安全衛生教育とは?会社の義務と種類をわかりやすく解説

「安全衛生教育って、なんだか難しそう…」「法律で決まっているのは知っているけど、具体的にどのような業務をすればいいの?」

企業の担当者の方なら、一度はこう感じたことがあるかもしれませんね。

安全衛生教育は、ただ法令を守るためだけのものではありません。この教育をしっかりと実施することで、従業員がケガや病気をすることなく、毎日安心して働ける職場環境をつくることができます。

この記事では、そんな安全衛生教育の基本から、各種の種類、実施方法のコツまで、できるだけ分かりやすく、かみ砕いて解説していきます。

また、優秀な人が辞めてしまう前のメンタルヘルス対策は産業医との連携が効果的です。産業医の役割は非常に幅広いですが、産業保健の現場にある課題を理解している「first call」であれば、法令を守り、従業員のメンタルケアに繋がる産業医サービスが利用できます。

目次[非表示]

  1. 安全衛生教育とは?
    1. 従業員の安全と健康を守り労働災害を予防
    2. 労働安全衛生法で定められた会社の法的義務
    3. 義務違反には罰則があり企業の信用も失う
  2. 安全衛生教育の主な種類と対象者
    1. 必ず実施するべき3つの義務教育
    2. 行うよう努める3つの努力義務教育
    3. パートや派遣労働者など全ての従業員が対象
  3. 【種類別】安全衛生教育の具体的なカリキュラム
    1. 雇入れ時教育では安全な作業方法など基本を指導
    2. 特別教育では危険業務ごとの専門知識を指導
    3. 職長教育は現場リーダー向けのリスク管理講習
  4. 安全衛生教育の進め方と効果を上げるポイント
    1. 年間の実施計画を立てて教育記録を保管
    2. 従業員参加型の危険予知訓練でマンネリ化を防ぐ
    3. 動画教材やeラーニング、VRの活用で効果向上
  5. 知っておきたい安全衛生教育のよくある質問
    1. 最近の法改正で何が変わりましたか?
    2. 安全衛生教育の講師に資格は必要ですか?
    3. 教育の費用を抑える方法はありますか?
    4. eラーニングだけで教育は完結できますか?
    5. 教育中の賃金は支払う義務がありますか?
  6. 【まとめ】計画的な安全衛生教育の実施で安全な職場づくりを

安全衛生教育とは?

会社の中で特に大切な財産は、そこで働く「人」です。

その従業員が安全で健康に働ける環境をつくることは、企業の重要な役割といえるでしょう。

その中心となるのが「安全衛生教育」という業務です。

従業員の安全と健康を守り労働災害を予防

安全衛生教育とは、労働災害の発生を防止するため、働く人がケガをしたり病気になったりすることなく、安全に健康でいられるようにするための大切な教育の総称です。

工場での機械操作からオフィスでのパソコン作業まで、どのような職場にも事故や健康を害するリスクは潜んでいます。

この教育を受講することで、労働者一人ひとりが自分の業務にどのような危険性や有害性があるのかを理解し、うっかりミスによる事故などを予防するための知識を身につけるのです。

従業員の安全と健康を保持することは、安心して働ける企業文化を育む第一歩となるでしょう。

労働安全衛生法で定められた会社の法的義務

安全衛生教育の実施は、「できればやっておきましょう」というような任意のものではありません。労働安全衛生法という法律で、事業者に課せられたはっきりとした「法的義務」なのです。

たとえば、労働安全衛生法第59条には、新しく労働者を雇入れたときや、作業内容を変更したときには、その業務に関する安全や衛生のための教育を必ず行わなければならない、と規定されています。

このように、安全衛生教育は関係法令にもとづいて必ず実施しなければならない、事業者の重要な責務なのです。

義務違反には罰則があり企業の信用も失う

もし、法律で決められた安全衛生教育の義務を怠ってしまうと、事業者は厳しい罰則を待っています。労働安全衛生法にもとづき、50万円以下の罰金が科されることもあるのです。

ですが、本当に怖いのは罰金だけではありません。

労働基準監督署から指導を受けたり、万が一、教育不足が原因で重大な労働災害が発生してしまったりすれば、企業の社会的信用は大きく傷ついてしまいます。

「あの会社は安全管理ができていない」というイメージが広がれば、お客様や取引先が離れていくだけでなく、新しい人材の採用も難しくなってしまうでしょう。

罰金の金額以上に、企業の存続そのものを脅かすリスクになるのです。

安全衛生教育の主な種類と対象者

安全衛生教育には、その目的や対象者によっていくつかの種類があります。

法律で実施することが決められている「義務教育」と、「努力義務教育」の2つに大きく分けられます。

必ず実施するべき3つの義務教育

事業者が必ず実施しなければならない教育は、主に次の3つの種類です。

  1. 雇入れ時・作業内容変更時の教育:新しく労働者を雇ったときや、部署異動などで従事する作業内容が変わったときに実施する、基本的な安全衛生教育。
  2. 特別教育:クレーンの運転や溶接作業など、法令で定められた特に危険または有害な業務に従事する際に、その業務専門の知識と技能を教えるための講習。
  3. 職長等教育:建設業や製造業などで、現場のリーダー(職長や班長)になった人向けの教育。部下をまとめ、現場の危険を管理する能力を養います。

