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健康診断未実施で罰則を受ける可能性は?企業の罰金リスクと具体的な回避方法を解説

企業の労務管理に携わる中で、「従業員の健康診断、法律通りに実施できているかな?」「もし対応が漏れていたら、罰則を受けてしまうのだろうか?」といった疑問や不安を感じたことはないでしょうか?

毎年のこととはいえ、対象者の管理や受診勧奨、結果のフォローなど、その運用には手間がかかるものです。

しかし、従業員の健康診断は、単なる会社の慣例や福利厚生ではありません。労働安全衛生法によって会社に課せられた、従業員の健康と安全を守るための大切な「法的義務」なのです。この義務を怠ると、罰金という直接的なペナルティだけでなく、会社の信用問題や採用活動への悪影響、万が一の際の法的リスクなど、様々な問題に発展する可能性をはらんでいます。

この記事では、健康診断の義務違反に伴う罰則やリスク、そしてそれらを回避するための具体的な方法について、企業の担当者の方が知りたいポイントを分かりやすく解説しています。

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目次[非表示]

  1. 健康診断の義務違反による罰則
    1. 企業の安全配慮義務として法律で定められている
    2. 従業員の健康確保と生産性維持を目的とする
    3. 正社員と条件を満たす非正規社員が対象
  2. 健康診断の罰則内容と罰金以外のリスク
    1. 法律違反には最大50万円の罰金
    2. 罰金以外に会社の信用が落ちるリスク
    3. 採用や社員のやる気にも悪い影響がある
    4. 労災時に会社の安全管理責任が問われる
    5. 会社だけでなく担当者個人も罰則対象になる
  3. 健康診断の罰則回避のための社内体制
    1. 年間の計画と予算を早めに決める
    2. 対象者のリストを管理し更新する
    3. 健診機関を選びスムーズに連携する
    4. 未受診者には連絡し受診率アップを目指す
    5. 従業員に健診の大切さを伝え目的を理解してもらう
    6. 受けやすい日時や場所など環境を整える
    7. 産業医などと連携し事後措置の流れを決める
  4. 健康診断拒否の罰則と会社の対応
    1. 従業員への罰則はないが会社は受診を勧める義務あり
    2. 受診を勧めた記録を残しておく
    3. 就業規則によっては懲戒処分も考えられる
    4. 拒否の理由を聞きパワハラ等に配慮する
    5. 産業医面談などで個別に話すことも有効
  5. 健康診断の罰則に関するよくある質問
    1. 派遣社員の健診実施義務は派遣元?派遣先?
    2. 健診費用は全額会社負担が原則?
    3. 人間ドック等での代替受診は可能?
    4. 海外勤務者や帰任者の健診対応は?
    5. 入社前退職間際の従業員の健診は必要?
    6. 罰金支払いで健診実施義務は免除される?
  6. 健康診断を実施しない場合の罰則に関するまとめ

健康診断の義務違反による罰則

健康診断の義務違反による罰則

会社で働く従業員の健康を守る健康診断は、法律で会社に義務付けられています。これは、会社の任意で行う福利厚生ではなく、労働安全衛生法に基づく責任なのです。

「忙しいから」「費用がかかるから」といった理由でこの義務を怠ると、罰則が科される可能性があります。具体的にどのような義務があり、なぜそれが定められているのか、詳しく見ていきましょう。

  • 企業の安全配慮義務として法律で定められている
  • 従業員の健康確保と生産性維持を目的とする
  • 正社員と条件を満たす非正規社員が対象

企業の安全配慮義務として法律で定められている

会社は、従業員が安全かつ健康に働けるように配慮する「安全配慮義務」を負っており、健康診断の実施はこの義務を果たすための重要な手段として、労働安全衛生法で具体的に定められています。これは、法律で決まった会社の基本的なルールの一つです。

運送業を例に上げると、ドライバーの健康状態を把握せずに乗務させ、もしそのドライバーが健康問題で事故を起こした場合、会社は安全配慮義務違反を問われる可能性があります。

健康診断によって、高血圧や睡眠時無呼吸症候群といった業務に影響しうる健康リスクを事前に把握し、必要な対策(治療の推奨、業務調整など)をとることが、事故を防ぎ、会社の責任を果たすことにつながるのです。

