
安全衛生とは?労働安全衛生法の義務からリスクアセスメントまで解説
「安全衛生」と聞くと、少し難しくて自分には関係ないかな、と感じる方もいるかもしれません。
ですが、これは労働者一人ひとりと企業全体を守るための、とても大切な活動なのです。
安全衛生の法律やその目的をしっかりと理解して企業全体で取り組むことには、多くのメリットがあります。
この記事では、そんな「安全衛生」の基本から、労働安全衛生法で定められた事業者の義務、そして「リスクアセスメント」や「メンタルヘルス対策」といった具体的な活動内容まで、網羅的に解説していきます。
また、優秀な人が辞めてしまう前のメンタルヘルス対策は産業医との連携が効果的です。産業医の役割は非常に幅広いですが、産業保健の現場にある課題を理解している「first call」であれば、法令を守り、従業員のメンタルケアに繋がる産業医サービスが利用できます。
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安全衛生とは?
「安全衛生」とは、一言でいうと職場における労働者の安全と健康を確保し、誰もが気持ちよく働ける快適な職場環境の形成を促進するための活動全般を指します。
物理的な事故の防止から心の健康維持まで、その範囲は広いのが特徴です。
もともとは、高度経済成長期に多発した労働災害の発生を防止するために、1972年に「労働安全衛生法」という法律が制定されたのが始まりでした。
今では法令を遵守するというだけでなく、企業にとって大切な財産である「人材」がいきいきと活躍するための、重要な取り組みと位置づけられています。
- 労働災害によるケガを防ぐ「安全」と従業員の病気を防ぐ「衛生」
- 従業員が健康で働ける職場は企業の生産性を上げる
- 会社の社会的信頼を守り経営リスクを減らすことにつながる
労働災害によるケガを防ぐ「安全」と従業員の病気を防ぐ「衛生」
安全衛生は、「安全」と「衛生」という2つの側面から成り立っています。
まずはこの違いを理解することが重要です。
「安全」が目指すのは、仕事が原因で従業員がケガをすることを防止することです。
たとえば、工場の機械の危険な部分にカバーを付けたり、危険な作業の手順を見直したりといった、物理的な危険源を除去・低減する措置がこれにあたります。
労働災害は設備などの「不安全な状態」と、労働者の「不安全な行動」が重なったときに発生しやすいため、両方からのアプローチが必要です。
一方で「衛生」が目指すのは、業務に起因する従業員の病気を防止することです。
有害な化学物質や騒音といった作業環境から体を守ることはもちろん、近年では長時間の仕事や人間関係のストレスが原因となる心の不調(メンタルヘルス不調)を防止することも、とても重要視されています。
従業員の心身の健康を維持し、健康で働き続けられる快適な職場環境を形成することが衛生の目的なのです。
従業員が健康で働ける職場は企業の生産性を上げる
従業員の安全と健康が確保された職場環境は、自然と活気が出て、企業全体の生産性も向上します。
心身ともにコンディションが良ければ、仕事への集中力やモチベーションも高まるでしょう。
特に心の健康は生産性に大きく影響します。
精神的な不調があると生産性が大きく低下してしまうことも懸念されており、身体的な不調よりも大きな影響となる場合もあります。
だからこそ、ストレスチェックのようなメンタルヘルス対策は、従業員のためだけではなく企業の成長にとっても欠かせない経営戦略と言えるでしょう。
会社の社会的信頼を守り経営リスクを減らすことにつながる
安全衛生への取り組みは企業の社会的信頼を維持し、経営上の思わぬリスクを低減させるためにも重要です。
もし労働安全衛生法で定められた義務を怠って重大な労働災害が発生してしまうと、企業はさまざまな問題に直面することになります。
被災した従業員への補償や、行政からの罰則といった直接的なダメージだけではありません。
「従業員を大切にしない会社」というイメージが広がれば、お客様や取引先が離れてしまったり、新しい人材が集まりにくくなったりする可能性もあるでしょう。
日頃から計画的な安全衛生活動を推進することで、従業員を守ることはもちろん、企業そのものを守ることができる重要なリスク管理なのです。
企業の安全衛生で重要な労働安全衛生法と事業者の義務
