
飲食業特有の産業医の選び方と失敗しないポイントとは?報酬相場や深夜業務まで解説
昨今、飲食業界を取り巻く環境は変化のスピードを上げています。
慢性的な人手不足に加え、インバウンド需要への対応や、原材料費の高騰など、経営者や店長が抱える課題は山積みです。
働き方改革への対応も定着してきたとはいえ、日々のシフト調整や労務管理に頭を悩ませている担当者の方も多いのではないでしょうか。
そんな中で、リスク管理として重要性が増しているのが「従業員の健康管理」です。
店舗スタッフが増え組織が拡大するにつれて、「産業医」の選任義務が発生するタイミングが訪れます。
「学生アルバイトばかりだが、産業医は必要なのか?」「深夜営業店舗の健康診断はどうすべきか?」といった疑問は、多くの企業で共通する悩みです。
産業医の選任ルールを正しく理解し、適切な体制を作ることは、単に「法律を守る」以上の経営メリットがあります。
この記事では最新情報を踏まえ、飲食業の現場に合わせた解説を行います。複雑な「50人の壁」の数え方から、深夜労働・食中毒といった特有のリスクへの対策、そして物価上昇局面における報酬相場まで、分かりやすくまとめました。
これから解説する産業医の選任や、店舗ごとの健康管理体制の構築について、「もっと手軽に、効率よく進めたい」とお考えの方は、産業医の紹介やオンラインでの健康相談が可能な「first call」の活用を検討してみてください。
複数の店舗管理や、医師との連携をスムーズに行えるため、多くの飲食企業で導入が進んでいます。こうしたツールの活用も視野に入れつつ、まずは基本的なルールから確認していきましょう。
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飲食業で産業医の選任義務が発生する50人の壁と正しい数え方
「従業員が50人を超えたら産業医が必要」という話は広く知られていますが、シフト制で働くスタッフが多い飲食店の場合、この「50人」のカウント方法は複雑で、誤解が生じやすいポイントでもあります。
ここでは、間違いやすい人数の数え方や、法律違反になってしまうリスクについて、詳しく解説していきます。
- 週の労働時間に関わらず、継続雇用のパートは全員含める
- 会社全体ではなく、店舗単位で常時50人かどうかを判断する
- 義務違反は50万円以下の罰金や、安全配慮義務のリスクがある
週の労働時間に関わらず、継続雇用のパートは全員含める
まず重要なのが、パートやアルバイトスタッフの扱いです。
「週に数回しか来ない学生アルバイトは人数に入らないのではないか」と考える方も少なくありません。
しかし、産業医選任の基準となる「常時使用する労働者」のカウントにおいては、週の労働時間は関係ありません。
たとえ週1回の勤務であっても、単発の派遣などではなく「継続して雇用されている」のであれば、そのスタッフは法的に「1人」としてカウントされます。
社会保険の加入条件(週20時間以上など)とはルールが異なりますので、混同しないよう注意が必要です。
つまり、店舗に在籍しているスタッフであれば、雇用形態に関わらず、原則として全員をカウントします。
「労働時間が短いから対象外」というわけではないことを、しっかりと押さえておきましょう。
会社全体ではなく、店舗単位で常時50人かどうかを判断する
次に大切なのが、「どこ単位で数えるか」という点です。
会社全体の従業員数が100人いたとしても、直ちに全店で産業医が必要になるわけではありません。
この法律は、原則として「事業場(店舗)」ごとに適用されます。
例えば、A店に30人、B店に60人、本社に20人という場合、産業医を選任しなければならないのは「60人のB店だけ」ということになります。
A店や本社は50人未満なので、法律上の選任義務はありません。
ただし、同じ建物の中に複数の店舗が入っているような場合は、まとめて一つの事業場とみなされるケースもあります。
判断に迷う場合は、管轄の労働基準監督署に相談するのが確実です。
義務違反は50万円以下の罰金や、安全配慮義務のリスクがある
「コストもかかるし、少し様子を見よう」と、選任を先送りにしてしまうのは危険です。
義務があるのに産業医を選任しなかった場合、法律違反として50万円以下の罰金が科される可能性があります。
それだけではなく、さらに怖いのが「安全配慮義務違反」に問われるリスクです。
また、産業医の未選任は、同時に「衛生委員会」の未設置という別の違反も引き起こしがちです。
