
産業保健とは?企業が行う活動から専門職の役割や事業場ごとの体制まで解説
事業者が働く人の安全と健康を守るために行う活動、それが産業保健です。健康診断や産業医による面接指導に加え、職場巡視や健康相談、メンタルヘルス対策なども含まれ、法令に基づく措置と企業が自主的に行う取組の両方が関わります。
産業医だけでなく、保健師や看護師、衛生管理者もそれぞれの立場から関わっており、どこまで関わるかは事業場ごとの体制によって異なります。
自社に必要な体制を考える際の基準は、企業全体の人数ではなく、事業場ごとの常時使用労働者数、業種、業務内容、個々の施策の要件です。同じ企業でも、複数の事業場を持つ場合は事業場ごとに対応の内容が異なります。
この記事では、産業保健の目的、企業が行う主な活動、専門職の役割、事業場規模別の体制、そして始め方まで詳しく解説します。
この記事でわかること
- 産業保健の対象は個人への支援と職場全体の改善の両方に及ぶ
- 必要な体制は事業場ごとの人数、業種、業務内容によって異なる
- 社内担当者を決め、年間予定を立てるところから始める
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目次[非表示]
- ・産業保健とは
- ・産業保健の目的
- ・企業が行う産業保健の主な活動
- ・作業環境管理・作業管理・健康管理の3管理を軸に活動を進める
- ・職場巡視を行い作業環境と作業方法による負担を減らす
- ・健康診断の異常所見者について医師の意見を聴き就業上の措置を決める
- ・面接指導が必要とされた高ストレス者の申出を受けて医師が面接指導を行う
- ・長時間労働者には要件に応じて医師による面接指導を行う
- ・健康相談やメンタルヘルス対策で不調を防ぎ早めに対応する
- ・治療と仕事の両立や職場復帰に必要な就業上の配慮を行う
- ・産業保健に関わる専門職の役割
- ・事業場規模ごとに必要な産業保健の体制
- ・産業医や衛生管理者の選任では常時使用する労働者数を事業場ごとに数える
- ・常時50人以上の事業場では産業医と衛生管理者を選任する
- ・常時50人以上の事業場では衛生委員会を設ける
- ・常時10〜49人では業種に応じて安全衛生推進者か衛生推進者を選任する
- ・50人未満の事業場も2028年4月1日からストレスチェックが義務になる
- ・産業保健を始めるときの進め方
- ・事業場に必要な活動を一覧にして年間予定を立てる
- ・社内担当者を置き専門職への相談・連絡方法を決める
- ・支援対象の50人未満事業場は地域産業保健センターの無料支援を申し込める
- ・産業保健総合支援センターは事業者や産業保健スタッフの相談に対応する
- ・産業保健に関するよくある質問
- ・【まとめ】産業保健の目的と活動を押さえ事業場ごとの体制をつくる
産業保健とは

働く人の健康と安全を守るために事業者が行う活動を、産業保健と呼びます。健康相談や面談のように一人ひとりへ向き合う取組もあれば、職場の作業環境や作業方法そのものへ働きかける取組も、その一つです。
JOHASは、産業保健を「健康で安心して働ける職場づくり」と説明しています。この職場づくりを支えるのは、次の3点です。
- 産業保健が守るもの
- 個人と職場、両方への支援
- 法令上の措置と企業の自主的な取組
ここでは、産業保健が守るもの、個人と職場への支援、法令上の措置と企業の自主的な取組について詳しく解説します。
産業保健は働く人の健康と安全を守る活動
働く人の安全と健康、それが産業保健の守る対象です。仕事によるけがだけでなく、日々の負担が積み重なって起こる健康障害も含まれます。
健康相談や面談だけに限らず、職場環境や作業方法への働きかけも産業保健の範囲です。労働安全衛生法では、職場における労働者の安全と健康の確保、快適な職場環境の形成促進を目的に掲げています。
働く人への支援と職場全体の改善を対象にする
産業保健は、個人への支援か職場全体への働きかけのどちらか一方を選ぶものではありません。
- 個々の働く人への対応:健康相談や面談を通じて、一人ひとりの状態に応じて行う対応
