
リスクアセスメントとは?実施義務や手順、評価シートの書き方を解説
労働災害のリスクを未然に防ぎ、従業員が安全に働ける職場環境を作ることは、企業の重要な取り組みです。
しかし、「リスクアセスメントという言葉は聞いたことがあるが、具体的に何をすればよいかわからない」「自社が義務化の対象なのか判断できない」と悩む担当者の方も多いのではないでしょうか。
リスクアセスメントは、製造業や建設業だけでなく、化学物質を取り扱うあらゆる事業場で実施が求められる重要な取り組みです。
正しく実施することで、労働災害の防止だけでなく、生産性の向上や企業価値の向上にもつながるでしょう。
「化学物質のリスク管理に不安がある」「産業医とうまく連携したい」とお考えなら、産業医の選任やストレスチェックの実施をワンストップでサポートする「first call」を検討してみてください。
この記事では、リスクアセスメントの基本的な意味や目的、実施手順から、評価シートの書き方までをわかりやすく解説します。
目次[非表示]
リスクアセスメントとは?言葉の意味と定義
リスクアセスメントの基本概念について、以下の3つの観点から解説します。
言葉の定義や対象となるリスクについて、正しく理解しておきましょう。
- 職場にある潜在的な危険性や有害性(ハザード)の特定
- リスクとハザード(危険源)の違いとは
職場にある潜在的な危険性や有害性(ハザード)の特定
リスクアセスメントとは、職場にある潜在的な危険性や有害性(ハザード)を見つけ出し、それによって発生する恐れのある災害の重篤度や発生確率(リスク)を見積もり、リスクを低減するための措置を検討・実施する一連の手法を指します。
厚生労働省のガイドラインでも、労働災害を未然に防止するための有効な手段として推奨されています。
事故が起きてから対策を講じる「事後対応」ではなく、事故が起こる前に危険の芽を摘む「予防措置」であることが最大の特徴と言えるでしょう。
リスクとハザード(危険源)の違いとは
リスクアセスメントを理解する上で重要なのが、「ハザード(危険源)」と「リスク」の違いです。
この2つは混同されがちですが、以下のような明確な違いがあります。
ハザード(危険性・有害性)
労働災害や健康障害を引き起こす原因となる「物」や「状況」のこと。
(例:高所での作業、切れ味の鋭い刃物、有機溶剤、滑りやすい床など)
リスク
ハザードによって災害が発生する「可能性」と、発生した時の被害の「大きさ」を組み合わせた概念のこと。
つまり、ハザード(危険な物)がそこにあっても、人が近づかない対策をすれば「リスク」は低くなります。
リスクアセスメントは、このリスクの大きさを客観的に見積もり、許容できるレベルまで下げることを目的としています。
リスクアセスメントを実施する目的と重要性
企業がリスクアセスメントに取り組むべき理由について、以下の項目に沿って解説します。
労働災害を未然に防ぎ、企業の信頼性を高めるためにも実施は不可欠です。
- 労働災害の防止とリスク低減措置の実施
- 安全衛生水準の向上と労働者の安全確保
労働災害の防止とリスク低減措置の実施
リスクアセスメントを実施する最大の目的は、労働災害の防止にあります。
従来の安全衛生活動では、過去に起きた災害事例に基づいて対策を講じることが一般的でした。
しかし、技術の進歩や業務内容の変化により、過去の事例だけでは予測できない新たな危険が生まれています。
リスクアセスメントによって職場に潜むあらゆるリスクを洗い出し、優先順位をつけて計画的にリスク低減措置を実施し、安全な職場を作ること、これにより災害の発生確率を確実に下げることができるのです。
安全衛生水準の向上と労働者の安全確保
リスクアセスメントの実施は、職場の安全衛生水準を継続的に向上させる取り組みでもあります。
リスクの見積もりや対策の検討プロセスに従業員が参画することで、一人ひとりの危険予知能力が高まるでしょう。
「どこに危険があるか」を全員が理解し、共有することで、自律的な安全活動が定着しやすくなるのです。
