労働安全衛生法をわかりやすく解説!会社の義務や違反した場合の罰則とは?

労働安全衛生法」と聞くと、なんだか難しくて、専門家や人事労務の担当者だけが知っていればいい法律、というイメージがありませんか?

しかし、この法律は、実はすべての企業と、そこで働く労働者に関わるとても大切なルールなのです。

この法律の目的や事業者に課せられた義務を正しく理解し、企業として適切な対応をとることはコンプライアンスを守るだけではありません。

職場での労働災害を未然に防止し、従業員が安心して働ける安全な環境を整備することは、従業員の満足度やモチベーションの向上につながります。

その結果、生産性が上がり、企業の業績アップも期待できるでしょう。

この記事では、そんな労働安全衛生法について、企業の経営者や人事労務、安全衛生の担当者の方が「これだけは押さえておきたい」というポイントを、最新の法改正内容も踏まえ、できるだけ分かりやすく、かみ砕いて解説していきます。

また、優秀な人が辞めてしまう前のメンタルヘルス対策は産業医との連携が効果的です。産業医の役割は非常に幅広いですが、産業保健の現場にある課題を理解している「first call」であれば、法令を守り、従業員のメンタルケアに繋がる産業医サービスが利用できます。

労働安全衛生法とは?

まずは、労働安全衛生法がどのような法律なのか、その目的や定義といった基本的なところから見ていきましょう。

  • 災害防止と快適な職場づくり
  • 労働基準法との役割分担

  • 全ての労働者が保護対象

  • 事業者と労働者双方の責任

災害防止と快適な職場づくり

労働安全衛生法の根本的な目的は、大きく分けて二つあります。

一つは、仕事が原因でケガをしたり病気になったりする「労働災害」を防止すること。

もう一つは、誰もが心も体も健康で、気持ちよく働ける「快適な職場環境」の形成を促進することです。

この法律は、過去に発生した多くの事故の教訓から、労働災害防止のための危害防止基準の確立を目指し、「これだけは守ってください」という最低限の安全基準を定めています。

それと同時に、事業者が自ら「うちの職場には、どのような危険性や有害性が潜んでいるだろう?」と考え、事故が起きる前に自主的な活動で対策するよう促進しているのです。

つまり、危険を避けるための措置を講じるだけでなく、より積極的に労働者の健康を確保し、働きやすい職場環境を形成していくことが労働安全衛生法の目指すところなのです。

労働基準法との役割分担

労働基準法」という法律もよく耳にしますが、労働安全衛生法とはどのような違いがあるのでしょうか。

もともと、安全や衛生に関する規定は労働基準法の一部でした。しかし、日本の高度経済成長期に、技術革新のスピードに安全対策が追いつかず、多くの労働災害が発生してしまったという背景があります。

そこで、より専門的な対策が必要だということになり、1972年に安全と衛生に特化した法律として、労働安全衛生法が制定されたのです。

それぞれの役割を簡単にまとめると、次のようになります。

  • 労働基準法:賃金や労働時間、休日など、働く上での基本的な労働条件を規定した法律。

  • 労働安全衛生法:職場の機械の危険や化学物質、健康診断やメンタルヘルス対策など、労働者の安全と健康の確保に特化した専門的なルールを定めた法律。

両者は一体的な関係にありながら、それぞれの役割を分担し、労働者を守るための重要な法律といえるでしょう。

全ての労働者が保護対象

この法律で保護される対象となる「労働者」の定義は、正社員だけではありません。

契約社員、パートタイマー、アルバイトなど、事業者から雇用され賃金をもらって働く人は原則として全員が含まれます。

雇用形態にかかわらず、働くすべての人の安全と健康を保護するのが、この法律の基本的な考え方です。

さらに、2025年4月からの法改正では、建設現場などで作業に従事する一人親方や他社の労働者なども、危険な場所での作業においては保護の対象範囲に含まれるようルールが拡大されました。