従業員の健康確保と生産性維持を目的とする

健康診断の目的は、第一に従業員自身の健康を守り、病気を早期に発見・治療するきっかけを提供することにあります。そして、従業員が健康であれば、結果的に会社の生産性も維持・向上するという側面も持ち合わせています。

健康診断をきっかけに従業員の健康意識が高まり、職場全体で禁煙や運動習慣の促進といった取り組みが広がったとしましょう。これにより、病気による欠勤者が減ったり、集中力が高まって業務効率が上がったりするかもしれません。

従業員の健康は、会社の活力を支える大切な要素であり、健康診断はそのための投資とも考えられるでしょう。

正社員と条件を満たす非正規社員が対象

正社員と条件を満たす非正規社員が健康診断の対象

健康診断を受けさせる義務は、正社員だけでなく、パートや契約社員といった非正規雇用の従業員にも、一定の条件を満たす場合には生じます。

具体的には、以下の両方の条件を満たす方が対象となるのが基本ルールです。

  • 1年以上の雇用契約(更新により実質1年以上になる場合を含む)があること
  • 週の所定労働時間が、同じ職場の正社員の4分の3以上であること

ある店舗で週5日、1日6時間(週30時間)働くパートタイマーの方がいるとします(正社員は週40時間勤務)。この方が1年以上の契約であれば、週労働時間が正社員の4分の3(30時間)以上となるため、健康診断の対象です。

しかし、同じ週30時間勤務でも契約期間が半年の場合や、契約期間が1年以上でも週20時間勤務の場合は、原則として対象外と考えられます。雇用形態だけで判断せず、個々の契約内容と労働時間をしっかりと確認することが重要です。

健康診断の罰則内容と罰金以外のリスク

法律で定められた健康診断の義務ですが、もし、これを怠ってしまった場合、会社にはどのようなペナルティやリスクがあるのでしょうか。

最も直接的なのは罰金ですが、実はそれ以外にも、会社の信用や従業員の気持ち、さらには万が一の事故の際の責任問題など、様々な形で影響が出てくる可能性があるのです。

ここでは、罰則の具体的な内容と、見過ごせない企業リスクについて解説します。

  • 法律違反には最大50万円の罰金
  • 罰金以外に会社の信用が落ちるリスク
  • 採用や社員のやる気にも悪い影響がある
  • 労災時に会社の安全管理責任が問われる
  • 会社だけでなく担当者個人も罰則対象になる

法律違反には最大50万円の罰金

健康診断の実施義務違反に対しては、労働安全衛生法第120条により、最大で50万円の罰金が科されると定められています。会社が法律で決められたルールを守らなかった場合の、刑事罰にあたるものです。

労働基準監督署から「健康診断を適切に実施してください」という指導を繰り返し受けていたにもかかわらず、具体的な改善を行わなかった場合などが考えられます。このような悪質なケースでは、法律に基づき罰金が科される可能性が高まるでしょう。

単なる行政指導にとどまらない、罰金という形で会社の責任が問われる重い事態であると認識する必要があります。

罰金以外に会社の信用が落ちるリスク

罰金の金額以上に、会社にとって大きな痛手となり得るのが、社会的な信用の低下です。

「法律を守らない会社」「従業員の健康を大切にしない会社」というイメージは、一度ついてしまうと払拭するのが大変なものです。

健康診断義務違反の事実が報道されたり、インターネット上で話題になったりした場合を想像してみてください。お客様が製品やサービスの利用を控えたり、取引先が契約を見直したり、あるいは金融機関からの評価が下がったりするかもしれません。

会社の信用は、日々の真摯な活動の積み重ねで築かれるもの。法令違反は、それを一瞬で崩壊させるリスクをはらんでいるのです。

採用や社員のやる気にも悪い影響がある

会社の評判は、人材の採用や、今いる従業員のモチベーションにも大きく関わってきます。

法律で定められた健康診断すら適切に行っていないという事実は、求職者にとって「この会社は大丈夫だろうか?」という不安材料になりかねません。

就職活動中の学生が、企業の評判を調べる中で「あの会社は健康診断をちゃんとやっていないらしい」という情報に触れたら、応募をためらうかもしれません。また、社内で働く従業員にとっても、「会社は自分たちの健康に関心がないのでは」と感じてしまうと、会社への信頼感が薄れ、仕事へのやる気が低下してしまうことにも繋がりかねないでしょう。

