パワハラの種類は6つ?定義や具体例から企業の防止対策まで解説

職場でのパワーハラスメント(パワハラ)は、企業規模を問わず深刻な問題となっています。

厚生労働省の調査では、都道府県の労働局に寄せられる「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は13年連続で最多を更新しており、依然として増加傾向が続いています。

2022年4月からはすべての企業にパワハラ防止措置が義務化され、人事担当者にとっては「どのような行為がパワハラにあたるのか」を正しく理解しておくことが大切です。

パワハラの種類や判断基準を把握しておくことで、従業員からの相談に適切に対応できるだけでなく、トラブルの未然防止やリスクを減らすことにもつながるでしょう。

この記事では、厚生労働省が定める6つの行為類型を中心に、パワハラの定義から具体例、企業が取るべき防止対策までをわかりやすく解説します。

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目次[非表示]

  1. パワハラとは?定義と成立する3つの要件
    1. 優越的な関係を背景とした言動であること
    2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること
    3. 労働者の就業環境が害される言動であること
  2. パワハラの種類は6つ?厚生労働省が定める行為類型
    1. 身体的な攻撃は暴行や傷害にあたる行為
    2. 精神的な攻撃は暴言や人格否定にあたる行為
    3. 人間関係からの切り離しは隔離や仲間外しにあたる行為
    4. 過大な要求は遂行不可能な業務の強制にあたる行為
    5. 過小な要求は能力に見合わない低い業務を与える行為
    6. 個の侵害はプライバシーに過度に立ち入る行為
  3. パワハラに該当する言動と該当しない言動の具体例
    1. 身体的な攻撃と精神的な攻撃の具体例
    2. 人間関係からの切り離しと過大な要求の具体例
    3. 過小な要求と個の侵害の具体例
    4. 業務上の指導とパワハラの境界線
  4. パワハラが企業に与えるリスクと影響
    1. 損害賠償や訴訟対応にかかる費用の発生
    2. 従業員のメンタルヘルス不調や離職による人材不足
    3. 企業イメージの低下と採用活動への悪影響
    4. 生産性の低下や職場環境の悪化
  5. パワハラ防止法で企業に義務付けられた防止措置とは
    1. 企業方針を明確にし、社内への周知や啓発を行う
    2. 相談窓口の設置と相談しやすい体制の整備
    3. パワハラ発生時の事実確認とすみやかな対応
    4. 被害者と加害者への適切な措置とプライバシーの保護
  6. パワハラを防ぐために企業が取り組むべき対策
    1. 就業規則への記載とハラスメント研修の定期的な開催
    2. 管理職のコミュニケーション力を高める教育
    3. ストレスチェックや産業医面談を活用した早い段階での発見の仕組み
    4. 再発防止策の策定と職場環境の改善
    5. アンケートや面談を活用したパワハラの実態把握
  7. パワハラ以外に職場で注意すべきハラスメントの種類
    1. セクハラやマタハラなど法律で防止措置が義務付けられたハラスメント
    2. モラハラやカスハラなど近年増加しているハラスメント
    3. 2025年の法改正で義務化されたカスハラ対策のポイント
  8. パワハラの種類に関するよくある質問
    1. パワハラの6類型にあてはまらなければパワハラではないのですか?
    2. 上司から厳しく叱られた場合はすべてパワハラに該当しますか?
    3. パワハラを受けた従業員から相談があった場合まず何をすべきですか?
    4. パワハラの加害者にはどのような処分が下されますか?
    5. パワハラ防止法に違反した場合は罰則がありますか?
    6. 部下から上司へのパワハラも6類型に含まれますか?
  9. 【まとめ】パワハラの種類を正しく理解して安全な職場づくりを進める

パワハラとは?定義と成立する3つの要件

パワーハラスメント(パワハラ)とは、職場での優越的な関係を背景にした言動であり、業務上の必要性を超えて相手の就業環境を害するものです。

労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)では、パワハラの成立要件として3つの条件を定めています。

3つすべてを満たした場合にパワハラに該当するため、担当者はそれぞれの要件を正しく押さえておきたいところです。

以下、パワハラの定義を構成する3つの要件について解説します。

  • 優越的な関係を背景とした言動であること
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること
  • 労働者の就業環境が害される言動であること