また、企業が従業員の安全確保に積極的に取り組む姿勢は、従業員の安心感やモチベーションを高め、結果として人材定着や企業の信頼性向上にもつながります。
リスクアセスメントの実施義務と対象となる業種
自社が法的にどのような義務を負っているのか、以下の3つのパターンで解説します。
法令遵守の観点からも、自社の状況を正しく理解しておきましょう。
- 製造業・建設業などは実施が「努力義務」
- 介護業・運送業などは義務対象外だが実施を推奨
- 【例外】化学物質を取り扱う事業場は全業種で「完全義務」
製造業・建設業などは実施が「努力義務」
労働安全衛生法第28条の2に基づき、以下の業種ではリスクアセスメントの実施が努力義務とされています。
- 製造業
- 建設業
- 運送業
- 清掃業
- 電気・ガス・水道業
- 自動車整備業
- 林業、鉱業、屋外土木建築事業 など
「努力義務」とは、「実施するよう努めなければならない」という意味であり、実施しなかったからといって直ちに罰則が科されるわけではありません。
しかし、万が一労働災害が発生した場合、リスクアセスメントを実施していなかったことは安全配慮義務違反として損害賠償請求の判断材料となり得るため、実質的には必須の取り組みと言えます。
介護業・運送業などは義務対象外だが実施を推奨
上記の努力義務対象業種に含まれない、介護業、小売業、サービス業、IT業などの事業場では、リスクアセスメントの実施義務はありません。
しかし、介護現場での腰痛や転倒、店舗でのバックヤード事故など、労働災害のリスクはどの業種にも存在します。
そのため、厚生労働省はすべての業種に対してリスクアセスメントの導入を強く推奨しています。
業種に関わらず、従業員の安全を守るために自主的に取り組むことが望ましいでしょう。
【例外】化学物質を取り扱う事業場は全業種で「完全義務」
ここで注意が必要なのが、化学物質に関するリスクアセスメントです。
労働安全衛生法の改正により、安全データシート(SDS)の交付義務がある化学物質(リスクアセスメント対象物)を製造・取り扱うすべての事業場において、リスクアセスメントの実施が義務化されています。
これは業種や事業規模を問いません。
例えば、清掃業で特定の洗剤を使用する場合や、医療機関で消毒剤を使用する場合なども対象となる可能性があります。
化学物質による健康障害リスクは目に見えにくいため、法規制が年々強化されています。
化学物質管理に関しては専門的な知識が必要となるため、産業医などの専門家の助言をあおぎながら進めることが重要です。
リスクアセスメントを効果的に進める5つの手順
リスクアセスメントの具体的な進め方を、以下の5つのステップで確認しましょう。
正しい手順で実施することで、より効果的なリスク低減が可能になります。
- 【手順1】危険性や有害性(ハザード)の特定
- 【手順2】リスクの大きさの見積もり
- 【手順3】リスクの優先順位の設定と評価
- 【手順4】リスク低減措置の検討と実施
- 【手順5】実施結果の記録と現場への周知
【手順1】危険性や有害性(ハザード)の特定
まず、職場にある「危険性や有害性(ハザード)」をすべて洗い出すことから始めましょう。
作業手順書を確認して工程ごとの危険箇所を探したり、ヒヤリハット報告書や過去の災害事例を参照したりするとよいでしょう。
また、現場作業者へのヒアリングや職場巡視を行い、設備や環境を直接チェックする工程も忘れずに取り入れましょう。
「転倒」「挟まれ」「腰痛」「化学物質の吸入」など、あらゆる可能性を漏れなく特定することが重要です。
【手順2】リスクの大きさの見積もり
特定したハザードごとに、リスクの大きさ(危険度)を客観的に見積もるのが次のステップです。
被害の大きさを示す「重篤度(死亡、休業が必要、不休で済むなど)」と、発生する確率を示す「可能性(頻繁に起きる、めったに起きないなど)」の2つの要素を組み合わせて計算するのが一般的でしょう。