- 職場全体への対応:作業環境や働き方そのものを見直す、職場に向けた対応
活動の内容に応じて、両方を組み合わせる場合があります。
法令に基づく措置に加えて企業が自主的に行う活動も含む
事業者には、事業場の人数、業種、業務内容、各措置の要件に応じた法定措置を行う責任があり、あわせて自社の健康課題に応じた自主的な取組も加えられます。
自主的な取組は、必要な法定措置に代わるものではなく、それを行ったうえで加えるものです。
産業保健の目的

産業保健には、問題が起きた後に対応するだけではなく、日ごろから危険や負担を減らし、働く人の健康状態に合わせて働き方を考える役割があります。
産業保健の主な目的は、仕事に伴う病気やけがを防ぐことと、心身の健康を保ちながら働き続けられる職場をつくることです。
- 仕事が原因となる病気やけがを防ぐ:業務に潜む危険や負荷を減らす取組
- 心身の健康を保ち働き続けられる職場をつくる:体調や業務内容に応じた配慮
業務に潜む危険や負荷を減らすことは、仕事による病気やけがを防ぐことにつながります。
仕事が原因となる病気やけがを防ぐ
仕事には、業種や作業内容に応じた危険や負荷が伴います。転倒やけがのように直接現れる影響もあれば、長時間労働や過度な負荷の積み重ねによって生じる健康障害も、その一例です。
産業医等の専門職は、医学的な立場から仕事による健康への影響を確認し、必要な措置について事業者へ助言・指導を行います。職場で見つかったリスクを、健康障害の予防につなげる役割です。
心身の健康を保ち働き続けられる職場をつくる
体調の現れ方は人によって異なるため、業務内容や健康状態に応じた配慮が必要になる場合があります。
心身の状態に応じて必要な配慮を行い、働く人が就業を続けられる職場をつくることが、もう一つの目的です。
事業者には、快適な職場環境を整え、労働条件を改善していくことも求められます。
企業が行う産業保健の主な活動

企業が行う産業保健の活動には、事業者が直接担うもの、産業医などの医師の関与が必要なもの、労働者本人の申出や同意が前提になるものがあり、活動ごとに、事業者・医師・労働者の誰が何をするかが変わります。
主な活動には、次のような内容があります。
- 職場の環境と作業方法への対応:3管理、職場巡視
- 一人ひとりの健康状態への対応:健診後の措置、高ストレス者・長時間労働者への面接指導
- 継続して働くための支援:健康相談、メンタルヘルス対策、治療と仕事の両立、職場復帰
これらの活動を支えるのが、作業環境・作業方法・健康状態という3つの方向から職場をとらえる考え方です。
作業環境管理・作業管理・健康管理の3管理を軸に活動を進める
職場の温度や化学物質など働く環境そのものが、作業環境管理の対象です。作業方法や作業時間の配分といった働き方には作業管理が、健康診断や面接指導などを通じた労働者一人ひとりの心身の状態には健康管理が対応します。
労働衛生の3管理は、作業環境・作業方法・健康状態という3つの方向から職場を見る考え方です。職場巡視は作業環境管理と作業管理の双方に、治療と仕事の両立支援は健康管理と作業管理の双方に関わります。
職場巡視を行い作業環境と作業方法による負担を減らす
産業医は、原則として少なくとも月1回、職場を巡視します。衛生管理者の巡視結果と、衛生委員会または安全衛生委員会の調査審議を経て事業者が産業医に提供することとした健康障害防止・健康保持に必要な情報が、事業者から毎月提供される場合には、少なくとも2か月に1回とすることもできます。
この頻度の緩和には、事業者の同意も必要です。衛生管理者も作業場等を巡視します。
産業医と目的は重なりますが、衛生管理者の巡視は少なくとも週1回です。設備や作業方法等に有害のおそれを認めたときは、直ちに必要な対応を取ります。
健康診断の異常所見者について医師の意見を聴き就業上の措置を決める
異常所見があった労働者について、事業者が最初に行うのは、医師または歯科医師から意見を聴くことです。その意見と本人の状況を踏まえて、就業場所の変更や労働時間の短縮が必要かどうかを決めるのは事業者です。