飲食業の場合、50人以上の事業場には「衛生委員会」の設置義務がありますが、この委員会の構成員には必ず産業医を含めなければならないからです(実務上は、安全委員会と統合して「安全衛生委員会」として運営することも可能です)。
万が一、スタッフが過労で倒れてしまったり、メンタルヘルス不調を起こしてしまったりした際に、「産業医もいなければ委員会も開いていなかった」という事実は、会社にとって大きな不利になります。
今の時代はSNSなどで「あの店は労働環境が悪い」といった情報が広まるのも早いため、コンプライアンスは厳格に守る必要があります。
飲食業の産業医が果たす役割と深夜労働などの特有リスク
「産業医は具体的に何をするのか?」という疑問もあるでしょう。
オフィスワークとは違い、飲食店には火や刃物を扱う物理的な危険や、不規則な勤務といった特有のリスクがあります。
ここでは、飲食業ならではの産業医の役割について、具体的に解説していきます。
- 月4回以上深夜勤務する従業員には、半年ごとの健診義務がある
- 厨房特有の転倒や腰痛など、労働災害防止の助言をもらう
- 食中毒を防ぐ衛生管理や、ノロウイルス感染後の復職判断を仰ぐ
月4回以上深夜勤務する従業員には、半年ごとの健診義務がある
居酒屋や24時間営業のお店では、深夜勤務が欠かせません。
深夜(午後10時から翌朝5時まで)に働くスタッフには、通常よりも手厚い健康管理が義務付けられています。
深夜勤務を「週1回以上」または「月4回以上」行っているスタッフに対して、6ヶ月に1回の健康診断を受けさせなければなりません。
これを「特定業務従事者健康診断」と呼びます。
多くのアルバイトスタッフがこの条件に当てはまる可能性があります。
産業医は、この健診結果をチェックし、「このまま夜勤を続けても健康上問題ないか」といった判断を行います。
無理なシフトで体調を崩す前にストップをかけてくれる、リスク管理の要といえます。
厨房特有の転倒や腰痛など、労働災害防止の助言をもらう
厨房の中は、水や油で床が滑りやすかったり、重い食材を運んで腰を痛めたりと、労働災害のリスクと隣り合わせです。
産業医は、定期的に職場を巡視して、こうした危険な箇所がないかチェックします。
- 「床が滑りやすいので、清掃方法や履物を見直しましょう」
- 「重い食材を運ぶ時は、台車を活用しましょう」
- 「中腰の姿勢が続くので、作業台の高さを工夫できませんか?」
また、近年の法改正により、同じ場所で働く個人事業主(フリーランスや業務委託の方など)に対しても安全対策を行うことが事業者に義務付けられています。
産業医の助言をもとに、雇用形態に関わらず、すべての働く人の安全を守る対策を進めていく必要があります。
食中毒を防ぐ衛生管理や、ノロウイルス感染後の復職判断を仰ぐ
飲食店にとって、食中毒は事業存続に関わる重大なリスクです。
特にノロウイルスは感染力が強く、スタッフ間で広がってしまう恐れもあります。
ここで重要なのが、「感染したスタッフをいつ復帰させるか」という判断です。
一般的な主治医は「症状が治まったから治癒」と診断するかもしれません。しかし、症状が消えてもウイルスはまだ体内に残っていることがあるのです。
産業医は、お店の安全を守る立場から「検便で陰性が確認できるまでは調理場に入ってはいけない」といった、公衆衛生の視点に基づいた厳しい基準で判断を行います。
現場のリスクを理解した専門家の意見があることで、自信を持って復職の判断ができるようになります。
飲食業に強い産業医の選び方と失敗しないためのチェックポイント
せっかく産業医と契約しても、飲食店の現場を全く理解していない医師では、適切なアドバイスは難しいかもしれません。
「話が難しすぎて現場と噛み合わない」といった事態を避けるため、選び方にはポイントがあります。
ここでは、飲食業にマッチする産業医を見つけるための視点を解説していきます。
- 厨房の労働環境や感染症対策に理解がある医師を選ぶ
- 若手や外国人スタッフと円滑に話せる医師か確認する
- 産業医紹介会社を活用して飲食業にマッチする医師を探す
- 多店舗展開ではオンライン面談と実地巡視を組み合わせる
厨房の労働環境や感染症対策に理解がある医師を選ぶ
医師が飲食店の現場を具体的にイメージできているかどうかが大切です。
夏の厨房の暑さや、ピークタイムの忙しさは、経験した人でないとなかなか想像できません。
「こまめに水分補給を」と言うのは簡単ですが、現場では「いつ、どこで?」が問題になります。
面談の際には、現場の状況を伝えてみてください。
