
産業医面談義務化の残業時間とは?企業担当者が押さえるべき基準と対応フローを解説
「うちの会社、残業大丈夫?」「社員の健康管理、どうすれば?」そんな悩みを抱える担当者の皆さんは産業医面談制度をご存知ですか?
長時間労働から社員を守るこの制度は、法律で定められた会社の義務。適切に運用すれば、社員がいきいきと働ける職場になり、会社も法的リスク回避や生産性向上といったメリットが期待できます。
この記事では、産業医面談の基本から具体的な対応、長時間労働対策まで分かりやすく解説していきます。
また、これらの課題解決として、産業医の紹介や、全国どこでも面談予約・実施・意見書管理までシステム上で実施可能で、オンライン産業医面談が利用できる「first call」の活用も効果的です。
目次[非表示]
- ・産業医面談と残業時間の関係
- ・会社の産業医面談義務と残業時間の法的基準
- ・面談義務の残業時間基準は社員の区分で異なる
- ・一般社員の残業月80時間超は本人の希望によって産業医面談義務
- ・研究開発職の残業月100時間超は希望がなくても産業医面談義務
- ・高度専門職も実質残業月100時間超で産業医面談義務
- ・月平均80時間超の残業継続も産業医面談義務の対象
- ・産業医面談義務違反は労働安全衛生法で罰則の可能性あり
- ・産業医面談の進め方│手順や残業時間の確認
- ・Step1:全社員の正確な残業時間を客観的な記録で会社が把握
- ・Step2:基準超の残業時間情報を産業医と社員本人へ速やかに通知
- ・Step3:産業医面談はプライバシー保護のため会社が個室を手配
- ・Step4:産業医面談後の意見に基づき会社は必要な就業措置を実施
- ・Step5:産業医面談記録は5年間保存し個人情報を会社は厳重管理
- ・産業医面談を減らすための残業や長時間労働の対策
- ・社員の健康と残業時間削減を優先する職場文化を会社が醸成
- ・ストレスチェックと産業医面談の連携による残業によるメンタル不調の予防
- ・業務効率化や働き方改革による総労働時間と月々の残業時間の削減
- ・管理職へのラインケア研修実施による部下の残業時間と健康管理能力の向上
- ・産業医面談と残業時間に関するよくある質問
- ・産業医面談の費用は会社が全額負担しなければなりませんか?
- ・面談対象となる残業時間に法定休日での労働時間も含まれますか?
- ・残業が多い社員が産業医面談を希望しない場合、会社はどう対応すべきですか?
- ・パートや契約社員も残業時間によっては産業医面談の対象になりますか?
- ・産業医面談後の残業制限の意見と会社の判断が異なる場合、どうすればよいですか?
- ・【まとめ】産業医面談と残業時間の適切な管理で健全な職場環境をつくる
産業医面談と残業時間の関係
産業医面談と残業時間は、社員の健康と会社の法的責任において密接な関係があります。
産業医面談は長時間労働から社員の健康を守る会社の法的義務
会社は、月の残業が一定時間を超えた社員に産業医面談を受けさせる法的義務があります。
これは社員の深刻な健康トラブルを未然に防ぐための重要な制度です。この義務を怠ると罰則の可能性もあるため、注意が必要でしょう。
残業月80時間超は健康リスクが高く産業医面談を考える目安
月の残業80時間超は「過労死ライン」とも呼ばれ、脳・心臓疾患や精神疾患のリスクが著しく高まります。
そのため、面談が必要となる残業時間の基準も、以前の月100時間超から月80時間超へと引き下げられました。
会社の産業医面談義務と残業時間の法的基準
産業医面談の義務が生じる残業時間の基準は、社員の区分によって異なります。
面談義務の残業時間基準は社員の区分で異なる
産業医面談の義務が生じる残業時間の基準は、「一般社員」「研究開発職」「高度プロフェッショナル制度適用者」といった区分で異なります。
会社はこれらの違いを正確に理解し、適切に対応する必要があるでしょう。
以下に、社員区分別の産業医面談義務に関する残業時間等の基準をまとめます。
社員区分 |
残業時間等の基準 |
本人の申し出 |
根拠法令(参考) |
---|---|---|---|
一般の労働者 |
