
うつ病で周りが疲れる職場の原因とは?会社がすべき支援や対策を解説
職場でうつ病の同僚がいると、「どう対応したらいいのだろう」「チーム全体の雰囲気が悪化している気がする…」といった悩みを抱えることはありませんか?
その問題は誰か一人の責任ではなく、職場の仕組みや環境に原因があるのかもしれません。
うつ病は特別な病気ではなく、誰にでも発症する可能性がある身近なものです。だからこそ、この病気に関する正しい知識と理解を持つことが、ご本人、周囲の社員、そして会社全体が安心して働ける環境を築く上でとても重要になります。
この記事では、なぜうつ病の社員がいると周りが疲れてしまうのか、その根本的な原因を分かりやすく解説していきます。
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なぜうつ病で職場の周りが疲れるのか?
うつ病の社員がいる職場で、周囲の人が疲弊してしまうのには、いくつかの理由があります。
個人の感情の問題だけではなく、業務の進め方や職場の雰囲気といった、より構造的な要因が関係しているのです。
ここでは、職場で本人以外の周りが疲れる原因について、詳しく解説します。
- 終わりが見えない支援による精神的な消耗
- 業務負担の偏りが原因で生まれる不公平感
- 同僚の症状や言動に常に気を遣うストレス
- チーム全体の雰囲気が悪化し仕事が進まない
終わりが見えない支援による精神的な消耗
うつ病の同僚をサポートする際、いつまでこの状況が続くのかという先行きの見えない不安は、大きな精神的ストレスになるでしょう。
回復までにかかる時間は人それぞれで、明確なゴールが見えないまま支援を続けるうちに、サポートする側も心が疲れてしまうのです。
「何か傷つけるような行動をとっていないか」「この対応で本人の症状を悪化させていないか」と、常に気を遣う状態も続きます。
このような見えない気苦労や疲労が積み重なり、支援する側の精神的なエネルギーが少しずつ削られていってしまうのかもしれません。
業務負担の偏りが原因で生まれる不公平感
うつ病の症状によって、以前のように仕事を進めるのが難しくなると、その業務は自然と他のチームメンバーが分担することになります。
最初は「お互い様」という気持ちで協力できても、その状況が長く続くと、特定の社員にばかり負担が偏ってしまうでしょう。
業務量が増えているにもかかわらず、その頑張りが人事評価に反映されなかったり、人員が補充されなかったりすると、「どうして自分ばかり…」という不公平感が生まれてしまいます。
この問題は、チームワークを損なう大きな原因になるのです。
同僚の症状や言動に常に気を遣うストレス
うつ病の症状は、気分の落ち込みだけではありません。
時にはイライラしやすくなったり、感情の起伏が激しくなったりすることもあります。
これは本人の性格ではなく、病気の症状なのですが、周りはその言動にどう対応すればよいか分からず、戸惑ってしまうでしょう。
良かれと思ってしたことが、かえって相手を追い詰めてしまうのではないかという不安から、コミュニケーション自体が大きなストレスになることもあります。
また、電話連絡に出なかったり、会話が減ったりすることで、仕事の連携がうまくいかなくなるケースも見られます。
チーム全体の雰囲気が悪化し仕事が進まない
一人の不調、周囲の業務負担の増加、そしてコミュニケーションの難しさが重なると、チーム全体の雰囲気は自然と悪化してしまいます。
お互いに気を遣いすぎたり、不満が溜まったりすることで、以前のような円滑な協力体制が崩れてしまうのです。
その結果、チーム全体の仕事の効率や生産性が低下し、ミスが増えるといった悪循環に陥る可能性もあるでしょう。
個人の問題として放置してしまうと、最終的には離職者の増加など、会社全体にとって大きな損失につながりかねません。
職場でうつ病の同僚へどう接する?周りがすべき支援とNG行動
うつ病の同僚への対応は、とても繊細で難しい問題です。
ここでは、周囲の人ができる具体的な支援の方法と、良かれと思っても避けるべきNG行動について解説します。
- まずは遅刻や仕事のミスといった不調のサインに気づく
- アドバイスをせず本人の気持ちに寄り添い話を聞く
- 「頑張れ」など本人を追い詰める言葉は避ける
まずは遅刻や仕事のミスといった不調のサインに気づく
大切なのは、うつ病かどうかを判断することではなく、「いつもと様子が違うな」という客観的な変化のサインに気づくことです。
例えば、以下のような行動の変化が見られるかもしれません。
- 勤怠の変化:急な遅刻や欠勤が増える
- 仕事ぶりの変化:今までしなかったようなミスが続く、仕事のペースが落ちる
- 様子の変化:会話を避けるようになる、休憩時間に一人でいることが増える