労働安全衛生法には、事業者が労働者の安全と健康のために講じるべき具体的な措置が定められています。
これらの義務は事業場の規模や業種に応じて、やらなければならないことが決まっています。
- 衛生管理者や産業医など専門スタッフを選任する義務
- 安全衛生委員会を設置し月1回以上開催する義務
- 従業員へ雇い入れ時などに安全衛生教育を行う義務
- 従業員へ年に一度の健康診断を受けさせる義務
- 義務違反には50万円以下の罰金など罰則がある
衛生管理者や産業医など専門スタッフを選任する義務
事業者は、そこで働く労働者(パートやアルバイトも含む)の人数や業種に応じて、安全衛生管理体制の中核となる専門スタッフを選任・配置する義務があります。
代表的な専門スタッフには、以下のような役割があります。
衛生管理者
常時50人以上の労働者を使用するすべての企業で選任が必要な、国家資格を持つ専門家です。
主な職務は職場を巡回して衛生状態をチェックしたり、従業員の健康相談に乗ったりと、主に「衛生」面から職場環境を改善していくことになります。
安全管理者
建設業や製造業など、法令で指定された業種で常時50人以上の労働者を使用する場合に選任が必要です。
機械や設備の安全点検や、事故が発生した際の原因調査と再発防止対策を考えるなど、主に「安全」面を担当します。
産業医
常時50人以上の労働者を使用するすべての企業で選任が必要な、医師である専門家です。
健康診断の結果をチェックしたり、長時間労働者や強いストレスを感じている人と面談指導をしたりと、医学的な視点から従業員の健康管理をサポートします。
専門的な内容も多い産業医との契約は、経験豊富な産業医紹介会社に相談するのがおすすめです。first callの産業医サービスは、ご要望に合わせた産業医をご紹介し、法令に沿った業務実施のサポートが可能です。
総括安全衛生管理者
建設業で100人以上、製造業で300人以上など、比較的規模の大きな事業場で選任されます。
工場長や支店長などが就くことが多く、安全管理者や衛生管理者を指揮し、事業場全体の安全衛生に関する業務を統括管理する責任者です。
安全衛生委員会を設置し月1回以上開催する義務
常時50人以上の労働者を使用する事業場では、安全や衛生に関する重要事項を調査審議するための「委員会」を設置する義務があります。
この委員会は安全と衛生の両方が必要な場合は「安全衛生委員会」、衛生のみの場合は「衛生委員会」と呼ばれます。
委員会では労働災害を防止するための対策や、従業員の健康障害を防止するための改善策などを、事業者側と労働者側が一体となって話し合います。
この会議は毎月1回以上開催する必要があり、話し合った内容は議事録として作成し、従業員に周知する規定になっています。
従業員へ雇い入れ時などに安全衛生教育を行う義務
事業者は新しく労働者を雇い入れたときや、作業内容を変更したときには、その業務に関する安全衛生教育を実施する義務があります。
正社員だけでなく、パートやアルバイトなどすべての労働者が対象です。
安全衛生教育の目的は、労働者自身が仕事に潜む危険を理解し、安全に行動するための知識を身につけることです。
たとえば、機械の安全な操作方法、整理整頓の重要性、事故発生時の対応方法などを学びます。
事務職であっても、パソコン作業での健康管理や災害時の避難方法など、業務に応じた教育が必要です。
従業員へ年に一度の健康診断を受けさせる義務
事業者は常時使用する労働者に対して、年に1回、定期的に健康診断を実施する義務があります。
そして、労働者側にもこれを受ける義務が定められています。
健康診断にはすべての労働者が対象の「一般健康診断」と、有害な化学物質などを扱う特定の業務に就く人が対象の「特殊健康診断」があります。
事業者は健康診断の結果をもとに、必要があれば産業医などの医師の意見を聞き、就業場所の変更や労働時間の短縮といった措置を講じなければなりません。
義務違反には50万円以下の罰金など罰則がある
これまで解説してきた労働安全衛生法の義務は努力目標ではないため、もし法令に違反した場合、罰則が科される規定があります。
たとえば、衛生管理者や産業医を選任しなかったり、健康診断を実施しなかったりすると、50万円以下の罰金となる可能性があります。
悪質な違反の場合はさらに重い罰則が科されることもあるため、事業者はこれらの義務をしっかりと遵守する必要があるのです。
