
製造業界の産業医の選び方とは?リスク管理と生産性を高める選任基準を解説
日本の製造業は、世界に誇る「安全第一」の現場力で品質を守り抜いてきました。
しかし、2025年以降、現場が抱える課題はさらに複雑になっています。
少子高齢化による人手不足はもちろん、労働安全衛生法の大きな改正によって、企業の責任範囲が「自社の従業員」だけでなく「現場で働くすべての人」へと広がったことをご存知でしょうか?
「法律で決まっているから」という理由だけで産業医を選んでしまっていると、こうした新しいルールに対応しきれず、思わぬ落とし穴にはまってしまうかもしれません。
逆に、現場のリスクや最新の法律を深く理解している産業医を選ぶことができれば、労働災害を防ぐだけでなく、従業員の健康と生産性を守るパートナーとなってくれるはずです。
この記事を読むことで、法改正のポイントを押さえた「失敗しない産業医選び」の基準が明確になります。
自社に合った医師を見つけることは、現場の安全を守るだけでなく、企業としての信頼性を高めることにもつながるのです。
もし、自社の課題に合う産業医がなかなか見つからない、あるいは産業保健業務の負担を減らしたいとお考えなら、産業医の紹介から産業保健体制の見直しまで、トータルでサポート可能な「first call」の導入がおすすめです。
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製造業界の産業医選任で守るべき人数のルールと義務
まずは、法律で定められている基本的なルールを確認しておきましょう。
特に2025年は、安全管理の対象となる人の範囲が変わった節目の年です。
「うっかり違反してしまった」ということにならないよう、ここでしっかりとポイントを押さえておくことが大切です。
ここでは、間違いやすい「人数の数え方」や「専属産業医が必要なケース」といった要件について、最新の法改正を交えて詳しく解説していきます。
- 派遣社員も含めた総人数で計算する
- 有害業務500人で専属選任が必須
- 訪問頻度を減らすとリスクを見落とす
派遣社員も含めた総人数で計算する
「産業医を選任しなければならないのは従業員50人から」というルールは有名ですが、製造業でよくある疑問が「派遣社員はどうするの?」という点ではないでしょうか。
結論からお伝えすると、派遣社員も人数に含めて計算する必要があります。
法律上の「常時使用する労働者」には、正社員だけでなく、派遣社員やパート、アルバイトの方も含まれるのです。
例えば、正社員が40名でも、派遣社員が15名いれば合計55名となり、産業医を選任する義務が発生します。
実際にその工場で危険な業務に従事するのは、雇用形態に関わらず同じだからです。
さらに2025年4月の法改正により、事業者は自社の労働者だけでなく、同じ場所で働く「一人親方」や「他社の作業員」に対しても、立入禁止や保護具使用の周知といった安全措置を講じることが義務化されました。
産業医を選任する際の「50人」のカウントには一人親方などは含みませんが、産業医が見るべき「安全管理の範囲」は実質的に広がっていると考えるべきでしょう。
有害業務500人で専属選任が必須
産業医には、月に数回訪問する「嘱託産業医」と、会社に常駐する「専属産業医」の2種類があります。
通常は常時1,000人以上の事業場で専属が必要になりますが、有害業務を多く抱える製造業では、より厳しい基準が適用されるケースが多々あります。
それは、「有害業務に常時500人以上が従事している場合」です。
この場合、1,000人未満であっても専属の産業医を選任しなければなりません。
ここで言う「有害業務」には、一例として以下のようなものが含まれます。
- 鉛や有機溶剤、特定化学物質などを扱う業務
- 著しく暑い場所や寒い場所での業務
- 深夜業を含む業務
特に2025年6月からは、熱中症対策が法律上の義務として強化されました。
鋳造や溶接といった「著しく暑い場所」で働く人が多い工場では、これまで以上に厳格な管理が求められます。
また、24時間稼働で「深夜業」を行う人が500人を超える場合も、専属産業医が必須となる可能性が高いため、シフト勤務者の人数は慎重に確認する必要があるでしょう。
訪問頻度を減らすとリスクを見落とす
産業医には、毎月1回、工場の現場を巡視してもらうのが原則です。
一定の条件を満たせば「2ヶ月に1回」に減らすことも可能ではありますが、製造現場においては、あまりおすすめできません。
生産品目が変われば使用する化学物質が変わるかもしれませんし、機械の配置換えで新たな危険箇所が生まれることもあります。
また、2025年の法改正で、産業医は「外部の業者(一人親方など)が危険な作業をしていないか」という視点も持つ必要が出てきました。