こうした変化に気づいたら、特に上司の方は「最近、少し心配しているんだけど、何か困っていることはない?」と、責めるのではなく、心配している気持ちを伝えてみましょう。
あくまで客観的な事実を元に話すことが、相手にプレッシャーを与えずに話を聞くきっかけになります。早期発見と適切な対応が、状況の悪化を防ぐポイントです。
アドバイスをせず本人の気持ちに寄り添い話を聞く
「こうした方がいいよ」という安易なアドバイスよりも、ただ黙って話を聞いてくれる存在が、本人にとっては大きな支えになることがあります。
相手の言葉を評価したり、否定したりせず、「そう感じているんだね」と受け止める姿勢が、孤立感を和らげ、安心につながるのです。
仕事の場ではつい解決策を探してしまいがちですが、ここではまず、相手の気持ちを理解し、寄り添うことを優先しましょう。
無理に話を聞き出そうとせず、「いつでも聞くからね」と伝えるだけでも、相手の心の負担は軽くなるはずです。
「頑張れ」など本人を追い詰める言葉は避ける
励まそうと思ってかけた言葉が、意図せず本人を追い詰めてしまうことがあります。
うつ病の方は、すでに自分を責め、これ以上ないほど頑張っていることが多いのです。
「頑張れ」という言葉は、「まだ頑張りが足りない」というメッセージに聞こえてしまうかもしれません。
どのような言葉が負担になり、代わりにどのような言葉をかければよいのか、以下の表にまとめました。
NG言動 | なぜNGか | 代替アプローチ |
---|---|---|
「頑張れ」「しっかりして」 | すでに限界まで頑張っており、これ以上頑張れない自分を責めてしまう。「まだ努力が足りない」というプレッシャーになるのです。 | 代替案:「十分頑張っているよ。今はゆっくり休息することが大切だよ」「無理しなくていいんだよ」と、休むことを肯定してあげましょう。 |
「気の持ちようだよ」「甘えだ」 | うつ病という病気への無理解を示し、本人の苦しみを否定することになります。人格攻撃と受け取られ、深く傷つけてしまうでしょう。 | 代替案:「つらそうだね。何か手伝えることはある?」と、相手の状態を病気の症状として理解し、具体的なサポートを申し出るのがよいでしょう。 |
「みんな大変だよ」「もっとつらい人もいる」 | 他人と比較することで、本人の苦しみを軽く見ていると捉えられ、「自分のつらさは大したことない」と感じさせ、孤立感を深めてしまいます。 | 代替案:「あなたのつらさは、あなただけのものだよね。話してくれてありがとう」と、個人の感情を尊重し、受け止める姿勢を見せましょう。 |
「いつ治るの?」「早く元気になって」 | 回復を焦らせ、大きなプレッシャーを与えます。本人が一番治療したいと願っているため、この言葉は無力感を増幅させてしまうのです。 | 代替案:「焦らなくて大丈夫だよ。自分のペースでゆっくり進んでいこうね」と、回復には時間が必要であることを伝え、安心させてあげましょう。 |
安易なアドバイス(「運動すれば?」「趣味を見つけたら?」) | エネルギーが枯渇している状態では実行が難しく、「できない自分」を再認識させ、無力感を強めます。本人は解決策よりも共感を求めていることが多いのです。 | 代替案:「何か話したくなったら、いつでも聞くからね」と、アドバイスではなく、寄り添う姿勢を明確に伝えましょう。 |
うつ病で周りが疲れる職場にしないためにできる根本的な対策
個人の対応だけに頼るのには限界があります。うつ病の社員と周りの人たちが「共倒れ」にならないためには、会社としての仕組みづくり、つまり根本的な対策が必要です。
ここでは、誰もが安心して働ける職場にするための、4つの対策をご紹介します。
- チームで支援する体制と明確な役割分担
- 業務をフォローした社員への正当な人事評価
- メンタルヘルスへの正しい理解を促す研修の実施
- 誰もが不調を相談できる心理的安全性の確保
チームで支援する体制と明確な役割分担
特定の誰かに負担が集中しないよう、上司、人事、産業医、そして同僚が協力する公式な支援体制をつくることが重要です。
誰が、いつ、何をするのか。それぞれの役割をはっきりさせておくことで、一貫性のあるスムーズなサポートが可能になります。
以下の表は、役割分担の一例です。このような体制があれば、本人が安心して療養に専念でき、職場も混乱なく業務を進めることができるでしょう。
職場復帰(復職)の際にも、この連携はとても重要です。
関係者 | 初期対応(不調のサイン察知時) | 休職中 | 復職支援 | 復職後 |
---|---|---|---|---|
管理監督者(上司) | ・客観的な事実に基づき面談を実施 | ・業務の引き継ぎと再配分 | ・復職後の業務内容 | ・定期的な1on1面談の実施 |