安全衛生活動のリスクアセスメントの進め方
「リスクアセスメント」は、職場の危険性や有害性を事故が発生する前に特定し、対策を立てるための手法です。
法律でも、事業者はこの取り組みを行うよう努めることとされています。
現場の危険に対するアンテナを高くすることで、安全な文化を形成するための重要な活動なのです。
- 職場の危険や有害な要因を洗い出して特定する
- 特定した危険性のリスクの大きさを見積もり評価する
- 評価に基づきリスクを減らすための対策を実行する
職場の危険や有害な要因を洗い出して特定する
最初のステップは、職場にどのような危険性や有害性があるかを網羅的に洗い出し、特定することです。
過去の労働災害事例や、「ヒヤリとした」「ハッとした」(ヒヤリハット)という体験談を参考にしたり、実際に現場を歩いて「危ないかも」と感じる場所を調査したりします。
このとき経験豊富なベテランだけでなく、新人の新鮮な視点も大切にすると、思わぬ危険が見つかることもあるでしょう。
現場で働く労働者の声に耳を傾けることが、何よりも重要です。
特定した危険性のリスクの大きさを見積もり評価する
次に、洗い出した危険一つひとつについて、その「リスクの大きさ」を見積もり、評価します。
リスクの大きさは、主に「もし事故が起きたらどれくらい大変なことになるか(重篤度)」と、「その事故がどれくらいの確率で発生しそうか(可能性)」の2つの要素で考えます。
この2つを点数化して掛け算や足し算をすることで、リスクの大きさを数値で見える化します。
こうすることで、「すぐに対策が必要なとても危険なリスク」から、「様子を見ても大丈夫そうな許容可能なリスク」まで、対応の優先順位を客観的に決定できるのです。
評価に基づきリスクを減らすための対策を実行する
リスクの評価が終わったら、いよいよリスク低減措置の検討・実施です。
優先順位の高いものから、どうすればそのリスクを小さくできるかを考えて行動に移します。
対策を検討するときには、効果の高い順に進めるのが基本の方法です。
- なくす・変える:危険な作業そのものをなくしたり、より安全な方法や材料に変えたりします。これが最も効果的な対策です。
- 工学的な対策:機械に安全カバーを設置するなど、物理的な設備で危険から人を遠ざける方法です。
- 管理的な対策:安全な作業マニュアル(作業手順書)を整備したり、危険な場所に立入禁止のルールを設けたりします。
- 保護具の着用:ヘルメットや安全メガネなど、個人が身につける保護具で体を守ります。これは、他の対策をしても残るリスクに対する最終手段です。
対策を実施した後はそれで本当に安全になったかを確認し、この一連のプロセスを記録していくことが、職場の安全レベルを向上させることにつながります。
職場の安全衛生で重要な従業員のメンタルヘルス対策
職場における「衛生」管理では、身体的な健康だけでなく従業員の心の健康、すなわちメンタルヘルス対策が重要になっています。
厚生労働省も、労働者自身、管理監督者、事業場内の専門スタッフ、外部の専門機関がそれぞれの役割を担い支援体制を構築する、「4つのケア」という考え方を推進しています。
ここでは、メンタルヘルス対策について詳しく解説していきます。
- ストレスチェックを実施し従業員自身の不調への気づきを促す
- 管理職が部下の変化に気づき相談しやすい環境をつくる
- 不調者が出た場合は産業医など専門家と連携し対応する
ストレスチェックを実施し従業員自身の不調への気づきを促す
2015年から、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、年に1回の「ストレスチェック」の実施が義務になりました。
これは「心の健康診断」のようなものです。
一番の目的は労働者自身が自らのストレス状況に気づき、「セルフケア」、つまり自分で自分をいたわるきっかけにしてもらうことです。
結果は本人にだけ知らされ、本人の同意がなければ事業者に提供されることはありません。
また、事業者は個人が特定されないように結果を集計・分析し(集団分析)、「うちの部署は仕事の量的負担が大きいみたいだから、業務分担を見直そう」というように、職場環境の改善に活用することが求められています。
管理職が部下の変化に気づき相談しやすい環境をつくる
