
安全管理者と衛生管理者の違いとは?選任義務や仕事内容、兼任の可否を比較
「安全管理者」と「衛生管理者」、どちらも会社で働く人たちのために大切な役割を担う存在ですが、名前が似ていることもあって「どう違いがあるの?」と感じる方も多いのではないでしょうか。
この2つの管理者の違いをしっかりと理解しておくことで、労働安全衛生法で定められた義務を守ることにつながり、企業のコンプライアンスを確保できます。
それだけではなく、それぞれの専門家が正しく配置されることで、職場の安全と従業員の健康がより高いレベルで守られるようになるでしょう。
結果として労働者は安心して仕事ができ、労働災害や病気のリスクが減少します。
この記事では、安全管理者と衛生管理者の役割や仕事内容、選任の条件といった基本的な違いから、資格の取得方法、兼任はできるのか?といった気になるポイントまで、わかりやすく解説します。
最新の情報を知っておくことはますます重要になっています。ぜひ職場の安全衛生管理体制を見直すきっかけにしてみてください。
また、優秀な人が辞めてしまう前のメンタルヘルス対策は、産業医との連携が効果的です。産業医の役割は非常に幅広いですが、産業保健の現場にある課題を理解している「first call」であれば、法令を守り、従業員のメンタルケアに繋がる産業医サービスが利用できます。
目次[非表示]
安全管理者と衛生管理者の違い比較表
まず、安全管理者と衛生管理者の主な違いを、ひと目でわかる比較表で見ていきましょう。
全体像をつかんでおくと、この後の詳しい解説が頭に入りやすいはずです。
項目 | 安全管理者 | 衛生管理者 |
---|---|---|
主な役割 | 労働災害の防止(ケガの防止) | 労働者の健康障害の防止(病気の防止) |
管理対象 | 建物、設備、機械、作業方法など物理的な「モノ・コト」 | 作業環境、労働衛生教育、健康管理など「ヒト・環境」 |
根拠法令 | 労働安全衛生法第11条 | 労働安全衛生法第12条 |
選任義務のある業種 | 建設業、製造業など特定の業種のみ | すべての業種 |
選任義務のある事業場規模 | 常時使用する労働者が50人以上の事業場 | 常時使用する労働者が50人以上の事業場 |
資格取得方法 | 学歴+実務経験+指定研修の修了 | 国家試験の合格による免許取得 |
巡視頻度 | 法令上の定めなし(職務として随時実施) | 少なくとも週に1回 |
役割の違いはケガ防止と病気防止
安全管理者と衛生管理者の最も大きな違いは、その役割にあります。
安全管理者の役割は、職場にある物理的な危険から従業員を守り、転んだり、落ちたり、機械に挟まれたりといった、仕事中の思わぬケガ(労働災害)を防止することなのです。
いわば「安全」のプロフェッショナルとして、事故を未然に防ぐための具体的な措置や対策を考えます。
一方、衛生管理者の役割は従業員の「健康」を守ること。
有害な物質を吸い込んだり、無理な姿勢での作業で腰を痛めたり、働きすぎで心のバランスを崩したりといった、仕事が原因で起こる病気や健康障害を防止します。
こちらは「衛生」のプロとして、従業員が長く元気に働けるように健康を管理していくのです。
業務の対象は機械などのモノと作業環境などのヒト
役割が違えば、仕事で向き合う対象も変わってきます。
安全管理者が主に目を向けるのは、機械や設備、作業をする場所、作業方法といった、物理的な「モノ」や「コト」です。
現場の危ない場所を見つけ出し、安全装置をつけたり、作業の手順を改善したりといった技術的な対策を実施します。
それに対して、衛生管理者が向き合うのは、働く「人」とその職場環境といえるでしょう。
作業スペースが衛生的か調査したり、健康に異常を抱えている人がいないか気を配ったり、労働衛生に関する教育を行ったりと、人の健康管理に直接関わる業務が中心になるのです。
選任義務はすべての業種と特定の業種で違う
法律を守る上で、特に知っておきたい違いが、選任が義務付けられる範囲です。
安全管理者を置く必要があるのは、労働災害の発生リスクが高いとされる特定の業種に限られます。
具体的には、林業、鉱業、建設業、製造業(物の加工業を含む)、運送業、清掃業、卸売業・小売業(一部)などで、常時50人以上の労働者がいる事業場が該当します。
一方、衛生管理者は業種に関係なく、常時50人以上の労働者がいるすべての事業場で選任が義務付けられています。
これはオフィスワーク中心の企業でも、ストレスや職場の衛生状態といった健康のリスクはどこにでもある、という考え方に基づいています。
そのため、自社が安全管理者の選任義務がない業種でも、従業員が50人を超えたら衛生管理者の選任は必要になる、ということを覚えておきましょう。
安全管理者と衛生管理者の役割と仕事内容の違い
それぞれの役割や対象の違いがわかったところで、次は具体的な仕事内容(職務)の違いをもう少し詳しく見ていきましょう。
- 安全管理者の仕事は事業場の物理的な危険をなくす業務
- 衛生管理者の仕事は従業員が健康に働ける環境をつくる業務