行うよう努める3つの努力義務教育

法律で「努めなければならない」とされ、実施が強く勧められている教育(努力義務)もあります。

  1. 安全管理者などへの能力向上教育:安全管理者や衛生管理者といった専門スタッフが、新しい法令や技術に対応できるよう、知識や能力を向上させるための教育。 
  2. 危険・有害な業務に就く人への教育:特別教育の対象ではないものの、ある程度危険な業務に従事する労働者に対して、安全を確保するために実施する教育。
  3. 健康教育・健康保持増進措置:メンタルヘルスや生活習慣病の予防など、従業員の心と体の健康をサポートするための教育や措置。健康であることが、労働災害を防止する基本になります。

パートや派遣労働者など全ての従業員が対象

安全衛生教育は、正社員だけの話ではありません。

パート、アルバイト、派遣労働者など、会社で働くすべての労働者が対象となります。

特に派遣労働者の場合、教育の実施責任は派遣元と派遣先の両方にあります。

基本的な「雇入れ時教育」は派遣元が実施しますが、派遣先の事業場で使う機械の操作方法や、その職場ならではの危険性に関する教育(特別教育など)は、現場の状況をよく知る派遣先の事業者が責任を持って実施する必要があるのです。

【種類別】安全衛生教育の具体的なカリキュラム

安全衛生教育は、その種類ごとに教えるべき講習内容が法律で決められています。

特に義務教育では、規定された科目と時間を守ることが大切です。

雇入れ時教育では安全な作業方法など基本を指導

新しく労働者を雇入れたときに実施する「雇入れ時教育」では、労働安全衛生規則で、主に以下の8項目を教えることになっています。

  • 機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること
  • 安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法に関すること
  • 作業手順に関すること
  • 作業開始時の点検に関すること
  • 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関すること
  • 整理整頓や清潔の保持に関すること
  • 事故時等における応急措置及び退避に関すること
  • その他、当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項

ただし、オフィスワークが中心で、危険な機械や有害な物を使わない業種(小売業や旅館業など)では、上の1~4番の科目は省略しても良いことになっています。

特別教育では危険業務ごとの専門知識を指導

「特別教育」は、感電や爆発、機械への巻き込まれといった、重大な労働災害につながりやすい特定の危険な業務(法令で49業務が指定)に従事する労働者が対象です。

これは免許のような資格とは少し違いますが、この教育を修了しないと、当該業務には就けません。アーク溶接やフォークリフトの運転(最大荷重1トン未満)などが代表例です。

それぞれの業務ごとに、学科と実技で学ぶ講習内容と時間が細かく決まっており、受講後に修了証が発行されるのが一般的です。

業務名
主な内容
学科
実技
アーク溶接
金属の溶接・溶断作業
11時間
10時間
低圧電気取扱(充電電路の敷設・修理等)
600V以下の低圧充電電路の工事等
7時間
7時間
自由研削といしの取替え等
グラインダー等の砥石交換・試運転
4時間
2時間

職長教育は現場リーダー向けのリスク管理講習

「職長教育」は、建設業や製造業などで、現場の作業者を直接指導・監督するリーダー(職長)になった人が受講する教育です。

この教育の目的は、現場の安全衛生を確保するリーダーを育成することにあります。

カリキュラムは単に作業を教えるのではなく、危険を予測して対策を立てる「リスクアセスメント」や、部下への指導方法といった、リーダーシップに関する内容が中心です。

職長は経営層と現場をつなぐ「安全のキーパーソン」であり、その能力を向上させる教育はとても重要といえるでしょう。

安全衛生教育の進め方と効果を上げるポイント

法律で決められた教育をただこなすだけでは、本当の意味での安全な職場は作れません。

教育を意味のあるものにし、従業員の行動を変えるためには、計画的な実施と講習内容の工夫が必要です。

年間の実施計画を立てて教育記録を保管

効果的な教育のためには、まず年間の実施計画を立てることが大切です。

「いつ、誰に、どのような教育を実施するか」を年度初めに決めておけば、体系的に人材を育てられます。

そして、教育を実施したらその記録を必ず作って保管しましょう。

特に特別教育の記録は、受講者、科目、時間などを記録し、3年間の保存が法律で義務付けられています(労働安全衛生規則第38条)。

この記録は、事業者が法的義務を果たしたことを証明する大切な資料になるのです。

書類名
保存期間
根拠法令
特別教育の記録
3年間
安衛則第38条
安全衛生委員会議事録
3年間
安衛則第23条
健康診断個人票
5年間
安衛則第51条
粉じん作業環境測定記録
7年間
粉じん則第26条
特定化学物質作業記録(特別管理物質)
30年間
特化則第38条の4