これらの義務を負う「事業者」とは、労働者を使用する法人そのものや個人事業主を指します。

事業者と労働者双方の責任

職場の安全と健康を守るための最も大きな責務は、会社(事業者)にあります。

しかし、事業者がルールを定めて安全な設備を用意するだけでは、労働災害の発生を完全に防止することはできません。

そこで、労働安全衛生法では、労働者にも「事業者が実施する労働災害の防止に関する措置に協力し、定められたルールを遵守する」という責任がある、と定めています。

例えば、事業者が適切な保護具を用意しても、労働者がそれを着用しなければ意味がありません。

事業者と労働者が協力し合って初めて、本当に安全な職場が実現できるのです。

労働安全衛生法で会社がすべき義務

では、具体的に事業者は何をしなければならないのでしょうか。

ここでは、法律で定められた特に重要な義務を解説します。

  • 職場のリスクアセスメント

  • 年一回の定期健康診断

  • 従業員のストレスチェック

  • 必要な安全衛生教育

  • 危険な機械や場所への対策

  • 熱中症への対策【2025年6月義務化】

  • 快適な職場環境の整備

職場のリスクアセスメント

「リスクアセスメント」というと難しく聞こえるかもしれませんが、要は「職場の危険性や有害性の調査と対策」のことです。

事故が発生してから対応するのではなく、事前に「この作業には、どのような危険があるか?」「もし事故が起きたら、どれくらい重大なことになるか?」を調査・把握し、対策の優先順位を決めてリスクを低減する措置を実施していく、という考え方になります。

法律では、このリスクアセスメントの実施は「努力義務」とされていますが、自主的に職場の安全レベルを向上させていく上で、とても重要な活動です。

なお、特定の化学物質の製造・取扱いなど、一部の業務では実施が義務化されています。

年一回の定期健康診断

事業者は、常時使用する労働者に対して、年一回、定期的に医師による健康診断を実施する義務があります。

これには、一定の要件を満たすパートタイマーなども対象となります。

大切なのは、ただ健康診断を受けさせるだけで終わりではない、という点です。

  1. 健康診断を実施する
  2. 結果を健康診断個人票として作成し、5年間保存する
  3. 結果を本人に通知する
  4. 異常があった場合、医師から意見聴取を行う
  5. 必要に応じて、作業内容の変更や労働時間の短縮などの就業上の措置を講じる

この一連の流れすべてが事業者の義務であり、労働者の健康管理の基本となるのです。

従業員のストレスチェック

体の健康だけでなく、心の健康(メンタルヘルス)を守ることも、事業者の重要な役目です。

2015年からは、常時50人以上の労働者がいる事業場では、年に1回のストレスチェック制度の実施が義務化されました。

この制度の目的は、従業員自身がストレス状態に気づく手助けをすることと、職場全体のストレスの原因を分析し、働きやすい職場環境の改善につなげることです。

個人の結果は、本人の同意がなければ事業者に知られることはありませんので、従業員は安心して受けることができます。

高ストレスと判断された従業員が希望すれば、産業医などによる面接指導を実施することも事業者の義務です。

専門的な内容も多い産業医との契約は、経験豊富な産業医紹介会社に相談するのがおすすめです。first callの産業医サービスは、ご要望に合わせた産業医をご紹介し、法令に沿った業務実施のサポートが可能です。

必要な安全衛生教育

安全な職場を実現するには、労働者の一人ひとりが「何が危険で、どうすれば安全に作業できるか」を理解している必要があります。

そのため、事業者はさまざまな場面で「安全衛生教育」を実施する義務を負っています。

例えば、労働者を新たに雇い入れたときや、作業内容を変更したときの基本的な教育はもちろんのこと、クレーンの運転や特定の化学物質の取扱いのような、特に危険または有害な業務に従事させる際には、法律で定められた専門的な「特別教育」を受けさせなければなりません。

