
ストレスマネジメントの実践方法とは?職場の人間関係の悩みや企業での取り組みと効果を解説
仕事やプライベートで「なんだか心が疲れているな…」と感じることはありませんか?
特に職場では複雑な人間関係や山積みの業務など、ストレスの原因は尽きないものです。
「ストレスは我慢するしかない」と思っている方もいるかもしれませんが、それは少し違います。
ストレスマネジメントは、そんな日々のストレスと上手に付き合い、自分の力に変えていくための実践的なスキルなのです。
このスキルを身につけることでストレスに振り回されなくなるため、心に余裕が生まれるでしょう。集中力が高まって仕事のパフォーマンスが向上し、プライベートの時間もより楽しめるようになるはずです。
さらに、メンタルヘルスの不調を予防し、心身の健康を長く維持することにも繋がります。
この記事では、ストレスマネジメントの基本的な知識から、個人で今日からすぐに試せる具体的な方法、そして企業ができる支援や組織としての取り組みとその効果まで、分かりやすく解説していきます。
また、優秀な人が辞めてしまう前のメンタルヘルス対策は産業医との連携が効果的です。産業医の役割は非常に幅広いですが、産業保健の現場にある課題を理解している「first call」であれば、法令を守り、従業員のメンタルケアに繋がる産業医サービスが利用できます。
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そもそもストレスマネジメントとは?
ストレスマネジメントを始める前に、まずは「ストレス」そのものについて正しく知ることが大切です。
ここでは、ストレスの基本的な仕組みから、ストレスマネジメントがもたらすメリットや効果まで、分かりやすく解説します。
- 原因のストレッサーと心身への影響であるストレス反応
- 個人のパフォーマンス向上と企業の生産性向上効果
- メンタルヘルス不調の予防と心身の健康維持
原因のストレッサーと心身への影響であるストレス反応
私たちは普段「ストレス」という言葉を何気なく使っていますが、実は「原因」と「反応」の2つに分けられます。
この種類の違いを把握することが、上手な対処には重要になります。
ストレッサーというのは、ストレスの「原因」となる外部からの刺激のこと。
例えば、以下のようなものが挙げられます。
- 物理的ストレッサー:職場の騒音や暑さ寒さ、満員電車のような環境による物理的な刺激
- 化学的ストレッサー:アルコールやタバコ、排気ガスなども要因になる
- 心理的・社会的ストレッサー:仕事のプレッシャーや職場の人間関係、将来への不安など
そして、これらのストレッサーによって引き起こされる心や身体の変化がストレス反応です。
このストレス反応は、人によって様々な形で現れます。
- 身体的反応:頭痛や肩こり、不眠、食欲の変化など、身体に現れるサイン
- 心理的反応:不安やイライラ、気分の落ち込み、集中力の低下といった心の変化
- 行動的反応:飲酒量の増加、仕事でのミスが増える、人付き合いを避けるなどの行動の変化
ストレスマネジメントとは、この「原因(ストレッサー)」と「反応」の間に上手く介入して原因を減らしたり、つらい反応を和らげたりするための一連の工夫や方法のことなのです。
個人のパフォーマンス向上と企業の生産性向上効果
ストレスマネジメントは、個人のためだけではありません。企業全体にとっても大きなメリットがあるのです。
個人にとっては、ストレスを上手にコントロールできるようになると気持ちが安定し、仕事への集中力やモチベーションがアップします。
その結果仕事の質が高まり、より良いパフォーマンスを発揮できるようになるでしょう。
企業にとっても従業員が生き生きと働くことは、組織全体の成長に繋がります。
- 従業員一人ひとりのパフォーマンスが上がることで、組織全体の生産性が向上する
- 過度なストレスは、休職や離職の大きな原因となる
- 企業が支援することで、大切な人材が長く活躍できる環境が整う
- 従業員の心に余裕が生まれると、職場の雰囲気が明るくなり、コミュニケーションも円滑になる
メンタルヘルス不調の予防と心身の健康維持
ストレスマネジメントは、問題が起きてから対処するだけでなく、効果的な「予防策」でもあります。
厚生労働省もメンタルヘルスを守る対策として、ストレスを未然に防止することの重要性を強調しています。
ストレスマネジメントを日常的に意識することで、自分の心や体の小さな変化に早く気づけるようになります。