これらを数値化して掛け合わせたり、マトリクス表に当てはめたりして、リスクの大きさを客観的に評価してください。
【手順3】リスクの優先順位の設定と評価
見積もったリスクの大きさに基づいて、対策を行う優先順位を決定します。
「直ちに対策が必要なリスク」から、「現状のままでよいリスク」までランク付けを行いましょう。
すべてのリスクに対策を行うことが理想ですが、予算や時間は限られているため、重篤度が高く発生確率が高いものから優先的に対応しなければなりません。
【手順4】リスク低減措置の検討と実施
優先順位の高いリスクから、具体的なリスク低減措置を検討し、実行に移していきましょう。
対策には、優先順位があります。
- 本質的対策:危険な作業そのものをなくす、危険な物質を無害なものに変更する(最も効果が高い)
- 工学的対策:ガードや柵を設置する、局所排気装置を付ける
- 管理的対策:作業マニュアルを整備する、教育訓練を行う、立ち入り禁止区域を設ける
- 個人的対策:保護具(ヘルメット、マスクなど)を使用させる(最後の手段)
安易に保護具や注意喚起で済ませるのではなく、可能な限り上位の対策を目指すことが重要です。
【手順5】実施結果の記録と現場への周知
リスク低減措置を実施したら、その内容と結果を必ず記録し、すべての関係者に周知します。
また、対策を実施して終わりではありません。
定期的に効果を確認し、「新たなリスクが生まれていないか」「対策は有効に機能しているか」を見直すことが大切です。
リスクアセスメントは一度きりではなく、PDCAサイクルを回して継続的に行うものです。
リスクアセスメントシートの書き方と記入事例
厚生労働省が出している様式などを参考に、評価シートの書き方を以下の項目で解説します。
具体的な記入例を参考に、自社の様式に合わせて活用してください。
- 危険性や有害性の特定欄の書き方
- リスクの見積もりと優先度の点数化
- 化学物質リスクアセスメントの記載事例
危険性や有害性の特定欄の書き方
シートの左側には、洗い出したハザードを記入しましょう。
「〜(作業内容)において、〜(危険源)により、〜(事故の型)になる」という形式で具体的に記述すると誰が見てもわかりやすくなるでしょう。
記入例
- プレスの金型調整作業において、フットスイッチを誤って踏んでしまい、スライドしてきた金型に手を挟まれる。
- 倉庫内での荷物運搬中に、床に落ちていたコードにつまずき、転倒して荷物の下敷きになる。
リスクの見積もりと優先度の点数化
見積もり欄には、各社で定めた基準に基づいて数値を記入してください。
計算結果に基づき、「9点:直ちに中止・対策」「4点~6点:計画的に対策」「3点以下:必要に応じて検討」といったように優先度をルールに基づいて判定し、記入するのがポイントです。
重篤度(例)
3点(死亡・障害)~1点(軽傷)
可能性(例)
3点(毎日)~1点(年1回以下)
リスクレベル
重篤度 × 可能性 = 9点~1点
化学物質リスクアセスメントの記載事例
化学物質のリスクアセスメントでは、SDS(安全データシート)の情報を基に作成するのが基本です。
化学物質の管理は専門性が高く、通常の安全パトロールだけでは見落としがちな分野です。
産業医や衛生管理者と連携し、専門的な視点でのチェックを受けることをおすすめします。
対象物質名
キシレン
危険有害性
引火性液体、皮膚刺激性
ばく露状況
屋内作業場で常時使用
リスク判定
ばく露限界値を超える恐れがあるため「高リスク」
対策
局所排気装置の風速点検、有機溶剤用防毒マスクの着用徹底
リスクアセスメントの手法と見積もりの計算式
リスクの大きさを見積もる代表的な3つの手法を紹介します。
自社の業務内容や安全管理のレベルに合わせて、最も運用しやすい手法を選ぶことが大切です。
- マトリクス法による評価
- 数値化法による計算
- 分岐法による判断
マトリクス法による評価
縦軸に「重篤度」、横軸に「発生可能性」をとり、それぞれの交点でリスクレベルを判定する方法です。
