
従業員がうつ病で休職したらどうする?対応方法や必要な手続きを解説
近年、職場でのメンタルヘルスの重要性がますます注目されています。もし従業員がうつ病や適応障害といった心の不調を抱えてしまったら、企業としてはどのように対応すれば良いのでしょうか。
適切な対応方法や必要な手続きを事前に知っておくことは、企業にとっても従業員にとっても、多くのメリットがあるのです。
休職する従業員への対応は、企業の健康経営への取り組みを示す良い機会とも言えるでしょう。
現在もメンタルヘルス対策の重要性は増しており、法改正の動きも見られますので、常に最新の情報を把握しておくことが大切です。
この記事では、従業員がうつ病で休職する際に企業が知っておくべき対応のポイントや具体的な手続き、利用できる支援制度、そして職場復帰をサポートするための注意点などを、分かりやすく解説していきます。
また、優秀な人が辞めてしまう前のメンタルヘルス対策は産業医との連携が効果的です。産業医の役割は非常に幅広いですが、産業保健の現場にある課題を理解している「first call」であれば、法令を守り、従業員のメンタルケアに繋がる産業医サービスが利用できます。
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従業員からうつ病で休職したいと相談された時の対応
従業員から「うつ病かもしれなくて、休職したいです…」と相談されたら、最初の対応が大切になります。
この初動が、その後の休職から復職までの流れをスムーズにするか、あるいはギクシャクさせてしまうかを左右することもあるでしょう。
相手を思いやる気持ち、正確な手続きの案内、そして後々の問題を防ぐための心配りが求められます。
まずはプライバシーに配慮し本人と面談
従業員からデリケートな相談を受けた場合、まず重要なのは、本人のプライバシーに最大限配慮し、安心して話せる環境を整えることでしょう。
個別に面談の機会を設け、他の従業員の目や耳が届かない静かな会議室などを選ぶのが望ましいです。
面談の冒頭では、相手を気遣う言葉をかけることが大切です。詰問するような口調や、本人を追い詰めるような質問は避けるべきでしょう。
面談の目的は、本人の状況や具体的な症状などを、プライバシーに踏み込みすぎない範囲で聞き取ることです。
そして、企業として本人の回復を全力でサポートしたいという姿勢を伝えることが求められます。必要に応じて産業医との面談も設定できることを伝えると良いでしょう。
判断の根拠として医師の診断書が必要
従業員からうつ病などによる休職の申し出があった場合、企業がその判断を下すための客観的な根拠として、医師による診断書の提出を求めることが一般的です。
多くの企業では就業規則で、休職の条件として診断書の提出を義務付けています。
企業から従業員へ診断書の提出を依頼する際は、その目的を説明し、敬意を持った対応を心がけるべきです。
診断書に記載してもらうべき項目としては、主に傷病名、療養が必要な期間の目安、就業の可否などが挙げられます。
トラブルを防ぐために面談内容は記録保管
従業員との休職に関する面談の内容は、後々のトラブルを予防し、適切な対応が行われたことの証拠とするためにも、必ず記録し保管することが重要です。
記録すべき項目には、下記のような内容が含まれます。
- 面談の日時
- 出席者
- 従業員から報告された症状
- 企業側から説明した休職制度の内容
- 双方で合意した事項
特に、従業員が体調不良の状態にある場合、口頭での説明だけでは内容を十分に理解・記憶できない可能性があります。
そのため、面談で話し合った重要な事項については、書面でまとめて本人に渡すことが推奨されます。
今後の流れを説明し従業員を安心させる
従業員がうつ病の診断を受け、休職を検討する際、将来に対する不安は計り知れません。
そのため、企業としては今後の休職に関する手続きの流れを明確に説明し、従業員を安心させることが重要です。
まず、診断書の提出から休職命令書の発行、そして休職期間の開始といった一般的な流れを説明します。
その際、休職中の生活を支えるための経済的な支援制度として、傷病手当金について触れましょう。
次に、休職中の連絡方法についても具体的に説明します。
何よりも、「企業としては本人の療養と回復を最優先に考えている」というメッセージを繰り返し伝えることが、従業員の安心感に繋がります。
従業員をうつ病で休職させる時の手続き
従業員をうつ病で休職させる際には口頭での合意だけでなく、正式な手続きを踏むことが、従業員と企業双方の権利を守り、後のトラブルを避けるためには必要です。
