出産や育児に関する休業制度とは?妊婦さんがいる職場で知っておくべき配慮や注意点を解説
女性が妊娠・出産というライフイベントを迎えるときは、身体に大きな変化が起こり、精神的な負担にもつながりやすくなります。
事業者には、女性従業員の健康を守り、安心して妊娠・出産を迎えられるように、妊婦さんに配慮した職場環境を整備する“母性健康管理”が義務づけられています。
この記事では、出産・育児に関する休業制度をはじめ、妊娠中の従業員に対して人事・労務部門が行う対応や注意点について解説します。
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出典:厚生労働省『働く女性の母性健康管理措置、母性保護規定について』
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出産・育児に関する休業制度について
事業者は、出産前後や育児期間中の休業制度について周知したうえで、妊娠中の従業員が休業を取得できるように促すことが大切です。
日本では、出産後の就業継続率が増加しつつあるものの、いまだ約3割の女性従業員が出産を機に離職しており、子育てと仕事の両立への負担が就業継続の障壁となっています。出産・育児を迎えても、女性従業員が安心して働き続けられるように、休業制度を整備することが求められます。
法律で定められた休業制度には、以下の3つが挙げられます。
出典:厚生労働省『働く女性の母性健康管理のために』『育児・介護休業法の改正について』
産前・産後休業
『労働基準法』第65条第1・2項において、産前・産後に一定期間の休業を確保することが義務づけられています。
▼労働基準法第65条第1・2項
第六十五条 使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
② 使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
引用元:e-Gov法令検索『労働基準法』
産前・産後休業とは、出産の体力回復を図り、職場復帰をサポートするための公的制度です。休業を付与する期間は、以下のように定められています。
▼産前・産後休業の休業期間
産前 |
出産予定日前の6週間(多胎妊娠の場合は14週間) |
産後 |
出産日の翌日から8週間 |
産前休業は、妊娠中の女性従業員が請求した場合に取得させることが義務づけられています。最低でも6週間は強制的に取得させる必要があり、6週間の経過後は女性従業員本人の請求に応じて付与することが可能です。
出典:e-Gov法令検索『労働基準法』/厚生労働省『働きながらお母さんになるあなたへ』
育児休業
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下、育児・介護休業法)において、育児を行う従業員に対して育児休業の付与が義務づけられています。
▼育児・介護休業法第5条
第五条 労働者は、その養育する一歳に満たない子について、その事業主に申し出ることにより、育児休業(第九条の二第一項に規定する出生時育児休業を除く。以下この条から第九条までにおいて同じ。)をすることができる。ただし、期間を定めて雇用される者にあっては、その養育する子が一歳六か月に達する日までに、その労働契約(労働契約が更新される場合にあっては、更新後のもの。第三項、第九条の二第一項及び第十一条第一項において同じ。)が満了することが明らかでない者に限り、当該申出をすることができる。
引用元:e-Gov法令検索『育児・介護休業法』
なお、育児休業は出産した女性従業員だけでなく、1歳に満たない子を養育する男性従業員も対象です。雇用の継続が見込まれる場合に取得できます。
出典:e-Gov法令検索『育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律』/厚生労働省『働きながらお母さんになるあなたへ』『育児・介護休業法 改正ポイントのご案内』
育児時間
『労働基準法』第67条では、1歳に達しない子を育てる女性従業員は、通常の休憩に加えて、1日2回、最低30分の育児時間を確保することが義務づけられています。
育児時間は女性従業員の請求によって取得させる必要があり、その時間中に働かせることはできません。
▼労働基準法第67条
第六十七条 生後満一年に達しない生児を育てる女性は、第三十四条の休憩時間のほか、一日二回各々少なくとも三十分、その生児を育てるための時間を請求することができる。
② 使用者は、前項の育児時間中は、その女性を使用してはならない。
引用元:e-Gov法令検索『労働基準法』
出典:e-Gov法令検索『労働基準法』/厚生労働省『働きながらお母さんになるあなたへ』
事業者における妊娠中の従業員への対応
妊娠中は体質や体調が著しく変化する時期のため、妊娠中の従業員に対しては、身体への負担に配慮するとともに、必要に応じて就業上の措置を講じます。
妊娠中の従業員への対応として、以下の3つが挙げられます。
①保健指導・健康診査の時間確保
事業者は、妊娠中の従業員に対して、妊婦健診や妊娠中の保健指導を受診する時間を確保する必要があります。これは、『雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)』第12条に基づく事業者の義務と定められています。