これは、本格的なメンタルヘルス不調に陥る前に自分でケアをしたり、周囲に助けを求めたりするきっかけになるのです。
ストレスマネジメントは、「ストレス解消法」というだけではなく、自分らしく健康でいるための必須スキルと言えるでしょう。
ストレスマネジメントの実践方法とコーピング
ストレスマネジメントのポイントとなるのが、「コーピング」です。
コーピングとは、ストレスに対して行う具体例な対処法のことです。
ここでは、まず自分自身を知ることから始め、状況に応じて使える様々なコーピングの実践方法を紹介します。
- セルフモニタリングで自身のストレス状況を把握する
- ストレス原因の解決を目指す問題焦点型コーピング
- つらい感情をコントロールする情動焦点型コーピング
- 考え方を変える認知的再評価コーピング
セルフモニタリングで自身のストレス状況を把握する
効果的な対処を行うには、まず自分自身の状態を客観的に知る「セルフモニタリング」が重要になります。
自分が「いつ、何に、どうストレスを感じるのか」というパターンを把握することが目的です。
難しく考える必要はありません。ノートやスマホのメモ機能を使って、以下の5つの項目で記録してみましょう。
- 状況:何があった?(例:「月曜の朝、急な業務を頼まれた」)
- 思考(認知):その時、どう思った?(例:「また無理なことを言われた…」)
- 感情:どんな気持ちになった?(例:「不安」「焦り」などを100点満点で点数付け)
- 身体:体はどう感じた?(例:「胃がキリキリする」「肩が重い」)
- 行動:どう行動した?(例:「ため息をついた」「断れなかった」)
これを続けることで自分のストレス傾向が見えてきて、次にご紹介するどのコーピングが自分に合っているかを見つけやすくなります。
ストレス原因の解決を目指す問題焦点型コーピング
「問題焦点型コーピング」は、ストレスの原因そのものに直接働きかけて解決を目指すアプローチです。
原因を自分でコントロールできる場合に、特に有効な対処方法と言えるでしょう。
職場での具体例は、次のようになります。
- 仕事が多すぎる時:上司に相談して業務量の調整をお願いしてみる。または、仕事の進め方を改善して効率化を図る。
- 人間関係で悩んだ時:相手と直接話す機会を設けたり、信頼できる上司や人事に間に入ってもらったりする。
- スキル不足が不安な時:関連する本を読んだり、研修に参加したりしてスキルアップを目指す。
また、上司や同僚、家族や専門家など、周囲の人に相談して助けを求めることも、このコーピングの一つです。
つらい感情をコントロールする情動焦点型コーピング
「情動焦点型コーピング」は、ストレスの原因をすぐに変えるのが難しい場合に、それによって生じるつらい感情や体の緊張を和らげることに焦点を当てる方法です。
職場での具体例は、次のようになります。
- 気晴らし:仕事で嫌なことがあった後、信頼できる友人に話を聞いてもらう。
- 気分転換:緊張する会議の後、少し席を立って好きな音楽を聴いたり、散歩したりして気持ちを切り替える。
- リラックス:不安を感じた時に深呼吸をしたり、寝る前にストレッチをしたりして身体の緊張をほぐす。
これらの方法は根本的な解決にはなりませんが、心のエネルギーを回復させ、次の行動を起こすためにとても重要です。
考え方を変える認知的再評価コーピング
「認知的再評価コーピング」は、少し高度なテクニックです。ストレスを感じる出来事への「考え方」や「捉え方」を意識的に変えることで、ネガティブな感情を軽くする方法になります。
職場での具体例は、次のようになります。
- 困難な状況をチャンスと捉える:「大きな仕事を任されて不安だ」と感じたら、「これは成長できる絶好のチャンスだ」とポジティブに考えてみる。
- 厳しい意見を期待の表れと考える:上司からの厳しい指摘に落ち込むのではなく、「期待してくれているからこそ、真剣にフィードバックをくれるのかもしれない」と捉え直す。
このように物事を見る角度を少し変えるだけで、気持ちが楽になることがあります。
これらのコーピングを状況に応じて使い分けることで、ストレスに振り回されず、主体的に対処できるようになるでしょう。
職場の人間関係や性格でみるストレスマネジメント
ストレスの感じ方や対処法は、人それぞれです。
自分の立場や性格に合った方法を見つけることが、効果的なストレスマネジメントの近道になります。
ここでは立場や性格のタイプ別に、具体例なストレスとの付き合い方を見ていきましょう。
