
産業医面談は義務? 必要なケースと拒否された場合の対応について解説
企業では、従業員の健康リスクに応じて、医療機関の受診勧奨や就業上の配慮などの適切な措置を講じるために、法令に基づいた産業医面談の実施が必要です。
産業医面談では、病気やメンタルヘルス不調を早期発見することを目的に、従業員の健康状態、勤務状況などについてヒアリングを行います。
しかし、産業医面談の呼びかけを行ったものの、従業員に拒否されてしまうケースもあるのではないでしょうか。本記事では、産業医面談が必要なケースと従業員に拒否された場合の対応について解説します。
産業医面談の主な内容や目的については、こちらの記事でも解説しています。併せてご確認ください。
目次[非表示]
- 1.産業医面談の実施義務について
- 2.産業医面談が必要になる3つのケース
- 2.1.①高ストレス者
- 2.2.②長時間労働者
- 2.3.③健康診断の事後措置
- 3.産業医面談を拒否された場合の対応
- 3.1.面談を申し出やすい環境をつくる
- 3.2.情報の取り扱いについて説明する
- 3.3.産業医面談の重要性を伝える
- 4.まとめ
産業医面談の実施義務について
企業は、ストレスチェックによる高ストレス者や一定の条件を満たす長時間労働者に対して、面接指導を実施する義務があります。
企業側が一方的に推し進めるのではなく、対象の従業員が「産業医面談を受けたい」と申し出た場合に実施します。
また、従業員からの申し出がない場合でも、高ストレス者や長時間労働者を放置すると、疲労・ストレスの蓄積によって健康問題が起こる恐れがあるため、注意が必要です。
企業には、従業員の健康リスクを把握して、必要に応じて医療機関への受診勧奨や就業上の措置を講じることが求められます。
出典:厚生労働省『現行の産業医制度の概要等』/厚生労働省 こころの耳『長時間労働者、高ストレス者の面接指導について』
産業医面談が必要になる3つのケース
産業医面談が必要とされるケースとして、主に3つが挙げられます。
①高ストレス者
『労働安全衛生法』第66条の10第3項では、ストレスチェックの高ストレス者に対する面接指導が義務づけられています。
ストレスチェックの結果、高ストレス者となった従業員から申し出があった場合には、産業医による面接指導の実施が必要です。
また、面接指導の対象者には、産業医や保健師などのストレスチェック実施者が申し出の勧奨を行います。
高ストレス者に対する面接指導の内容や流れについては、こちらの記事をご確認ください。
出典:厚生労働省『現行の産業医制度の概要等』/厚生労働省 こころの耳『長時間労働者、高ストレス者の面接指導について』/e-Gov法令検索『労働安全衛生法』
②長時間労働者
『労働安全衛生法』第66条の8において、時間外労働や休日労働が一定条件(後述)を超える長時間労働者には、産業医による面接指導が義務づけられています。
原則として、従業員からの申し出によって面談が実施されますが、従業員の時間外・休日労働の時間が月80時間を超えている場合は、申し出の有無にかかわらず面接指導の実施に努めます。
また、長時間労働に関して、面接指導の対象となる条件は以下のとおりです。
▼面接指導の実施義務のある対象者
対象者 |
法律名 |
|
労働者(裁量労働制・管理監督者を含む) |
月80時間超の時間外・休日労働を行った者のうち、疲労蓄積があり面接指導を申し出た従業員 |
|
研究開発業務従事者 |
上記の対象者に加えて、月100時間超の時間外・休日労働を行った従業員 |
|
高度プロフェッショナル制度適用者 |
1週間あたりの健康管理時間が40時間を超えた時間について、月100時間を超えて労働した従業員 |
厚生労働省『医師による長時間労働面接指導実施マニュアル』を基に作成
出典:厚生労働省『医師による長時間労働面接指導実施マニュアル』『現行の産業医制度の概要等』/厚生労働省 こころの耳『長時間労働者、高ストレス者の面接指導について』/e-Gov法令検索『労働安全衛生法』『労働安全衛生規則』
③健康診断の事後措置
企業が労働安全衛生法で定められた健康診断を実施した際は、結果に応じて産業医や保健師による事後措置を講じます。
健康指導として、主に日常生活改善のための指導をはじめ、健康管理に関する情報提供、再検査や治療のための受診勧奨などを行います。
出典:厚生労働省『医師による長時間労働面接指導実施マニュアル』『現行の産業医制度の概要等』/厚生労働省 こころの耳『長時間労働者、高ストレス者の面接指導について』
