
運輸業の産業医の選び方と選任基準とは?2024年問題の対策や健康管理のポイント
2024年4月に「働き方改革関連法」による時間外労働の上限規制が適用されてから、1年半以上が経過しました。
運送業の現場では、労働時間の短縮と輸送能力の維持という難しい課題に、日々直面していることと思います。
人手不足はさらに深刻化しており、限られた時間の中で最大の成果を出すためには、従業員が健康で長く働き続けられる環境づくりが、これまで以上に企業の生存戦略として重要になってきました。
しかし、多くの企業の人事担当者は、「法改正後の最新ルールに対応できているか不安だ」「具体的にどのような産業医を選べばよいかわからない」といった悩みを抱えています。
この記事では、最新の法規制やガイドラインに基づき、運輸業向けの最適な産業医の選び方を解説します。
さらに、助成金を活用したコスト削減術や、強化されたSAS(睡眠時無呼吸症候群)に関する報告義務など、法的なリスク回避のポイントまでを一度に理解していただける内容となっています。
もし、「産業医の探し方がわからない」「オンライン対応できる医師をすぐに探したい」とお考えであれば、クラウド型健康管理サービス「first call」をチェックしてみてください。
産業医の選任から産業医面談の実施までをクラウドで一元管理できるため、忙しい人事担当者の負担を大きく減らせるかもしれません。
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失敗しない運輸業の産業医の選び方
一般的なオフィスワークとは異なり、運輸業には特殊な勤務形態やリスクが存在します。
そのため、「産業医であれば誰でも良い」という基準だけで選んでしまうと、現場の実態に合わず、契約後にミスマッチが発生してしまうかもしれません。
ここでは、運送業の企業が重視すべき選定ポイントについて詳しく解説していきます。
- 24時間動く不規則な勤務や運送業界の文化を理解している
- 遠隔地の点呼にも使えるオンライン面談に対応できる
- 運転業務の特殊性を踏まえて医学的な乗務判定ができる
- 訪問時以外でもコミュニケーションが取りやすい
24時間動く不規則な勤務や運送業界の文化を理解している
トラックドライバーの業務は、深夜配送や長距離移動など、24時間体制で動くことが多く、どうしても生活リズムが不規則になってしまいます。
また、食事はSA・PAやコンビニで済ませることが多く、栄養バランスが偏りやすいという課題もあります。
産業医を選ぶ際は、こうした業界特有の文化や状況を深く理解していることが重要です。
「規則正しい生活をして野菜を食べてください」といった教科書通りの指導ではなく、「SAで選ぶべきメニュー」や「トラック内での仮眠の質を高める方法」など、ドライバーが実践可能な具体的改善策を提案できる医師を探しましょう。
遠隔地の点呼にも使えるオンライン面談に対応できる
2025年には、要件を満たせば資本関係のない別会社同士でも点呼を行える「事業者間遠隔点呼」が解禁されるなど、点呼のIT化・遠隔化が進んでいます。
こうした流れの中で、産業医にもオンライン対応力が求められます。
ドライバーは平日の日中も配送に出ていることが多く、対面での面談時間を確保するのは現実的に難しいものです。
遠隔地からの点呼システムと合わせて、ビデオ通話で産業医面談ができる体制があれば、ドライバーは営業所に戻ることなく健康相談を受けることができます。
選任する産業医が、ZoomなどのITツールに柔軟に対応でき、かつセキュリティやプライバシーに配慮した実施要件を満たしているかを確認しておきましょう。
運転業務の特殊性を踏まえて医学的な乗務判定ができる
運輸業の産業医にとって重要な役割の一つが、ドライバーの「乗務判定」です。
高血圧や血糖値の異常がある場合、一般の医師は「治療してください」と言いますが、運輸業に精通した産業医は「この数値では運転中に意識を失うリスクがあるため、乗務を停止すべき」という安全最優先の判断を下します。