「それなら、ボトルをここに置いて、オーダーが途切れた瞬間に一口飲みましょう」といった、現実的な運用に落とし込んだ提案をしてくれる医師が理想的です。
また、食中毒対策についても、過剰になりすぎず、お店の運営と安全のバランスを考慮できる医師だと心強いでしょう。
若手や外国人スタッフと円滑に話せる医師か確認する
飲食店では、若年層や外国人スタッフも多く活躍しています。
そのため、医師の「話しやすさ」も重要なチェックポイントです。
威圧的な態度の医師だと、スタッフは萎縮してしまい、本当の不調や悩みを相談できません。
- 難しい専門用語を使わずに説明してくれるか
- 外国人スタッフにも「やさしい日本語」や翻訳ツールを使って歩み寄ってくれるか
- メンタルヘルスの相談にも柔軟に対応してくれるか
こうしたコミュニケーション能力の高さは、資格の有無以上に、現場での信頼関係構築において重要な要素です。
産業医紹介会社を活用して飲食業にマッチする医師を探す
「どうやって条件に合う医師を探せばいいのか」と悩む方も多いでしょう。地域の医師会に依頼するのも一つの手ですが、必ずしも飲食業に詳しい医師に当たるとは限りません。
そこでおすすめなのが、産業医紹介サービスを利用することです。
紹介会社なら、「飲食業の経験がある医師」「女性スタッフが多いので女性医師」といった希望に合わせて、多くの登録医師の中からマッチする人材を探してくれます。
契約の手続きや報酬の交渉も間に入ってくれるので、忙しい担当者には大きなメリットがあるのです。
飲食業界の産業医選任や産業保健体制の構築であれば、「first call」がおすすめです。
飲食業の経験が豊富な産業医の紹介が可能なだけでなく、店舗スタッフがスマホから直接医師にチャットで健康相談ができる機能なども備わっています。
店長や本社を通さずに相談できる環境は、スタッフの安心感にもつながりますし、全国に店舗がある場合でも、オンラインで一元管理できるため、担当者の負担を大幅に減らすことができます。
「どの会社に相談すればいいかわからない」という方は、まずは検討してみてください。
多店舗展開ではオンライン面談と実地巡視を組み合わせる
全国に店舗がある場合、全ての店舗に毎月産業医が訪問するのは、コスト的にも物理的にも困難です。
現在では、スマホやPCを使ったオンラインでの産業医面談も広く活用されるようになっています。
例えば、メインの産業医は本社で契約し、遠方の店舗スタッフとの面談はオンラインで行う、といった使い分けが可能です。
また、一定の条件(毎月の情報提供など)を満たせば、毎月の職場巡視を「2ヶ月に1回」に減らすことも可能です(その分、店長が撮影した動画や報告書でチェックするなどの対応は必要です)。
ITツールをうまく組み合わせつつ、コストを抑えながらしっかりとした健康管理体制を作っていくのが現実的です。
飲食業における産業医の報酬相場と契約形態の目安
やはり気になるのは「いくらかかるのか」というお金の話です。
特に2026年は、医療従事者の賃上げ等を背景とした診療報酬改定の影響もあり、産業医の報酬相場も上昇傾向にあります。
ここでは、契約後に「こんなに高いと思わなかった」と後悔しないために、正確な相場観と費用の仕組みについて解説します。
- 従業員50人規模なら月額数万円~10万円が目安
- 「基本報酬」に含まれない追加費用に注意
- 選任義務があるなら嘱託契約、50人未満の単発業務ならスポット契約を選ぶ
従業員50人規模なら月額数万円~10万円が目安
多くの飲食店で選任することになるのは、月に1回訪問してくれる「嘱託産業医」です。
この報酬額は、従業員の人数や契約方法によって変動しますが、従業員50人〜99人の店舗であれば、月額6万円〜10万円程度が一般的な市場価格となっています。
「first call」では、同規模(50名)で月額4万円(税別)からのご提案をしています。
業界全体で見れば、物価高や医師の人件費上昇に伴い、以前よりも相場感は上がっているのが現実です。
安さだけで選ぶと「名前を貸すだけで何もしてくれない」というトラブルも起きやすいため、契約に含まれる業務内容をしっかり確認することが重要です。
「基本報酬」に含まれない追加費用に注意
産業医契約でトラブルになりやすいのが、「月額報酬に含まれていない業務」への追加請求です。
一般的に、月額の基本報酬に含まれるのは「訪問時間内に行う業務(職場巡視や衛生委員会への参加)」のみです。
以下のような業務は、多くの場合オプション料金として別途費用が発生します。