労災時に会社の安全管理責任が問われる

もし、健康診断で事前に発見できたかもしれない病気が原因で、従業員が仕事中に事故を起こしたり、病状が悪化したりした場合、会社が健康診断を怠っていた事実は非常に重く見られます。

会社には従業員が安全に働けるように配慮する「安全配慮義務」があるためです。

長距離ドライバーが健康診断を受けておらず、心臓の病気を見逃されたまま乗務し、運転中に発作を起こして事故になったとします。このようなケースでは、健康診断を実施していなかったことが、会社の安全管理体制の不備と判断され、事故の責任を厳しく追及されたり、高額な損害賠償を請求されたりするリスクが高まるのです。

会社だけでなく担当者個人も罰則対象になる

労働安全衛生法の罰則規定には、多くの場合「両罰規定」というものがあります。これは、違反行為を行った法人(会社)だけでなく、その事業の運営に責任を持つ人、例えば社長や工場長、場合によっては人事担当者なども、個人として罰則の対象になり得る、という考え方です。

経営者がコスト削減を理由に、意図的に健康診断の実施を見送る指示を出していたような場合が考えられます。

もちろん、担当者がすぐに罰せられるわけではありませんが、悪質な違反と判断された場合には、会社だけでなく、その責任を負うべき個人も罰せられる可能性があることは、知っておくべきでしょう。

健康診断の罰則回避のための社内体制

健康診断の罰則回避のための社内体制

健康診断に関する罰則を確実に避けるには、法律の知識だけでなく、毎年スムーズに実施・管理できる「仕組み」、つまり社内体制を整えることが不可欠です。

「担当者任せ」「その場しのぎ」といった状況では、うっかりミスや実施漏れが起こりやすくなります。

ここでは、罰則リスクを低減するための、しっかりとした社内体制づくりのポイントを解説していきましょう。

  • 年間の計画と予算を早めに決める
  • 対象者のリストを管理し更新する
  • 健診機関を選びスムーズに連携する
  • 未受診者には連絡し受診率アップを目指す
  • 従業員に健診の大切さを伝え目的を理解してもらう
  • 受けやすい日時や場所など環境を整える
  • 産業医などと連携し事後措置の流れを決める

年間の計画と予算を早めに決める

まず大切なのは、健康診断の実施を年間行事として捉え、計画的に進めることです。場当たり的な対応ではなく、年度の早い段階で実施計画と予算を確保しておくことが、スムーズな運用の基礎となります。

新年度が始まる前に、「○月頃に定期健診」「△△業務の対象者には□月に特殊健診」といった大まかなスケジュールと必要人数を想定し、健診機関への支払いなども含めた予算を承認しておきます。

こうすることで、健診機関の予約が混み合う前に手配が進められ、従業員への案内も余裕をもって行うことができるでしょう。

対象者のリストを管理し更新する

ほかにも重要なのが、「誰に健康診断を受けさせる義務があるのか」を正確に把握し、その対象者リストを常に最新の状態に保つことです。このリスト管理が曖昧だと、実施漏れという直接的な義務違反につながりかねません。

人事データベースと連携させ、入退社や雇用形態・労働時間の変更があった場合に、自動または定期的に対象者リストが更新される仕組みを考えます。

手作業で管理する場合でも、四半期ごとなど定期的に人事情報と照合するルールを決めておくことが有効でしょう。「対象だったのにリストから漏れていた」という事態を防ぐ、地道ながらも重要な管理体制です。

健診機関を選びスムーズに連携する

従業員が実際に健診を受ける健診機関選びと、その後の連携も体制づくりのポイントです。費用だけでなく、立地、検査内容、予約のしやすさ、結果報告の形式やスピードなどを比較検討し、自社にとって最適な機関を選定することが望まれます。

そして、選んだ健診機関とは、事前に具体的な連携方法をすり合わせておくことが大切です。例えば、「予約受付の担当窓口は〇〇さん」「結果データはこの形式で、△△までに提出」「費用請求はこの部署宛に」といった点を明確にし、スムーズなやり取りができる関係を築いておきましょう。

