パワハラは安全配慮義務違反の可能性がある!過去に認められた事例や企業がすべき対応について解説
『労働契約法』第5条において、企業には従業員が安全かつ健康に業務に従事できるように、“安全配慮義務”が課せられています。労働災害を防ぎ、従業員の心身の健康や快適な職場環境を形成するために、適切な措置が求められています。
なかでもパワーハラスメント(以下、パワハラ)は、精神障がいに関する労働災害の原因の一つと考えられています。厚生労働省が発表した『令和3年度「過労死等の労災補償状況」を公表します』では、精神障害に関する事案の労災補償状況の支給決定件数において、「上司等から、身体的・精神的攻撃などのパワハラを受けた」との回答がもっとも多かったことが分かります。
人事・総務担当者のなかには、「従業員が安全に業務を遂行できるよう、パワハラや安全配慮義務違反に気をつけたい」と考えている方もいるのではないでしょうか。
そこで、今回は安全配慮義務違反とパワハラに対して、企業に求められる対応について解説します。
なお、安全配慮義務を果たすための具体的な取組みや罰則については、こちらの記事で詳しく解説しています。併せてご確認ください。
また、クラウド型健康管理サービス「first call」では、産業医業務のオンライン対応(職場巡視を除く)が可能な嘱託産業医の選任や、医師への相談窓口など産業医や医師による企業の健康サポートを行っています。ストレスチェックの実施に加え、健康診断結果や面談記録の管理、面談日程調整など企業の健康管理業務をオンライン化できます。
出典:e-Gov法令検索『労働契約法』/厚生労働省『令和3年度「過労死等の労災補償状況」を公表します』
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パワハラは安全配慮義務違反の可能性がある
2020年6月から施行された『労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律』によって、パワハラの防止措置が企業に義務化されました。社内でパワハラが発生した場合、企業が安全配慮義務違反に問われる可能性があります。
厚生労働省では、職場におけるパワハラの定義として、以下の3つの要素をすべて満たす行為としています。
▼職場でのパワハラの定義
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パワハラによって従業員の心身の健康や就業環境が害された場合、被害防止や従業員に対する配慮のための取組みを怠ると、安全配慮義務違反にあたる可能性があります。
労働災害や損害賠償請求などのリスクを防ぐため、企業にはパワハラ対策にさらに取組むことが求められます。
なお、職場で起こるハラスメントの種類や対策については、こちらの記事で解説しています。
パワハラのリスクについては、こちらをご確認ください。
出典:厚生労働省『職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!』『労働施策総合推進法に基づく「パワーハラスメント防止措置」が中小企業の事業主にも義務化されます!』/厚生労働省 あかるい職場応援団『ハラスメントの定義』
パワハラが安全配慮義務違反と認められた事例
実際に、パワハラによって、使用者の安全配慮義務違反を言い渡された事例があります。
▼パワハラの事例
2021年7月、とある病院企業団において、上司からの激しい叱責や罵倒を受けたことで従業員が休職に至りました。
これに対して適切な対応を行わなかったことや、適切な職場環境を整えなかったことが安全配慮義務違反にあたるとして、地方裁判所は、パワハラを行った上司と安全配慮義務に違反した使用者に対して慰謝料の支払いを命じました。
出典:厚生労働省『職場のいじめ・嫌がらせ問題について』/大阪府『職場のハラスメント防止・対応ハンドブック』
企業に求められる対応
パワハラによる安全配慮義務違反を防ぐには、日頃から安全配慮義務を果たせる職場づくりを心がけることが重要です。
ここからは、安全配慮義務を果たすための企業の対応について解説します。
①パワハラ防止の社内方針を明確化・周知
企業は、「職場でパワハラをしてはいけない」といった方針を明確にして、従業員や管理者に周知する必要があります。
また、職場におけるパワハラの内容や発生原因、行為者への対応フローについても明確化しておきます。社内方針を定める際は、就業規則や服務規律などに記載するとともに、社内報、パンフレットなどにまとめて配布することも大切です。
従業員に周知・啓発する取組みとして、研修・講習の実施が挙げられます。パワハラによる安全配慮義務違反の事例や、それに伴う企業へのリスクなどを周知しておくと、パワハラの抑止につながります。
出典:厚生労働省『職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!』/厚生労働省 あかるい職場応援団『職場におけるハラスメント関係指針』
②相談窓口の設置と体制の整備
職場におけるパワハラの実態や従業員間のトラブルを把握するため、社内に相談窓口を設けて体制を整備します。
パワハラは、従業員の立場や人間関係などさまざまな要因が絡み合って発生するため、相談時点ではパワハラと断定できないケースも少なくありません。
しかし、問題の肥大化を防ぐためには、パワハラの恐れがある事案に対して、放置せず事実確認を行い、適切な対策を講じる必要があります。
相談窓口を設置する際は、従業員が安心して相談できるように、相談者の心身の状況やプライバシーなどに配慮することが欠かせません。また、必要に応じて人事担当者や上司と連携を取れるよう、対応フローをマニュアル化しておくことも重要です。
出典:厚生労働省『職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!』/厚生労働省 あかるい職場応援団『職場におけるハラスメント関係指針』
③被害を受けた従業員のケアと再発防止
職場でパワハラが発生している事実が確認できた場合は、被害を受けた従業員のケアと再発防止の措置を講じます。
具体的な措置として、以下の取組みが挙げられます。
▼被害者のケア・再発防止の取組み
- 被害者と行為者の関係改善に向けた援助
- 被害者と行為者を引き離すための配置転換
- 行為者の謝罪
- 被害者の労働条件上の不利益の回復
- 原職または原職相当職への復帰の支援
- メンタルヘルス不調の相談対応
一方、行為者に対しては服務規律に基づき、必要な懲戒、そのほかの措置を講じます。また、被害者・行為者への措置だけでなく、再発防止に向けて、改めて社内へ周知・啓発を行うことも重要です。
産業医を選任している企業では、休職した従業員の復職サポートを依頼できます。産業医の活用も含めて、被害者のケアや再発防止措置を講じるとよいでしょう。
出典:厚生労働省『職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!』/厚生労働省 あかるい職場応援団『職場におけるハラスメント関係指針』
まとめ
この記事では、パワハラと安全配慮義務違反について、以下の項目を解説しました。
- パワハラは安全配慮義務違反の可能性がある
- パワハラが安全配慮義務違反と認められた事例
- 企業に求められる対応
企業には安全配慮義務が課せられています。職場でパワハラが行われたにもかかわらず、企業が適切な措置を講じなければ、安全配慮義務違反に問われる可能性があります。
安全配慮義務を果たすためには、パワハラに関する社内方針の明確化や相談窓口の設置、被害者のケア・再発防止措置などに取組むことが重要です。日頃から従業員の心身の健康をサポートして、相談しやすい職場環境を整えることが求められます。
また、産業医との面談を気軽に行える仕組みがあると、心身の不調を訴える従業員の相談を通じて、パワハラの被害に気付くことができます。パワハラの早期発見につながるほか、被害を受けた従業員のケアについて、産業医の意見を聞くこともできます。
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