異常所見があっただけで、就業制限が自動的に決まるわけではありません。必要な対応は、医師等の意見と本人の状況を踏まえ、健康診断の事後措置として判断します。
面接指導が必要とされた高ストレス者の申出を受けて医師が面接指導を行う
ストレスチェックで高ストレス者と判定され、実施者が面接指導を必要と認めた労働者は、本人の申出を受けて医師の面接指導を受けます。申出を理由に不利益な取扱いをすることは認められていません。
面接指導後の判断に必要なのは、医師の意見と本人の状況です。事業者は、その内容から必要だと判断した場合に、就業場所の変更や労働時間の短縮などを行います。
就業上の措置を、ストレスチェックの結果だけで決めることはありません。
長時間労働者には要件に応じて医師による面接指導を行う
長時間労働者への面接指導は、一般労働者、研究開発業務従事者、高度プロフェッショナル制度対象者のいずれに当たるかによって、時間基準と申出の要否が異なります。
労働者の区分 | 面接指導の主な要件 |
一般労働者 | 月80時間超の時間外・休日労働があり、疲労の蓄積が認められ、本人からの申出がある場合など |
研究開発業務従事者 | 月100時間超の時間外・休日労働があれば本人の申出を要せず面接指導を行い、月80時間超100時間以下でも疲労の蓄積が認められ本人から申出があれば対象になる |
高度プロフェッショナル制度対象者 | 1週間当たり40時間を超えた健康管理時間について、1月当たり100時間を超えた場合は本人の申出を要せず面接指導を行い、100時間以下でも対象労働者から申出があった場合は面接指導を行うよう努める |
対象となる労働者の区分によって、申出の要否や時間数の要件が異なります。自社の労働者一人ひとりについて、どの区分に当たり、どの時間基準と申出要否の要件を満たしているかを判定するのは事業者です。
なお、この表の要件に当たらない労働者についても、事業者は、健康への配慮が必要な労働者に対し、面接指導またはこれに準ずる措置を行うよう努めます。
健康相談やメンタルヘルス対策で不調を防ぎ早めに対応する
メンタルヘルス対策の柱になるのは、労働者自身によるセルフケア、管理監督者が行うラインによるケア、事業場内の産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケアという4つのケアです。
4つのケアは、一度きりではなく、継続的かつ計画的に進めます。
- セルフケア:労働者自身がストレスに気づき対処する
- ラインによるケア:管理監督者が労働者からの相談に対応し、職場環境等の改善にあたる
- 事業場内産業保健スタッフ等によるケア:産業医や保健師などが専門的な立場から関わる
- 事業場外資源によるケア:外部の専門機関等を活用する
これらのケアは、それぞれ担う立場と対応内容が異なります。
相談体制の整備や職場環境等の改善も、この体制に関わる取組です。
治療と仕事の両立や職場復帰に必要な就業上の配慮を行う
治療と仕事の両立支援で、必要な措置や配慮を判断するのは事業者です。判断するときに必要なのは、労働者本人の意向、主治医からの情報、産業医等の意見、業務内容です。
職場復帰は、主治医の判断だけで決まりません。心の健康問題により休業した労働者の職場復帰でも、産業医等の意見、本人の状態、業務内容、復帰予定の職場の状況を踏まえて、事業者が個別に判断します。
職場復帰の判断手順を決め、その後の勤務状況や健康状態に応じて措置や配慮を見直すのも事業者の役割です。
産業保健に関わる専門職の役割

専門職に相談や委託を行っても、産業保健活動の主体と最終的な責任は事業者にあります。産業医、保健師・看護師、衛生管理者は、それぞれ異なる役割で事業者を支えます。
- 医学的意見・勧告:産業医が医学的な立場から事業者に助言・指導・勧告を行う
- 継続的な保健支援:保健師が保健指導、看護師が資格と契約上の役割に応じた健康支援に、それぞれ関わる
- 衛生技術事項:衛生管理者が事業場の衛生に関する技術的事項を管理する
このうち、事業者の判断を医学的な立場から支えるのが産業医です。