健康診断の結果に基づき、医学的見地から就業の可否(乗務可、条件付き可、乗務不可)を明確に判定できる経験と知識を持つ医師を選ぶことが、事故の防止につながるのです。
訪問時以外でもコミュニケーションが取りやすい
産業医の訪問は通常月1回ですが、運送業の現場は毎日動いています。
何かしらの判断が必要なときに、「次回の訪問日まで待とう」となってしまうと、対応が後手に回ってしまうこともあります。
そのため、訪問時だけではなく、電話やメールなどで連絡が取りやすい産業医を選ぶのがおすすめです。
「面談の調整をしたい」「書類の確認をお願いしたい」といった時に、スムーズに連携できる体制があれば、担当者の負担も軽くなるはずです。
運輸業の現場で事故や健康トラブルを防ぐ産業医の活用法
産業医を「法的な数合わせ」にするのではなく、積極的に活用することで、健康起因事故や労働災害を未然に防ぐことができます。
続いては、現場で実践できる具体的な施策について見ていきましょう。
- 点呼で脳疾患などの前兆に気づくための教育を行う
- 健診結果を放置せず就業判定で乗務可否を決める
- 倉庫内の熱中症や腰痛は巡視と予防教育でリスクを減らす
- 睡眠時無呼吸症候群の治療と業務の両立を支える
点呼で脳疾患などの前兆に気づくための教育を行う
点呼は、ドライバーの顔色や声の調子を確認し、脳疾患や心疾患の前兆(ろれつが回らない、片方の手足がしびれる等)に気づくことができる機会です。
産業医に依頼して、運行管理者や衛生管理者、総括安全衛生管理者を対象に、「点呼時にチェックすべき健康状態のポイント」についての教育研修を実施してもらいましょう。
また、血圧計などの測定機器を導入し、一定の基準を超えた場合にアラートを出す仕組みを作る際も、医師の助言が役立つはずです。
健診結果を放置せず就業判定で乗務可否を決める
定期健康診断の結果、「要精密検査」や「要治療」と判定されたドライバーをそのまま放置することは、安全配慮義務違反のリスクを高めてしまいます。
産業医は、全員分の健診結果をチェックし、リスクの高い従業員を抽出します。
その上で、「再検査を受けるまで乗務を控える」「治療状況の報告を義務付ける」といった就業上の措置を決定します。
このプロセスを徹底することで、会社としてドライバーの健康管理を管理しているという実績を作ることができるのです。
倉庫内の熱中症や腰痛は巡視と予防教育でリスクを減らす
運送業の労働災害の多くは、荷役作業中の腰痛や、倉庫内での熱中症です。
産業医による職場巡視の際、トラックの荷台への昇降設備や、倉庫の温湿度管理状況などをチェックしてもらいましょう。
また、腰痛予防のためのストレッチ指導や、熱中症対策としての水分・塩分補給のタイミングなど、現場の作業環境に合わせた衛生教育を行うことで、労災の発生件数を減らす効果が期待できます。
睡眠時無呼吸症候群の治療と業務の両立を支える
2025年4月より、健康起因事故が発生した際、運転者の睡眠時無呼吸症候群(SAS)スクリーニング検査の受診状況を国へ報告することが義務化されました。
また、同年7月には国交省から最新のSAS対策マニュアルも公開されています。
産業医は、SASのスクリーニング検査の導入を推進し、治療が必要なドライバーに対しては、通院時間の確保や治療データの確認を通じて、治療と仕事の両立を支援します。
適切に治療を行えば運転業務は可能であり、これにより免許を持つ熟練ドライバーの離職を防ぐことにもつながるでしょう。
運輸業におけるメンタル不調や復職を支える産業医の対応
長時間労働や対人ストレスによるメンタルヘルス不調は、運輸業でも大きな課題です。
ここでは、休職者のスムーズな復職や、ハラスメント対策において産業医がどのように関わるべきかを解説します。
- 復職時は社内での試し出庫を行って段階的に乗務へ戻す
- 事故後のPTSDや配送先でのハラスメントのケアを行う