産業医面談を拒否された場合の対応
『労働安全衛生法』第66条の8第2項では、長時間労働者への面接指導について、対象者にも「面接指導を受けなければならない」と定められています。
ただし、規定されている面接指導に相当する面接指導を別の医師から受けて、その結果を証明する書類を提出してもらうことができれば、問題ありません。
一方、高ストレス者への面接指導や健康診断後の保険指導については、会社側から強制することはできません。また、従業員のなかには、以下のような理由から面談を拒否する人もいると考えられます。
- 業務が忙しく時間がない
- 面接指導の申出によって不利益な取り扱いを受けないか不安
- 健康状態や相談内容などの情報が保護されるか不安
従業員に面接指導を受けてもらうには、面談を申し出やすい環境をつくるとともに、面談に対する不安要素を解消することが重要です。
ここでは、産業医面談を拒否された場合の対応について解説します。
面談を申し出やすい環境をつくる
従業員が面談を申し出やすい環境をつくることが大切です。
従業員にとってどのような方法が適しているか、さまざまな取り組みを実施しながら決めていきます。
以下は、環境づくりの例です。
▼面談を申し出やすい環境づくりの例
- 希望者ができるだけ簡単に申し込めるように手続きを簡略化する
- 周囲に知られずに行えるように配慮する
- メンタルヘルスケアに関する正しい知識をもてるよう、日ごろからメンタルヘルス教育を行う
- 面談を実施する医師がメンタルヘルス教育の一部を担当し、親近感を持ちやすくする
- 産業医や保健師に相談できる窓口を用意する
出典:厚生労働省『労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル』
情報の取り扱いについて説明する
面接指導の実施内容や情報の取り扱いについて丁寧に説明して、従業員の不安を払拭することも重要です。
また、説明したとおりに実施できるよう、プライバシーが守られる場所を確保したり、情報の取り扱いについてストレスチェック制度の実施規程に記載したり、事前準備が求められます。
説明する内容としては、以下が挙げられます。
▼面接指導での情報の取り扱いについて
- 業務への影響を考慮しつつ適切な時間内で効率よく実施すること
- 面接指導の申し出によって不利益な扱いをすることは法律で禁止されていること
- プライバシーが確保された場所・方法で実施すること
- 面接指導の内容は本人の同意がない限り守秘すること、また必要に応じて事業者への意見提出を行うこと
- 面談を受ける時間は、業務時間として取り扱うこと
出典:厚生労働省『労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル』『医師による長時間労働面接指導実施マニュアル』
産業医面談の重要性を伝える
従業員からの申し出を促すには、産業医面談を行う目的や、面談の結果どのような措置を講じるのかなどを説明して、重要性を理解してもらうことが必要です。
産業医面談の結果によって、企業がどのような措置を取れるのかも伝えると安心して受けてもらえます。
従業員に伝える内容として、以下が挙げられます。
▼従業員に伝えること
- 労働者自身のストレスに気付いてもらい、メンタルヘルスの不調を未然に防ぐために実施すること
- 状況に応じて労働時間の制限や異動、治療の推奨など、就業上の適切な措置を取れる可能性があること
出典:厚生労働省『労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル』
まとめ
この記事では、産業医面談について以下の内容を解説しました。
- 産業医面談の実施義務
- 産業医面談が必要になるケース
- 産業医面談を拒否された場合の対応
企業は、ストレスチェックでの高ストレス者や長時間労働者に対して、産業医による面接指導を実施する義務があります。また、健康診断で特に健康保持が必要とされる従業員には、産業医による保健指導が努力義務とされています。
産業医面談を拒否する従業員には、面談の意義や必要性を伝えるとともに、プライバシー・個人情報に配慮する、不利益な取り扱いをしないよう伝えるなどの対応が重要です。
また、面接指導の申し出がしやすくなるように、窓口を産業医や外部機関に設置することも一つの方法です。
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