単なる委託先ではなく、健康管理のパートナーとしての連携を意識したいところです。

未受診者には連絡し受診率アップを目指す

どんなに準備をしても、残念ながら期限までに受診しない従業員が出てくることはあります。そのため、受診状況を把握し、未受診者へ個別に働きかけるフォローアップ体制を組み込んでおくことが不可欠なのです。

健診期間の終盤に未受診者リストアップし、メールや電話で受診を促します。それでも受診しない場合は、上司を通じて再度勧奨したり、場合によっては受診指示を出したりすることも。ただ「受けてください」と繰り返すだけでなく、「何か困っていることはありませんか?」と状況を尋ねるなど、受診しやすい状況を作るためのサポート姿勢も、受診率向上につながるかもしれません。

従業員に健診の大切さを伝え目的を理解してもらう

従業員自身が健康診断の必要性を理解し、協力的であることも円滑な実施には欠かせません。会社として、健康診断の重要性や目的を従業員にしっかりと伝える努力も、社内体制の一部と捉えるべきでしょう。

社内報やイントラネットで、「健康診断は法律で定められた義務であり、ご自身の健康を守る権利でもあります」といった情報発信を定期的に行います。

健診結果がどのように個人の健康管理や職場環境の改善に活かされているかを具体的に示すことで、「会社が一方的にやっていること」ではなく「自分たちのためになること」という認識を深めてもらうことも有効なアプローチです。

受けやすい日時や場所など環境を整える

従業員にとっての「受けやすさ」を考慮することも、受診率を高め、体制を機能させる上で重要です。忙しい業務の合間を縫って受診してもらうためには、できるだけ負担を減らす工夫が求められます。

勤務時間中の受診を認めたり、複数の受診候補日や時間帯を設けたり、アクセスしやすい場所の健診機関を選んだり、といった配慮が考えられます。

Web予約システムを導入して手続きを簡略化する、事前に問診票などを配布して当日の時間を短縮するなど、物理的・時間的なハードルを下げる工夫も、受診を後押しするでしょう。

産業医などと連携し事後措置の流れを決める

健康診断は「受けたら終わり」ではなく、その結果に基づいて必要な対応(事後措置)を行うまでが会社の責任範囲です。したがって、健診結果の回収から、有所見者への対応、産業医の意見聴取、就業上の配慮まで、一連のプロセスを明確にし、担当者を定めておく必要があります。

「結果は人事が集約し、産業医が全件確認」「要経過観察以上の従業員には、保健師または人事からフォロー連絡」「就業制限が必要な場合は、産業医の意見書に基づき、人事と所属部署長が連携して対応」といった具体的なフローを決めておきます。

特に、産業医とのスムーズな情報共有と連携は、適切な事後措置を行う上で不可欠な要素といえるでしょう。

産業医の選任にお悩みの際は、first callの産業医サービスがおすすめです。ご要望に合わせた産業医をご紹介し、法令に沿った業務実施のサポートが可能です。

健康診断拒否の罰則と会社の対応

会社がどれだけ健康診断の体制を整え、受診を呼びかけても、中には「受けたくない」と考える従業員もいるかもしれません。会社の義務と罰則はこれまで見てきた通りですが、従業員が受診を拒否した場合、会社はどうすればよいのでしょうか。

これは担当者にとって、非常に頭の痛い問題の一つです。ここでは、従業員による受診拒否の際の法的な扱いと、会社が取るべき適切な対応について見ていきましょう。

  • 従業員への罰則はないが会社は受診を勧める義務あり
  • 受診を勧めた記録を残しておく
  • 就業規則によっては懲戒処分も考えられる
  • 拒否の理由を聞きパワハラ等に配慮する
  • 産業医面談などで個別に話すことも有効

従業員への罰則はないが会社は受診を勧める義務あり

まず基本的な点として、従業員が一般健康診断の受診を拒否しても、その従業員個人に法律上の罰金などが科されることはありません。ただし、法律では従業員にも会社の行う健康診断を受ける義務があると定められています(労働安全衛生法第66条第5項)。

そのため、会社としては従業員が拒否しても、「受診するように働きかける義務(受診勧奨義務)」は引き続き負うことになります。

従業員から「今年は忙しいので受けません」と言われたとしても、会社は「そうですか」と簡単に引き下がってはいけません。「法律上の義務であり、ご自身の健康のためにも重要ですので、なんとか時間を作って受診してください」と、粘り強く受診を促し続ける姿勢が求められます。