時間外・休日労働が月80時間超、かつ疲労の蓄積が認められる場合 |
必要 |
労働安全衛生法第66条の8 |
研究開発業務従事者 |
時間外・休日労働が月100時間超 |
不要 |
労働安全衛生法第66条の8の2、労働安全衛生規則第52条の7の2 |
高度プロフェッショナル制度適用者 |
1週間の健康管理時間(※)が40時間を超えた分の合計が月100時間超 |
不要 |
労働安全衛生法第66条の8の4、労働安全衛生規則第52条の7の5 |
時間外・休日労働が月80時間超(複数月平均) |
2~6ヶ月の月平均時間外・休日労働が80時間超、かつ疲労の蓄積が認められる場合 |
必要 |
労働安全衛生法第66条の8 |
(※)「健康管理時間」は、事業場内にいた時間と事業場外において労働した時間の合計時間です。
一般社員の残業月80時間超は本人の希望によって産業医面談義務
一般社員の場合、月の残業が80時間を超え、かつ疲労の蓄積が見られる際に、本人からの申し出があれば産業医面談を実施する義務が生じます。
会社としては、社員が申し出やすい環境を整えることも大切です。
研究開発職の残業月100時間超は希望がなくても産業医面談義務
研究開発業務に従事する社員は、月の残業が100時間を超えた場合、本人からの申し出がなくても産業医面談の実施が義務付けられています。
業務の特性上、健康リスクが高いと判断されるためでしょう。
高度専門職も実質残業月100時間超で産業医面談義務
高度プロフェッショナル制度が適用される社員は、「健康管理時間」という指標で判断されます。
この健康管理時間が週40時間を超えた分の合計が月100時間を超えた場合、本人からの申し出なしに産業医面談が義務となります。
柔軟な働き方であっても、健康管理は非常に重要です。
月平均80時間超の残業継続も産業医面談義務の対象
単月での残業が80時間を超えなくても、複数月の平均残業時間が80時間を超える場合も、本人の申し出があれば産業医面談の対象となります。
慢性的な長時間労働も健康リスクを高めることを理解しておきましょう。
産業医面談義務違反は労働安全衛生法で罰則の可能性あり
産業医の選任義務に違反した場合、50万円以下の罰金が科される可能性があります。
長時間労働者への面談義務違反についても罰則の可能性があり、特に研究開発職や高度プロフェッショナル適用者への面談未実施は50万円以下の罰金が科されることがあるとされています。
また、安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われるリスクも念頭に置くべきでしょう。
産業医面談の進め方│手順や残業時間の確認
産業医面談を適切に進めるための手順と、各ステップでの企業の対応を解説します。
ステップ |
企業の主な対応 |
重要ポイント・留意点 |
関連資料例 |
---|---|---|---|
Step1:全社員の正確な残業時間を客観的な記録で会社が把握 |
タイムカード、PCのログイン・ログアウト記録、入退室記録など客観的な方法を用いて、全従業員の労働時間を日々正確に記録・管理する。自己申告制を導入している場合は、その適正な運用を徹底する。 |
管理監督者を含め、全従業員の労働時間を客観的かつ正確に把握することは法的義務である。サービス残業や過少申告を防止するための対策も重要。 |
厚生労働省「客観的な記録による労働時間の把握が法的義務になりました」 |
Step2:基準超の残業時間情報を産業医と社員本人へ速やかに通知 |
時間外・休日労働が法定の基準を超えた従業員本人に対し、速やかに当該時間に関する情報を通知する。産業医にも、面談に必要な情報(対象者の勤務状況、業務内容、過去の健康診断結果等)を提供する。面談の申し出方法(書面やメールなど記録に残る形式を推奨)を従業員に周知する。 |
通知はプライバシーに十分配慮した方法で行う。面談の目的、面談を受けることによる不利益な取り扱いがないことを明確に伝える。申し出は記録に残る形式で受け付けることが望ましい。対象者の上司にも面談勧奨のメールを送付する企業事例もある。 |
「長時間勤務者面接指導管理システム」による自動通知・勧奨メール送信事例