優越的な関係を背景とした言動であること

「優越的な関係を背景とした言動」であること。これがパワハラ成立の最初の要件です。

ここでいう「優越的な関係」とは、言動を受ける側が抵抗や拒否をしにくい力関係を指しています。

上司から部下への指示や叱責が最もイメージしやすいケースです。

ただし、パワハラは上司から部下だけに限った話ではありません。

同僚間であっても、特定の専門知識や経験、あるいは人間関係上の立場を利用して、相手に圧力をかけるようなケースも該当する場合があります。

例えば、ITの専門スキルを持つ社員が、パソコン操作が苦手な同僚に対して見下すような態度をとり続けるといったケースです。

集団で1人を無視するような場面も、人数の多さが「優越的な関係」として認められることがあります。

大切なのは、肩書きだけでなく「相手が逆らいにくい状況にあるかどうか」で判断するという点です。

担当者が相談を受けた際には、当事者間の関係性を丁寧に確認するよう心がけてください。

業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」かどうかも、パワハラの成否を分ける重要な判断軸です。

この要件は、パワハラと正当な業務指導の境界線を判断するうえで特に重要になります。

業務の遂行に必要な注意や指導であっても、その方法や程度が社会通念に照らして相当な範囲を超えている場合は、パワハラとして認められることがあります。

「社会通念に照らして」とは、同じ状況に置かれた一般的な労働者の感じ方を基準にして判断するという意味です。

例えば、何度も同じミスを繰り返す部下に対して注意をすること自体は正当な指導の範囲です。

一方で、大勢の前で人格を否定するような発言をしたり、長時間にわたって立たせたまま叱責を続けたりする行為は、業務指導として必要な範囲を超えています。

判断の際には、「その言動の目的」「相手がどのような立場・状況にあったか」「その業界や職場での慣行」など、さまざまな要素を総合的にみる視点が大切です。

厚生労働省のパワハラ防止指針でも、個別の事案ごとに判断する必要があると記載されています。

労働者の就業環境が害される言動であること

「労働者の就業環境が害される」かどうかが、三番目の判断基準になります。

これは、その言動によって労働者が身体的または精神的に苦痛を感じ、仕事に集中できなくなったり、職場にいること自体が困難になったりする状態を指しています。

判断の基準は、「平均的な労働者の感じ方」です。

つまり、同じような状況に置かれた場合に多くの人が「就業環境が害された」と感じるかどうかで判断します。

例えば、1回限りの軽い注意であれば該当しないケースが多い一方、継続的に無視をされたり、毎日のように暴言を浴びせられたりする場合は、就業環境が害されたと認められやすいはずです。

就業環境が害された結果として、メンタルヘルスの不調や休職・退職に至るケースも多く報告されています。

担当者としては、相談を受けた際に「1回だけだから」と安易に判断せず、行為の頻度や継続性、相手への影響の大きさを丁寧にヒアリングすることが大切です。

パワハラの種類は6つ?厚生労働省が定める行為類型

厚生労働省は、パワハラを6つの行為類型に分類しています。

この6つの類型は、パワハラの代表的なパターンとして広く知られており、企業の研修や社内規定づくりにも活用されているものです。

ただし、パワハラはこの6種類に限定されるわけではない点には注意が必要です。

厚生労働省のパワハラ防止指針でも、ここに挙げた類型以外の行為についても、事業主は適切に対応すべきであると記載されています。

ここでは、6つのパワハラの種類について、それぞれの特徴を解説します。

  • 身体的な攻撃は暴行や傷害にあたる行為
  • 精神的な攻撃は暴言や人格否定にあたる行為
  • 人間関係からの切り離しは隔離や仲間外しにあたる行為
  • 過大な要求は遂行不可能な業務の強制にあたる行為
  • 過小な要求は能力に見合わない低い業務を与える行為
  • 個の侵害はプライバシーに過度に立ち入る行為

身体的な攻撃は暴行や傷害にあたる行為

相手を殴る、蹴る、物を投げつける。こうした暴力によって身体的な苦痛を与える行為が「身体的な攻撃」です。

故意でない接触(誤ってぶつかった場合など)は除かれますが、職場で上司が部下に暴力を振るえば、ほとんどのケースでパワハラと判断されます。

暴行罪や傷害罪として刑事責任を問われる場合もあり、企業にとってもリスクの大きい類型です。

精神的な攻撃は暴言や人格否定にあたる行為

6つの類型のなかで最も報告件数が多いとされるのが「精神的な攻撃」です。

脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言など、言葉や態度によって相手の人格や尊厳を傷つける行為を指します。