- 管理職や新人など立場別のストレス対処法
- 完璧主義やHSPなど性格別のストレス対処法
- 生活習慣の改善による効果的なストレス解消法
管理職や新人など立場別のストレス対処法
職場での立場によって、抱えやすいストレスの種類も変わってきます。
管理職(マネージャー層)の場合
部署の目標達成へのプレッシャー、上司と部下の板挟み、部下の育成やトラブル対応など、管理職には複雑な悩みがつきものです。
おすすめの対処法には、次のようなものがあります。
- 全てを自分で抱え込まず、部下の成長を信じて業務を任せてみる
- 同じ立場の管理職同士で悩みを共有する場を持つと、有益なアドバイスが得られたり、孤独感が和らいだりする
新入社員の場合
新しい環境への適応、失敗への恐怖、先輩や上司との関係構築など、新人は多くの不安を抱えがちです。
「こんなことを聞いたらダメかな」と質問をためらってしまうこともあるでしょう。
おすすめの対処法には、次のようなものがあります。
- 気軽に話せるメンターのような存在がいると、心理的な安心感が大きく変わる
- 最初から100点満点を目指す必要はなく、「今は学ぶ時期」と割り切り、小さな成功を積み重ねていくことが大切
完璧主義やHSPなど性格別のストレス対処法
もともとの性格によっても、ストレスの感じやすさは異なります。
完璧主義の傾向がある人
ストレスのパターンとして、「100点でなければ意味がない」という考え方や、失敗を極度に恐れるため、常に自分を追い込んでしまいがちです。
その結果、燃え尽きや心身の不調に繋がりやすくなります。
おすすめの対処法には、次のようなものがあります。
- すべての仕事で完璧を目指すのではなく、「この業務は8割の力で」と意識的にハードルを下げてみる
- 結果だけでなく、頑張った過程や学んだことを自分で認めてあげる
HSP(とても敏感な人)の傾向がある人
ストレスのパターンとして、音や光、人の感情の機微などにとても敏感なため、オフィスのような刺激の多い環境では、知らず知らずのうちにエネルギーを消耗し、疲れやすい傾向があります。
おすすめの対処法には、次のようなものがあります。
- 可能であれば、ノイズキャンセリングイヤホンを使ったり、デスク周りを落ち着く空間にしたりと、自分でできる範囲で刺激を減らす工夫をしてみる
- 昼休みに公園で過ごすなど、意識的に一人になって心と体をリセットする時間を持つ
生活習慣の改善による効果的なストレス解消法
日々の生活習慣を整えることは、ストレスに負けない心身を作るための基本です。
- 質の良い睡眠:睡眠不足はストレスへの抵抗力を弱めます。毎日決まった時間に寝起きするなど、睡眠のリズムを整えることを意識しましょう。
- バランスの取れた食事:栄養バランスの取れた食事は、心の安定に繋がります。特に腸内環境を整えることは、ストレス軽減に効果的だと言われています。
- 適度な運動:ウォーキングやヨガのような軽い運動でも、気分をリフレッシュさせ、ストレスを和らげる効果が期待できます。
こういった基本的な生活習慣が、ストレスに立ち向かうための基礎となってくれるでしょう。
企業や職場におけるストレスマネジメントの取り組み
個人の努力だけでは、職場のストレス問題の解決は難しいものです。
従業員が安心して働ける環境を作ることは、企業の大切な役割であり、成長戦略の一つでもあります。
厚生労働省が示す「4つのケア」は、企業が取り組むべき施策の良い指針となるでしょう。
ここでは、企業が取り組むべきストレスマネジメントについて、詳しく解説していきます。
- 従業員が行うセルフケアと企業が実施する教育研修
- 管理職が部下の変化に気づき対応するラインケア
- 相談窓口の設置やハラスメント対策など職場環境の改善
従業員が行うセルフケアと企業が実施する教育研修
これは、従業員一人ひとりが自分のストレスに気づき対処するセルフケアを、企業が後押しする取り組みです。
そのために有効なのが、教育研修の機会を提供することです。
研修では、ストレスの仕組みや具体例な対処法(コーピング)を学ぶことができます。
こうした知識を得ることで、従業員は問題が大きくなる前に自分で対処する力を身につけ、組織全体のストレス耐性も向上するでしょう。
管理職が部下の変化に気づき対応するラインケア
ラインケアとは、課長や部長といった管理職が部下のメンタルヘルスに気を配り、サポートすることです。
一番身近な上司が部下の「いつもと違う」という小さなサインに気づくことが、重要になります。