管理監督者による「ラインケア」は、メンタルヘルス対策のなかでも特に重要です。
上司は部下の「いつもと違う」変化という不調のサインに気づきやすい立場にいます。
遅刻が増えたり口数が減ったりといったサインは、メンタルヘルス不調の兆候かもしれません。
大切なのは部下が「困ったな」と思ったときに、安心して相談できる雰囲気をつくることです。
定期的に1対1で話す時間を作ったり、部下の話を最後まで聴いたりする姿勢が、信頼関係を育みます。
不調者が出た場合は産業医など専門家と連携し対応する
もし部下に不調が見られたら上司一人で抱え込まず、速やかに専門家と連携しましょう。
社内にいる産業医に相談を勧めたり、企業が契約している外部の相談窓口(EAP)を紹介したりするのが一般的です。
また、メンタルヘルス不調で休職した労働者が職場復帰する際には、丁寧なサポートが必要です。
本人、主治医、産業医、上司が協力して無理のない「職場復帰支援プラン」を作成します。
最初は時短勤務から始めたり、負担の少ない業務から担当させたりと、段階的に慣らしていくことが再発を防止する上で重要になるでしょう。
安全衛生に関するQ&A
ここでは、安全衛生に関するよくある質問について解説していきます。
- 安全管理者と衛生管理者の違いとは何ですか?
- パートやアルバイトも対象になりますか?
- 労働基準法とはどう違うのですか?
安全管理者と衛生管理者の違いとは何ですか?
安全管理者と衛生管理者はどちらも職場の専門家ですが、その管理対象(役割)と選任要件(資格や業種)に違いがあります。
- 安全管理者:主に仕事中のケガ(労働災害)を防止するのが役割です。機械や設備、作業方法の安全を管理します。建設業や製造業など、特定の業種で選任が義務付けられています。
- 衛生管理者:主に仕事が原因となる病気を防止するのが役割です。作業環境を衛生的に保ったり、メンタルヘルス対策を進めたりと、「人」の健康を管理します。こちらは、すべての業種で選任が義務付けられています。
パートやアルバイトも対象になりますか?
はい、対象になります。
労働安全衛生法は、正社員や契約社員、パート、アルバイトといった雇用形態を問わず、事業場で働くすべての「労働者」に適用される法律です。
そのため、産業医や衛生管理者の選任が必要かどうかを判断する「常時使用する労働者数」には、パートやアルバイトの方も含まれます。
また、一定の条件を満たせば健康診断や雇い入れ時の安全衛生教育も、正社員と同じように受ける権利と義務があります。
労働基準法とはどう違うのですか?
労働安全衛生法と労働基準法は、どちらも労働者を保護する重要な法律ですが、その目的や定める内容に違いがあります。
もともと安全衛生は労働基準法の一部でしたが、より専門的な法律として独立した、という経緯があるのです。
「労働基準法」は賃金や労働時間、休日など、働く上での「最低限の労働条件の基準」を定めた法律です。
人間らしい生活を送るための基本的な権利を守ることが目的です。
一方で「労働安全衛生法」は、労働者の「安全と健康の確保、快適な職場環境の形成」を目的とした法律です。
最低基準の遵守にとどまらず、事故や病気を未然に防ぐために、事業者がより積極的に取り組むべき具体的な措置が定められているのが特徴です。
【まとめ】企業の安全衛生とは従業員と会社を守る活動
本記事では、「安全衛生」という活動について、基本から具体的な取り組みまでを解説してきました。
安全衛生とは、法令遵守の枠を超えた企業経営の根幹に関わる重要な活動です。
目的は企業の大切な財産である労働者一人ひとりを、業務上の危険や健康障害から防止することにあります。
労働安全衛生法に定められた衛生管理者や産業医の選任、安全衛生委員会の設置、健康診断や安全衛生教育の実施といった義務を確実に履行することは、当然重要になります。
そのうえで、リスクアセスメントを通じて職場の潜在的な危険を体系的に管理し、ストレスチェックやラインケアといったメンタルヘルス対策を推進することで、労働者が心身ともに健康で、安心して能力を発揮できる快適な職場環境をつくることができるでしょう。
安全衛生への取り組みは従業員と企業のお互いを守ることができ、持続的な成長に繋がる大事な活動なのです。
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