大声で怒鳴りつける、他の従業員がいる前で「使えない」「辞めてしまえ」と発言する、メールやSNSで侮辱的なメッセージを送るといった行為が代表的でしょう。

企業として特に注意すべき類型といえます。

リモートワークの普及に伴い、オンライン会議中に特定の社員を繰り返し名指しで批判する行為や、チャットツールで侮辱的なメッセージを送る行為も精神的な攻撃にあたるケースが報告されています。

対面でのやり取りが減ったことで、周囲が気づきにくくなっている点も忘れてはなりません。

一方で、業務上のミスに対して理由を説明しながら注意するような行為は、正当な指導として認められるケースが多いという点も押さえておきましょう。

人間関係からの切り離しは隔離や仲間外しにあたる行為

「人間関係からの切り離し」も、パワハラの代表的な類型のひとつです。

特定の従業員を意図的に孤立させる行為であり、隔離・仲間外し・無視などが該当します。

例えば、「会議に1人だけ呼ばない」「挨拶をしても無視する」「プロジェクトから理由なく外す」といった行為が挙げられます。

研修のために一時的に別室で作業をさせるような場合は該当しません。

ただし、懲罰的に個室へ隔離して雑務だけを与える行為は、パワハラと判断されるおそれがあるため注意が必要です。

過大な要求は遂行不可能な業務の強制にあたる行為

到底終わらない量の仕事を押し付けられた。そんな経験は「過大な要求」に該当するおそれがあります。

業務上明らかに不要なことや、達成が不可能なことを強制する行為を指します。

例えば、十分な指導もなく経験のない業務を丸投げする、私用の用事を業務として強制する、明らかに達成できない納期を設定するなどが例として挙げられます。

新人の育成やキャリアアップのために、少しレベルの高い業務を任せるような行為は該当しません。

「負担の程度」と「業務上の合理性」が判断の分かれ目となります。

過小な要求は能力に見合わない低い業務を与える行為

過大な要求とは反対に、本人の能力や経験に見合わない程度の低い業務ばかりを命じる行為は「過小な要求」に分類されます。

業務上の合理性がないにもかかわらず、単純作業だけを押し付けたり、仕事そのものを与えなかったりする行為が該当します。

管理職の立場にある人に誰でもできる単純作業ばかりさせる、特定の社員だけ理由なく仕事を割り振らないなどがこの類型にあたります。

一方で、体調を崩している従業員の業務量を減らしたり、労働時間に応じて業務を調整したりするケースは、正当な配慮として認められるでしょう。

個の侵害はプライバシーに過度に立ち入る行為

「個の侵害」は、業務と直接関係のないプライバシーにまで過度に踏み込む行為を指します。

交際相手や家族構成について執拗に詮索する、個人のSNSを監視する、有給休暇の取得理由を根掘り葉掘り聞くなどがこの類型の例です。

業務上必要な範囲で家族の状況を確認する場合(転勤の打診時など)は、通常は該当しません。

近年はリモートワークの普及に伴い、勤務時間外のオンライン上の行動を過度に把握しようとする行為なども、この類型に含まれるとして問題視されるケースが増えています。

また、2020年に施行されたパワハラ防止指針では、性的指向や性自認(SOGI)に関する情報を本人の了承なく暴露する行為(アウティング)もパワハラに該当しうると明示されました。

担当者は、こうした機微な個人情報の取り扱いについて、管理職への教育を徹底しておく必要があります。

パワハラに該当する言動と該当しない言動の具体例

6つの類型を理解していても、「この行為はパワハラなのか、それとも正当な指導なのか」と判断に迷う場面は多いものです。

パワハラか否かの判断は、行為の内容だけでなく、当事者の関係性や状況、頻度なども含めて総合的に行うものです。

グレーゾーンを正しく見極められるかどうかが、人事担当者としての対応力を左右します。

ここでは、6つの類型ごとにパワハラに該当する例と該当しない例を整理しました。

  • 身体的な攻撃と精神的な攻撃の具体例
  • 人間関係からの切り離しと過大な要求の具体例
  • 過小な要求と個の侵害の具体例
  • 業務上の指導とパワハラの境界線