もし巡視の頻度を2ヶ月に1回にする場合は、事業者の同意に加え、衛生管理者が毎週巡視した結果や、長時間労働者の情報を毎月細かく医師に報告し、安全衛生委員会等で審議する必要があります。
この事務的な手間や、現場の微細な変化を見落とすリスクを考えると、毎月産業医に来てもらい、プロの目で「現場の空気」を感じてもらう方が、結果的に安心で効率的と言えるのではないでしょうか。
製造業界に強い産業医の選び方
一口に「医師」と言っても、専門分野はさまざまです。
街のクリニックの医師が、必ずしもプレスの音や溶接の光、特殊な薬剤を扱う現場に詳しいわけではありません。
特に「化学物質の自律的管理」が求められるようになった今、製造現場を守れる医師のスキルは明確に定義されるべきです。
ここでは、最新の製造現場に対応できる「現場に強い産業医」の特徴について、具体的なポイントを解説していきます。
- 現場に入り騒音等を直接確認できる
- 化学物質データを見て対策ができる
- 主治医より安全基準を優先できる
- 夜勤の睡眠やリズム指導ができる
現場に入り騒音等を直接確認できる
製造業の産業医にとって大切なのは、「現場現認」の姿勢です。
きれいな応接室で話を聞くだけでなく、ヘルメットや安全靴、保護メガネを着用して、現場へ入っていける産業医でなければなりません。
例えば、騒音の激しいプレス工程では、耳栓などの保護具が正しく装着されているかが重要です。
「あそこで作業している外部の方は、耳栓をしていませんが大丈夫ですか?」と気づき、指摘できる産業医こそが、これからの現場には必要です。
「現場には行きたくない」という産業医ではなく、現場の作業者と同じ目線に立とうとしてくれる産業医を選びたいですね。
化学物質データを見て対策ができる
製造現場では洗浄剤や塗料など多くの化学物質が使われていますが、2024年から2025年にかけて規制が大きく変わり、企業が自ら危険性を判断して管理する「自律的管理」が完全に定着しました。
これにより、新たにラベル表示やSDS(安全データシート)の交付が必要な物質も大幅に増えています。
専門的な知識のある産業医であれば、SDSを見て「この物質は皮膚から吸収されるリスクが高いので、もっと厚手の耐溶剤手袋に変えましょう」といった具体的な助言ができるはずです。
また、現場に選任されている「化学物質管理者」と連携し、医学的な視点からリスク評価をサポートできるかどうかも重要なポイントです。
データに基づいて論理的に判断できる医師が、見えない化学物質のリスクから従業員を守ります。
主治医より安全基準を優先できる
従業員の健康管理で判断が難しいのが、本人の「主治医」との意見の違いです。
主治医は「患者の日常生活」を第一に考えるため、「本人が働きたいと言っているし、日常生活には問題ない」として、就業可能の診断書を書くことがあります。
ですが、製造現場には日常生活にはない危険がたくさんあります。
例えば、糖尿病の治療中で低血糖のリスクがある人が高所作業をしたり、眠気の出る薬を飲んでいる人がフォークリフトやクレーンを操作したりするのは、命に関わる危険な行為です。
製造業に強い産業医は、主治医の意見を尊重しつつも、会社の「安全基準」を優先して判断することができます。
「病気は安定していますが、この薬を飲んでいる間は、機械操作は許可できません」と、毅然と言える強さが必要です。
夜勤の睡眠やリズム指導ができる
24時間稼働の工場では、交代勤務による睡眠不足や生活リズムの乱れが大きな課題です。
睡眠不足は集中力を低下させ、事故の原因になるだけでなく、高血圧や心臓病のリスクも高めてしまいます。
優れた産業医は、「よく寝てください」と言うだけでなく、現場の実情に合わせた具体的なテクニックを指導してくれます。
「夜勤明けの帰宅時は、サングラスをして日光を避けると、帰ってからぐっすり眠れますよ」
「寝室には遮光カーテンを使いましょう」
といったアドバイスです。
また、シフトの組み方についても、体への負担が少ないローテーションを提案できる先生であれば、職場全体の健康レベルを底上げすることができるでしょう。
製造業界の産業医探しで失敗しない契約のコツ
どのような産業医が良いかのイメージが湧いてきたところで、次は実際にどうやって探せば良いのか、契約の際には何に気をつければ良いのかが気になりますよね。
良い産業医に出会うためには、ちょっとしたコツがあります。
ここでは、募集から面談、契約までの各ステップで、製造業の人事担当者が失敗しないためのポイントについて詳しく解説していきます。
- 専門医は医師会より紹介会社で探す
- 面談では巡視の視点を聞いてみる
- 契約書の免責条項を確認しておく
専門医は医師会より紹介会社で探す
産業医を探すとき、地域の医師会に相談する企業も多いですが、製造業の場合は「産業医紹介会社」を利用するのがおすすめです。
