
産業医の名義貸しとは?活動状況の調べ方と企業が負うリスク
産業医は選任されているのに、職場巡視の報告が見当たらない。
衛生委員会でどんな意見が出たのかも、担当を引き継いだばかりではすぐには分かりません。
人事・労務の担当者なら、「何から調べればよいのだろう」と戸惑うのは自然なことです。
選任報告の控えには、産業医が実際に行った仕事までは載っていません。
会社が何を頼み、どんな情報を渡したのか。
契約書と社内の記録が食い違っていると、その経緯を説明するのが難しくなります。
この記事では、「名義貸し」の意味、活動状況の調べ方、産業医を変更するまでの流れを説明します。
この記事でわかること
「名義貸し」は、法律で意味が決められた言葉ではない。契約書、選任報告の控え、活動記録から、選任・届出と実際の対応を調べる必要がある。
契約書、巡視報告、衛生委員会の議事録から、産業医がいつ、どの仕事を行ったかが分かる。
契約内容や連絡方法を改めても仕事が行われない場合は、産業医の変更が必要か社内で決める必要がある。
記録が一つ見つからないだけで、名義貸しと決めつけることはできません。
契約書と活動記録の対象期間を合わせ、依頼した仕事と実際の対応を一つずつ照らし合わせます。
現在の契約を見直したい、あるいは産業医の変更を相談したい場合は、first callの産業医サービスをご覧ください。
サービス内容や導入までの流れは、産業医サービスの資料でご案内しています。
目次[非表示]
産業医の名義貸しとは
「名義貸し」と聞くと、すぐに法律違反を思い浮かべるかもしれません。
調べる内容は、次の2点です。
法律の条文に「名義貸し」と書かれているか
会社が頼んだ仕事を産業医が行っているか
「名義貸し」という呼び方だけで、法律違反かどうかは決まりません。
労働安全衛生法に名義貸しという言葉はない
産業医の選任や仕事について定めているのは、労働安全衛生法と労働安全衛生規則です。
違反になるかは、産業医の選任や職務に関する法令上の義務を果たしているかで決まります。
必要な職務が行われていない状態を名義貸しと呼ぶことがある
契約で頼んだ巡視が行われていない、衛生委員会への関わりが分からない、産業医から受けた助言も残っていない。
そのような状態が続くと、一般に「名義貸しではないか」と疑われることがあります。
厚生労働省の産業医に関するQ&Aでは、健診や面接指導などの結果に応じた対応、職場環境や働き方の管理、健康教育、健康相談などを産業医の仕事に挙げています。
ただし、会議を一度欠席した、ある月に面接指導の記録がないというだけでは、名義貸しとはいえません。
契約期間全体を対象に、頼んだ仕事と残っている記録を照合します。
産業医の名義貸しが疑われるとき、活動状況を調べる
どこから手をつけるか迷ったら、契約書に書かれた業務と回数を、同じ期間の社内記録に当てはめてみましょう。
主に使うのは、巡視報告、議事録、産業医とのメールです。
活動状況を調べるときは、まず次の5点を用意します。
契約書に書かれた仕事
職場巡視の記録
衛生委員会の議事録
健診後の対応
記録が見当たらないときの保管先
保管先は、総務、人事、衛生委員会の事務局など、資料ごとに違います。
見つからないときは、保管部署や前任者にも聞き、別の場所に記録が残っていないか調べましょう。
契約書に書かれた業務が活動記録にも残っているか
契約書には、訪問や職場巡視の頻度、衛生委員会への関わり方、健康相談や健診後の対応など、会社と産業医が決めた仕事が書かれています。
契約書に書かれた業務と回数をもとに、メール、業務報告、議事録、社内の依頼履歴から実施日を探します。
契約より記録が少なければ、産業医との窓口や書類を保管する部署へ問い合わせましょう。
活動記録の様式は会社ごとに違い、決まった書式がないだけで、仕事が行われなかったとはいえません。
職場巡視をした日と内容を記録で確かめる