会社側の働きかけが不十分だと判断されると、別の問題が生じる可能性もあるのです。

受診を勧めた記録を残しておく

従業員に受診を拒否された場合、会社として非常に重要になるのが、受診を勧めた経緯をしっかりと記録として残しておくことです。会社は受診勧奨義務を果たそうと努力した、という証拠になります。

複数回にわたってメールで受診のお願いと必要性の説明を送った場合は、そのメールの記録を保存します。

上司や人事が面談で説得を試みたのであれば、「○月○日、△△(上司)が□□(従業員)と面談し、健康診断の重要性を説明し受診を勧奨したが、本人は~という理由で拒否」といった簡単なメモでも構いませんので、残しておきましょう。

就業規則によっては懲戒処分も考えられる

従業員への直接的な法的罰則はありませんが、会社の内部ルールである就業規則の内容によっては、受診拒否を理由とした懲戒処分を検討できる場合があります。ただし、そのためには以下の点が満たされていることが前提となります。

  • 就業規則に健康診断の受診義務が明記されていること
  • 就業規則に正当な理由なき受診拒否が懲戒事由となると明記されていること
  • 会社が対象従業員に具体的な受診の業務命令を出していること
  • 従業員が正当な理由なくその業務命令を拒否していること

しかし、これはトラブルに発展しやすいため、あくまで最終手段と考え、処分の妥当性なども含め、実施する際は専門家への相談も視野に入れるべきでしょう。

拒否の理由を聞きパワハラ等に配慮する

なぜ従業員が受診を拒否するのか、その理由を一方的に決めつけず、まずは丁寧に話を聞く姿勢が大切です。単なる面倒くささだけでなく、検査への恐怖心、結果への不安、プライバシーの懸念、あるいは職場の人間関係やハラスメントが背景にある可能性も考えられます。

もし従業員が「上司から結果について何か言われるのが嫌だ」といった理由を話した場合、それはプライバシー配慮の問題や、場合によってはパワーハラスメントの兆候かもしれません。

その場合は、受診を強いる前に、まずその根本的な問題への対応が必要です。従業員の気持ちを理解しようと努めることが、解決の糸口になることもあります。

産業医面談などで個別に話すことも有効

従業員の拒否理由が健康や検査への不安にある場合、または人事担当者には話しにくい個人的な事情があるような場合には、産業医に相談するのも有効な方法の一つです。

専門家である産業医から、健康診断の医学的な重要性や、検査に関する疑問点について説明してもらう機会を設けます。

特定の検査項目に強い抵抗を感じている従業員に対し、産業医が面談でその検査の目的や安全性を詳しく説明したり、代替できる方法がないか一緒に考えたりすることが考えられます。中立的な立場の専門家からの話は、従業員の不安を和らげ、受診への態度を変えるきっかけになるかもしれません。

健康診断の罰則に関するよくある質問

健康診断の実施義務や罰則に関して、基本的なルールは理解できても、「うちの会社のこのケースはどうなんだろう?」と具体的な場面で迷うこともあるのではないでしょうか。

雇用形態が多様化し、働き方も様々になる中で、判断に悩む場面も少なくないかもしれません。

ここでは、健康診断の罰則に関連して会社の担当者が抱えるよくある質問とその回答をまとめました。

  • 派遣社員の健診実施義務は派遣元?派遣先?
  • 健診費用は全額会社負担が原則?
  • 人間ドック等での代替受診は可能?
  • 海外勤務者や帰任者の健診対応は?
  • 入社前退職間際の従業員の健診は必要?
  • 罰金支払いで健診実施義務は免除される?

派遣社員の健診実施義務は派遣元?派遣先?

派遣社員の方の一般的な健康診断(年に1回の定期健診など)については、雇用契約を結んでいる「派遣元」の会社に実施義務があります。派遣社員を受け入れている「派遣先」の会社に、この一般健診の義務はありません。

ただし、もし派遣先の職場で有害な業務(特定の化学物質を扱うなど)に従事してもらう場合には、話が少し変わってきます。その有害業務に関する特殊健康診断については、業務を指揮し、その作業環境を提供する「派遣先」の会社に実施義務が生じるケースがあるのです。

まずは「普通の健康診断は派遣元」と覚えておきましょう。

健診費用は全額会社負担が原則?

