産業医が出す意見書の役割とは?効力やタイミングを解説
産業医が出す意見書には、企業の健康経営において重要な役割があり、その効力は働き方改革の影響により年々強化されています。
そのため、人事・労務担当者の方は、産業医が出す意見書に関する知識・罰則を把握しておくことが大切です。
この記事では、産業医の意見書の役割をはじめ、効力や意見書を出すタイミングについて解説します。
出典:厚生労働省『働き方改革関連法により2019年4月1日から「産業医・産業保健機能」と「長時間労働者に対する面接指導等」が強化されます』
産業医が出す意見書の役割
産業医が出す意見書には、長時間労働者や高ストレス者に対する業務上の処置を、事業者が適切に講じることができるようにする役割があります。
『労働安全衛生法』第66条の8・第66条の10では、長時間労働者や高ストレス者に対して医師の面接指導を行うよう義務づけています。
▼労働安全衛生法 第66条の8
第六十六条の八 事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者(次条第一項に規定する者及び第六十六条の八の四第一項に規定する者を除く。以下この条において同じ。)に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう。以下同じ。)を行わなければならない。
引用元:e-Gov法令検索『労働安全衛生法』
▼労働安全衛生法 第66条の10
第六十六条の十 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。
引用元:e-Gov法令検索『労働安全衛生法』
面接指導の目的は、過労やストレスを原因とする労働者の疾患やメンタルヘルス不調を未然に防止したり、労働者の健康面のサポートを行ったりすることです。
また、事業者に対して面接時に得られた情報を基に、医学的な見地から職場改善につながる意見を述べることも重要視されています。
産業医による面接指導の実施後に、長時間労働者用・高ストレス者用・兼用の3種類のフォーマットから報告書と意見書を作成します。意見書には、面接対象者の労働時間の短縮や働き方を変更する必要性の有無について記載します。
出典:厚生労働省『長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル』/e-Gov法令検索『労働安全衛生法』
意見書の効力
産業医の意見書における効力の有無に関する記載は、公的機関の資料にはありません。ただし、『労働安全衛生法』第13条第5項には、産業医の勧告に関する内容が定められています。
▼労働安全衛生法 第13条第5項
5 産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。
引用元:e-Gov法令検索『労働安全衛生法』
さらに、同法第120条には違反した際の罰金について記載されています。産業医の意見書を尊重せずに無視した結果、業務災害が起こった場合は、罰金を科せられる可能性があるため注意することが必要です。
また、労働者から損害賠償を請求されたり、社会的な信用を損失したりすることも考えられます。過去に事業者が労働者から損害賠償を請求された例もあります。
判例:プレス加工の作業に従事していた女性パートタイマーに、右手第二・第三指を第二関節から切断する事故が発生した。会社に安全配慮義務違反があったとし、954万7725円の支払を命じた。(横浜地裁 昭和53年(ワ)1698号)
引用元:厚生労働省『1.安全衛生管理の基本』
出典:厚生労働省『1.安全衛生管理の基本』/e-Gov法令検索『労働安全衛生法』
産業医が意見書を出すタイミング
産業医は、長時間労働者や高ストレス者に対して面接指導を行い、面接の結果を基に事業者へ意見書を提出します。
長時間労働者の判断基準は、以下のとおりです。
▼長時間労働者の基準
一般労働者などは、80時間以上の残業のうち、本人から面談希望があった者が対象となります。(会社としては80時間を超えたこと・面接が可能であることは少なくとも本人へ打診する必要があります)
画像引用元:厚生労働省『長時間労働者の医師による面接について』
長時間労働者の面談結果における意見書は、以下の手順に沿って提出されます。
▼長時間労働者に対する意見書提出までの流れ
- 長時間労働者からの面接指導の申し出
- 産業医による面接指導の実施
- 産業医から事業者へ意見書を提出
高ストレス者に対する意見書が提出される際は、以下の流れで行われます。
▼高ストレス者に対する意見書提出までの流れ
- 労働者のストレスチェックの実施
- 労働者への結果の通知
- 高ストレス者からの面接指導の申し出
- 産業医による面接指導の実施
- 事業者へ意見書を提出
なお、長時間労働者や高ストレス者への面接指導の詳細は、こちらの記事をご覧ください。
出典:厚生労働省『長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル』『ストレスチェック制度導入ガイド』『長時間労働者の医師による面接について』
産業医の権限と面接指導の強化
働き方改革関連法により、2019年4月1日から“産業医・産業保健機能”と“長時間労働者に対する面接指導”が強化されました。
産業医・産業保健機能においては、以下のように活動環境の整備が行われました。
▼産業医・産業保健機能の強化内容
- 産業医の独立性・中立性の強化
- 産業医への権限・情報提供の充実・強化
- 産業医の活動と衛生委員会との関係強化
長時間労働者に対する面接指導においては、以下のように強化されました。
▼長時間労働者に対する面接指導の強化内容
- 医師による面接指導の対象となる労働者の要件拡大
- 研究開発業務・高度プロフェッショナル制度対象労働者に対する面接指導の強化
また、研究開発業務・高度プロフェッショナル制度対象労働者は、以下の条件を満たした場合、労働者の申し出がなくても医師の面接指導が必要です。
▼面接指導の必要な条件(研究開発業務・高度プロフェッショナル制度対象者)
- 研究開発業務において、時間外・休日労働時間が1ヶ月当たり100時間を超えた労働者
- 高度プロフェッショナル制度対象者のうち、1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合の合計が1ヶ月当たり100時間を超えた労働者
なお、産業医の権限強化については、こちらの記事で詳しく解説しています。
出典:厚生労働省『働き方改革関連法により2019年4月1日から「産業医・産業保健機能」と「長時間労働者に対する面接指導等」が強化されます』
まとめ
この記事では、産業医の意見書について以下の内容を解説しました。
- 産業医が出す意見書の役割
- 意見書の効力
- 産業医が意見書を出すタイミング
- 産業医の権限と面接指導の強化
産業医が出す意見書は、過労やストレスを原因とする労働者の疾患やメンタルヘルス不調を防止することが目的です。また、労働者の健康管理や職場環境に対して、事業者が適切に対応できるようにする役割もあります。
産業医の意見書における効力の有無に関する記載は、公的機関の資料にはありませんが、事業者には産業医の勧告を尊重することが義務づけられています。
義務を怠ると罰金が科せられるほか、労働災害が発生した場合に労働者から損害賠償を請求される可能性もあるため、注意することが必要です。
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