うつ病が労災認定になる3つの要件とは?精神障がいによって申請を受けた場合の対応を解説
仕事による強いストレスが原因で精神障がいを発症したとする労働災害(以下、労災)は、請求件数・支給決定件数ともに年々増加傾向にあることが厚生労働省の『令和3年度 過労死等の労災補償状況』で明らかになっています。
画像引用元:厚生労働省『精神障害に関する事案の労災補償状況』
内訳を見ていきましょう。
職業別でみると、医療・福祉、製造業、卸売業、小売業で請求件数・支給決定件数ともに多くなっています。
画像引用元:厚生労働省『精神障害に関する事案の労災補償状況』
また、年齢別の支給決定件数は、40~49歳、20~29歳、30~39歳の順に多いという状況です。
画像引用元:厚生労働省『精神障害に関する事案の労災補償状況』
労災事故が発生した場合、企業には不法行為・安全配慮義務に対する債務不履行などを理由に、被災者等から民事上の損害賠償請求がなされるリスクもあります。
精神障がいによる労災が増加するなか、「うつ病は労災にあたるのだろうか」「うつ病で労災申請を受けた際は、どう対応すればよいのだろう」と考える担当者の方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、うつ病が労災認定になる3つの要件と対応について解説します。
出典:厚生労働省『令和3年度「過労死等の労災補償状況」を公表します』『労働災害が発生したとき』
目次[非表示]
うつ病などの精神障がいが労災認定になる3つの要件
うつ病をはじめとする精神障がいは、さまざまな要因によって発病します。労災が適用されるのは、業務による強いストレスが認められた場合です。
厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署の『精神障害の労災認定』では、精神障がいの労災認定の要件として、次の3つを示しています。
▼精神障がいの労災認定要件
①認定基準の対象となる精神障害を発病していること
②認定基準の対象となる精神障害を発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
③業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
引用元:厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署『精神障害の労災認定』
①認定対象の精神障がいを発病している
精神障がいで労災が適用される要件の一つに、認定対象となる精神障がいを発病していることが挙げられます。
認定対象となる精神障がいとは、WHOが国際的に作成した疾病および関連保健問題の国際統計分類“ICD”に準拠した『国際疾病分類第10回修正版(ICD-10) 第V章』における“精神および行動の障害”に分類されるものを指します。
▼国際疾病分類第10回修正版 ICD-10 第V章
画像引用元:厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署『精神障害の労災認定』
うつ病については、“F3 気分[感情]障害”のなかに含まれており、労災認定の対象となる精神障がいとされています。
ただし、認知症や頭部外傷などによる障害(F0)、アルコール・薬物による障害(F1)などは、認定対象となる精神障がいには含まれません。
出典:厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署『精神障害の労災認定』『ICD-10(国際疾病分類)第5章 精神および行動の障害』
②業務による強い心理的負荷が認められる
労災が適用とされるのは、認定対象となる精神障がいの発病までの約6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷があったことが認められる場合が中心です。
業務による強い心理的負荷とは、具体的な出来事があり、その後の状況が労働者に強い心理的負荷を与えていることをいいます。
また、心理的負荷の強度については、従業員の主観ではなく、同種の労働者が一般的にどう受け止めるかといった観点から評価されます。
具体的な評価は、心理的負荷をもたらした具体的な出来事の有無によって、負荷の強度を強・中・弱の3段階に分けて行われます。3段階のうち、強度が“強”に該当する場合に、労災認定の要件を満たすこととなります。
▼心理的負荷が強と判断されるケース例
- 上司等から身体的・精神的なハラスメントを受けた
- 同僚等から酷いいじめや嫌がらせを受けた
- 非正規社員の仕事上の差別や不利益な取扱いが著しく大きく、人格否定のようなものだった
- 転勤で新たな業務に従事して、その後月100時間程度の時間外労働を行った
出典:厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署『精神障害の労災認定』
③業務以外の要因で発病したものではない
精神障がいにおける労災認定要件の最後は、精神障がいが業務以外の要因で発病したものではないと認められることです。
具体的な出来事において、業務以外のものについては、心理的負荷の強度がⅠ・Ⅱ・Ⅲの3段階で評価されます。
▼心理的負荷の要因となる業務以外の具体的な出来事の例
類型 |
具体的な出来事 |
心理的負荷の強度 |
自分の出来事 |
自分がケガや病気をした |
Ⅱ |
家族・親族の出来事 |
子どもの入学試験や進学があった |
Ⅰ |
金銭関係 |
収入が減少した |
Ⅱ |
住環境の変化 |
家族以外の人と一緒に住むようになった |
Ⅰ |
事件・事故・災害の体験 |
天災・火災・自然災害に巻き込まれた |
Ⅲ |
他人との人間関係 |
親しい友人や先輩が死亡した |
Ⅱ |
厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署『精神障害の労災認定』を基に作成
負荷が大きいと考えられる“評価Ⅲ”の出来事が複数ある場合には、それが精神障がいの発病の要因となったかどうかで判断されます。また、精神障がいの既往歴や、アルコール依存状況などの個体側要因があるかなども発病の要因といえるかが慎重に判断されます。
▼業務以外の心理的負荷がⅢと評価されるケース例
- 労働者自身が離婚または別居をした
- 配偶者や子ども、親、きょうだいが死亡した
- 天災や火災に遭った、または犯罪に巻き込まれた
- 多額の財産を損失した、または突然大きな支出があった
出典:厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署『精神障害の労災認定』
うつ病で労災申請を受けた場合の対応
うつ病をはじめとする精神障がいで労災補償を請求するには、給付を受ける従業員本人が所轄の労働基準監督署長に申請する必要があります。
ただし、従業員が自ら請求手続きを行うことが困難な場合や、給付を受けるために必要な証明を求められた際は、事業主がその手続きを行えるよう助力して、すみやかに対応しなければなりません。
なお、労災保険の療養補償給付については、従業員が療養を受けた医療機関によって、申請方法や療養費を支払うタイミングが異なります。
指定医療機関の場合、労災保険の請求書を医療機関に提出したのち、医療機関を経由して労働基準監督署長に提出されます。そのため、その場で療養費を支払う必要はありません。
一方、労災保険の指定医療機関でない場合は、従業員が直接労働基準監督署長に提出して、費用を一時的に立て替えておく必要があります。
従業員がうつ病になった場合の診断書の取得方法や産業医への相談については、こちらの記事をご確認ください。
出典:厚生労働省『労働災害が発生したとき』/厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署『労災保険 療養(補償)等給付の請求手続』/e-Gov法令検索『労働者災害補償保険法施行規則』
まとめ
この記事では、うつ病による労災について以下の内容を解説しました。
- 精神障がいで労災認定になる3つの要件
- うつ病で労災申請を受けた場合の対応
うつ病をはじめとする精神障がいで労災が認定されるのは、発病の要因が仕事による強いストレスと判断できる場合に限られます。
労災の認定にあたっては、業務による心理的負荷の強度をはじめ、業務以外の心理的負荷や個体側要因なども考慮して、医学的かつ客観的な視点から判断されます。
従業員からうつ病を理由に労災申請を受けた際、事業主は適切な手続きを行えるよう、サポートを行いましょう。
また、労災を防止するために、労働安全衛生法に基づく安全衛生管理責任を果たすことが必要です。
安全衛生管理責任を果たしていない場合は、労災事故が発生した際に被災者等から民事上の損害賠償請求がなされるケースがあります。このようなリスクを防ぐために、日ごろから従業員の健康管理を行える職場環境づくりが欠かせません。
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