危険な機械や場所への対策

職場の労働災害で特に大きな事故につながるものは、機械との接触が原因であることが少なくありません。

そのため、法律では物理的な危険防止措置を強く求めています。

基本となるのは、「注意しましょう」といった人的な対策に頼るのではなく、

  • 危険な部分に「カバー」や「囲い」といった安全装置を設置し、触れられないようにする

  • 人が近づいたら自動で機械が停止する「センサー」などを導入する

といった、設備で安全を確保する考え方です。

人間は誰でもミスをする、という前提に立ち、機械の側で危険を防止する措置を講じることが重要視されています。

熱中症への対策【2025年6月義務化】

近年の猛暑を受け、法改正により2025年6月1日から職場における熱中症対策が強化され、罰則付きで義務化されます。

特に、WBGT(暑さ指数)が一定の基準を超えるような高温の作業環境で業務を行う場合、事業者は次のような体制を整備し、労働者に周知しておく必要があります。

  • 熱中症の疑いがある人を見つけたときに、誰にどのように報告するかのルールを決める。

  • 実際に熱中症の発生があった場合に、涼しい場所へ避難させたり、身体を冷却したり、救急隊を要請したりするための具体的な手順を作成し、周知する。

建設業や製造業の現場だけでなく、訪問介護や屋外でのイベントなど、熱中症のリスクがあるすべての職場が対象となる重要な法改正です。

快適な職場環境の整備

労働安全衛生法が目指しているのは、危険が無いだけの職場ではありません。

「快適な職場環境」の形成を促進することも、事業者の努力義務とされています。

厚生労働省の指針では、具体例として次のような措置が挙げられています。

  • 温度や明るさ、騒音などが適切な作業環境の管理

  • 体に負担のかかる作業方法の改善

  • ゆっくり休める休憩施設などの設置、整備

  • トイレや更衣室などを清潔に維持管理すること

働きやすい環境への投資は、従業員のモチベーションや生産性の向上にもつながる、大切な経営戦略の一つと言えるでしょう。

労働安全衛生法が求める会社の体制づくり

法律を遵守して安全で健康な職場を維持するためには、しっかりとした「管理体制」を作る必要があります。

特に従業員が50人を超えると、法律で求められる義務が増えるため、「50人の壁」とも言われます。

どのような体制が必要になるのか、見ていきましょう。

役割/委員会

選任・設置が必要な労働者数

主な対象業種

主な職務・役割

総括安全衛生管理者

100人以上(林業、建設業等)300人以上(製造業等)1,000人以上(その他)

指定業種

事業場の安全衛生業務を統括管理します。

安全管理者

50人以上

指定業種(建設業、製造業等)

安全に関する技術的な事項を管理します。

衛生管理者

50人以上

全ての業種

衛生に関する技術的な事項を管理します。

産業医

50人以上

全ての業種

医学的な立場から健康管理などを指導・助言します。

安全衛生推進者/衛生推進者

10人以上50人未満

全ての業種

小規模な事業場の労働安全衛生の水準の向上を図ります。

安全委員会

50人以上または100人以上(業種による)

指定業種(建設業、製造業等)

安全に関する事項を調査審議します。

衛生委員会

50人以上

全ての業種

衛生に関する事項を調査審議します。

安全衛生委員会

安全・衛生委員会の両方の設置義務がある場合

指定業種

両委員会の機能をあわせて調査審議します。

産業医の選任(50人以上)

常時50人以上の労働者を使用するすべての事業場では、「産業医」を選任する義務が発生します。

産業医は病気の治療をする医師とは少し役割が違い、労働者が健康に働けるように、医学的な専門家の立場から事業者や労働者に指導・助言を行う「会社の健康管理の専門家」のような存在です。

健康診断の結果を確認したり、長時間労働者や強いストレスを感じている従業員と面接指導を行ったり、職場を巡視して問題がないかを確認したりするのが主な業務です。

衛生管理者と安全管理者の選任

事業者は、事業場の安全と衛生を技術的な側面から管理するために、専門の管理者を選任する必要があります。

この役割は、「安全」と「衛生」で分かれており、それぞれのリスクの性質に応じた資格と専門性が求められます。

衛生管理者

常時50人以上の労働者を使用するすべての業種の事業場で選任が義務付けられています。

職場の衛生環境を調査したり、労働者の健康障害を防止したり、主に「病気の予防(衛生)」に関する技術的事項を管理します。

安全管理者

建設業や製造業など法律で定められた特定の業種で、常時50人以上の労働者を使用する場合に選任が義務付けられています。

機械の安全装置を点検したり、安全な作業方法を指導したり、主に「ケガの防止(安全)」に関する技術的事項を管理します。

衛生委員会の設置(50人以上)

