厚生労働省が提唱する4つのケアとは?メンタルヘルス対策で重要な取り組みを解説
厚生労働省の『令和2年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況』によると、5割以上の労働者が「仕事・職業生活に関して、強い不安やストレスになっていると感じる事柄がある」と回答しています。
従業員のメンタルヘルス対策に向けた取組みの必要性が高まるなか、厚生労働省は、従業員の心の健康保持・増進のための指針となる“4つのケア”を示しています。
企業が従業員のメンタルヘルス対策を効果的に進めるためには、“4つのケア”を継続的かつ計画的に行うことが求められます。
本記事では、厚生労働省が定める“4つのケア”について、メンタルヘルス対策が求められる背景や“4つのケア”を実施するための取組みを解説します。
出典:厚生労働省『令和2年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況』
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厚生労働省が示す“4つのケア”とは
“4つのケア”とは、職場でのメンタルヘルス対策を進めるために必要な4つの取組みのことです。
厚生労働省では、国や事業者、労働者が一体となって労働災害防止対策に取り組むことを目的に、労働安全衛生法に基づいた『第13次労働災害防止計画』を策定しています。
この計画では、労災防止に向けた8つの重点施策が定められており、その一つにメンタルヘルス対策の推進が含まれています。
“4つのケア”は、メンタルヘルス対策の推進に向けて必要な取組みとして、厚生労働省の『職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~』で示されています。
▼“4つのケア”の内容
①セルフケア |
事業主が労働者・管理監督者に対して行うケアのこと。 事業主は、労働者・管理監督者が自身のストレスに気づき、対処できるように、教育研修や情報提供などの支援を行う。 |
②ラインによるケア |
管理監督者が行うケアのこと。 職場の管理監督者が、職場環境の把握や従業員からの相談対応・職場復帰の支援などを行う。 |
③事業場内産業保健スタッフ等によるケア |
産業医や保健師、人事・労務部が行うケアのこと。 中立的な立場で、労働者や管理監督者のケアを支援、また具体的なメンタルヘルス対策の計画を行う。 |
④事業場外資源によるケア |
専門機関から支援を受けて実施するケアのこと。 事業場外の医療機関や保健機関などから助言や情報提供を受けたり、サービスを活用したりしてメンタルヘルスケアに役立てる。 |
厚生労働省:『職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~』を基に作成
それぞれのケアの進め方や具体的な取組みについては後述します。
出典:厚生労働省『第13次労働災害防止計画』/厚生労働省 独立行政法人労働者健康安全機構『職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~』
“4つのケア”が必要とされる背景
職場でのメンタルヘルス対策として“4つのケア”が必要とされる背景には、以下の3つが挙げられます。
①仕事のストレス増加
1つ目は、従業員の仕事に対するストレスの高さです。
厚生労働省の『令和2年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況』によると、仕事や職業生活で強いストレスを感じる労働者の割合は、54.2%と半数以上に上ります。主な原因として挙げられる3つは次のとおりです。
▼ストレスの原因となっている事柄
- 仕事の質・量:56.7%
- 仕事の失敗、責任の発生等:35.0%
- 対人関係(ハラスメントを含む):27.0%
なかでも、上司・同僚による業務サポートが受けにくい職場環境や残業が多くなりやすい職場では、ストレスを感じる人が多いと考えられます。また、仕事への過度なプレッシャーや対人関係に悩む人も一定数いることが分かります。
このような仕事に対するストレスを軽減させるためには、業務分担のほか、従業員が対人関係の相談を行いやすい体制を整えることが重要です。
出典:厚生労働省『令和2年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況』
②労災認定件数の増加
2つ目は、精神障害による労災認定件数の増加です。
厚生労働省が公表する労災補償状況のうち、2006年と2020年を比較すると、精神障害等による労災認定件数が大きく増加していることが分かります。
▼精神障害等による労災認定件数(※支給決定件数)
2006年 |
2020年 |
|
精神障害等 |
205件 |
608 件 |
うち自殺(未遂含む) |
66件 |
81件 |
労災を防ぐには、業務による心理的負荷を軽減できるように、ストレスチェックを実施したり、高ストレス者のフォローを行ったりすることが重要です。
出典:厚生労働省『精神障害の労災補償状況』/『脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況(平成18年度)について』
③いじめ・嫌がらせに関する相談件数の増加
3つ目は、職場でのいじめや嫌がらせが増えていることです。
厚生労働省が公表する個別労働紛争の相談件数のうち、“いじめ・嫌がらせ”に関する相談件数の占める割合が増加しています。相談内容の割合を2008年と2020年で比較した結果は次のとおりです。
▼民事上の個別労働紛争相談件数のうち、いじめ・嫌がらせに関する相談内容が占める割合
2008年 |
12.0% |
2020年 |
約28.4%(※) |
いじめや嫌がらせは、従業員のメンタルヘルス不調を招く原因の一つです。メンタルヘルス不調を防ぐには、職場でのハラスメント対策をはじめ、従業員が相談できる専門窓口や産業医の設置などが求められます。
※民事上の個別労働紛争相談の全体件数は27万8,778件。いじめ・嫌がらせに関する相談件数は79,190件。算出式[79,190÷278,778×100=28.40611]※小数点第二以下切り捨て
出典:厚生労働省『「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します』/『平成20年度個別労働紛争解決制度施行状況』
“4つのケア”を実施するための取組み
“4つのケア”を実施するには、従業員、事業主、人事・労務担当者、産業医などが一体となって取組みを推進することが重要です。
ここからは、“4つのケア”の具体的な取組みについて解説します。