産業医は医学的な立場から労働者の健康管理について助言や指導を行う
医学的な専門知識をもとに労働者の健康管理に関わる産業医の職務には、主に次のものがあります。
- 長時間労働者・高ストレス者への面接指導
- 職場巡視
- 作業環境管理・作業管理・健康管理への関与
- 健康教育・健康相談
- 事業者への勧告
これらの職務は一様ではなく、意見や助言にとどまるものから、面接指導のように労働者と直接向き合うもの、勧告のように事業者の対応を促すものまで様々です。
産業医は、医学的な立場から意見や勧告を伝えます。就業上の措置を最終的に決めるのは事業者です。
事業者は、判断に必要な情報を産業医へ提供し、勧告を受けた場合は尊重します。産業医としての職務に診療や処方は含まれません。
保健師や看護師は従業員に継続して関わり専門的な保健指導を行う
保健師は保健指導を担う国家資格です。看護師は療養上の世話や診療の補助を担うため、保健師とは資格も業務も同じではありません。
看護師が産業保健の現場で関わることのある業務は、健康相談や健診後の支援、面談の調整などです。
保健師は、職場全体への働きかけと、労働者一人ひとりの健康状態に応じた対応の両方を担う場合があります。配置や委託の範囲、訪問頻度によって、両者が担う範囲は事業場ごとに変わります。
衛生管理者は事業場の衛生に関する技術的事項を管理する
衛生管理者は、事業者または総括安全衛生管理者の指揮のもとで、事業場ごとに選任され、事業場の衛生に関する技術的事項を管理する立場です。少なくとも週1回は作業場等を巡視し、設備や作業方法、衛生状態に有害のおそれを認めたときは、直ちに必要な対応を取ります。
衛生管理者が担うのは、医学的な判断や診断ではなく、産業医とは異なる技術的な立場からの衛生管理です。
業務の中で労働者の健康情報に触れる場合、労働安全衛生法令に基づき本人同意なしで収集できる情報がある一方、法令で事業者が直接取り扱う規定のない情報は、原則として事前に本人の同意を得ます。
労働者本人が自分から提出した情報は、収集について本人の同意があったものとして扱われます。一方、事業者などが医療機関へ直接問い合わせる場合は、あらためて本人の同意が必要です。
個人情報保護法上の例外にあたる場合は、事前の同意なく取り扱える情報もあります。生命や身体を守るために必要で、本人の同意を得ることが難しい場合も、その一つです。
社内の取扱規程には、健康情報を扱う目的、担当者と権限、対象とする情報、同意の取り方、管理方法、第三者への提供方法を記載します。利用できるのは、規程で決めた目的と必要な範囲だけです。
健康情報の取扱いに同意しないことを理由に、事業者は労働者へ不利益な取扱いをしてはなりません。
事業場規模ごとに必要な産業保健の体制

産業保健の体制は、企業全体の合計人数ではなく事業場ごとに人数と業種を判定して定まり、同じ企業であっても事業場ごとに規模帯が異なる場合があります。
自社の事業場に必要な体制を考えるうえで押さえておきたいのは、次の3点です。
- 事業場ごとの人数の数え方
- 規模と業種に応じた選任・設置
- 2028年4月1日から変わるストレスチェック義務
どの規模帯に当たるかは、事業場ごとの常時使用労働者数によって決まります。
産業医や衛生管理者の選任では常時使用する労働者数を事業場ごとに数える
常時使用する労働者数は、雇用形態ではなく、継続して雇用している実態から数えるのが原則です。日雇労働者やパートタイマー、契約期間が決まっている人、短時間勤務の人も、人数に含まれる場合があります。
派遣労働者は、産業医・衛生管理者・衛生委員会の人数判定では、原則として派遣元・派遣先の双方に含めます。この人数は、企業全体の合計ではなく事業場単位で数えるものです。
事業場は、場所と組織上のまとまりを踏まえて判断します。同じ企業でも、ある事業場は50人以上、別の事業場は10人台というケースがあります。
事業場の人数を数える基準と、個々の労働者が健康診断やストレスチェックの対象になる基準は別です。個人が対象になるかは、契約期間や週の所定労働時間などで判断します。
