提示が指定されています。そのため、日本への入国前に現地で陰性証明書を発行できる医療機関を選定する必要があります。

こういった際に、従業員または企業が自費でPCR検査を受ける流れは以下のとおりです。


流れ
詳細
STEP.1 予約
各都道府県の検査機関にPCR検査の予約を入れる
STEP.2 必要書類の提出
本人確認書類や検査申込書を提出する
※運転免許証、マイナンバーカード、健康保険証など
STEP.3 検体の採取
各検査機関のスタッフに従って検体を採取する
STEP.4 検査結果の通知

各検査機関から検査結果を受け取る

※通知方法は手紙、メール、WEBシステムなど、検査機関によって異なる

福岡県『無症状者を対象とした無料検査の実施について』/熊本県『新型コロナウイルスの無料検査について』を基に作成


厚生労働省では、各都道府県における自費検査を提供する『自費検査を提供する検査機関一覧』を公開しています。

出典:厚生労働省『新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)』『【水際対策】出国前検査証明書』/福岡県『無症状者を対象とした無料検査の実施について』/熊本県『新型コロナウイルスの無料検査について


③簡易キットによる検査の実施

場合によっては、PCR検査を受けられない状況にある従業員がいることも想定できます。そういったケースでは、職場や自宅で簡易キットを用いた抗原定性検査を実施します。

簡易キットによる抗原定性検査は、従業員の同意を得たうえで、あらかじめ研修を受けた従業員の管理下で実施します。

※この方法はあくまでも簡易検査であり、PCR検査とは異なる点はご注意ください。

簡易キットを用いた検査は、次のように実施します。

  • 社内に診療所がある場合は、医療従事者の管理下で、簡易キットを使用した検査もしくはPCR検査を行う
  • 社内に診療所がない場合は、検査に関する研修を受けた従業員の管理下で簡易キットを使用した検査を行う

その後、検査結果によって次のように対応します。


陽性判明時
陰性判明時
  • 診療所の医師が確定診断をする場合、陽性と診断されれば保健所に届け出を行う
  • 当該従業員は帰宅・出勤停止のうえで、保健所などからの療養解除支持があるまで療養する。
  • 偽陰性の可能性を考慮して医療機関の受診を促す
  • 従業員は医師に感染性がないと診断されて、症状が軽快するまで療養する

厚生労働省『職場における積極的な検査等の実施手順(第2版)』を基に作成


抗原定性検査の簡易キットはPCR検査と同様に、細胞内にウイルスが存在しているか調べる検査ですが、検査対象や精度が異なります。


▼PCR検査と抗原検査の違い

PCR検査と抗原検査の違い

画像引用元:厚生労働省『新型コロナウイルス感染症に関する検査について


出典:厚生労働省『職場における積極的な検査等の実施手順(第2版)』『新型コロナウイルス感染症 病原体検査の指針』『新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)』『【水際対策】出国前検査証明書



陽性者・濃厚接触者が出た場合の対応

PCR検査の結果、陽性と判定され、医師による確定診断によって患者と診断された場合、基本的には医療機関から保健所に届け出が行われます。

PCR検査の判定から確定診断まで時間を要する場合は、確定診断を待たずに、簡易キットの陽性者やその接触者に向けて感染拡大防止策を講じることが重要です。

なお、コロナの感染可能期間は、発症2日前から退院、または宿泊療養・自宅療養の解除の基準を満たすまでの期間とされています。感染者の拡大を防ぐためには、陽性者と接触した従業員を速やかに特定して、隔離させます。

従業員が陽性者・接触者()になった場合の対応は、以下のとおりです。


新型コロナウイルス感染予防・対策マニュアル

画像引用元:厚生労働省『新型コロナウイルス感染予防・対策マニュアル


※接触者とは、検査の結果、陽性となった者の濃厚接触者、または陽性者周辺の検査対象者の候補のこと。

出典:厚生労働省『職場における積極的な検査等の実施手順(第2版)』『新型コロナウイルス感染予防・対策マニュアル



日頃の情報共有や保健指導が重要

職場で体調不良の従業員やコロナ陽性者が現れた場合に、焦らず的確な対応ができるように、日頃から情報共有・保険指導に努めることが重要です。

そのためには、職場における具体的な感染対策や検査・医療機関受診のフローなどをマニュアル化して、社内に周知することが大切です。また、体調がすぐれない場合でも気兼ねなく社内に報告して、休めるような雰囲気づくりも欠かせません。

さらに、コロナの感染者をいち早く特定するために、日常的に従業員の健康状態を共有して、管理できる体制の整備が求められます。健康診断や検温チェック、体調管理アプリなどを活用して健康状態を管理することで、自宅勤務、医療機関への受診など適切な指示が行えます。

産業医のいる職場では、日頃から感染対策や健康管理について保健指導を実施することで、従業員の意識を高められます。


▼企業に求められる感染対策の取組み

  • 職場でのマスク着用や換気、3密回避のルールを策定する
  • 従業員が感染予防の行動を取るための指導を行う
  • 体調管理の方法や出勤停止の基準について周知する
  • 陽性者となった場合の報告先・報告方法、プライバシーについて周知する
  • 日常的な健康状態の確認を実施する

出典:厚生労働省『職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト』/内閣官房『職場における新型コロナウイルス感染症防止対策宣言取組の5つのポイント



まとめ

この記事では、企業におけるPCR検査について、以下の項目を解説しました。

  • 企業がPCR検査を実施する流れ
  • 陽性者が出た場合の対応
  • 企業における情報共有や保健指導について

企業がPCR検査を実施する際は、社内の診療所や外部の医療機関と連携して検査体制を整えることが必要です。

医師から陽性者と診断された場合は、保健所に届け出を行うとともに、帰宅・出勤停止を命じるなどの措置を講じます。また、感染拡大を防ぐために、陽性者・接触者を特定して、自宅勤務とPCR検査の受検を指示します。

PCR検査や感染防止策を迅速かつ適切に行えるように、日頃から社内での情報共有・保険指導を行うことが重要です。

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遅沢 修平
遅沢 修平
上智大学外国語学部卒業。クラウド型健康管理サービス「first call」の法人営業・マーケティングを担当し、22年6月より産業保健支援事業部マーケティング部長に就任。
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