この手続きは、企業の内部規程である就業規則に基づき、法的な側面も考慮しながら進められるべきでしょう。
休職のルールは会社の就業規則が基本
従業員の休職に関する具体的なルールは、労働基準法などの法律で詳細に定められているわけではなく、各企業が作成する就業規則が基本となります。
したがって、従業員をうつ病で休職させる際には、まず自社の就業規則にどのような規定があるかを確認することが重要です。
就業規則には通常、下記のような内容が定められています。
- 休職の対象となる従業員の条件
- 休職を命じることができる事由
- 休職期間の上限
- 申請手続き
- 期間中の待遇
- 復職の条件や手続き
- 期間満了時の扱い
企業はこれらの規定が最新の法令に適合し、明確で周知されているかを確認する必要があります。
会社からの正式な命令となる休職命令書を出す
従業員に休職を命じる際には、口頭での伝達だけでなく、企業から正式な「休職命令書」または「休職辞令」といった書面を交付することが重要です。
この書面は、従業員の休職が企業の正式な指示に基づくものであることを明確にし、法的な記録としての意味も持ちます。
休職命令書には、下記のような内容を記載します。
- 従業員の氏名
- 休職を命じる旨
- 理由
- 開始日と終了予定日
- 根拠となる就業規則の条項
- 期間中の待遇
- 連絡窓口
これにより、双方にとって法的な安定性が確保され、将来的な誤解や紛争の可能性を低減することができるでしょう。
生活を支える傷病手当金の申請を会社が支援
]従業員がうつ病などの私傷病により休職し、給与の支給が停止される場合、その間の生活を支える重要な制度として「傷病手当金」があります。
企業は、従業員がこの制度を円滑に利用できるよう、申請手続きを積極的に支援しましょう。
傷病手当金の支給を受けるためには、いくつかの条件を満たす必要があります。
申請は従業員本人が行いますが、企業(事業主)が証明する欄があるため、企業の協力が必要です。
企業は、事業主証明を正確かつ迅速に行うことで、従業員が傷病手当金を早期に受給できるようサポートします。
なお、2023年1月より協会けんぽの傷病手当金支給申請書の様式が変更され、事業主が手当金を受け取る「受取代理人」の欄が削除されました。
これにより、原則として手当金は被保険者本人に直接振り込まれることになったため、企業が社会保険料などを代理徴収する際は、改めて従業員との間で取り決めが必要になる点に注意しましょう。
うつ病で休職中の給与と社会保険料の取り扱い
従業員がうつ病で休職する際、経済的な側面は大きな不安の一つです。
休職期間中の給与の有無や、社会保険料の負担について、企業は正確な情報を従業員に伝えて適切な対応を行う必要があります。
休職中の給与支払いは法律上の義務ではない
従業員が私傷病により休職する場合、原則として企業に休職期間中の給与を支払う法律上の義務はありません。
これは「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づくものです。ただし、企業によっては、就業規則に基づき、休職期間中でも一定期間、給与の一部または全額を支給する制度を設けている場合があります。
会社負担分の社会保険料は休職中も発生する
従業員が休職して無給となる場合でも、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料など)の支払いは継続して発生します。
従業員負担分の社会保険料の徴収方法は、従業員に毎月振り込んでもらうか、企業が立て替えて復職時に精算するなどの方法が考えられます。
傷病手当金の受取代理人制度が2023年1月に変更されたことに伴い、企業が傷病手当金から直接社会保険料を天引きすることが原則できなくなったため、徴収方法については事前に従業員と十分に話し合い、合意しておくことがより一層重要になっています。
仕事が原因の場合は労災保険の対象になる
従業員のうつ病などが仕事に起因すると判断された場合、労災保険の給付対象となる可能性があります。
労災認定には厚生労働省が定める基準があり、いくつかの要件を満たす必要があります。厚生労働省の「業務上疾病の認定等」のページで詳しく確認することができます。
近年、この認定基準は見直され、例えばカスタマーハラスメントによる心理的負荷や、精神障害が悪化した場合の業務起因性が認められる範囲の明確化などが図られています。
労災と認定されると、従業員は手厚い補償を受けることができます。