産業医や衛生管理者を選任する必要があるかは、会社全体の人数ではなく、事業場ごとの人数が50人以上かどうかで判断します。
常時50人以上の事業場では産業医と衛生管理者を選任する
常時使用する労働者数が50人以上になった事業場では、業種を問わず産業医の選任と衛生管理者の選任が必要です。
規模がさらに大きくなった場合や一定の有害業務がある場合には、選任する人数や専属の要件が加わることがあります。自社が該当するか判断に迷う場合は、所轄の労働基準監督署へ問い合わせます。
常時50人以上の事業場では衛生委員会を設ける
常時使用する労働者数が50人以上の事業場では、業種を問わず衛生委員会を設けます。安全委員会は業種や規模によって設置基準が異なり、衛生委員会とは別の基準です。
両方の設置基準を満たす事業場では、安全衛生委員会として一体で運営することもできます。
常時10〜49人では業種に応じて安全衛生推進者か衛生推進者を選任する
常時使用する労働者数が10人以上50人未満の事業場は、業種に応じて安全衛生推進者または衛生推進者を選任します。判断の単位は、企業全体の業種ではなく事業場ごとの業種です。
事業者は、選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任します。
常時50人以上の事業場ではストレスチェックがすでに実施義務ですが、これより小さい規模帯では実施義務の始まる時期が異なります。
50人未満の事業場も2028年4月1日からストレスチェックが義務になる
労働者数50人未満の事業場のストレスチェックは、2028年3月31日までは努力義務です。
2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、2028年4月1日からは実施義務に切り替わります。50人未満のストレスチェック義務化は、10〜49人と1〜9人のどちらの事業場にも及びます。
ストレスチェックの対象が広がっても、産業医の選任義務は、引き続き常時50人以上の事業場が対象です。
規模帯ごとの違いを比較すると、次の表のようになります。
規模帯 | 産業医・衛生管理者・衛生委員会・推進者・ストレスチェックの状況 | 2028年4月1日以降の追加点 |
常時50人以上 | 産業医、衛生管理者、衛生委員会を選任・設置 | ストレスチェックは常時50人以上で施行日前から実施義務であり、2028年4月1日の改正による変更はない |
常時10〜49人 | 業種に応じた安全衛生推進者または衛生推進者を選任 | ストレスチェックが努力義務から実施義務になる |
常時1〜9人 | 産業医・衛生管理者・推進者の人数要件はない | ストレスチェックが努力義務から実施義務になる |
表にない安全管理者や健康診断は、人数、業種、業務内容によって要件が異なります。
産業保健を始めるときの進め方

事業場の規模や業種、業務内容、個々の施策の適用要件を確かめることが出発点です。そのうえで事業者は、年間予定を立て、社内窓口を置き、必要に応じて公的支援も使いながら体制を具体化していきます。
産業保健を始める際に用意する主な内容は、次の3点です。
- 必要な活動と時期を年間予定にする
- 社内の窓口と連絡方法を決める
- 利用要件に合う公的支援を使う
まずは、自社の事業場に必要な活動を洗い出し、実施の時期を年間予定にまとめます。
事業場に必要な活動を一覧にして年間予定を立てる
健診、健診後の対応、衛生委員会、職場巡視、ストレスチェック、面接指導、研修などは、事業場に応じて実施する活動の例です。該当する項目を、実施の時期とあわせて年間予定に記載します。
活動 | 対象となる基準の例 | 実施時期・頻度の例 | 担当・相談先の例 |
健康診断・健診後の対応 | 常時使用する労働者を雇用する事業場(個人対象は雇用期間や週所定労働時間等の別要件で判定、深夜業等の特定業務従事者は頻度が異なる) | 一般健康診断は原則年1回、異常所見者については健診日から原則3か月以内に医師または歯科医師の意見を聴く | 社内担当者、医師または歯科医師(産業医選任事業場では産業医から意見を聴くことが適当) |