産業医は、作業環境や作業方法が従業員の健康に影響していないかを知るため、実際に職場を巡視します。
労働安全衛生規則には、その回数も定められています。
巡視の頻度は、次のとおりです。
通常:少なくとも毎月1回
例外:次の3条件をすべて満たす場合は、少なくとも2か月に1回です。
産業医が、衛生管理者の巡視結果を毎月受け取る
衛生委員会または安全衛生委員会で調査・審議し、会社が提供すると決めた情報を、産業医が毎月受け取る
会社が巡視の頻度を変えることに同意する
巡視報告や会議資料に、巡視した日、場所、産業医から受けた助言が残っていないかを探します。
人事・労務部門に見当たらなければ、安全衛生の担当部署や総務部門にも問い合わせてみましょう。
回数だけで名義貸しかどうかを決めることはできません。
例外の条件や会社から渡した情報については、巡視報告やメールに記録が残っていることがあります。
衛生委員会の議事録で産業医の出席や意見を確認する
衛生委員会を設けている事業場では、会社が指名した産業医も委員です。
ここでいう事業場は、同じ場所で一つの組織として仕事を行う単位で、支店や工場が別の事業場になることもあります。
安全委員会と衛生委員会をまとめた安全衛生委員会がある場合は、議事録と添付資料に、産業医の出席、意見、配布資料の名称などが残っていないかを探します。
ただし、議事録の書き方は会社によって違い、産業医の発言が一言ずつすべて残るとは限りません。
名前だけがあり、意見や配布資料が見当たらなければ、会議前後のメールや事務局の保管資料にも目を通しましょう。
産業医の名前がしばらく議事録に出てこない場合は、委員名簿や資料の保管先を事務局に聞きます。
会議前後の連絡は、産業医との窓口を担う人が保管していることもあります。
健診後に意見聴取や面接指導を行った記録があるか
健診後の意見聴取と、長時間労働者への面接指導や高ストレス者への面接指導は別の手続きです。
対象になる人も、残す記録も同じではありません。
手続き | 記録で探す内容 |
健診で異常があるとされた労働者への意見聴取 | 実施日、医師の意見 |
長時間労働者・高ストレス者への面接指導 | 担当医、実施日、医師の意見 |
会社が取った対応 | 人事・労務部門に残る就業上の措置などの記録 |
長時間労働者や高ストレス者への面接指導には、本人の申出をきっかけに行うものがあります。
制度ごとに対象者と記録が違うため、会社が選任した産業医がすべての意見聴取や面接指導を直接行うとは限りません。
医師の意見が書かれた健康診断個人票や面接指導の記録を探します。
会社が取った対応を探す先は、人事・労務部門など、手続きを受け持つ部署です。
診断名や検査値などの詳しい医学情報は、産業医や保健師など、健康管理を担う人が管理する情報です。
人事などへ共有するのは、働き方への対応に必要な範囲にとどめます。
誰がどの健康情報にアクセスできるのか、どこまで共有するのかは、社内規程で決めましょう。
厚生労働省も、健康情報を共有する人と範囲を社内規程に入れることが望ましいとしています。
実施記録だけでなく、その前に会社が産業医へ渡した勤務時間なども探す対象です。
どちらかが見当たらなければ、手続きを受け持つ部署と産業医との窓口に、保管先を聞きましょう。
記録がないだけで名義貸しとは断定できない
記録が見当たらなくても、仕事が行われなかったとは限りません。
その期間に手続きの対象者がいなかった、別の部署で保管していた、といった可能性があります。
記録が見つからない業務については、契約書に書かれた対象期間と予定回数を、ほかの活動記録と照らし合わせます。
保管部署や前任者にも連絡してみてください。
メールや依頼履歴に、当時のやり取りが残っていることもあります。
産業医の名義貸しを放置するリスク
「罰金になるのでは」「会社の責任を問われるのでは」と不安になるかもしれません。
