産業医制度に関連する法律とは? 企業に課せられた義務と罰則について解説

産業医制度に関連する法律とは?企業に課せられた義務と違反時の罰則を解説

近年、過重労働による健康障害の防止やメンタルヘルス対策の重要性が増しています。それに伴って、従業員の健康管理を担う産業医に求められる役割も変化しており、職務を効率的に実施できるように、法令も時代に応じて改正されています。

人事・労務担当者においては、従業員の健康を守るためにも産業医に関連する法令を学ぶことが大切です。

この記事では、産業医制度に関連する法律をはじめ、企業に課せられている義務と罰則について解説します。


目次[非表示]

  1. 産業医制度に関連する法律
    1. 労働安全衛生法第13条
    2. 労働安全衛生規則第13条
    3. 労働安全衛生規則第14条
    4. 労働安全衛生規則第15条
  2. 企業に課せられた義務
  3. 義務を怠った場合の罰則
  4. まとめ


産業医制度に関連する法律

産業医制度に関連する法律には、産業医を選任する義務や要件に関する規範が定められています。


労働安全衛生法第13条

労働安全衛生法』第13条では、産業医を選任する義務が定められています。


▼労働安全衛生法 第13条第1項

第十三条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(以下「労働者の健康管理等」という。)を行わせなければならない。

引用元:e-Gov法令検索『労働安全衛生法


事業者には、政令で定められた規模の事業場ごとに産業医を選任して、労働者の健康管理を行う義務があります。

産業医は、労働者の健康状態を確保する必要があると判断した場合、事業者へ報告することが可能です。また、事業者は産業医の意見を尊重しなければなりません。

同法第13条第2・3項には事業者が選任できる産業医の条件が定められています。


▼労働安全衛生法 第13条第2・3項

2 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならない。
3 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない。

引用元:e-Gov法令検索『労働安全衛生法


具体的には、以下の要件のいずれかを満たした医師が該当します。


▼労働安全衛生規則 第14条2(一部要約)

(1)厚生労働大臣の指定する者(日本医師会、産業医科大学)が行う研修を修了した者 
(2)産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指 定するものにおいて当該過程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者 
(3)労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験区分が保健衛生である者 
(4)大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、常勤講師又はこれら の経験者

引用元:e-Gov法令検索『労働安全衛生規則


さらに、同法第13条第4~6項には、産業医の効力と事業者がどの程度従う必要があるのかを示す記載があります。


▼労働安全衛生法 第13条第4~6項

4 産業医を選任した事業者は、産業医に対し、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の労働時間に関する情報その他の産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報として厚生労働省令で定めるものを提供しなければならない。
5 産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。
6 事業者は、前項の勧告を受けたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該勧告の内容その他の厚生労働省令で定める事項を衛生委員会又は安全衛生委員会に報告しなければならない。

引用元:e-Gov法令検索『労働安全衛生法


出典:厚生労働省『産業医の関係法令』『産業医について』/e-Gov法令検索『労働安全衛生法


労働安全衛生規則第13条

労働安全衛生規則』第13条では、産業医の設置要件や設置人数が定められています。

産業医を選任しなければならない事業場の条件を満たしている場合は、14日以内に産業医を選任することが必要です。


▼労働安全衛生規則 第13条第1・2項

第十三条 法第十三条第一項の規定による産業医の選任は、次に定めるところにより行わなければならない。
一 産業医を選任すべき事由が発生した日から十四日以内に選任すること。
二 次に掲げる者(イ及びロにあつては、事業場の運営について利害関係を有しない者を除く。)以外の者のうちから選任すること。
イ 事業者が法人の場合にあつては当該法人の代表者
ロ 事業者が法人でない場合にあつては事業を営む個人
ハ 事業場においてその事業の実施を統括管理する者

引用元:e-Gov法令検索『労働安全衛生規則


また、常時1,000人以上の労働者がいる事業場の場合は“専属産業医”の選任が必要であり、労働者が3,000人以上の場合は2人以上の産業医を選任しなければなりません。

なお、労働者が常時500人以上の事業場であっても、有害業務に携わる場合は、専属産業医の選任が必要となります。


▼労働安全衛生規則 第13条第3・4項

三 常時千人以上の労働者を使用する事業場又は次に掲げる業務に常時五百人以上の労働者を従事させる事業場にあつては、その事業場に専属の者を選任すること。
イ 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
ロ 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
ハ ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
ニ 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
ホ 異常気圧下における業務
ヘ さく岩機、鋲びよう打機等の使用によつて、身体に著しい振動を与える業務
ト 重量物の取扱い等重激な業務
チ ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
リ 坑内における業務
ヌ 深夜業を含む業務
ル 水銀、砒ひ素、黄りん、弗ふつ化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
ヲ 鉛、水銀、クロム、砒ひ素、黄りん、弗ふつ化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
ワ 病原体によつて汚染のおそれが著しい業務
カ その他厚生労働大臣が定める業務
四 常時三千人をこえる労働者を使用する事業場にあつては、二人以上の産業医を選任すること。