▼男女雇用機会均等法第12条
第十二条 事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、その雇用する女性労働者が母子保健法(昭和四十年法律第百四十一号)の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。
引用元:e-Gov法令検索『男女雇用機会均等法』
妊娠中の従業員からの申し出に応じて、原則として以下の回数のとおり、必要な時間を確保することが必要です。
▼健康診査の回数
妊娠週数 |
回数 |
妊娠23週まで |
4週間に1回 |
妊娠24週から35週まで |
2週間に1回 |
妊娠36週から出産まで |
1週間に1回 |
厚生労働省『働きながらお母さんになるあなたへ』を基に作成
上記の時間を確保するにあたっては、受診時間や医療機関への往復時間や個々の事情などを考慮して、融通を利かせることが望まれます。
通院日は、女性従業員の希望日に設定するとともに、必要に応じて業務の調整を行うことも求められます。事業者が通院希望日を変更したり、申請を拒否したりすることは原則認められていません。
出典:e-Gov法令検索『雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律』/厚生労働省『働きながらお母さんになるあなたへ』『働く女性の母性健康管理のために』
②就業上の措置
『男女雇用機会均等法』第13条では、妊娠中の従業員が医師の指導を受けた場合に、その指導を守るための就業上の措置を講じることが義務づけられています。
▼男女雇用機会均等法第13条
第十三条 事業主は、その雇用する女性労働者が前条の保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない。
引用元:e-Gov法令検索『男女雇用機会均等法』
医師からの指導内容を確認する方法としては、指示事項を事業者に的確に伝達するための『母性健康管理指導事項連絡カード』の活用が挙げられます。
事業者が講じる就業上の措置としては、以下が挙げられます。
▼医師の指導事項を守るための就業上の措置
妊娠中の通勤緩和 |
始業・就業時間の時間差の設定 混雑の少ない交通手段・通勤経路への変更 フレックスタイム制の適用 |
健康状態に応じた休憩の付与 |
休憩時間の延長と変更 休憩回数の増加 |
作業・勤務時間の制限 |
重量物の取扱い、長時間の立作業、全身運動などの作業の制限 |
厚生労働省『働く女性の母性健康管理のために』を基に作成
なお、妊娠中の健康状態には個人差があるため、産業医や保健スタッフと連携しながら、個々に応じた措置を検討することが重要です。
出典:e-Gov法令検索『雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律』/厚生労働省『働く女性の母性健康管理のために』
③不利益な取扱い・ハラスメントの禁止
『育児・介護休業法』第10条では、妊娠・出産や休業の取得を理由に、不利益や取扱い・ハラスメントをすることは禁止されています。
▼育児・介護休業法第10条
第十条 事業主は、労働者が育児休業申出等(育児休業申出及び出生時育児休業申出をいう。以下同じ。)をし、若しくは育児休業をしたこと又は第九条の五第二項の規定による申出若しくは同条第四項の同意をしなかったことその他の同条第二項から第五項までの規定に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
引用元:e-Gov法令検索『育児・介護休業法』
不利益な取扱いとは、解雇や減給、降格などが挙げられます。ハラスメントとは、妊娠・出産した従業員の就業環境が害される言動を指します。休業制度の利用を止めるように伝えたり、雑用をさせたりする行為もハラスメントに該当するため、注意が必要です。
事業者は、不利益な取扱いやハラスメントが起きないように、社内周知・啓発を行い、従業員が相談できる体制を整備することが大切です。
なお、職場で発生するハラスメントと対策方法については、こちらの記事で解説しています。併せてご確認ください。
出典:e-Gov法令検索『育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律』/厚生労働省『働きながらお母さんになるあなたへ』『働く女性の母性健康管理のために』
まとめ
この記事では、妊娠中の従業員への対応について、以下の内容を解説しました。
- 出産・育児に関する休業制度
- 人事・労務部門における妊娠中の従業員への対応
- 不利益な取扱い・ハラスメントの禁止について
妊娠中は心身の健康状態が著しく変化するため、事業者は女性従業員の体調に配慮しつつ、働きやすい職場環境を整備することが求められます。健康状態には個人差があるため、人事・労務部門のほか、産業医や保健スタッフとも連携して適切な対応をとることが重要です。
妊娠中の従業員から健康相談や休業の申し出をしやすいように、日ごろから産業医に相談できる体制を整えておくことも大切です。
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