会社側で調べるのは、次の2点です。
産業医の選任と、必要な健康管理などが行われていたか
従業員の健康上の問題を知った後、会社がどう対応したか
名義貸しという呼び方だけでは、罰金や会社の責任は決まりません。
選任が必要な事業場で産業医を選任しないと罰金の対象になる
常時50人以上の労働者がいる事業場では、産業医を選任し、その産業医に健康管理などを行ってもらう義務があります。
人数を数える単位は、会社全体ではなく事業場ごとです。
労働安全衛生法第13条第1項が定めるのは、産業医を選ぶだけでなく、労働者の健康管理などを行ってもらうことまでです。
同法第120条では、この義務に違反した場合、50万円以下の罰金の対象としています。
違反に当たるかを判断するときは、選任報告の控えだけでなく、契約書に書かれた業務と活動記録の日付・内容を照らし合わせます。
契約書には頼んだ業務が、活動記録には実際に行われた業務の日付や内容が残っているはずです。
健康被害が起きると会社の安全配慮義務が問われることがある
従業員に健康被害が起きたときは、会社が安全配慮義務を果たしていたかが問われることがあります。
労働契約法第5条は、従業員が安全に働けるよう、会社が配慮する義務を定めています。
産業医の活動が足りなかったという一点だけで、会社の責任が決まるわけではありません。
会社の責任は、会社が従業員の体調や働き方の問題を知っていたか、医師の意見を受けてどのように対応したかなどを踏まえて、個別に判断されます。
産業医の活動だけで結論は出せません。
産業医へ必要な情報が届かなければ、医師は職場の状況に即した意見を述べにくくなります。
会社が渡した情報、医師の意見、その後の対応は記録に残し、保管する部署も社内で決めましょう。
産業医の名義貸しが心配なとき、会社がすること
契約書と活動記録に食い違いがあっても、すぐに「名義貸しではないか」と問いただす必要はありません。
契約外の仕事を頼んでいた、会社から情報が届いていなかった、記録の保管先が引き継がれていなかった可能性もあります。
会社が取る対応は、次の3つです。
契約に含まれていない業務や回数を産業医と話し合う
会社から情報を渡す担当者を決める
連絡方法を改めても対応がないときは、産業医を変更する
契約内容と活動記録の食い違い、連絡が届かなかった理由について産業医と話し合ったうえで、変更が必要かを社内で決めましょう。
契約にない業務や回数は産業医と相談する
追加の面談や訪問、衛生委員会への参加を頼む前に、契約書に戻り、追加したい業務が契約に入っているかを確かめましょう。
契約に入っていない仕事なら、実施回数、日程、会社が渡す資料を産業医と話し合います。
合意した内容は、契約書に加えます。
人事・労務の担当者が産業医へ伝えるのは、従業員の健康や働き方で気になる点、追加で頼みたい仕事、準備する資料です。
産業医に必要な情報を伝える担当者を決める
労働安全衛生法第13条第4項は、産業医が労働者の健康管理を行うために必要な情報を、会社から産業医へ渡すよう定めています。
人事・労務部門の中で、産業医との連絡、依頼内容、依頼日を記録する担当者を決めましょう。
産業医へ伝える情報は、勤務時間、職場の変化、健診後の対応状況などです。
社内規程には、健康情報にアクセスできる人と共有する範囲も書いておきます。
契約や連絡を改めても職務が行われなければ産業医を変更する
契約の範囲と社内の連絡方法を改めても、頼んだ仕事に対応してもらえない状態が続くなら、産業医の変更が必要か、社内で話し合いましょう。
産業医を変更するとき、まず社内で決めるのは次の2つです。
- 契約書と活動記録を照らし合わせ、行われていない業務を挙げる
- 次の産業医に頼む訪問回数、連絡回数、会社が渡す情報、担当者を社内で決める
選任義務がある事業場では、次の対応も必要です。
前任者の退任などで産業医がいなくなった日から14日以内に、後任を選ぶ