身体的な攻撃と精神的な攻撃の具体例

身体的な攻撃と精神的な攻撃は、6つの類型のなかでも特に報告件数が多いパターンです。

それぞれの類型ごとに、パワハラに該当する例と該当しない例を表で整理しました。

身体的な攻撃の該当例と非該当例

該当する例

該当しない例

ミスをした部下を殴る

誤って廊下でぶつかり、相手が軽い怪我をした

部下が座っている椅子を蹴る

手が滑って物をぶつけてしまった

書類やペンを投げつける

精神的な攻撃の該当例と非該当例

該当する例

該当しない例

他の従業員がいる前で「新入社員以下だ」と人格を否定する

別室に呼び、問題点と改善策を具体的に伝える指導を行う

「クビにするぞ」「どこに行っても通用しない」と脅す

何度注意しても改善されないため、普段より少し強い口調で注意する

毎日のように大声で怒鳴りつける

人間関係からの切り離しと過大な要求の具体例

人間関係からの切り離しは「目に見えにくい」パワハラとして、発見が遅れやすい傾向があります。

過大な要求も同様に、業務量の調整と混同されやすく、判断に迷うケースが多い類型です。

人間関係からの切り離しの該当例と非該当例

該当する例

該当しない例

気に入らないという理由で特定の社員をプロジェクトから外す

研修の一環として別室で課題に取り組ませる

1人の社員だけ意図的にミーティングに呼ばない

懲戒処分を受けた社員に対し、復帰に向けた研修を受けさせる

話しかけても無視し続ける

過大な要求の該当例と非該当例

該当する例

該当しない例

到底こなせない量の業務を1人に押し付ける

繁忙期に一時的に業務量が増える

適切な指導なく、未経験の業務を丸投げする

育成目的で、少しレベルの高い仕事に挑戦させる

深夜残業や休日出勤を不当に強制する

過小な要求と個の侵害の具体例

過小な要求と個の侵害は、被害者本人が「パワハラだ」と自覚しにくい類型です。

人事担当者が面談やアンケートから察知し、対応につなげましょう。

過小な要求の該当例と非該当例

該当する例

該当しない例

管理職経験者に対して、理由なく草むしりや倉庫整理だけをさせる

体調不良の社員に対して業務量を一時的に減らす

特定の社員にだけ仕事を一切与えない

労働時間に合わせて業務内容を調整する

専門スキルを持つ社員に、誰でもできるコピー作業だけを命じる

個の侵害の該当例と非該当例

該当する例

該当しない例

交際相手について執拗に詮索する

転勤の打診にあたって家族構成を確認する

個人のSNSを監視して行動を把握しようとする

業務上必要な範囲で体調について尋ねる

性的指向や病歴を本人の了解なく他の社員に暴露する

業務上の指導とパワハラの境界線

判断に迷いやすいのが、「厳しい指導」と「パワハラ」の境界線です。

パワハラ防止法の施行以降、「指導がしにくくなった」と悩む管理職の声も増えています。

パワハラにあたるかどうかは、以下のような観点から総合的に判断します。

  • 業務改善のための指導なのか、感情的な攻撃なのか
  • 威圧的な態度で行っていないか
  • 他の社員がいる前で行っていないか
  • 同じ内容の叱責が繰り返されていないか
  • 相手が新人なのか、精神的に不安定な状態ではないか

業務上のミスに対する注意や指導そのものは、パワハラにはあたりません。

ポイントは、指導の「目的」ではなく、指導の「手段」に問題がないかという点です。

相手の人格を否定せず、改善点を示すフィードバックを行うことが、パワハラと指導の線引きをはっきりさせるうえで大切です。

管理職からは「厳しく指導するとパワハラと言われるのではないか」という不安の声も聞かれます。

しかし、業務上の改善点をはっきり伝え、感情を抑えた対応を心がけていれば、通常はパワハラと判断されることはありません。

指導の記録を残しておくことも、万が一の際に自身の対応が適切であったことを示す手段として有効です。

パワハラが企業に与えるリスクと影響

「パワハラは当人同士の問題」——そう考えていないでしょうか。

実際には、金銭的な損失・人材流出・社会的信用の低下など、企業経営そのものを揺るがすリスクが広がりかねません。

対応を怠れば、被害者がメンタル不調で離職し、SNSで情報が拡散され、採用にも支障が出るといった悪循環に陥りかねません。

パワハラが企業に与える主なリスクと影響は、以下の通りです。

  • 損害賠償や訴訟対応にかかる費用の発生
  • 従業員のメンタルヘルス不調や離職による人材不足
  • 企業イメージの低下と採用活動への悪影響
  • 生産性の低下や職場環境の悪化

