
雇い入れ時健康診断の法定項目や費用負担は?パートの対象条件や省略ルールも解説
会社として初めて社員を雇用するときや、久しぶりに採用活動を行うときに、「雇い入れ時健康診断」について迷うことはありませんか?
「費用はどちらが負担するべきなのか」
「どのタイミングで受診してもらえばいいのか」
「パートタイマーも全員対象になるのか」
このように、実務を進めるうえで確認しなければならない点がいくつも出てきます。
雇い入れ時健康診断は、労働安全衛生規則によって定められた企業の義務であり、正しく実施しないと法律違反になってしまうリスクがあります。
それだけでなく、入社後の社員の健康管理のスタート地点となる重要な機会でもあります。
ここでの対応がおろそかになると、後に「安全配慮義務違反」を問われたり、社員との信頼関係に影響したりする可能性もゼロではありません。
だからこそ、人事担当者は正しいルールをしっかりと理解しておく必要があります。
この記事では、雇い入れ時健康診断の対象者条件から、実施すべき検査項目、費用負担の原則、そして省略できる例外ルールまでを、実務に即してわかりやすく解説します。
最後まで読んでいただければ、迷いなくスムーズに手続きを進めることができるようになるでしょう。
産業医の選任やストレスチェックの実施、健康診断の結果管理など、人事労務担当者の業務は多岐にわたります。
クラウド型健康管理サービス『first call』なら、産業医の選任からストレスチェック、健康情報の一元管理まで、まるっとまとめて対応可能です。
目次[非表示]
雇い入れ時健康診断とは?
雇い入れ時健康診断は、企業が新たな人材を迎え入れる際に避けて通れない法的な手続きです。
しかし、単なる義務として形式的に行うだけでは不十分です。
ここでは、なぜ法律で義務付けられているのか、そして実施することによって会社にどのようなメリットがあるのかといった、根本的な目的について解説します。
ここを正しく理解することで、社内への説明や実務の進め方がよりスムーズになるはずです。
- 労働安全衛生規則で定められた事業者の義務
- 会社を守るリスク管理と健康管理の基準点
労働安全衛生規則で定められた事業者の義務
雇い入れ時健康診断とは、企業が常時使用する労働者を雇い入れる際に実施しなければならない健康診断のことです。
これは労働安全衛生規則第43条という法律で明確に定められています。
「定期健康診断は毎年やっているけれど、入社時も必要なのか」と疑問に思う方もいるかもしれません。
しかし、法律上は「事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、医師による健康診断を行わなければならない」と規定されているのです。
企業の選択制ではなく、必ず行わなければならない法的義務なのです。
この診断結果は、これから働く社員がその業務に従事しても健康上の問題がないかを確認する重要な資料となります。
具体的には、入社直後の繁忙期に体調を崩してしまったり、基礎疾患があることに気づかずに負担の大きい業務を任せてしまったりするケースが考えられます。
企業としては、まず「入社時には必ず健康診断が必要である」という認識を強く持つことです。
採用フローの中に健康診断の案内を組み込み、内定通知書と一緒に受診案内を送るなど、仕組みとして定着させておくことが大切です。
会社を守るリスク管理と健康管理の基準点
雇い入れ時健康診断には、法令遵守だけでなく、企業自身のリスクを管理するという重要な側面があります。
入社時点での健康データを取得しておくことは、その後の健康状態の変化を比較するための「ベースライン」を作ることになるためです。
もし、入社時のデータがなければ、数年後に社員が健康を害したときに、それが「入社前から持っていた持病」なのか、「入社後の業務が原因で発症したもの」なのかを区別することが難しくなります。
業務との因果関係が不明確なままだと、労災認定の場面などで会社側が不利な立場になる可能性も否定できません。
例えば、入社数年後に「過重労働でうつ病になった」と主張された場合を考えてみましょう。
もし入社時の問診や検査で、既往歴や心身の状態が記録されていれば、それが業務によるものかどうかの判断材料になります。
しかし、記録が何もないと、すべてが入社後の業務による影響だとみなされてしまうリスクが高まります。
会社が安全配慮義務を果たしていることを証明するためにも、最初の記録は非常に重要な意味を持つのです。
結果表は必ず本人から回収し、産業医の確認を受けた上で、法令で定められた5年間(通常の健康診断の場合)しっかりと保管・管理を行うようにしてください。
雇い入れ時健康診断の対象者となる条件
「どんな人が対象になるのか」という線引きは、実務で判断に迷うポイントのひとつです。