従業員参加型の危険予知訓練でマンネリ化を防ぐ

毎回同じ内容の安全教育では、どうしてもマンネリになってしまいがちです。

そこでおすすめなのが、従業員が参加する「危険予知訓練(KYT)」です。

職場のイラストなどを使いながら「どのような危険が隠れているか」を話し合い、対策を考えるトレーニングになります。

この訓練の良いところは、労働者が受け身ではなく自分たちで危険を探し、対策を考える点です。

これにより危険に対するアンテナの感度が向上し、「自分ごと」として安全を考える文化が育っていくでしょう。

動画教材やeラーニング、VRの活用で効果向上

最近では、新しい技術を活用して教育効果を高める方法も増えています。

eラーニングなら時間や場所を選ばずに学べるので、特に学科の勉強が効率的になります。

従業員は自分のペースで学べますし、企業も集合研修のコストを抑えられるでしょう。

さらに注目されているのがVR(バーチャルリアリティ)の活用です。VRを使えば、高所からの落下や機械への巻き込まれといった、現実では体験したくない危険な状況を、安全な環境でリアルに体験できます。

VRによる強烈な疑似体験は、危険を「自分ごと」として深く心に刻み込み、とっさの状況での正しい行動につながるのです。

知っておきたい安全衛生教育のよくある質問

ここでは、安全衛生教育についてよくある質問を見ていきましょう。

最近の法改正で何が変わりましたか?

2024年から2025年にかけて、労働安全衛生法に関するいくつかの重要な改正が施行されます。

  • 化学物質の管理が厳しくなる(2024年〜):管理が必要な化学物質が増え、「化学物質管理者」などの専門家の選任が義務化されました。また、化学物質を取り扱う事業場での雇入れ時教育も内容が拡充されています。
  • 保護する人の範囲が広がる(2025年4月〜):これまでは自社の従業員だけが対象だった安全措置(危険な場所への立ち入り禁止など)が、現場にいる一人親方や他社の作業員など、関係者全員に広がります。
  • 報告が電子申請になる(2025年1月〜):労働災害の報告などが、原則としてインターネット経由での電子申請に変わります。

安全衛生教育の講師に資格は必要ですか?

自社で教育を実施する場合、講師に特定の国家資格は法律上必須ではありません。

ただし、誰でも良いわけではなく「教える講習内容について十分な知識や経験がある人」が講師を務めるべき、と通達などで示されています。

具体的には、その業務に長年従事してきたベテラン社員や、現場の管理者、安全衛生の担当者などが考えられます。

事業者として、なぜその人が講師にふさわしいのかを説明できるようにしておくことが大切です。

教育の費用を抑える方法はありますか?

はい、国の助成金を活用できる場合があります。

代表的なものに「人材開発支援助成金」という制度があります。

これは事業者が従業員に仕事に関する訓練を受講させた場合に、かかった費用や訓練時間中の賃金の一部を国が助成してくれるものです。

建設業向けのコースでは受講料の最大75%や、訓練中の日当などが助成されることもあります。

ただし、製造業は対象外になるなど、自社の業種で使えるかどうかの確認が必要です。

eラーニングだけで教育は完結できますか?

いいえ、eラーニングだけでは完結しません。

厚生労働省の通達により、学科については一定の条件を満たせばeラーニングで問題ないとされています。

しかし、特別教育などで定められている実技教育についてはこれまで通り、実際に顔を合わせて実施しなければならない、と決められています。

学科はeラーニング、実技は対面、という組み合わせが正しい実施方法です。

教育中の賃金は支払う義務がありますか?

はい、支払う義務があります。

法律にもとづいて事業者が実施する安全衛生教育の時間は、労働時間とみなされます。

そのため、教育時間に対してはもちろん給料の支払いが必要です。

もし会社の指示で休日や時間外に教育を実施した場合は残業扱いとなり、割増賃金を支払う必要があります。

【まとめ】計画的な安全衛生教育の実施で安全な職場づくりを

安全衛生教育は、労働安全衛生法に定められた企業の法的義務であり、従業員を守り、会社を守るための重要な活動です。

罰則や信用の低下といったリスクを避けるためにも、その大切さをしっかりと理解しておきましょう。

成功のポイントは、計画を立てて継続的に実施することです。

自社に必要な教育の種類(義務・努力義務)を把握し、年間の実施計画を立て、実施した記録を残す。このサイクルを確立することが、安全な職場づくりの第一歩となります。

そして、危険予知訓練(KYT)やVRのような新しい教材も活用しながら、教育をマンネリ化させない工夫も大切です。

計画的な安全衛生教育を通じて、誰もが安心して働ける、活気ある職場を目指していきましょう。

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遅沢 修平
遅沢 修平
上智大学外国語学部卒業。クラウド型健康管理サービス「first call」の法人営業・マーケティングを担当し、22年6月より産業保健支援事業部マーケティング部長に就任。

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