損害賠償や訴訟対応にかかる費用の発生

パワハラが不法行為として認められた場合、加害者だけでなく企業にも損害賠償の責任が生じます。

民法の使用者責任により、「従業員が業務に関連して第三者に損害を与えた場合は、雇用する企業も賠償責任を負う」と定められているからです。

賠償額は数十万円から数百万円にのぼるケースもあり、訴訟に発展すれば弁護士費用や裁判にかかる人件費も加算されます。

さらに、労災として認定されれば、労働基準監督署からの調査や是正勧告を受ける場合もあり、対応にかかるコストは想像以上に膨らみます。

従業員のメンタルヘルス不調や離職による人材不足

パワハラによって心身に不調をきたし、休職や退職に至る従業員は多くいます。

被害を受けた本人だけでなく、周囲の社員にも「自分がターゲットになるかもしれない」という不安が広がり、職場全体の雰囲気が悪化してしまいます。

活躍していた人材が退職してしまえば、採用や教育にかけたコストが無駄になるだけでなく、後任の確保に追加の費用と時間がかかるという悪循環に陥るでしょう。

メンタルヘルスの不調は回復まで時間がかかるケースが多いため、ストレスチェックや産業医面談で早めにケアしていくことが大切です。

企業イメージの低下と採用活動への悪影響

パワハラの問題が社外に知られた場合、企業イメージへの打撃は避けられません。

SNSや口コミサイトを通じて情報が拡散するスピードは速く、一度ついたネガティブなイメージを払拭するのは容易ではないでしょう。

企業ブランドが傷つくことで、取引先との関係にも影響が出る場合があります。

採用活動でも、求職者が企業の評判を事前に調べるのが当たり前の時代です。

「ハラスメントが横行している会社」というイメージが広がれば、応募者が集まりにくくなり、人材確保がますます難しくなるはずです。

生産性の低下や職場環境の悪化

パワハラが発生すると、被害者は仕事への集中力や意欲を大きく失います。

ミスの報告をためらうようになれば、業務上の事故やトラブルにつながるおそれもあります。

こうした影響は被害者だけにとどまりません。

職場全体にピリピリした空気が漂い、自由な発言や提案がしにくくなることで、チーム全体の生産性が低下します。

コミュニケーションの量が減れば、連携ミスや情報の伝達漏れも増え、組織のパフォーマンスに悪影響を及ぼすことになります。

パワハラ防止法で企業に義務付けられた防止措置とは

労働施策総合推進法(パワハラ防止法)は、2020年6月に大企業、2022年4月には中小企業にも適用が拡大されました。

この法律により、すべての事業主はパワハラを防ぐための措置を講じなければなりません。

この義務を怠った場合、厚生労働大臣による助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わなければ企業名が公表される場合もあります。

企業が講じるべき防止措置の内容は以下の通りです。

  • 企業方針を明確にし、社内への周知や啓発を行う
  • 相談窓口の設置と相談しやすい体制の整備
  • パワハラ発生時の事実確認とすみやかな対応
  • 被害者と加害者への適切な措置とプライバシーの保護