- 高齢ドライバーの認知機能低下や薬の副作用を管理する
復職時は社内での試し出庫を行って段階的に乗務へ戻す
メンタルヘルス不調や脳疾患から復職する場合、いきなり長距離運転に戻すのは危険が伴います。
主治医が「復職可」と診断しても、それは「日常生活が送れる」という意味に過ぎないことがあるからです。
産業医は会社と連携し、敷地内での運転や短時間の近距離配送などの「試し出庫」プランを作成します。
その様子を観察し、認知機能や反射神経に問題がないかを確認した上で、段階的に通常の乗務へ戻すよう指導していくことが大切です。
事故後のPTSDや配送先でのハラスメントのケアを行う
重大な事故を経験したドライバーがPTSD(心的外傷後ストレス障害)になったり、配送先でのカスタマーハラスメントで精神的なダメージを受けたりするケースが増えています。
産業医は、こうした高ストレス状態にある従業員との面談を行い、早期のケアを行います。
また、衛生委員会などでカスハラ対策のルール作りを助言し、組織的な防止策を講じることも重要な職務と言えるでしょう。
高齢ドライバーの認知機能低下や薬の副作用を管理する
ドライバーの高齢化が進む中、加齢による認知機能の低下や、持病の薬による副作用の管理が必要です。
産業医は、社員が服用している薬を確認し、運転に影響する成分(抗ヒスタミン薬や一部の精神安定剤など)が含まれていないかチェックします。
高齢ドライバーに対しては、より頻繁な健康相談や適性診断の活用を促し、安全な労働環境を保持します。
運輸業で産業医の選任が必要になる条件
労働安全衛生法に基づき、一定の規模以上の事業場では産業医の選任が義務付けられています。
違反すると罰金等のペナルティがあるため、ここで正確なルールを確認しておきましょう。
- パートを含めて50人以上の事業場で選任が必要になる
- 深夜業を含む500人以上の拠点は専属産業医になる
- 選任しないと罰金や安全配慮義務違反のリスクがある
パートを含めて50人以上の事業場で選任が必要になる
一つの事業場(営業所や支店)で、常時使用する労働者が50人以上になった場合、産業医を1名以上選任する義務が発生します。
ここでいう労働者には、正社員だけではなく、パートタイムやアルバイトも含まれます。
運送業では、繁忙期に短期バイトを増やして50人を超えた場合なども対象となる可能性があるため、人数のカウントには注意が必要です。
深夜業を含む500人以上の拠点は専属産業医になる
通常、産業医が「専属」でなければならないのは労働者1,000人以上の事業場ですが、深夜業などの「特定業務」を行う事業場では基準が厳しくなります。
運送業における深夜配送や24時間稼働のターミナル業務は、この「特定業務」に該当するのです。
そのため、深夜業を含む業務に常時500人以上の労働者を従事させる拠点では、専属産業医の選任が必要となります。
専属産業医は事業場に常駐するため、より密接な健康管理が可能になります。
選任しないと罰金や安全配慮義務違反のリスクがある
選任義務があるにもかかわらず産業医を選任しなかった場合、労働安全衛生法違反として50万円以下の罰金が科される可能性があります。
さらに恐ろしいのは、産業医を選任せず適切な健康管理を行わなかった結果、ドライバーが過労死や重大事故を起こした場合でしょう。
企業は「安全配慮義務違反」として、遺族や被害者から多額の損害賠償を請求されるリスクがあります。
企業の社会的信用を守るためにも、法令遵守は必須なのです。
運輸業がコストを抑えて産業医を活用する契約
「産業医のコストが高い」と悩む中小の運送会社も多いですが、助成金や公的な支援サービスを活用することで、費用負担を軽減できます。
ここでは、予算に合わせた契約や活用のコツをご紹介します。
- トラック協会の助成金で検査費用の負担を減らす
- 50人未満の営業所は地域産業保健センターを使う
- 予算に合わせて専属か嘱託かの契約形態を決める