安全管理者の仕事は事業場の物理的な危険をなくす業務
安全管理者は、職場の安全に関する技術的な事項を管理する専門家です。
職場に潜む物理的な危険を見つけ出し、先回りして取り除く活動が中心となります。
- 現場を巡視して危ない箇所があればすぐに応急措置をしたり、事故が起きないように防止の対策を講じる
- 安全装置やヘルメットなどの保護具が機能するか定期的に点検し、整備する
- 従業員に安全な作業の仕方を教えたり、火事を想定した避難訓練などを計画して実施する
- 万が一労働災害が発生してしまったら、その原因を調査し、二度と繰り返さないための対策を検討する
- 安全活動の計画書や報告書などの資料を作成・収集し、重要事項を記録する
- 法律で定められた作業主任者たちの業務を監督する
これらの業務を通じて職場の危険をなくし、労働災害を未然に防止しているのです。
衛生管理者の仕事は従業員が健康に働ける環境をつくる業務
衛生管理者は、従業員が心も体も健康に働ける環境をつくり、それを維持する専門家です。
継続的な職場のモニタリングと従業員へのケアが仕事の中心になります。
- 法律で少なくとも週に1回は職場を見て回ることが決められている
- 作業方法や衛生状態に問題がないかをチェックし、改善が必要な点があればすぐに行動する
- 巡視などを通じて体調の優れない従業員を早めに見つけて休憩を促すことや、産業医と連携をおこなう
- 職場の温度や湿度、有害な化学物質がないかなどを調査し、必要であれば換気設備の設置や作業方法の改善を提案する
- 従業員に健康に関する教育をおこなうことや、健康についての相談に対応する
- 防じんマスクや救急箱などが、いつでも使える状態になっているか点検をおこなう
- 病気やケガの統計を作成し、対策に活用する
- 日々の活動を衛生日誌などに記録し、管理する
これらの仕事は従業員の健康を直接守るものであり、企業の健康経営を支える大切な土台といえるでしょう。
安全管理者と衛生管理者の選任義務の違い
安全管理者と衛生管理者の選任は、法律で定められた会社の義務です。
ですが、その義務が発生する条件(業種と規模)には違いがあります。
- 安全管理者は建設業や製造業など特定の業種で選任が義務
- 衛生管理者は常時50人以上の労働者を使う全事業場で選任が義務
- 事業場の規模によって必要な管理者の人数も違う
安全管理者は建設業や製造業など特定の業種で選任が義務
安全管理者を置く必要があるのは、労働災害のリスクが高いと法律で決められている業種だけです。
具体的には、以下のような業種で常時50人以上の労働者がいる事業場が該当します。
- 林業
- 鉱業
- 建設業
- 製造業(物の加工業を含む)
- 運送業
- 清掃業
- 電気業
- ガス業
- 水道業
- 卸売業
- 小売業
- 自動車整備業
- 機械修理業
衛生管理者は常時50人以上の労働者を使う全事業場で選任が義務
衛生管理者は業種に関係なく、常時50人以上の労働者がいるすべての事業場で選任する必要があります。
ここでいう「事業場」とは、工場や支店、店舗といった場所として独立している事業所のことです。
「常時使用する労働者」には正社員だけでなく、パートやアルバイト、派遣社員も含まれるので、人数を数えるときには注意しましょう。
事業場の規模によって必要な管理者の人数も違う
事業場の規模(従業員の数)が大きくなると、必要な管理者の人数も増えていきます。
衛生管理者の場合、従業員の数に応じて次のように選任する必要があります。
常時使用する労働者数 | 必要な衛生管理者数 |
---|---|
50人以上200人以下 | 1人以上 |
200人超~500人以下 | 2人以上 |
500人超~1,000人以下 | 3人以上 |
1,000人超~2,000人以下 | 4人以上 |
2,000人超~3,000人以下 | 5人以上 |
3,000人超 | 6人以上 |
また、事業場の規模や業種によっては、その仕事に専念する「専任」の管理者を置くことが義務付けられています。
例えば、常時1,000人を超える従業員がいる事業場では、専任の衛生管理者が必要です。
安全管理者と衛生管理者になるための資格要件の違い
安全管理者や衛生管理者になるには、それぞれ決められた資格要件をクリアする必要があります。
その取得プロセスにも、それぞれの役割の特徴が表れているのです。
- 安全管理者の資格要件は実務経験と指定研修の修了
- 衛生管理者の資格は国家試験合格で取得する免許
- 衛生管理者の第一種と第二種免許では担当できる業種が違う
安全管理者の資格要件は実務経験と指定研修の修了
安全管理者になるために、特別な国家試験はありません。
その代わり、学歴に応じた年数の「産業安全の実務経験」と、厚生労働大臣が定める「安全管理者選任時研修」という講習を修了することが要件です。
例えば、学校教育法による理科系の大学や高等専門学校を卒業した人なら2年以上、高等学校を卒業した人なら4年以上の実務経験が求められます。