企業方針を明確にし、社内への周知や啓発を行う

まず大切なのは、「パワハラを許さない」という企業の方針を明確にし、社内に周知・啓発することです。

就業規則や社内規定にパワハラの定義と禁止事項を具体的に記載するだけでなく、パワハラを行った場合の処分内容も規定しておく必要があります。

策定したルールを社内報や掲示、研修などで全従業員に伝え、「パワハラは会社として許容しない」というメッセージを繰り返し届けていくことが大切です。

トップマネジメントが率先してメッセージを発信することで、組織全体の意識を変える効果が期待できます。

相談窓口の設置と相談しやすい体制の整備

企業には、パワハラに関する相談窓口を設置し、従業員が安心して相談できる体制を整えることが義務付けられています。

窓口は社内に限らず、外部の専門機関に委託する方法も有効です。

相談窓口の担当者に対しては、適切な対応ができるよう教育を行い、相談者が不利益な取り扱いを受けない旨を社内に伝えておいてください。

パワハラ発生時の事実確認とすみやかな対応

パワハラが疑われる事案が発生した場合、企業には事実関係を速やかに確認する義務があります。

被害者と加害者の双方からヒアリングを行い、必要に応じて周囲の社員からも聞き取りを行います。

調査にあたっては、先入観を持たず、客観的な事実をもとに冷静に判断してください。

事実確認が遅れると、被害が拡大するだけでなく、「会社は何もしてくれない」という不信感が広がり、問題の解決がさらに困難になってしまいます。

被害者と加害者への適切な措置とプライバシーの保護

事実関係の確認後は、被害者と加害者の双方に対してふさわしい措置を講じる必要があります。

被害者に対しては、配置転換やメンタルヘルスの支援、状況に応じた休暇の付与など、就業環境の回復に向けて動いてください。

加害者に対しては、事実に基づいた懲戒処分や注意指導、研修の受講命令などを検討しましょう。

あわせて、当事者のプライバシーを厳重に保護する姿勢も必要です。

相談を行ったことや調査に協力したことを理由に、不利益な取り扱いをしてはなりません。

この点を社内にきちんと周知しておくことで、相談しやすい風土の維持につながります。

パワハラを防ぐために企業が取り組むべき対策

パワハラ防止法で義務付けられた措置を講じるだけでなく、それ以上の予防的な取り組みも行えば、パワハラの発生リスクを根本から減らせるでしょう。

「起きてから対応する」のではなく、「起きないようにする」仕組みづくりを進めましょう。

企業が自主的に取り組むべき対策を整理しました。

  • 就業規則への記載とハラスメント研修の定期的な開催
  • 管理職のコミュニケーション力を高める教育
  • ストレスチェックや産業医面談を活用した早い段階での発見の仕組み
  • アンケートや面談を活用したパワハラの実態把握
  • 再発防止策の策定と職場環境の改善

就業規則への記載とハラスメント研修の定期的な開催

パワハラを防ぐには、まず就業規則への記載と定期的な研修の開催から始めてください。

就業規則には、パワハラの定義に加え、6つの行為類型の説明や懲戒処分の内容まで具体的に書いておくと効果的です。

「何がパワハラにあたるのか」が全社員に伝わっていなければ、ルールを設けた意味が薄れてしまいます。

研修は年に1回以上を目安に、全従業員を対象として行うのが望ましいです。

管理職向けには「パワハラにならない指導の方法」、一般社員向けには「パワハラを受けた際の相談先」など、対象に応じた研修内容にすることで効果が高まります。

管理職のコミュニケーション力を高める教育

パワハラの多くは、管理職と部下の間で発生しています。

「指導のつもりだった」「悪気はなかった」という管理職側の認識と、「威圧的だった」「人格を否定された」という部下側の受け止め方にズレが生じることで問題化するケースが多いのです。

この認識のギャップを埋めるためには、管理職向けにコミュニケーション研修を行うことが有効です。

「叱り方」だけでなく、「褒め方」「傾聴の姿勢」「フィードバックの方法」まで幅広く扱うことで、部下との信頼関係を築きやすくなるでしょう。

実際の場面では、ロールプレイなどの参加型プログラムを取り入れると、座学だけでは得にくい実務的な気づきを得られるはずです。

ストレスチェックや産業医面談を活用した早い段階での発見の仕組み

パワハラの兆候を早い段階でつかむためには、ストレスチェック産業医面談の活用が有効です。

年1回のストレスチェックの結果を分析すれば、高ストレス者が多い部署の特定や職場環境の改善に役立てられます。

産業医面談で従業員のメンタルヘルスの変化をキャッチし、パワハラが深刻になる前に介入できる体制を整えておくのもよいでしょう。

こうした健康管理の取り組みは、パワハラを未然に防ぐだけでなく、従業員の定着率や生産性を高めることにもつながります。

再発防止策の策定と職場環境の改善

パワハラが発生した場合、事後の対応だけで終わらせず、再発防止策の策定と実行までセットで取り組みましょう。

発生原因を分析し、同様の事案を防ぐには以下のような対策が有効です。

  • 社内のハラスメント防止方針の見直しと再周知
  • 加害者への再発防止研修の受講義務付け
  • 該当部署の職場環境アンケートの追加
  • 相談窓口の利用状況の定期的な確認

再発を防ぐための対策は、当事者間の問題解決にとどまらず、組織全体の職場環境を見直すきっかけにもなります。

風通しのよい職場をつくるだけでも、パワハラは減らせます。

アンケートや面談を活用したパワハラの実態把握

パワハラ対策のまず取り組むべきことは、自社の実態を正しく知ることです。

匿名アンケートを定期的に行うことで、相談窓口では拾い上げにくい問題を把握できるようになります。

アンケートを設計する際には、以下の点が大切なポイントです。

  • 回答者が特定されない仕組みを整える
  • 「パワハラを見聞きしたことがあるか」だけでなく「安心して相談できるか」も聞く
  • 部署ごとに集計し、リスクの高い部署を把握する