従業員をうつ病で休職させないための予防策
従業員がメンタルヘルス不調で休職に至ることは、本人にとっても企業にとっても大きな負担です。
休職者を出さないための予防策は、従業員の健康を守り、企業の持続的な発展を支える上で重要です。
ストレスチェックによる職場環境の把握と改善をおこなう
ストレスチェック制度は、メンタルヘルス不調の一次予防を目的とした有効な取り組みです。
2025年5月の労働安全衛生法改正により、これまで努力義務だった従業員50人未満の事業場においても、ストレスチェックの実施が義務化されることになりました(施行は公布後3年以内の政令で定める日、最長で2028年5月までの見込み)。
集団分析を行い、職場のストレス要因を特定し、具体的な改善策を講じることが重要です。
高ストレス者には産業医による面談指導の機会を提供しましょう。
長時間労働の是正と休暇を取得しやすい環境をつくる
長時間労働はメンタルヘルス不調の主要なリスク要因であり、その是正は予防策の中心となります。
また、従業員が気兼ねなく休暇を取得できる職場環境を整備することも重要です。
「ノー残業デー」の設定や、年次有給休暇の計画的付与制度の導入なども検討してみましょう。
産業医や外部EAPなど相談しやすい窓口を設置する
従業員が気軽に相談できる窓口を設置することで、問題の早期発見と早期対応に繋がり、うつ病などへの進行を予防する上で効果的です。
産業医による相談窓口は守秘義務があり、職場環境への理解もあるため安心です。
外部EAP(従業員支援プログラム)は、より高い匿名性が保たれるというメリットがあります。
うつ病による休職のよくある質問
従業員のうつ病による休職に関しては、様々な疑問や困難なケースがあります。
ここでは、そのような「よくある質問」に対して、実務上の対応を踏まえて解説していきます。
休職中に解雇はできますか?
休職期間中の従業員を解雇できるかは慎重な判断が必要です。
うつ病が業務に起因する(労災)場合、療養のための休業期間中、およびその後30日間は原則として解雇できません。
業務外の私傷病の場合、多くの企業では就業規則に基づき、休職期間を満了しても復職できない場合に雇用関係を終了させることがありますが、うつ病の原因が企業側にある場合や、医師が復職可能と診断しているのに合理的な理由なく復職を認めない場合は不当解雇とされるリスクがあります。
診断書の提出を拒否されたらどうすればいいですか?
従業員が正当な理由なく診断書の提出を拒否する場合、まず必要性を説明しましょう。
就業規則に提出義務の規定があれば、それに基づき提出を求め、従わない場合は懲戒処分の対象となる可能性があります。
業務命令として受診を指示することも可能ですが、懲罰的な対応の前に、拒否する理由を理解しようとする姿勢が重要です。
何度も休職を繰り返す場合はどうすればいいですか?
休職と復職を繰り返す従業員への対応は難しい問題です。
就業規則に、復職後一定期間内に同一または類似の傷病で再度休職する場合の休職期間の通算などの規定を設けておくことが望ましいでしょう。
再発の原因を探り、リワークプログラムの活用や配置転換なども検討します。
試用期間中の休職は可能ですか?
試用期間中の従業員の休職の取り扱いは、就業規則の規定に左右されます。
多くの企業では、試用期間中の従業員を休職制度の対象外としたり、期間を短縮したりしています。
休職が認められず就業できない状態が続く場合、本採用を拒否(実質的には解雇)することも考えられますが、客観的に合理的な理由が必要です。
うつ病が業務に起因する場合は解雇制限が適用されるため注意が必要です。
【まとめ】従業員のうつ病による休職は会社の適切な対応が必要
従業員のうつ病による休職は、現代の企業にとって避けて通れない課題です。
法的な知識と従業員の健康への配慮を考えた、繊細なアプローチが必要と言えるでしょう。
初期面談から診断書の取得、休職手続き、傷病手当金の申請支援、給与や社会保険料の取り扱い、労災保険への理解と対応まで、各段階で適切な判断が求められます。
しかし、特に重要なのは予防策かもしれません。
ストレスチェック制度の活用、長時間労働の是正、相談しやすい窓口の設置など、メンタルヘルス不調の発生を抑える取り組みがポイントとなります。
複雑なケースでは専門家に相談することも考えましょう。予防から休職中の対応、そして職場復帰支援と再発予防まで、一貫した支援体制の構築がますます求められています。
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