衛生委員会 | 常時50人以上の事業場 | 毎月1回以上 | 社内担当者、衛生管理者、産業医 |
職場巡視 | 産業医選任事業場、衛生管理者選任事業場 | 産業医は原則月1回(毎月の必要情報提供と事業者同意がある場合は2か月に1回)、衛生管理者は週1回以上 | 産業医、衛生管理者 |
ストレスチェック・面接指導 | 常時50人以上の事業場(50人未満は2028年4月1日から義務、個々の労働者の対象要件は事業場規模と別判定) | 年1回、面接指導は要件該当時 | 社内担当者、ストレスチェック実施者(医師・保健師・所定研修修了看護師等)、面接指導を行う医師 |
この表にない法定義務もあるため、自社の人数・業種・業務内容に応じて必要な活動を年間予定へ追加し、社内の担当者を割り当てます。
社内担当者を置き専門職への相談・連絡方法を決める
年間予定を運用するために置くのが、社内の窓口となる担当者です。社内担当者は連絡や調整の窓口を担い、医学的な判断を代わりに行う立場ではありません。
事業者が事前に取り決めておく事項は、健康情報の利用目的、必要最小限の範囲、取扱権限を持つ担当者、通常時と緊急時の連絡経路です。外部の専門職や支援機関へ相談や委託を行う場合も、産業保健活動の主体としての責任は事業者に残ります。
労働者数などの利用要件を満たせば、この社内体制とあわせて外部の無料支援を申し込める場合もあります。
支援対象の50人未満事業場は地域産業保健センターの無料支援を申し込める
労働者数50人未満の事業場とそこで働く人が地域産業保健センターを通じて利用できるのは、健診後の医師意見聴取、長時間労働者や高ストレス者への医師による面接指導、保健指導などです。
- 利用には事前の申込が必要
- 対象は常時使用する労働者数50人未満の事業場とそこで働く人
- 原則無料だが、利用回数や対応日時に制限があり、継続的な相談が必要な場合は外部の支援先につなぐ一時的な対応になる
- 産業医の選任義務そのものを代替する制度ではない
申込先は、さんぽセンター・地さんぽに掲載されている、自社の所在地に合う窓口です。
地域産業保健センターの利用回数や継続対応の制約を補いたい場合は、first callのスポットオンライン面談サービスを1面談から利用できます。産業医との固定契約は不要です。
オンラインで依頼できるのは、健康診断後、高ストレス者、長時間労働者、休職・復職などの面談です。職場巡視や衛生委員会への参加まで継続して依頼する場合は、産業医を選任したうえで必要な業務を契約します。
従業員との面談ではなく、事業者や産業保健スタッフが専門家に相談したいときは、各都道府県の産業保健総合支援センターを利用できます。
産業保健総合支援センターは事業者や産業保健スタッフの相談に対応する
産業保健総合支援センターは全国47都道府県にあり、事業者だけでなく、産業医、保健師、看護師、衛生管理者、人事労務担当者などからの相談、研修、訪問支援に対応しています。個々の労働者の診療を行う医療機関やカウンセリング機関ではなく、産業保健に関わる人が専門家へ相談し、研修や訪問支援を受けるための機関です。
産業保健総合支援センターは、企業に合う産業医の紹介や、選任後の日程調整・連絡までを代行する窓口ではありません。first callの産業医サービスでは、産業医の候補選定から顔合わせ、選任後の日程調整や事務局サポートまで対応しています。
選任後に依頼できる主な業務は、職場巡視、委員会参加、健診後のフォローです。詳しい内容は産業医サービス資料に掲載しています。
社内で選任や契約内容、委託範囲を説明する場面で活用できる資料です。
産業保健に関するよくある質問

産業保健の実務では、健康経営との違いや、従業員ごとの対象範囲、外部委託後に事業者が担う役割に迷うことがあります。よくある疑問は、次の3つです。
- 産業保健と健康経営の違い
- 契約社員・パートが対象になる活動
- 外部委託後も事業者が行うこと
こうした疑問について詳しく解説します。
産業保健と健康経営はどのように違いますか?