結果を分析したうえで、リスクの高い部署にはフォローアップ面談や追加の研修を組み合わせると、実際の改善策につなげやすくなるでしょう。

アンケート結果を経営層に報告し、全社的な対策方針に反映させる仕組みも整えておくと効果的です。

パワハラ以外に職場で注意すべきハラスメントの種類

相談窓口を運用していると、パワハラ以外のハラスメントが持ち込まれる場面も少なくないはずです。

セクハラやマタハラのように法律で防止措置が義務付けられたものに加え、モラハラやカスハラなど近年新たに問題視されるケースも増えています。

ここからは、押さえておきたいパワハラ以外のハラスメントを整理します。

  • セクハラやマタハラなど法律で防止措置が義務付けられたハラスメント
  • モラハラやカスハラなど近年増加しているハラスメント
  • 2025年の法改正で義務化されたカスハラ対策のポイント

セクハラやマタハラなど法律で防止措置が義務付けられたハラスメント

パワハラと同様に、法律で防止措置が義務付けられているハラスメントもあり、代表的なものとして以下が挙げられます。

セクシュアルハラスメント(セクハラ)は、性的な言動により就業環境を害する行為で、男女雇用機会均等法で防止措置が義務付けられています。

マタニティハラスメント(マタハラ)は、妊娠・出産・育児休業に関する言動により就業環境を害する行為です。

育児・介護休業法で防止措置が定められており、男性の育児休業取得に関する嫌がらせ(パタハラ)や介護休業取得に関する嫌がらせ(ケアハラ)も同法の規制対象となっています。

これらは法律上の義務として、相談窓口の設置や方針を明確にすることなどの防止措置が義務付けられています。

パワハラ対策と一体的に体制を整えることで、効率的に対応できます。

モラハラやカスハラなど近年増加しているハラスメント

法律上の定義はないものの、職場で問題視されるケースが増えているハラスメントにも目を向ける必要があります。

モラルハラスメント(モラハラ)は、無視や嫌味など態度による精神的な嫌がらせで、上下関係がなくても発生します。

カスタマーハラスメント(カスハラ)は、顧客や取引先からの過度な要求や暴言による嫌がらせです。

そのほか、業務量を減らさず残業だけを削減させる時短ハラスメント(ジタハラ)も職場でのトラブルに繋がるケースが見受けられます。

飲み会での飲酒の強要(アルハラ)や、体臭・香水の匂いによる不快感(スメハラ)なども同様です。

これらは民法の不法行為として損害賠償の対象になる場合があり、法律上の定義がないからといって放置してよいものではありません。

2025年の法改正で義務化されたカスハラ対策のポイント

2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメント(カスハラ)への防止措置が新たに義務化されました。

施行は2026年10月1日が予定されています。

改正法では、カスハラの定義を以下の3つの要件で定めました。

  • 顧客、取引先、施設利用者等が行うこと
  • 社会通念上許容される範囲を超えた言動であること
  • 従業員の就業環境を害すること

企業には、パワハラと同様の防止措置(方針を打ち出すこと・相談窓口の設置・事後対応など)を講じる義務があります。

加えて、同改正では「自爆営業」(従業員への自社商品の購入強要など)がパワハラに該当しうる旨も厚生労働省のパワハラ防止指針に追加される見込みです。

施行前から、既存のパワハラ相談窓口をカスハラにも対応できるよう拡充し、対応マニュアルの整備を進めておくと安心です。

パワハラの種類に関するよくある質問

パワハラの種類や判断基準について、担当者が抱きやすい疑問をQ&A形式で解説します。

  • パワハラの6類型にあてはまらなければパワハラではないのですか?
  • 上司から厳しく叱られた場合はすべてパワハラに該当しますか?
  • パワハラを受けた従業員から相談があった場合まず何をすべきですか?
  • パワハラの加害者にはどのような処分が下されますか?
  • パワハラ防止法に違反した場合は罰則がありますか?
  • 部下から上司へのパワハラも6類型に含まれますか?

パワハラの6類型にあてはまらなければパワハラではないのですか?