常時50人以上の労働者を使用する事業場では、月に1回以上「衛生委員会」という会議を設置し、開催する義務があります。

この委員会は、労働者の健康障害防止や健康の保持増進に関する重要事項について、会社と従業員が調査審議するための場です。

安全委員会の設置義務もある業種では、統合して「安全衛生委員会」として設置できます。

この委員会の大きな特徴は、議長を除く委員の半数を労働者の代表者の推薦に基づいて指名しなければならない、という規定があることです。

委員会が一方的な指示伝達の場ではなく、現場で働く労働者の意見を経営に反映させるための、法的に保障された「労使協議の場」となっています。

労働安全衛生法に違反した場合の罰則

労働安全衛生法は労働者の命と健康を守るための重要なルールであるため、違反した場合には厳しい罰則が定められています。

  • 違反行為への罰金や拘禁刑

  • 労働基準監督署の立入調査

  • 法定書類の作成と保存義務

違反行為への罰金や拘禁刑

労働安全衛生法違反の内容によって罰則の重さは異なりますが、「6か月以下の拘禁刑(※)または50万円以下の罰金」や「50万円以下の罰金」などが科される可能性があります。

ここで特に知っておくべきなのが「両罰規定」です。

これは、実際に違反行為をした現場の管理者などが罰せられるだけではなく、その事業者である法人に対しても罰金刑が科される、という制度です。

つまり、「担当者が勝手にやったこと」では済まされず、企業全体としての管理責任が問われることになるのです。

※2025年6月1日から、従来の「懲役」と「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されました。

労働基準監督署の立入調査

労働基準監督署は、企業が労働安全衛生法などの法令を遵守しているか監督する行政機関です。

労働基準監督官は、予告なしに事業場に立ち入って検査(臨検)を行う強い権限を持っており、事業者は基本的にこれを拒否できません。

調査の結果として法令違反が認められた場合、「是正勧告書」が交付され、改善が指導されます。

もし労働者に差し迫った危険があると判断されれば、その機械や設備の使用停止を命じる行政処分が出されることもあります。

法定書類の作成と保存義務

労働安全衛生法および労働安全衛生規則では、事業者に様々な書類の作成と、一定期間の保存が義務付けられています。

実施した安全衛生活動の証拠となる記録を残し、将来の労働災害防止や、疾病の原因究明に役立てるためです。

例えば、安全衛生委員会の議事録は3年間、一般健康診断個人票は5年間の保存が必要です。

さらに、アスベストや特定の化学物質など、何十年も経ってから健康への影響が出る可能性のある有害性物質に関する記録は、30年40年といった極めて長い期間の保存が義務付けられています。

将来もし病気が発生した場合に、その原因が業務に起因することを証明するための重要な法的措置です。

【まとめ】労働安全衛生法は会社の土台を守る大切な法律

本記事では、労働安全衛生法の目的から事業者の具体的な義務、必要な管理体制、そして違反した場合の罰則までを、2025年時点の最新の法改正情報を含めて解説しました。

労働安全衛生法は決して「面倒な規制」ではありません。企業にとって大切な財産である従業員の生命と健康を確保し、会社そのものの存続と成長の土台を固めるための、重要な法律なのです。

リスクアセスメントの実施、健康診断やストレスチェック、そして新たに義務化された熱中症対策といった取り組みは、一見するとコストや手間がかかるように思えるかもしれません。

しかし、これらの義務を履行することで労働災害の発生リスクを大幅に低減し、従業員のモチベーションを高め、企業の生産性や社会的信用の向上にまでつなげることができます。

労働安全衛生法を理解してその理念を経営の中心に据え、定められた体制を構築し、義務を計画的に実行していくことが重要です。

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遅沢 修平
遅沢 修平
上智大学外国語学部卒業。クラウド型健康管理サービス「first call」の法人営業・マーケティングを担当し、22年6月より産業保健支援事業部マーケティング部長に就任。

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