引用元:e-Gov法令検索『労働安全衛生規則


出典:厚生労働省『産業医の関係法令』/e-Gov法令検索『労働安全衛生規則


労働安全衛生規則第14条

労働安全衛生規則』第14条では、産業医の職務について定められています。産業医は以下の専門的な知識を持つ医師であることが必要です。


▼労働安全衛生規則 第14条

第十四条 法第十三条第一項の厚生労働省令で定める事項は、次に掲げる事項で医学に関する専門的知識を必要とするものとする。
一 健康診断の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
二 法第六十六条の八第一項、第六十六条の八の二第一項及び第六十六条の八の四第一項に規定する面接指導並びに法第六十六条の九に規定する必要な措置の実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
三 法第六十六条の十第一項に規定する心理的な負担の程度を把握するための検査の実施並びに同条第三項に規定する面接指導の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
四 作業環境の維持管理に関すること。
五 作業の管理に関すること。
六 前各号に掲げるもののほか、労働者の健康管理に関すること。
七 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
八 衛生教育に関すること。
九 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。

引用元:e-Gov法令検索『労働安全衛生規則


出典:e-Gov法令検索『労働安全衛生規則


労働安全衛生規則第15条

労働安全衛生規則』第15条では、産業医の定期巡視について定められています。


▼労働安全衛生規則 第15条

第十五条 産業医は、少なくとも毎月一回(産業医が、事業者から、毎月一回以上、次に掲げる情報の提供を受けている場合であつて、事業者の同意を得ているときは、少なくとも二月に一回)作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
一 第十一条第一項の規定により衛生管理者が行う巡視の結果
二 前号に掲げるもののほか、労働者の健康障害を防止し、又は労働者の健康を保持するために必要な情報であつて、衛生委員会又は安全衛生委員会における調査審議を経て事業者が産業医に提供することとしたもの

引用元:e-Gov法令検索『労働安全衛生規則


産業医は毎月1回もしくは2ヶ月に1回事業場を巡回して、作業方法や衛生環境に問題がないかチェックする必要があります。事業者は産業医に権限を付与して尊重することが必要です。

出典:厚生労働省『産業医の関係法令』『産業医について』/e-Gov法令検索『労働安全衛生規則



企業に課せられた義務

常時50人以上の労働者が働く企業には、選任のほかにも、安全委員会・衛生委員会の設置や、衛生管理者の選任などの義務があります。

企業に課せられる義務は、以下の5つです。


▼企業に課せられる5つの義務

  • 産業医の選任
  • 安全委員会・衛生委員会の設置
  • 衛生管理者の選任
  • 定期健診の結果を労働基準監督署へ報告
  • ストレスチェックの実施


安全委員会・衛生委員会は、一定の規模に該当する事業場に設置が義務づけられています。


▼安全委員会・衛生委員会を設置しなければならない事業場

安全委員会・衛生委員会を設置しなければならない事業場

画像引用元:厚生労働省『安全衛生委員会を設置しましょう


安全委員会・衛生委員会は、労働者の危険や健康障害を防止するために、労働者の意見を反映させるよう十分な調査審議を行うことが設置の目的です。

なお、企業に課せられる義務の詳細は、こちらの記事で解説しています。併せてご確認ください。

  従業員が50人以上になったら何をする? 環境整備で必要な5つのこと 事業場で常時雇用する従業員数が50人を超える場合、産業医の選任義務や健康診断の結果・衛生管理者の選任報告書などを労働基準監督署・所轄労働基準監督署長へ報告する義務が発生します。本記事では、事業場の従業員が50人を超える際に行わなければならないことをまとめて紹介します。 first call

出典:厚生労働省『安全衛生委員会を設置しましょう』『衛生管理者について教えて下さい。』『ストレスチェック制度導入ガイド』『産業医について』『安全委員会、衛生委員会について教えてください。』/e-Gov法令検索『労働安全衛生規則



義務を怠った場合の罰則

産業医制度に関する義務を怠った場合は、6ヶ月以下の懲役、または50万円以下の罰金を科される可能性があります。

たとえば、政令で定められた事業場ごとに産業医を設置しなかった場合は、罰則の対象になります。そのほか、以下の義務を怠った場合に罰則が科される可能性があります。


▼産業医制度に関する義務の例

  • 衛生委員会の設置
  • 安全衛生責任者の選任
  • 厚生労働省令で定める産業医の要件を備えていること
  • 事業者が産業医に対して、健康管理を適切に行うために必要な情報の提供を行うこと


出典:e-Gov法令検索『労働安全衛生法



まとめ

この記事では、産業医制度に関連する法律と罰則について、以下の内容を解説しました。


  • 産業医制度に関連する法律
  • 企業に課せられた義務
  • 義務を怠った場合の罰則


事業場において、産業医の設置が必要な条件を満たす場合、法律により14日以内に産業医を選任することが義務づけられています。

事業場の従業員数が常時50名以上になってから産業医を探し始めると期間内に間に合わない可能性も高いため、早めに探し始めることをおすすめします。

また、常時1,000人以上の労働者が従事している事業場、有害な業務に常時500人以上の労働者が従事する事業場では、専属産業医を選任することが必要です。

なお、法律や企業に課せられた義務を怠った場合は、罰則を科される可能性があります。従業員の健康と企業の信頼を守るためにも、産業医制度に関連する法律の内容や罰則について正しく把握することが大切です。

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遅沢 修平
遅沢 修平
上智大学外国語学部卒業。クラウド型健康管理サービス「first call」の法人営業・マーケティングを担当し、22年6月より産業保健支援事業部マーケティング部長に就任。
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