職場で発生しやすいハラスメントの種類と対策方法
職場におけるトラブルの一つに、ハラスメントが挙げられます。
厚生労働省が公表している『令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況』によると、民事上の個別労働紛争の相談件数でもっとも多いのは、“いじめ・嫌がらせ”です。職場でのハラスメントは社会的な問題として顕在化しています。
そうしたなか、2019年の『労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律』改正によって、職場におけるパワーハラスメント防止対策が事業主に義務付けられました。
企業には、従業員の尊厳や人格を守ることはもちろん、働きやすく風通しのよい職場環境づくりが求められます。
この記事では、職場で起こりやすい代表的なハラスメントをはじめ、企業における対策の重要性と具体的な対策方法について解説します。
出典:厚生労働省『「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します。』『職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!』
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職場で発生しやすいハラスメントの種類
職場で起こりやすいハラスメントには、パワーハラスメント(以下、パワハラ)、セクシャルハラスメント(以下、セクハラ)、妊娠・出産・育児休業等ハラスメント、顧客等からの著しい迷惑行為などが挙げられます。
2020年度の『職場のハラスメントに関する実態調査』によると、過去3年間で相談件数が多いハラスメントとして、以下が挙げられています。
画像引用元:厚生労働省『職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)』
ここでは、「該当すると判断した事例の件数が増加している」「該当すると判断した事例があり、件数は変わらない」という回答の割合が大きい4つのハラスメントについて解説します。
パワハラ
職場でのパワハラとは、上司と部下などの優越的な関係を背景として、業務上必要な範囲を超えて従業員の就業環境が害される(※)行為を指します。
たとえば、以下のような行為が挙げられます。
▼パワハラの具体例
- 人格を否定する言動を行う
- 必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を行う
- 相手を侮辱・脅迫するような内容のメールを本人を含む複数の従業員に送信する
パワハラの詳しい内容や対策については、こちらの記事をご確認ください。
※就業環境が害されるとは、当該言動により、労働者が就業するうえで看過できないほどの支障が生じることを指します。
出典:厚生労働省『職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!』『ハラスメントの定義』
セクハラ
職場におけるセクハラとは、労働者の意に反する性的な言動によって労働条件について不利益を受ける、または就業環境が害される行為を指します。
たとえば、以下のような行為が挙げられます。
▼セクハラの具体例
- 上司の性的な言動によって労働者が苦痛に感じ、就労意欲が低下する
- 上司が労働者に意に反して身体的な接触をしたことを拒否したことで、不利益な配置転換をする
出典:厚生労働省『職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!』『ハラスメントの定義』
妊娠・出産・育児休業等ハラスメント
妊娠・出産や育児休業の利用に関して、上司や同僚からハラスメントが行われるケースもあります。これは、マタニティハラスメント、パタニティハラスメントなどとも呼ばれます。
たとえば、出産・育児のために休業を申し出た労働者、または出産・妊娠した女性労働者に対して、上司や同僚が就業環境を害する行為が該当します。
▼マタニティハラスメント・パタニティハラスメントの具体例
- 「産前休業を取得する場合は辞めてもらう」と言われた
- 男性労働者の育休取得について「男のくせにあり得ない」と言われ、諦めざるを得なくなっている
出典:厚生労働省『職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)』『職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!』『ハラスメントの定義』
顧客等からの著しい迷惑行為
顧客や取引先からの暴行、脅迫、暴言、不当な要求などの迷惑行為によって、労働者の就業環境が害される行為もハラスメントにあたります。これは、カスタマーハラスメントとも呼ばれます。
たとえば、以下のような行為が挙げられます。
▼カスタマーハラスメントの具体例
- 長時間の拘束や同じ内容のクレームを繰り返す
- 商品・サービスに瑕疵(かし)・過失がない状態で金銭補償を要求する