この「産業安全の実務」には、生産ラインでの管理業務なども含まれます。
衛生管理者の資格は国家試験合格で取得する免許
衛生管理者になるには、「衛生管理者免許」という国家資格を取得する必要があります。
この免許は、国が実施する試験に合格することで手に入ります。
この試験を受けるための受験資格としても、学歴に応じた「労働衛生の実務経験」が必要です。
例えば、大学を卒業した人なら1年以上、高等学校を卒業した人なら3年以上の実務経験が求められます。
衛生管理者の第一種と第二種免許では担当できる業種が違う
衛生管理者免許には、主に「第一種衛生管理者」と「第二種衛生管理者」の2種類があり、どちらを持っているかで担当できる業種が変わってきます。
- 第二種衛生管理者免許:金融業や小売業など、健康への有害性が比較的少ない業種を担当できる
- 第一種衛生管理者免許:すべての業種を担当できる
建設業や製造業、医療業、運送業といった有害な業務を含む可能性のある業種では、第一種の免許が必要になるのです。
安全管理者と衛生管理者の兼任と関連役職との違い
安全と衛生の管理体制を考えるとき、管理者の兼任や、ほかの役職との関係を理解しておくことも大切です。
- 資格要件を満たせば安全管理者と衛生管理者の兼任は可能
- 総括安全衛生管理者は安全管理者と衛生管理者を指揮する役割
資格要件を満たせば安全管理者と衛生管理者の兼任は可能
一人の人が安全管理者と衛生管理者の両方の資格要件を満たしていれば、法律上、二つの役職を兼任することは可能です。
ただし、実際にはあまりおすすめできません。安全と衛生では専門分野が異なり、どちらの仕事も業務量が多いからです。
兼任するとどちらかの業務がおろそかになり、管理の質が下がってしまう危険があります。
やむを得ない場合を除いては、それぞれ別の担当者を選任するのが理想的といえるでしょう。
総括安全衛生管理者は安全管理者と衛生管理者を指揮する役割
従業員が多い大規模な事業場では、安全管理者と衛生管理者の上に、安全衛生のすべてをまとめるリーダーとして「総括安全衛生管理者」を置くことが義務付けられています。
この役職には工場長や作業所長など、その事業場のトップが就くのが一般的です。
総括安全衛生管理者は安全管理者や衛生管理者を指揮し、職場全体の安全衛生に関する方針を決めたり、計画を立てたりする役割を担うのです。
安全管理者と衛生管理者の違いに関するよくある質問
ここでは、安全管理者と衛生管理者の違いに関するよくある質問について、解説していきます。
- 安全管理者と衛生管理者の最も大きな違いは何ですか?
- 安全管理者と衛生管理者を一人で兼任する場合の注意点は?
- 安全管理者や衛生管理者の選任を怠ると罰則はありますか?
安全管理者と衛生管理者の最も大きな違いは何ですか?
一番の違いは、守る対象と目的です。
安全管理者は機械や設備といった「モノ」を管理して、仕事中の「ケガ」を防止します。
選任が必要なのは建設業や製造業など一部の業種です。
一方、衛生管理者は、働く「人」と「環境」を管理して、仕事が原因の「病気」や健康障害を防止します。
こちらは従業員が50人以上いれば、すべての業種で選任が必要になります。
安全管理者と衛生管理者を一人で兼任する場合の注意点は?
法律的には可能ですが、注意が必要です。
両方の仕事を一人でこなすのは業務の負担がとても大きく、専門性も異なるため、管理の質が落ちてしまうリスクがあります。
また、労働基準監督署から、それぞれ別の担当者を置くように指導されることもあります。
専任が義務付けられている事業場では、そもそも兼任はできません。
安全管理者や衛生管理者の選任を怠ると罰則はありますか?
はい、罰則があります。
安全管理者や衛生管理者を選任する義務があるのに選んでいなかった場合、労働安全衛生法に基づき、50万円以下の罰金が科される可能性があります。
選任が必要になった日から14日以内に選任し、労働基準監督署に報告書を提出する必要があるので、しっかりと対応しましょう。
【まとめ】安全管理者と衛生管理者の違いを理解して適切な安全衛生管理をしよう
今回は安全管理者と衛生管理者の違いについて、役割や仕事内容、選任義務、資格要件など、さまざまな角度から解説しました。
- 安全管理者は主に建設業や製造業などで選任され、機械などの物理的な危険から従業員を守る「ケガの防止」の専門家
- 衛生管理者は従業員50人以上のすべての事業場で選任され、職場環境や健康管理を通じて「病気の防止」を担う専門家
この2つの役職は、従業員の安全と健康を確保するという共通の目的を持ちながら、それぞれ異なる専門性でアプローチします。
事業者や人事・労務管理を担当する方は、この機会に自社の業種や従業員数を調査し、法律で定められた選任義務を果たせているか、ぜひチェックしてみてください。
もし社員の健康リスクに対する課題解決に悩んでいるのであれば、産業医の紹介や、全国どこでも面談予約・実施・意見書管理までシステム上で実施可能で、オンライン産業医面談が利用できる「first call」の活用が効果的です。