①メンタルヘルスに関する情報提供
従業員にメンタルヘルスやストレスに対して正しい知識を持ってもらうために、教育研修をはじめとした情報提供を行うことが有効です。
情報提供により、メンタルヘルス対策の重要性についての理解を深めてもらうこと、また、自身のストレスに気づきを得てもらう目的があります。
メンタルヘルスに関する情報提供のための具体的な取組みは次のとおりです。
▼情報提供のための取組み例
- 業務・役職に応じたメンタルヘルス研修の実施
- メンタルヘルスマネジメント検定の実施
- 産業医や事業場外の医療機関・保健機関による保健指導 など
出典:厚生労働省 独立行政法人労働者健康安全機構『職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~』
②現状把握と改善
メンタルヘルス不調につながる問題点とその原因を把握するために、職場環境や従業員のストレス度合いを評価することも重要です。
職場環境における現状の課題や問題点を可視化することで、業務環境や組織体制などの見直しを図れるようになります。
職場環境やストレス度合いを把握するための取組みには以下が挙げられます。
▼現状把握のための取組み例
- 日々の労働環境(仕事の質や量)についての調査
- 従業員に対するストレスチェックの実施
- 職場でのハラスメントの有無を確認するための面談の実施 など
出典:厚生労働省 独立行政法人労働者健康安全機構『職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~』
③メンタルヘルス不調者の早期発見
職場でメンタルヘルス対策を行っていても、さまざまな原因によってメンタルヘルス不調者が現れることがあります。
症状が深刻化すれば、うつ病をはじめとした精神疾患を患い休職を余儀なくされるケースがあるほか、自殺につながるリスクも高まります。
これらのリスクを回避するには、メンタルヘルス不調者を早期に発見できる仕組みづくりをはじめ、早期発見後、迅速に対応できる体制を構築することが重要です。
具体的には、次のような取組みが挙げられます。
▼メンタルヘルス不調者の早期発見・対応に向けた取組み例
- 従業員自らが自発的に相談できる窓口の設置
- 定期的なセルフチェックの実施
- 産業医による定期面談の実施
- 管理監督者と事業場内産業保健スタッフ等の連携体制の構築
- 従業員の家族への相談窓口の提供 など
出典:厚生労働省 独立行政法人労働者健康安全機構『職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~』
④職場復帰に向けた支援の実施
メンタルヘルス不調によって休職した従業員に対して、職場復帰を支援するための取組みが必要です。
産業医のアドバイスを受けながら、職場復帰支援プログラムを作成するとともに、従業員、事業主、人事・労務担当者、産業医と連携できる体制を整備することも有効です。
▼職場復帰支援の取組み例
- 産業医による復職面談の実施
- 人事労務管理と産業医が連携できるシステムの導入
- 模擬出勤や通勤訓練の導入 など
出典:厚生労働省 独立行政法人労働者健康安全機構『職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~』/厚生労働省 中央労働災害防止協会『〜メンタルヘルス対策における職場復帰支援〜心の健康問題により休職した労働者の職場復帰支援の手引き』
ストレスチェックで予防・早期発見
従業員のメンタルヘルス不調を予防して、高ストレス者を早期発見するためには、ストレスチェックの実施が必要です。
『労働安全衛生法』第66条第10項では、常時50人以上の従業員を使用する事業場に対して、ストレスチェックの実施を義務付けています。
ストレスチェックを実施することで、以下のような取組みにつなげられます。
▼ストレスチェックによる取組み例
- 従業員が自身のストレスに気づき、改善に向けた対処を行う
- 高ストレス者に対して、産業医による面接指導やフォローを行う
- ストレスチェックの結果を集団分析して、ストレスの原因となる職場環境を改善する など
ストレスチェックの実施方法についての解説はこちら
企業のメンタルヘルス対策として欠かせないストレスチェックですが、従業員数が多い場合、ストレスチェック制度の構築から運用までに労力がかかってしまうこともあります。
そのようなときに活用できるのが、健康管理サービスです。クラウド型健康管理サービス『first call』を導入すれば、オンラインで次のような取組みを実施できるようになります。
▼first callの導入で実施できる取組み例
- ストレスチェックの受検案内
- アプリやWebブラウザでのストレスチェックの実施
- ストレスチェック結果の集計
- 産業医面談の希望確認 など
ストレスチェックの実施に加えて、高ストレス者の判定や産業医による面接指導なども、すべてオンラインで対応できます。
first callの導入によってストレスチェックの運用を効率化することで、職場環境の改善や従業員へのフォローに注力できるようになります。“4つのケア”の取組みを推進させるためにも、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
出典:厚生労働省 独立行政法人労働者健康安全機構『職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~』/厚生労働省『ストレスチェック制度に関する法令 』/e-Gov法令検索『労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)』
まとめ
この記事では、厚生労働省が示す“4つのケア”について、以下の項目で解説しました。
- 厚生労働省が示す“4つのケア”の概要
- “4つのケア”が必要とされる背景
- “4つのケア”を実施するための取組み
- サービスを活用したストレスチェックの実施
仕事に対するストレス、精神障害による労災認定件数が増加している現代において、従業員のメンタルヘルス対策は企業にとって欠かせない取組みの一つです。
企業、従業員、産業医などが一体となって“4つのケア”に取り組むことで、メンタルヘルス対策を強化できるようになります。
また、メンタルヘルス不調を防ぎ、労働災害を避けるには、従業員のストレス状況を把握するためのストレスチェックが欠かせません。
『first call』を導入することで、ストレスチェックのスムーズな運用サポートに加えて、産業医との面談によって従業員が自らの悩みを相談できるサービスも提供しています。職場でのメンタルヘルス対策を強化したい場合は、ぜひお気軽にご相談ください。