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Step3:産業医面談はプライバシー保護のため会社が個室を手配 |
産業医面談が、従業員のプライバシーに配慮された静かで落ち着いた環境(個室など)で行えるよう手配する。必要に応じてオンライン面談の実施も検討する。 |
従業員が安心して率直に話せる環境を確保することが最も重要。上司の同席は原則として不可。産業医には守秘義務があることを改めて従業員に伝え、不安を軽減する。 |
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Step4:産業医面談後の意見に基づき会社は必要な就業措置を実施 |
産業医から面談結果(就業上の措置に関する意見、例:労働時間の短縮、作業転換、休業の必要性など)を聴取し、その専門的意見を尊重して、企業として必要な就業上の措置を遅滞なく講じる。 |
産業医からの意見聴取は面談後速やかに行う。講じた措置の内容や産業医の意見は、衛生委員会または安全衛生委員会に報告する場合もある。措置の内容が従業員にとって不利益なものとならないよう最大限配慮する。 |
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Step5:産業医面談記録は5年間保存し個人情報を会社は厳重管理 |
面接指導の結果に関する記録(実施日時、対象となった労働者の氏名、面談を実施した医師名、労働者の疲労蓄積の状況、心身の状況、その他必要な措置についての医師の意見など)を作成し、これを5年間保存する義務がある。 |
作成した記録は、第三者が許可なく閲覧できないよう、施錠可能なキャビネットに保管する、アクセス制限を設けた電子データで管理するなど、厳重に管理する。管理担当者を明確化することも重要。 |
Step1:全社員の正確な残業時間を客観的な記録で会社が把握
会社は、全社員の労働時間をタイムカードやPCのログイン・ログアウト記録といった客観的な方法で正確に把握する法的義務があります。
産業医面談制度を適切に運用するための大前提となるでしょう。
自己申告制を導入している場合は、その適正な運用が不可欠です。
Step2:基準超の残業時間情報を産業医と社員本人へ速やかに通知
残業時間が基準を超えた社員本人と産業医に対し、速やかにその情報を通知しなければなりません。
社員本人には、面談を受ける権利があることや、それによる不利益な取り扱いがないことを明確に伝え、安心して申し出られるように配慮することが大切です。
Step3:産業医面談はプライバシー保護のため会社が個室を手配
産業医面談は、社員のプライバシーが十分に保護された個室などで行う必要があります。
産業医には守秘義務があることを伝え、社員が安心して本音を話せる環境を整えることが最も重要でしょう。
近年では、オンライン形式での面談も有効な選択肢の一つです。
Step4:産業医面談後の意見に基づき会社は必要な就業措置を実施
産業医による面談後、会社は産業医からその結果と就業上の措置(労働時間の短縮、作業転換など)に関する意見を聞き、その専門的意見を尊重して、必要な措置を速やかに講じる義務があります。
Step5:産業医面談記録は5年間保存し個人情報を会社は厳重管理
産業医による面接指導の結果に関する記録を作成し、これを5年間保存する義務があります。
この記録には個人情報が含まれるため、施錠可能なキャビネットでの保管やアクセス制限を設けた電子データ管理など、厳重な管理体制が求められるでしょう。
産業医面談を減らすための残業や長時間労働の対策
産業医面談の対象者を減らすためには、より根本的な残業や長時間労働への対策が不可欠です。
社員の健康と残業時間削減を優先する職場文化を会社が醸成
社員の健康と残業時間の削減を組織全体で最優先事項と捉える職場文化を醸成することが、長時間労働対策の基本です。
経営層が率先して休暇を取得したり、残業削減や有給休暇取得を奨励するインセンティブ制度を導入したりする企業事例もあります。
ストレスチェックと産業医面談の連携による残業によるメンタル不調の予防