その通りです。法律で会社に義務付けられている健康診断(定期健診や雇入時健診など)の費用は、会社が全額負担するのが原則となります。従業員個人に費用を負担させることは、基本的に認められていません。

従業員が法定項目に加えて任意で人間ドックのオプション検査を追加した場合、その追加分の費用は自己負担としてもらう、といったことは会社のルール次第で可能です。

しかし、法律で定められた必須の検査項目にかかる費用については、会社が支払う必要があると理解しておきましょう。

人間ドック等での代替受診は可能?

従業員が自分で受けた人間ドックなどの結果をもって、会社の健康診断の代わりとすることは可能です。ただし、それには条件があります。重要なのは、その人間ドックなどが、法律で定められた健康診断の検査項目を「すべて」含んでいることです。

人間ドックの結果を持ってきた従業員がいても、法定項目の一つでも不足していれば、代替とは認められません。会社としては、提出された結果の検査項目を確認する必要があります。

代替を認める場合でも、その結果は会社でしっかりと保管し、必要に応じて産業医の意見を聞くなど、通常の健康診断と同様の管理が求められます。

海外勤務者や帰任者の健診対応は?

従業員を6ヶ月以上海外へ派遣する場合には、特別な健康診断の対応が必要です。会社は、その従業員を海外へ派遣する「前」と、日本へ帰国して国内業務に就かせる「後」(帰国後3ヶ月以内が目安)に、それぞれ健康診断を実施しなければなりません。

海外赴任前には、現地の感染症リスクなども考慮した検査項目が追加されることがあります。

帰国後の健診では、海外滞在中の健康影響を確認します。この派遣前後の健康診断は、通常の定期健診とは別に、法律で定められた会社の義務ですので、忘れずに実施するようにしましょう。

入社前退職間際の従業員の健診は必要?

まず、新しく従業員を雇い入れる際には、「雇入時健康診断」を実施する義務があります。原則として入社直前または直後に実施するものですが、本人が入社前3ヶ月以内に同等の健診を受けて結果を提出すれば省略できる場合もあります。

一方、退職が決まっている従業員については、定期健康診断の実施時期にまだ会社に在籍しているのであれば、他の従業員と同様に、原則として健康診断の対象となります。「もうすぐ辞めるから」という理由で、自動的に実施義務がなくなるわけではありません。

罰金支払いで健診実施義務は免除される?

いいえ、罰金を支払ったとしても、健康診断の実施義務がなくなることは決してありません。罰金は、あくまで過去の法律違反に対するペナルティです。義務そのものが消えるわけではないのです。

義務違反で罰金を科された会社が、その後も健康診断を怠り続ければ、再度罰則の対象となる可能性があります。むしろ、一度指摘を受けた会社は、より一層法令を遵守し、確実に義務を果たしていくことが求められるでしょう。

健康診断を実施しない場合の罰則に関するまとめ

今回は、企業の健康診断実施義務と、それを怠った場合の罰則、そしてリスク回避のための具体的な対応について解説してきました。法律で定められた義務である健康診断を適切に実施・管理することは、企業の責任として非常に重要です。

最後に、この記事の重要なポイントを改めて整理しましょう。

  • 健康診断は法律上の会社の義務
  • 違反すれば最大50万円の罰金や信用失墜などのリスクあり
  • 記録保管や事後措置など、実施以外の関連義務も多数
  • 罰則回避には計画的な管理体制と未受診者フォローが不可欠
  • 従業員拒否には丁寧な対応と記録、ルール確認が必要

健康診断への適切な取り組みは、罰則を避けるためだけではなく、従業員の健康を守り、安心して働ける環境を提供することで、会社の生産性向上や持続的な成長にもつながる大切な活動です。

担当者の皆様には、ぜひこの記事を参考に自社の体制を見直し、必要な改善を進めていただきたいと思います。判断に迷う場合は、産業医や社労士など専門家の力を借りるのも良いでしょう。

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遅沢 修平
遅沢 修平
上智大学外国語学部卒業。クラウド型健康管理サービス「first call」の法人営業・マーケティングを担当し、22年6月より産業保健支援事業部マーケティング部長に就任。

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