特にパートやアルバイト、派遣社員などが混在する職場では、誰に受診させるべきか混乱してしまうこともあるでしょう。
ここでは、法律上の「常時使用する労働者」の定義や、雇用形態別の考え方について詳しく整理します。
ここを間違えると、必要な人が受けていないという法令違反の状態になりかねませんので、しっかり確認していきましょう。
- 常時使用する労働者ならパートも対象
- 派遣社員は派遣元での実施が原則
常時使用する労働者ならパートも対象
「うちは正社員が少ないので関係ない」と考えている担当者の方もいるかもしれませんが、それは誤解です。
雇い入れ時健康診断の対象となるのは「常時使用する労働者」であり、これには正社員以外も含まれます。
たとえ雇用契約上の名称が「パート」や「アルバイト」であっても、実態として条件を満たしていれば、法律上の実施義務が発生するのです。
ここを曖昧にしたまま運用していると、知らず知らずのうちに法違反の状態になってしまうため注意が必要です。
具体的な条件としては、次の2点に該当する場合です。
- 契約期間の定めがない無期契約の労働者、または契約期間があっても更新により1年以上使用される見込みがある労働者
- 週の所定労働時間が、同種の業務に従事する通常の労働者(正社員など)の週所定労働時間の4分の3以上である労働者
例えば、正社員が週40時間勤務の会社であれば、週30時間以上働くパートタイマーはすべて対象になります。
対象者の確認漏れを防ぐために、採用が決まった時点で「雇用契約期間」と「週の所定労働時間」の2点を必ずチェックシートなどで確認するようにしましょう。
派遣社員は派遣元での実施が原則
最近では派遣社員を受け入れる企業も増えていますが、この場合の健康診断の責任はどこにあるのでしょうか。
これは派遣法などで整理されており、原則として「派遣元」の事業者が実施義務を負うことになっています。
雇い入れ時健康診断は、雇用関係が発生するタイミングで行うものであり、派遣社員の雇用主はあくまで派遣会社だからです。
したがって、受け入れ企業(派遣先)が費用を負担して実施する必要はありません。
ただし、特殊な業務(有害業務など)に従事させる場合の特殊健康診断については、実際に指揮命令を行っている派遣先の義務となる場合があります。
例えば、化学物質を扱う工場や、放射線を扱う現場などに派遣社員を受け入れるケースです。
派遣社員を受け入れる際は、契約書などで健康診断の実施責任について改めて確認しておくと安心です。
また、特殊な環境下での業務を依頼する場合は、事前に必要な健診項目を洗い出し、派遣元とも連携して漏れのないように手配を進めてください。
雇い入れ時健康診断を実施する適切な時期
実施のタイミングについても、実は多くの担当者が頭を悩ませています。
「入社してからでも間に合うのか」「内定段階で強制していいのか」といった疑問は尽きません。
ここでは、法律で推奨されている時期と、実際の現場でよく行われているスケジュールのパターンを紹介します。
また、条件を満たせば省略できる「3ヶ月ルール」についても解説しますので、業務効率化の参考にしてください。
- 入社直前または直後の実施が基本
- 3ヶ月以内の健康診断結果は代用ができる
入社直前または直後の実施が基本
「雇い入れ時」という言葉が指す具体的な時期について、法律上明確な範囲は示されていません。
明確に「何日以内」という数字が決まっているわけではありませんが、実務上はおおむね「入社前3ヶ月以内」または「入社後1ヶ月以内」を目安に実施することが多いです。
業務への適性を事前に確認するという目的を考えれば、入社前に受診を済ませておくのが理想的と言えるでしょう。
実際には、内定を出してから入社日までの期間を利用して、本人の都合の良い日時に受診してもらう運用が一般的です。
もし入社後の実施になってしまうと、研修や実務で忙しくなり、受診のタイミングを逃してしまうことがよくあります。
また、万が一健康上の重大な問題が見つかった場合、入社後だと配置転換などの調整が難しくなることも想定されます。
スムーズな運用のために、内定通知の段階で「入社日までに健康診断を受診し、結果を提出してください」と案内することをおすすめします。
会社指定のクリニックがある場合はその地図や予約方法を、各自で受診してもらう場合は費用の精算方法などをセットで伝えると、本人も動きやすくなります。
3ヶ月以内の健康診断結果は代用ができる
中途採用の方などから、「先月、前の会社で健康診断を受けたばかりなのですが」と相談されることがあります。
この場合、またすぐに新しい会社で受診させなければならないのでしょうか。
労働安全衛生規則43条には例外規定があり、入社前3ヶ月以内に医師による健康診断を受けていて、その結果を証明する書面を提出できる場合は、受診済みの項目については実施を免除することができます。