産業保健は、働く人の安全と健康を守るために、法令に基づく措置と企業の自主的な取組を含む活動です。一方、健康経営は、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する取組です。
両者は法令上同一の制度ではなく、どちらかがもう一方の上位や下位として公式に定められているものでもありません。健康経営に取り組むことと、産業保健の法令上の措置を満たすことは別の事柄です。
契約社員やパートはどの産業保健活動の対象になりますか?
契約社員やパートが対象になるかどうかは、雇用形態の名称だけでは決まりません。健康診断とストレスチェックでは、それぞれ別の基準です。
- 一般定期健康診断:無期契約の人、または有期契約で契約期間が1年以上・更新により1年以上使用が見込まれる・1年以上継続して使用されている人が対象(特定業務に従事する人は6か月以上)。加えて週の所定労働時間が同種業務の通常労働者の4分の3以上で原則義務対象
- ストレスチェック:無期契約の人、または有期契約で契約期間が1年以上・更新により1年以上使用が見込まれる・1年以上継続して使用されている人が対象。加えて週の所定労働時間が4分の3以上で義務対象
期間要件を満たしたうえで週の所定労働時間が4分の3未満でも、一般定期健康診断はおおむね2分の1以上、ストレスチェックは2分の1以上4分の3未満であれば実施が望ましいとされています。
事業場規模を判定する常時使用労働者数と、ストレスチェックで個人が対象になる基準は別です。一般定期健康診断とストレスチェックの間でも、対象者を判断する基準は異なります。
産業保健業務を外部委託する場合に事業者が行うことは何ですか?
委託する業務ごとに、事業者が決めておく事項には次のようなものがあります。
- 委託する業務の範囲と、社内側の責任者・窓口
- 委託先へ提供する必要情報の内容
- 健康情報の利用目的、必要な範囲、取扱権限のある担当者
- 医師の意見を受けたあとの就業上の措置の決め方
- 緊急時の対応や記録・報告の方法
どの支援を使う場合でも、体制づくりの最終判断と社内の責任を担うのは事業者です。外部委託先が就業上の措置を最終的に決めることや、健康情報を人事へ無制限に共有することはできません。
心身の状態に関する情報の適正な取扱いに関する指針を踏まえ、事業者は健康情報の利用目的、必要な範囲、取扱権限を社内規程等にまとめます。
【まとめ】産業保健の目的と活動を押さえ事業場ごとの体制をつくる

産業保健の体制は、事業場ごとの常時使用労働者数、業種、業務内容によって変わるため、同じ企業でも必要な専門職や活動の時期は事業場ごとに異なります。
自社で体制を組み立てる際は、次の5点を順に進めます。
- 事業場ごとに、常時使用する労働者の数と業種を確認する
- 必要な専門職・委員会・推進者を特定する
- 健診やストレスチェック等の対象者と実施時期を押さえる
- 社内窓口を置き専門職との連絡方法を決める
- 公的支援や外部サービスを使う場合は対象事業場・申込条件・支援範囲を調べる
事業場の規模に応じて必要な体制を決める基準と、個々の労働者が一般定期健康診断やストレスチェックの対象になる基準は別です。常時使用労働者数が50人未満の事業場でも、契約期間や週所定労働時間などの要件を満たす労働者は、一般定期健康診断の対象です。
50人未満の事業場のストレスチェックは、2028年3月31日までは努力義務で、2028年4月1日から実施義務に変わります。義務化後も、誰が受けるかは契約期間や週所定労働時間などで判断します。
どの支援を使う場合でも、体制づくりの最終判断と社内の責任を担うのは事業者です。
産業医の選任、オンライン面談、健診管理など、first callが対応する支援はサービス内容でご覧いただけます。

