定期的な1on1ミーティングなどで、部下が悩みを話しやすい雰囲気を作ることも大切です。
管理職の対応として重要なのは、問題を一人で解決しようとすることではなく、まずは話を傾聴し、必要であれば産業医や相談窓口といった専門家へ繋ぐ「橋渡し役」になることなのです。
相談窓口の設置やハラスメント対策など職場環境の改善
組織として、誰もが安心して相談できる体制を整えることも欠かせません。
【相談窓口の整備】
- 産業医や保健師:専門家の立場から健康相談に乗ってくれる
- EAP(従業員支援プログラム):社内の人には話しにくい内容も安心して相談できる外部の専門機関
【職場環境そのものの改善】
- ハラスメント対策:ハラスメントは深刻なストレスの原因。防止のためのルールを明確にして研修を実施することで、誰もが尊重される職場風土を作ることが求められる
- ストレスチェックの活用:ストレスチェックの結果を部署ごとに分析し、特定の部署でストレスが高い場合はその原因を探り、具体例な改善策に繋げることが可能
これらの取り組みはストレスを個人の問題とせず、組織全体で向き合うための重要なステップです。
ストレスマネジメントに関するよくある質問
ここでは、ストレスマネジメントのよくある質問について解説していきます。
- ストレスマネジメントは具体的に何をすればいいのですか?
- 企業にストレスマネジメントの実施義務はありますか?
- ストレスマネジメント研修にはどんな効果が期待できますか?
ストレスマネジメントは具体的に何をすればいいのですか?
まずはセルフモニタリングで、自分が何にストレスを感じるのかを把握することから始めましょう。
次に、その状況に合ったコーピング(対処法)を実践します。
原因を解決できそうなら上司に相談する(問題焦点型)、原因を変えるのが難しいなら趣味に没頭して気分転換する(情動焦点型)といった具合です。
いざという時のために、「深呼吸する」「好きな音楽を聴く」など、自分なりの簡単なストレス解消法をリストアップしておくのもおすすめです。
企業にストレスマネジメントの実施義務はありますか?
「ストレスマネジメント」という言葉での直接的な義務はありませんが、関連する法律上の義務は存在します。
特に、常時50人以上の従業員がいる事業所では、年に1回「ストレスチェック制度」を実施することが労働安全衛生法で義務付けられています。
これを怠ると罰則の対象となる可能性もあります。
これまで従業員50人未満の事業所では、努力義務とされていましたが、2025年5月に改正労働安全衛生法が成立し、2026年4月1日から義務化されることになりました。
これにより、今後はすべての事業者がストレスチェックに取り組む必要があります。
さらに、すべての企業は従業員の安全と健康に配慮する「安全配慮義務」を負っており、これにはメンタルヘルスへの配慮も含まれます。
適切な対応を怠った場合、法的な責任を問われるリスクがあるのです。
ストレスマネジメント研修にはどんな効果が期待できますか?
ストレスマネジメント研修は、従業員と企業双方に大きなメリットがあります。
【従業員への効果】
ストレスに関する正しい知識と具体例なスキルが身につきます。
これによりストレスへの対処能力が向上し、メンタルヘルスの不調を予防できるでしょう。
【企業への効果】
従業員の心身の健康が向上することで職場の環境が改善し、コミュニケーションが活発になります。
その結果、休職や離職が防止され、組織全体の生産性向上にも繋がるのです。
【まとめ】ストレスマネジメントで心身の健康を維持し仕事のパフォーマンスを向上させよう
この記事では、ストレスマネジメントの基本から具体例な実践方法、そして企業における取り組みまで幅広く解説してきました。
現代社会でストレスを完全になくすことは難しいかもしれません。しかし、ストレスと上手に付き合うためのスキルは、誰でも身につけることができます。
まずはセルフモニタリングで自分自身の状態を把握し、状況に応じて様々なコーピングを試してみることです。
そして、個人のセルフケアを支える企業の支援体制も欠かせません。教育研修や管理職によるラインケア、誰もが安心して使える相談窓口の設置は従業員の健康を守り、組織全体の活力と生産性を向上させるための大切な投資です。
ストレスマネジメントは一度学べば終わりというものではなく、日々実践を続ける中で自分に合ったやり方を見つけていくことが重要です。
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