これを上手く活用すれば、会社としてのコストも削減できますし、本人にとっても何度も採血などを受けなくて済むメリットがあります。
前職の退職時に受けた健康診断の結果や、個人で受けた人間ドックの結果などがこれに該当します。
ただし、単に「受けたからOK」とするのではなく、結果の項目が法律で定められた11項目をすべて満たしているかどうかの確認が必須です。
不足している項目がある場合は、その部分だけを追加で実施しなければなりません。
採用担当者は、提出された診断結果のコピーを必ず目視でチェックし、必要な項目が網羅されているかを確認してください。
雇い入れ時健康診断で実施すべき11項目
定期健康診断とは異なり、雇い入れ時健康診断では実施項目の省略が厳しく制限されています。
「若いから検査は少なくていいだろう」という自己判断は通用しません。
ここでは、必ず実施しなければならない法定11項目の詳細と、なぜ省略が認められていないのか、その理由について解説します。
医療機関への予約時にトラブルにならないよう、正しい項目を把握しておきましょう。
- 法定11項目は原則として省略ができない
法定11項目は原則として省略ができない
健康診断の項目というと、年齢によって省略できるイメージがあるかもしれません。
定期健康診断では、35歳未満の従業員などは胸部X線検査や血液検査を省略できるルールがあるからです。
しかし、雇い入れ時健康診断においては、原則として項目の省略が一切認められていません。
これは、年齢にかかわらず、入社時の健康状態のベースラインを漏れなく把握する必要があるためです。
若いからといって簡易的な検査で済ませることはできないのです。
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
- 胸部エックス線検査
- 血圧の測定
- 貧血検査(血色素量及び赤血球数)
- 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
- 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
- 血糖検査
- 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
- 心電図検査
これらすべてを網羅している必要があります。
医療機関を予約する際は、必ず「雇い入れ時健康診断です」と明確に伝えてください。
多くのクリニックでは専用のセットコースを用意していますが、念のため予約時に項目一覧を確認しておくと確実です。
特に、個人で受診してきてもらう場合は、本人が間違えて簡易コースを選んでしまわないよう、必要な項目リストを渡しておくなどの配慮があると親切です。
雇い入れ時健康診断の費用負担と相場
「費用の全額を会社が出すべきか」「一部自己負担にできないか」というのは、経営的にも気になるポイントです。
法律の解釈と、一般的な企業の慣行には一定の傾向があります。
ここでは、費用負担に関する原則的な考え方と、実際の費用相場について解説します。
また、従業員とのトラブルを避けるために決めておくべきルールについても触れていきます。
- 法律上は事業者が全額負担を行うのが原則
- 一般的な費用相場は1万円から1万5千円
法律上は事業者が全額負担を行うのが原則
労働安全衛生法では、健康診断の実施義務を事業者に課しています。
その実施にかかる費用についても、義務を負う事業者が負担すべきであるという解釈が一般的です。
厚生労働省も、「事業者が負担することが望ましい」という見解を通達などで示しています。
「まだ働いていない人の分まで負担するのか」と感じることもあるかもしれませんが、これは法的義務を履行するための必要経費と捉えるべきです。
もし仮に費用を本人負担とした場合、それが原因で受診を渋ったり、拒否したりするトラブルにつながるリスクがあります。
最悪の場合、会社が実施義務を果たしていないとみなされ、是正勧告の対象になることさえあり得ます。
安全に、かつ円滑に入社手続きを進めるためにも、会社が全額を負担するルールにしておくのが無難であり、一般的な企業の対応と言えます。
社内規定などで「雇い入れ時健康診断の費用は会社負担とする」と明記しておきましょう。
一般的な費用相場は1万円から1万5千円
雇い入れ時健康診断は、病気の治療ではないため健康保険が適用されず、全額自己負担(自由診療)となります。
そのため、受診する医療機関によって料金設定に幅があります。
地域やクリニックの設備にもよりますが、おおよその相場としては、1人あたり10,000円から15,000円程度と考えておけば良いでしょう。
これにオプション検査などを追加すれば、その分費用は上がります。