トラック協会の助成金で検査費用の負担を減らす
全日本トラック協会や各都道府県のトラック協会では、ドライバーの健康起因事故防止を目的とした各種助成制度を用意しています。
具体的には、脳MRI健診(脳ドック)、睡眠時無呼吸症候群(SAS)のスクリーニング検査、血圧計の購入費用などに対して助成金が出ることがあります。
これらを活用することで、実質的なコストを抑えつつ、充実した検査を実施できるでしょう。
50人未満の営業所は地域産業保健センターを使う
労働者が50人未満の小規模な営業所では、産業医の選任義務はありませんが、健康管理の推進は必要です。
このような事業場向けに、独立行政法人が運営する「地域産業保健センター(地さんぽ)」というサービスがあります。
ここでは、無料で医師による健康相談や長時間労働者への面接指導を受けることができます。
ただし、地域産業保健センターにも「利用回数に制限がある」「面談予約が取りにくい」「大企業の地方事業場などは利用できない場合がある」といった制約があるのも事実です。
もし、「なるべく早く面談を実施したい」「スムーズに予約を取りたい」という場合は、「first call」のスポットオンライン面談サービスがおすすめです。
必要な時だけ医師につなぐことができるため、状況に合わせて使い分けると良いでしょう。
予算に合わせて専属か嘱託かの契約形態を決める
産業医の契約形態には、事業場に常駐する「専属」と、月1回程度訪問する「嘱託」があります。
500人〜999人の深夜業のない事業場や、50人〜499人の事業場であれば、嘱託産業医で対応可能です。
嘱託の場合、報酬相場は月額数万円〜10万円程度と、専属に比べてコストを抑えられます。
自社の規模と予算に合わせて、最適な契約形態を選ぶようにしましょう。
運輸業の産業医選任に関するよくある質問
最後に、運送会社の労務担当者様が抱えるよくある質問をまとめました。
自社の状況と照らし合わせて確認してみてください。
- 営業所が複数ある場合は拠点ごとに産業医が必要ですか?
- 休職したドライバーの復職判断は主治医だけでいいですか?
営業所が複数ある場合は拠点ごとに産業医が必要ですか?
はい、産業医の選任義務は「事業場単位」で判断されます。
例えば、本社に100人、A営業所に60人、B営業所に30人の労働者がいる場合、本社とA営業所にはそれぞれ産業医の選任が必要です。
一方、B営業所(50人未満)には選任義務はありませんが、本社の産業医がオンラインでB営業所のドライバーの面談を行うなど、全社的な健康管理体制を構築することが推奨されます。
休職したドライバーの復職判断は主治医だけでいいですか?
いいえ、主治医だけの判断では不十分なケースが多いです。
主治医は患者の日常生活の回復を目的としていますが、トラックの運転業務に必要な注意力や反射神経まで詳細に評価しているとは限りません。
会社としては、業務内容を熟知した保健指導のできる産業医の意見を求め、安全に運転業務ができるかを最終的に判断する必要があります。
これが再発や事故の防止につながるのです。
【まとめ】運輸業に強い産業医を選んで会社とドライバーを守る体制を作る
現在、問題への対応格差が業種内での企業の競争力に直結する時代になりました。従業員の健康は重要な資産といえます。
適切な産業医を選び、衛生管理者や人事担当者と連携した健康管理体制を作ることは、法令遵守だけにとどまらず、企業の生産性向上や人材確保につながる重要な経営戦略です。
助成金や公的サービスも活用しながら、会社とドライバーを守るための対策を、まずはできることから始めてみてはいかがでしょうか。
もし、産業医の選任や産業医面談の導入についてスムーズに進めたいとお考えなら、クラウド型健康管理サービスの「first call」を検討してみてください。自社に合った産業医とのマッチングや、煩雑な管理業務の効率化が可能になります。



