後任を選んだら、事業場を管轄する労働基準監督署へ選任報告を遅れずに出す
後任の選任期限と、選任報告を出す時期は同じではありません。
後任は14日以内に選びます。
選任報告は、後任を選んだら法令上「遅滞なく」出します。
これとは別に、厚生労働省の通知では、2026年8月1日から、産業医の選任義務がある事業場で産業医が辞任、解任または退任した場合も、会社から労働基準監督署への報告が必要です。
前任者の氏名や辞任、解任または退任の年月日などを、後任の選任報告と一緒に届け出る場合は、別の報告は要りません。
届出の方法や記載事項も、この通知で案内されています。
訪問頻度、衛生委員会への参加、健診後の対応を次の契約へどう入れるか迷ったときは、first callの産業医サービスへご相談ください。
産業医の名義貸しに関するよくある質問
ここでは、産業医の名義貸しについて、よくある疑問に答えます。
オンライン中心の対応と、複数の事業場を担当するケースを取り上げます。
オンライン中心でも、職場巡視は実地で行う
複数の事業場を担当しているだけでは、名義貸しとはならない
どちらの場合も、活動記録に実施日や対応内容が残っているかを確かめましょう。
オンラインでの対応が中心でも、名義貸しになりますか?
産業医のオンライン対応が中心なら、契約書と同じ期間の健康相談・面接指導の実施記録や、会社から産業医へ渡した情報を集めます。
健康相談などをオンラインで行う場合でも、職場巡視は産業医本人が実地で行わなければなりません。
職場巡視は少なくとも毎月1回が原則で、例外の条件を満たす場合でも少なくとも2か月に1回です。
厚生労働省の通知では、遠隔で行う業務の範囲を衛生委員会または安全衛生委員会で話し合い、従業員へ伝えるよう求めています。
遠隔で業務を頼む場合は、会社側の連絡担当者、情報を渡す方法、産業医が職場を訪問する日程を先に決めましょう。
従業員が高ストレス者への面接指導などの対象になるかどうかは、本人の状況次第です。
依頼する前に厚生労働省の案内で手順を確認し、実施方法は担当する医師に相談してみてください。
複数の事業場を担当する産業医は、名義貸しになりますか?
複数の事業場を担当しているという理由だけで、名義貸しにはなりません。
訪問記録やメールに、自社の事業場で産業医が行った対応の日時と内容が残っているかを確かめましょう。
ただし、事業場の規模や有害業務に就く労働者の数によっては、専属産業医を選ばなければなりません。
これは名義貸しではなく、産業医の選任に関する決まりです。
常時1,000人以上の労働者がいる事業場、または法令に定められた有害業務に常時500人以上が就く事業場では、専属産業医を選ぶ義務があります。
専属産業医の兼務に関する通知は、専属産業医が別の事業場を兼務する条件として、本来の職務に支障がないことなどを挙げています。
【まとめ】産業医の名義貸しが気になるときは、契約内容と活動記録の食い違いを調べる
「名義貸しかもしれない」と感じても、すぐに違反だと決める必要はありません。
最初に集めるのは、契約書と同じ期間の巡視報告、議事録、産業医とのメールです。
健診後の意見聴取や面接指導の記録は、その手続きを受け持つ部署で探します。
契約した業務ごとに、実施日、会社が渡した情報、産業医から受けた助言を書き入れると、食い違う箇所がはっきりします。
食い違いがあったら、契約外の仕事を頼んでいなかったか、会社からの連絡が抜けていなかったかを振り返ってみましょう。
契約と連絡方法を直した後も依頼した業務が行われなければ、産業医の変更を社内で決める必要があります。
訪問頻度や会社から渡す情報を次の契約へどう入れるか、後任をどう選ぶかで迷ったときは、first callの産業医サービスへご相談ください。
社内で説明する資料が必要なら、資料一覧もご覧ください。

