- 従業員に対して威圧的・差別的な言動を行う
出典:厚生労働省『職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)』『職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!』『カスタマーハラスメント対策に取り組みましょう!』
企業におけるハラスメント対策の重要性
企業の社会的評価の低下や顧客離れ、人材の流出といったリスクを防ぐために、職場でのハラスメント対策を講じることが重要です。
職場でのハラスメントは、従業員の個人としての尊厳や人権を不当に傷つける行為となり、決して許されるものではありません。
また、働く意欲・パフォーマンスの低下を招き、生産性や企業の業績にも影響を及ぼすことが考えられます。ハラスメント行為を働く人が職場にいると、職場の秩序が乱れるだけでなく、人材の流出につながる可能性もあります。
横行するハラスメントに対して適切な対策が求められるなか、2019年には『労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律』が改正されました。これにより、企業におけるハラスメント対策の重要性がさらに高まっています。
▼ハラスメントに関する主な改正内容
- 職場でのパワーハラスメント防止対策を事業主に義務付け
- 精神障がいによる労災認定の判断基準にパワハラの内容を明示
法令を遵守して、ハラスメントによる精神障がいや労働災害の発生を防ぐためにも、職場でのハラスメント防止対策が不可欠です。
出典:厚生労働省『職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!』『精神障害の労災認定基準に「パワーハラスメント」を明示します』
企業に求められるハラスメント対策
職場でのハラスメントを防ぐためには、ハラスメントを禁止する旨の方針を制定したうえで、管理者・従業員の意識を高める取組みが必要です。
ここからは、企業に求められるハラスメント対策について解説します。
①ケースブックの作成
ハラスメントがどのようなものか理解を深めてもらうために、具体的な事例や対処方法、行動方針などをまとめたケースブックを作成する方法があります。
ハラスメントの種類別で事例や対処方法をまとめると、従業員が自身の言動を再認識するきっかけを与えられ、ハラスメント行為の抑制につながります。
また、同じような事例が職場で発生した場合に、周囲による注意や報告、被害者からの相談を促しやすくするといった効果も期待できます。
作成したケースブックは、定期的に内容を見直して、時代や働き方に沿った新しい内容に改訂していくことが重要です。
出典:厚生労働省『職場のパワーハラスメント対策取組好事例集』
②研修・教育の実施
職場の管理者や従業員に対して、ハラスメント防止のための研修・教育の実施も有効です。
ハラスメント対策の重要性や具体的な禁止行為について研修・教育を行うことで、「ハラスメントを行わない・見逃さない」という組織全体の意識を向上できます。
たとえば、実例を用いて自己点検できるロールプレイング型研修や、被害に遭ったとき・行為者を発見したときのフローの周知などが挙げられます。
研修・教育を実施する際は、時間の経過とともに意識が薄れないよう、内容や頻度に工夫しつつ定期的に実施することが重要です。
出典:厚生労働省『職場のパワーハラスメント対策取組好事例集』『職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!』
③職場巡回・現場指導の実施
人事・総務担当者や役員が日ごろから職場を巡回して、ハラスメントになりそうな言動を直接指導するといった方法も対策の一つです。
「上司が不適切な言動や指導を行っていないか」「いじめ・嫌がらせに悩んでいそうな従業員はいないか」を現場で確認することで、その場で適切な対処を行えます。
また、ハラスメントの行為者・被害者には相談の機会を設けて、面談や経過観察を行うことで、ハラスメント問題が肥大化するのを防ぐことが可能です。このように、日ごろから働く人を見守る体制を整備することで、ハラスメントを相談しやすい風通しのよい職場環境づくりにつながります。
出典:厚生労働省『職場のパワーハラスメント対策取組好事例集』
まとめ
この記事では、職場のハラスメント対策について以下の内容を解説しました。
- 職場で発生しやすいハラスメントの種類
- 企業におけるハラスメント対策の重要性
- 企業に求められるハラスメント対策
職場で発生するハラスメントは、従業員の健康問題やパフォーマンス低下を招きかねないほか、人材の流出、社会的評価の低下などの影響をもたらすリスクがあります。
また、職場のハラスメントは、従業員個人の問題ではなく、会社全体の問題といえるため、企業として適切な防止対策を講じることが求められます。
問題が起きたときに早期に対応できるよう、人事・総務担当者や産業医などに気軽に相談できる体制を整備することも重要です。
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