視覚的にわかりやすく、多くの企業で一般的に採用されている手法といえるでしょう。
メリット
直感的に理解しやすく、特別な計算が不要。
デメリット
境界線にあるリスクの判断が難しい。
数値化法による計算
「重篤度」と「発生可能性」(場合によっては「頻度」も追加)に点数を付け、それらを足し算または掛け算してリスクレベルを算出する方法です。
より細かな数値管理が求められる現場に向いています。
加算式
重篤度(3) + 可能性(2) + 頻度(1) = リスク(6)
メリット
詳細なランク付けが可能で、対策の優先順位をつけやすい。
デメリット
点数の基準設定が難しく、計算の手間がかかる。
分岐法による判断
「重篤度は大きいか?(Yes/No)」「発生頻度は高いか?(Yes/No)」といった質問に答えていくことで、最終的なリスクレベルに到達する方法です。
専門知識がなくても取り組みやすい点が特長です。
メリット
質問に答えるだけなので、初心者でも一定のレベルで評価ができる。
デメリット
複雑なリスク要因を反映しにくい。
リスクアセスメントに関するよくある質問
リスクアセスメントの実施に関して、よくある疑問にお答えします。
以下のQ&A形式で疑問点を詳しく解説していきます。
- リスクアセスメントはいつ実施すべきですか?
- リスクアセスメントをやらないと罰則はありますか?
- リスクアセスメントの対象者は誰ですか?
リスクアセスメントはいつ実施すべきですか?
リスクアセスメントは、主に以下のタイミングで実施することが推奨されます。
- 建設物を設置・移転・変更・解体するとき
- 設備や機械を新規導入・変更するとき
- 原材料を新規採用・変更するとき
- 作業方法や手順を変更するとき
- 労働災害が発生したとき(再発防止のため)
- その他、リスクの変化が予測されるとき
また、定期的に見直しを行うことも推奨されています。
リスクアセスメントをやらないと罰則はありますか?
一般的なリスクアセスメント(製造業などの努力義務)に関しては、実施しなくても直接的な罰則はありません。
しかし、化学物質のリスクアセスメントに関しては、実施しない場合は労働安全衛生法違反となり、労働基準監督署による是正勧告の対象となります。
さらに、SDSの不交付など関連する義務違反がある場合や、対策を怠って労働災害が発生した場合には、罰則(6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金など)が適用される可能性があります。
また、努力義務であっても、災害発生時に「予見できたリスクを放置した」として安全配慮義務違反を問われるリスクが高いことを認識しておきましょう。
リスクアセスメントの対象者は誰ですか?
リスクアセスメントの実施主体は「事業者」ですが、実際の作業は現場の管理者や作業者が中心となって行うのが通常です。
また、対象となる作業に従事するすべての労働者が保護の対象となります。
派遣社員については、派遣元と派遣先が連携して安全確保に努めなければなりませんが、実際の作業現場である派遣先事業者がリスクアセスメントを実施する責任を負う点に留意してください。
【まとめ】リスクアセスメントを実施して安全な職場環境をつくる
リスクアセスメントは、労働災害を未然に防ぎ、従業員が安心して働ける職場を作るための手法です。
まずは自社の業務における「ハザード」を特定し、できるところからリスク低減に取り組んでいきましょう。
特に、法改正により規制が強化されている化学物質の管理や、メンタルヘルス対策に関しては、社内のリソースだけで対応しきれない場合も多いでしょう。
専門的な知見が必要な分野については、産業医のサポートを受けるのが効率的です。
もし、「化学物質のリスク管理に不安がある」「産業医とうまく連携したい」とお考えなら、産業医の選任やストレスチェックの実施をワンストップでサポートする「first call」を検討してみてください。



