いいえ、6類型はあくまで代表的なパターンの分類であり、これ以外の行為がパワハラにあたらないわけではありません。

厚生労働省の指針でも、類型外の言動でも3要件を満たせば該当するとされています。

類型にとらわれず個別の状況に応じた判断が欠かせません。

上司から厳しく叱られた場合はすべてパワハラに該当しますか?

いいえ、厳しい叱責がすべてパワハラになるわけではありません。

業務上のミスに対して、改善を目的とした指導は正当な行為として認められます。

ただし、人格を否定するような発言(「お前は無能だ」など)や、大勢の前で長時間にわたって叱り続ける行為は、業務指導の範囲を超えている可能性が高いでしょう。

「指導の目的は何か」「手段は適切か」「相手の状況を考慮しているか」の3点が判断の目安になります。

パワハラを受けた従業員から相談があった場合まず何をすべきですか?

最初に、相談者の話を真摯に傾聴し、事実関係の確認を行うのが基本です。

相談者に「あなたが悪いのでは」といった発言は絶対に避け、安心して話せる環境を整えてください。

そのうえで、加害者とされる相手や周囲の社員にもヒアリングを行い、客観的な事実の把握を進めます。

調査が終わるまで、相談者のプライバシーを厳重に守り、不利益な取り扱いをしないよう徹底してください。

パワハラの加害者にはどのような処分が下されますか?

パワハラの事実が確認された場合、就業規則に基づいて懲戒処分を行うのが原則です。

処分の内容は行為の悪質さや被害の程度によって異なり、戒告や減給、出勤停止、降格、懲戒解雇などが挙げられます。

処分にあたっては、事実関係を確認したうえで、公平性と透明性を確保してください。

判断が難しい場合は、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談するのも有効な手段です。

パワハラ防止法に違反した場合は罰則がありますか?

パワハラ防止法(労働施策総合推進法)には、防止措置義務に違反した場合の直接的な罰金規定は設けられていません。

ただし、厚生労働大臣による助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わなかった場合は企業名が公表されるおそれがあります。

企業名の公表は社会的信用に大きな影響を与えるため、実質的なペナルティと考えてよいでしょう。

なお、パワハラの行為そのものが暴行罪や名誉棄損罪に該当する場合は、加害者に対して刑事罰が科される場合もあります。

部下から上司へのパワハラも6類型に含まれますか?

はい、パワハラは上司から部下への行為に限定されません。

部下から上司に対するパワハラは「逆パワハラ」とも呼ばれ、近年相談件数が増えている類型です。

例えば、部下が集団で上司の指示を無視し続ける行為は「人間関係からの切り離し」にあたる側面もあるでしょう。

ITスキルに長けた部下がパソコン操作に不慣れな上司を繰り返し嘲笑する行為は、「精神的な攻撃」に該当するおそれがあります。

パワハラの3要件である「優越的な関係」は、役職だけでなく知識・経験・人数の優位性も含まれます。

部下側にこうした優位性がある場合は、6類型のいずれかに該当しうるはずです。

【まとめ】パワハラの種類を正しく理解して安全な職場づくりを進める

この記事では、パワハラの定義、3つの成立要件、厚生労働省が定める6つの行為類型、企業に必要な防止対策について解説しました。

改めて、押さえておきたい要点は以下のとおりです。

  • パワハラは「優越的な関係」「業務上の範囲を超えた言動」「就業環境の侵害」の3要件すべてを満たす場合に成立する
  • パワハラの種類は6つの行為類型(身体的な攻撃・精神的な攻撃・人間関係からの切り離し・過大な要求・過小な要求・個の侵害)で分類される
  • 6類型に該当しなくても、3要件を満たせばパワハラにあたる
  • パワハラの法規制により、すべての企業に対策措置が義務化されている
  • 研修・相談窓口・ストレスチェックなどを通じた予防的な取り組みが重要

パワハラは、放置すれば企業の信用や経営に大きな損害につながる問題です。

一方で、正しい知識と体制さえあれば、予防できる問題でもあります。

まずは自社の現状を振り返り、足りない部分から対策を始めてみましょう。

パワハラ対策やメンタルヘルス管理を効率化したいなら、「first call」をチェックしてみてください。

産業医の紹介から健康相談までをワンストップで支援し、忙しい担当者の負担を減らすことができます。

遅沢 修平
遅沢 修平
上智大学外国語学部卒業。クラウド型健康管理サービス「first call」の法人営業・マーケティングを担当し、22年6月より産業保健支援事業部マーケティング部長に就任。

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