社員のメンタルヘルス不調を未然に防ぐためには、長時間労働者への産業医面談とストレスチェック制度を効果的に連携させることが有効です。
高ストレス者と判定された社員から申し出があった場合、企業は産業医による面接指導を実施する義務があります。
産業医は、両制度において中心的な役割を担うことになるでしょう。
業務効率化や働き方改革による総労働時間と月々の残業時間の削減
産業医面談の対象者を減らす根本的な対策は、業務効率化や働き方改革を通じて、総労働時間そのものを削減することです。
ノー残業デーの設定、在宅勤務やWeb会議システムの導入、ノンコア業務のアウトソーシングなどが考えられるでしょう。
管理職へのラインケア研修実施による部下の残業時間と健康管理能力の向上
管理職が部下の労働時間や心身の健康状態の変化に気を配り、早期に問題の兆候を察知して対応する「ラインケア」は、長時間労働の未然防止やメンタルヘルス不調の予防においてとても重要です。
ラインケア研修を通じて、管理職に必要な知識やスキルを習得させ、部下の残業時間と健康管理能力の向上を図りましょう。
産業医面談と残業時間に関するよくある質問
産業医面談制度の運用と残業時間に関して、よくある質問とその回答をまとめました。
産業医面談の費用は会社が全額負担しなければなりませんか?
はい、その通りです。労働安全衛生法に基づく産業医面談にかかる費用は、原則として全額企業が負担しなければなりません。
これにより、社員が経済的な負担を気にすることなく面談を利用できます。
ただし、面談の結果、専門医療機関での治療が必要となった場合の医療費は、原則として社員本人の負担です。
面談対象となる残業時間に法定休日での労働時間も含まれますか?
はい、原則として含まれます。産業医面談の対象となる残業時間の計算においては、法定休日における労働時間も算入して考える必要があります。
これは、社員の実際の総労働時間によって健康リスクを判断するためです。
残業が多い社員が産業医面談を希望しない場合、会社はどう対応すべきですか?
一般の社員の場合、本人の申し出がなければ産業医面談を強制することはできません。
しかし、会社には社員の健康状態を適切に把握し配慮する安全配慮義務があります。そのため、面談を希望しない社員に対しては、拒否理由の丁寧な確認、面談の意義やメリット、守秘義務の説明、代替案(かかりつけ医の意見書提出など)の提示といった対応を検討し、その経緯を記録しておくことが重要です。
パートや契約社員も残業時間によっては産業医面談の対象になりますか?
はい、パートタイム労働者や有期契約労働者であっても、1年以上の雇用が見込まれる(または既に1年以上雇用されている)こと、かつ、週の労働時間数が同じ事業場の正社員の4分の3以上であること、という条件を満たせば、正社員と同様に産業医面談の対象となります。
産業医面談後の残業制限の意見と会社の判断が異なる場合、どうすればよいですか?
最終的な就業上の措置を決定するのは会社ですが、専門家である医師(産業医および主治医)の医学的な意見を最大限尊重することが基本です。
意見が異なる場合は、両医師から詳細な情報を収集し、必要に応じて両医師間の連携を促し、社員本人の意向や会社の業務状況などを総合的に勘案して、会社が最終的な判断を下すことになります。
【まとめ】産業医面談と残業時間の適切な管理で健全な職場環境をつくる
産業医面談は、長時間労働による健康障害から社員を守るために法律で定められた企業の重要な義務です。
面談義務の対象となる残業時間の基準や対応フローを正しく理解し、長時間労働そのものを減らすための対策と合わせて適切に運用していくことが、健全な職場環境づくりに不可欠でしょう。
法的リスクを回避するだけでなく、社員のモチベーション向上や生産性向上にも繋がる、企業にとって非常に重要な取り組みです。
従業員の健康は、企業の成長を支える大切な基盤です。この記事を参考に、産業医面談制度の運用をより良いものにして頂ければと思います。
また、これらの課題解決として、産業医の紹介や、全国どこでも面談予約・実施・意見書管理までシステム上で実施可能で、オンライン産業医面談が利用できる「first call」の活用も効果的です。