人事労務 | ・休職制度や利用可能な支援制度の説明 ・産業医面談の設定 | ・傷病手当金などの事務手続き ・本人との公式な連絡窓口 ・プライバシー保護の徹底 | ・復職可否の判断プロセス管理 ・主治医や産業医との連携調整 ・復職支援プランの策定と文書化 | ・勤務情報の管理 ・就業規則に基づいた処遇の管理 ・支援体制全体の評価と改善 |
産業医・産業保健スタッフ | ・本人との面談実施 ・医学的見地からの状況評価 ・専門医療機関(病院・クリニック)への受診勧奨 | ・本人の同意を得て主治医と連携 ・療養状況の定期的な確認 ・会社への医学的助言 | ・主治医の診断書を精査し、就業可否を判断 ・復職支援プランへの医学的助言 ・試し出勤などのリハビリ計画策定 | ・定期的なフォローアップ面談 ・就業制限の段階的な緩和を助言 ・管理監督者へのラインケア指導 |
同僚 | ・過度な憶測や詮索を避ける ・本人のプライバシーを尊重する | ・指示された業務のフォローを行う ・休職理由について噂話をしない | ・温かく迎え入れる雰囲気作り ・過度な特別扱いをしない ・業務上の必要な連携を行う | ・チームの一員として自然に接する ・困っている様子があれば、上司に報告する ・カウンセラー役を担わない |
業務をフォローした社員への正当な人事評価
周囲の社員が抱える不公平感を解消するためには、休んだ同僚の業務をカバーした頑張りを、会社が評価する仕組み整えましょう。
社員のモチベーションを保ち、人材の流出を防ぐための大切な経営判断となります。
「チームのために協力する行動」を評価項目に加えたり、一時的に業務が増えた社員に手当を支給したりするなど、具体的な形で報いることが重要です。
そうすることで、「この会社は、助け合いの精神を大切にしている」という強いメッセージになり、組織全体の信頼関係が深まります。
メンタルヘルスへの正しい理解を促す研修の実施
メンタルヘルスの問題は、特別なことではありません。
全社員が正しい知識を持つことで、予防や早期対応につながります。
特に2025年5月に可決された改正労働安全衛生法により、これまで努力義務だった従業員50人未満の事業所においてもストレスチェックが義務化されることになりました。
これにより、すべての企業でメンタルヘルス対策が必須の取り組みとなります。
こうした法的な背景も踏まえ、定期的な研修は有効な投資となるでしょう。
- セルフケア研修(全社員対象):自分のストレスに気づき、対処する方法を学びます。これにより、社員一人ひとりのメンタルヘルス意識が高まります。
- ラインケア研修(管理職対象):部下の不調のサインにいち早く気づき、適切に対応するためのスキルを身につけます。法的責任についても学び、リスク管理能力を高めることにもつながるでしょう。
誰もが不調を相談できる心理的安全性の確保
心理的安全性とは、「このチームでは、自分の意見や弱みを安心して話せる」と誰もが感じられる状態のことです。
心理的安全性を高めるためには、リーダーが自ら弱みを見せたり、どんな意見にも耳を傾ける姿勢を示したりすることが大切です。
そのほか、社内の相談窓口のほかに、外部の専門機関(EAP:従業員支援プログラム)を用意することも効果的です。
外部の相談窓口は、社内の人間関係を気にせず、匿名で専門家によるカウンセリングを受けられるというメリットがあります。不調を抱えた本人だけではなく、支援に疲れた周りの社員が自分自身の悩みを相談する場としても活用でき、共倒れを防ぐためのセーフティーネットになるのです。
【まとめ】うつ病で周りが疲れる職場を改善するためにできること
この記事では、うつ病の社員がいる職場で周りが疲れてしまう原因と、その対策について解説してきました。
大切なポイントをまとめると、以下のようになります。
【同僚の疲れは「組織の課題」】
周囲の疲弊は、個人の優しさや我慢の問題ではありません。
業務負担の偏りや、先が見えない精神的ストレスなど、会社の支援体制が整っていないことが根本的な原因なのです。
【必要なのは「個人のスキル」と「会社の仕組み」】
効果的なサポートのためには、社員一人ひとりが適切な接し方を学ぶこと、そして会社がチームで支える体制や公正な評価制度といった仕組みを整えること、この両方が必要です。
2025年の法改正によって、ストレスチェックの全事業所義務化など、企業のメンタルヘルス対策は新たな段階に進みました。
誰もが安心して、いきいきと働ける職場環境を整えることは、もはや単なる福利厚生というだけではなくなっているのです。
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