- ストレスチェックの実施費用:従業員1人あたり数百円〜
- 高ストレス者面談:1回あたり2万円〜3万円程度
- インフルエンザ予防接種:ワクチン代+医師の出張費・手技料
- 訪問時間外の対応:急なトラブルや、書類作成依頼など
特に、医師会などを経由して直接契約する場合、「基本料は安いが、訪問するたびに『訪問料』が加算される」という料金体系のケースもあり 、トータルコストが高額になることがあります。
紹介会社を経由する場合は、訪問料や交通費がパッケージ化されていて予算管理がしやすい傾向にありますが、契約前には必ず「何がオプションか」を確認するようにしてください。
選任義務があるなら嘱託契約、50人未満の単発業務ならスポット契約を選ぶ
契約の形には、毎月定額を払う「顧問契約」と、必要な時だけ依頼する「スポット契約」があります。
従業員が50人以上の店舗には法的な義務があるため、継続的な顧問契約が必須です。
一方で、50人未満の店舗では選任義務はありませんが、長時間労働の面談や、メンタルヘルスの復職判定など、どうしても医師の医学的判断が必要な場面が出てきます。
そんな時は、単発で依頼できるスポット契約を利用するのがおすすめです。
無駄なコストをかけずに、必要な時だけ専門家のサポートを受けることができます。
飲食業の産業医選任に関するよくある質問
最後に、現場の担当者が抱えるよくある質問にお答えします。
誤解しやすいポイントですので、改めて確認しておきましょう。
- 選任届はいつまでに労働基準監督署へ提出すべきでしょうか?
- 短時間のパートも50人のカウントに含まれるのでしょうか?
- 従業員50人未満の店舗でも産業医の選任は必要でしょうか?
選任届はいつまでに労働基準監督署へ提出すべきでしょうか?
「50人を超えてから14日以内」です。
非常にタイトなスケジュールとなっています。
50人になってから探し始めると、契約の手続きなどで間に合わなくなってしまう可能性があります。
「そろそろ45人くらいになりそうだな」という段階で、早めに候補者を探し始めるのが確実です。
選任後は、所轄の労働基準監督署への報告が必要です。
短時間のパートも50人のカウントに含まれるのでしょうか?
はい、含まれます。
前述の通り、週の労働時間は関係ありません。
「社会保険に入っていないからカウントしなくていい」というのは誤りですので、注意しましょう。
「店舗に籍があるスタッフは全員数える」と考えておくのが安全です。
従業員50人未満の店舗でも産業医の選任は必要でしょうか?
法律上の選任義務はありません。
届け出も不要です。ですが、会社として「スタッフの健康を守るよう努める義務」はあります。
50人未満でも、健康診断は必要ですし、医師からの意見聴取も行わなければなりません。
「地域産業保健センター」という公的な機関を使えば、無料で医師の相談を受けられるので、こうしたサービスをうまく活用するのも有効です。
なお、2025年5月の法改正により、将来的(2028年頃まで)には50人未満の事業場でもストレスチェックが義務化されることになりました。
今のうちから少しずつ、メンタルヘルス対策の準備を進めておくことをお勧めします。
【まとめ】飲食業の産業医はリスク管理と人材定着を支えるパートナー
ここまで、飲食業における産業医について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
「義務だから」と形式的に捉えると、どうしてもコスト負担に感じてしまいます。
ですが、産業医をうまく活用することは、店舗運営にとって大きなメリットをもたらします。
スタッフが健康で元気に働いてくれれば、店舗の雰囲気も良くなり、急な欠勤による現場の混乱も減るでしょう。
何より、「スタッフの体を大切にしてくれるお店」という評判は、人材確保における強力な差別化要因となります。
ただの「名義貸し」ではなく、お店の安全とスタッフを守る「パートナー」として、自社に合った産業医を見つけていただければと思います。
もし、「産業医の探し方がわからない」「複数店舗の健康管理をオンラインで効率化したい」とお考えであれば、冒頭でも触れた「first call」を検討してみるのもおすすめです。
飲食業に合った産業医の紹介はもちろん、スタッフがチャットで医師に相談できる機能など、現場の負担を減らしながら健康管理を充実させる仕組みが整っています。
まずは、自社に必要なサポートが何かを整理することから始めてみてはいかがでしょうか。



