医師会からの紹介だと、近所の開業医の医師が来てくれることが多いのですが、その医師が工場の現場や化学物質に詳しいとは限りません。
「専門は眼科で、工場のことはよくわからない」というケースも少なくないのです。
一方、紹介会社であれば、「製造業の経験が豊富な先生」や「有害業務の知識がある先生」といった条件を指定して探すことができます。
産業医紹介サービスの「first call」では、企業の要望に合わせて最適な産業医を紹介することが可能で、ストレスチェックやオンライン産業医面談などもワンストップで対応可能です。
面談では巡視の視点を聞いてみる
候補の産業医と面談をする際は、ぜひ「工場の巡視では、具体的にどんなところを見ますか?」と質問してみてください。
この質問に対して、「衛生管理者さんの案内についていきます」としか答えない先生は少し不安です。
逆に、「作業している人の姿勢や保護具の着用状況を見ます」「2025年から厳しくなった熱中症対策として、休憩所の整備状況も確認します」といった具体的なチェックポイントを挙げてくれる先生なら期待できます。
また、「現場に入っている一人親方の方への安全周知ができているかも気にかけています」といった、最新の法改正を踏まえた視点を持っているかどうかも、大切な見極めポイントになるでしょう。
契約書の免責条項を確認しておく
産業医と契約を結ぶときは、契約書の内容、特に「免責条項」をしっかり確認しておく必要があります。
万が一、労働災害や健康障害などのトラブルが起きたとき、産業医の責任範囲がどこまでなのかが曖昧だと、後々問題になる可能性があります。
一般的には、産業医はアドバイザーとしての立場なので、「適切な助言を行っていた場合は責任を負わない」といった条項が入ることが多いです。
しかし、その範囲が広すぎたり、条件が不明確だったりすると、企業側が全てのリスクを背負うことになってしまうかもしれません。
「どのような場合に免責されるのか」を明確にし、お互いが納得できる契約内容にしておくことが大切です。
製造業界の産業医選任に関するよくある質問
最後に、製造業の人事担当者が抱えるよくある質問について、解説していきます。
現場での運用で迷いやすいポイントですので、ぜひ参考にしてください。
- 職場巡視は2ヶ月に1度に減らせますか?
- メンタル不調者の復職基準はありますか?
職場巡視は2ヶ月に1度に減らせますか?
法的には、一定の要件を満たせば「可能」ですが、製造業の現場としては「あまりおすすめしません」というのが正直なところです。
先ほども触れましたが、巡視を減らすためには、事業者の同意に加えて、毎月様々な情報を医師に提供し続ける必要があります。
この事務作業は意外と大変で、もし報告漏れがあると法令違反になってしまうリスクもあります。
また、2ヶ月もあれば現場の状況は変わります。
安全を守るための「保険」と考えて、毎月産業医に顔を出してもらう方が、結果的には安心ではないでしょうか。
特に夏場の熱中症リスクが高い時期などは、毎月のチェックが欠かせません。
メンタル不調者の復職基準はありますか?
製造業の復職判断は、オフィスワークよりも慎重に行う必要があります。
「安全感受性」が戻っているかどうかが非常に重要だからです。
うつ病などのメンタルヘルス不調から回復しても、判断力や反射神経が完全に戻っていないことがあります。
その状態で危険な機械を操作したり、高所作業をしたりするのは大変危険です。
また、服用している薬に眠気の副作用がないかも確認が必要です。
復職支援プログラム(リワーク)などで、単純作業から徐々に慣らしていく「試し出勤」を活用し、産業医と相談しながら慎重に進めていくのが良いでしょう。
【まとめ】製造業界の産業医選びは現場のリスク管理を優先する
ここまで、最新状況を踏まえた産業医の選び方について解説してきました。
産業医の選任はコストではなく、企業と従業員、そして現場で働くすべての人を守るための「投資」です。
- 派遣社員も含めた人数で管理し、一人親方等の安全も視野に入れること
- 現場に入ってリスクを見極め、熱中症や化学物質対策ができる医師を選ぶこと
- 主治医よりも安全基準を優先し、毅然とした判断ができること
これらを意識して産業医を選ぶことで、現場のリスクを減らすことができます。
法令遵守はもちろん、従業員が安心して働ける環境づくりは、品質や生産性の向上にもつながるはずです。
もし「自社の現場に合う産業医の探し方がわからない」「ストレスチェックや面談管理までまとめて効率化したい」とお悩みであれば、「first call」をぜひ検討してみてください。
産業医の紹介から運用サポートまで、現場にぴったりの解決策が見つかるはずです。



