コストを意識する場合、会社の近くにある複数の医療機関の料金を比較してみるのもひとつの方法です。
また、特定の医療機関と契約を結ぶことで、法人割引などが適用されるケースもあります。
定期健康診断とあわせて依頼することでスケールメリットが出る場合もあるので、一度相談してみると良いかもしれません。
ただし、安さだけで選んで予約が取りにくい病院を選んでしまうと、入社手続きが遅れる原因になるのでバランスが重要です。
突発的な中途採用が入った場合でも対応できるよう、余裕を持った予算組みをしておくことをおすすめします。
雇い入れ時健康診断を実施しなかった場合の罰則
コンプライアンスが厳しく問われる現代において、法令違反のリスクを知っておくことは重要です。
「知らなかった」「うっかりしていた」で済まされれば良いのですが、現実はそう甘くありません。
ここでは、実施義務を怠った場合に想定される法的なペナルティと、民事上の損害賠償リスクについて解説します。
- 労働安全衛生法違反で50万円以下の罰金
労働安全衛生法違反で50万円以下の罰金
「うっかり実施を忘れてしまった」では済まされないのが、法律に基づく義務の厳しいところです。
雇い入れ時健康診断を実施しなかったことが発覚した場合、労働基準監督署から是正勧告を受けることになります。
さらに、指導に従わず放置したり、悪質だと判断されたりした場合には、労働安全衛生法第120条に基づき、50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
罰金だけでなく、法令違反による社会的信用の失墜というダメージも無視できません。
また、もし健康診断を実施していなかった従業員が業務中に倒れたりした場合、会社が「安全配慮義務」を怠っていたとして、民事上の損害賠償請求を受けるリスクも高まります。
「たかが健診」と考えず、経営上の重大なリスク管理事項として捉える必要があります。
「健康診断書(または受診証明書)の提出」を入社の必須条件にするくらいの運用ルールを定めておけば、未受診のまま業務を開始してしまう事態は防げるはずです。
雇い入れ時健康診断に関するよくある質問
ここまで基本的なルールを解説してきましたが、実際の現場ではイレギュラーな事態も起こるものです。
社員が受診を拒否した場合や、受診時間の賃金の取り扱いなど、判断に迷いやすい項目は決まっています。
ここでは、人事担当者が抱えるよくある質問とその回答をまとめました。
トラブルを未然に防ぐための参考にしてください。
- 健康診断を受けなかった社員への対応はどうすればいいですか?
- 健康診断中の賃金は支払う義務がありますか?
健康診断を受けなかった社員への対応はどうすればいいですか?
業務が忙しいなどの理由で、なかなか受診してくれない社員がいる場合の対応についてです。
会社には実施義務がある一方で、労働者にも労働安全衛生法等で「健康診断を受ける義務」が定められています。
まずは本人に対して、法律上の義務であることを丁寧に説明し、業務時間内に受診に行かせるなどの便宜を図って受診を促してください。
それでも正当な理由なく拒否し続ける場合は、就業規則に基づく業務命令として受診を命じ、従わない場合は懲戒処分の対象となり得ることを伝えるなど、毅然とした対応が必要です。
健康診断中の賃金は支払う義務がありますか?
雇い入れ時健康診断を含む一般健康診断時の賃金については、法律上の明確な支払い義務はありません。
しかし、円滑な実施を図るため、厚生労働省は「受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましい」としています。
実際には、多くの企業が受診時間を「勤務時間」とみなして賃金を支払っています。
労使間のトラブルを避けるためにも、就業規則等で取り扱いを明確にしておくことが大切です。
【まとめ】法令を遵守して新入社員を迎え入れる準備を行う
雇い入れ時健康診断は、企業が果たさなければならない重要な法的義務です。
対象者は正社員だけでなく、条件を満たすパートタイマーも含まれます。
実施項目は法定の11項目を省略することなく行い、費用は原則として会社が負担します。
もし実施を怠れば、罰金刑や損害賠償請求のリスクを負うことにもなりかねません。
正しい知識を持って運用ルールを整備しておくことは、会社を守るだけでなく、新しく入る社員への最初の「思いやり」でもあります。
安心して働ける環境を整え、気持ちよく新しい仲間を迎え入れましょう。
もし産業医の選任やストレスチェック実施、健康診断の結果管理など、産業保健の体制構築でお困りであれば、ぜひ一度『first call』までご相談ください。
産業医の選任から健康情報の一元管理まで、経験豊富な専門スタッフが状況に合わせた最適なサポートをご提案いたします。



























